薬物中毒者とホームレスを「すべて精神医療施設に強制的に拘禁する」という人間狩り的なアメリカ大統領令を読んで
ホームレスのほぼ2/3が薬物中毒者であり精神異常者という現実
強制拘禁による排除で街を美化する
7月25日に、新たなアメリカ大統領令が発令されていまして、それはタイトルこそ「アメリカの路上から犯罪と無秩序を撲滅する」というもので、人によって、良い響きに聞こえるのかもしれません。
しかし、それを読むと、相当強引な理論の元に「社会にふさわしくない」存在は一般社会から排除しろ…という話だと何となくわかります。
まず、その大統領令です。米ホワイトハウスのページにあります。
アメリカの路上から犯罪と無秩序を撲滅する
ENDING CRIME AND DISORDER ON AMERICA’S STREETS
Executive Orders 2025/07/24
アメリカ合衆国憲法および法律により、大統領として私に与えられた権限により、ここに以下の命令を出す。
第1節.
目的と方針. 蔓延する浮浪者、無秩序な行動、突発的な衝突、暴力的な襲撃により、我々の都市は危険な状態になっている。前政権の最後の 1年間に米国で一晩で路上生活をしていた人の数 274,224人は、記録上過去最高となった。
これらの人々の圧倒的多数は、薬物中毒、精神疾患、またはその両方だ。ホームレスのほぼ 3分の 2は、生涯でメタンフェタミン、コカイン、オピオイドなどのハードドラッグを定期的に使用していたと報告されている。
ホームレスの人のうち同じくらい多くが、精神疾患を患っていると報告されている。
連邦政府と各州は、ホームレス問題には対処するものの根本原因には対処しない失敗したプログラムに数百億ドルを費やし、他の市民を公共の安全に対する脅威に対して脆弱な状態に置いた。
ホームレスの人々が人道的な扱いを受けられるよう、適切な公民的拘禁制度を活用し、長期の施設入所へと移すことは、公共秩序の回復につながる。
都市と市民を混乱と恐怖に委ねることは、ホームレスの人々にとっても他の市民にとっても、思いやりのある行為とは言えない。私の政権は、公共の安全を守ることに重点を置いた新たなアプローチを採用する。
第2条 民事上の義務の回復
(a) 司法長官は、保健福祉長官と協議の上、以下の適切な措置を講じなければならない。
(i)適切な場合には、自分自身や公衆に危険を及ぼすか、路上生活者で適切な期間適切な施設で自力で生活することができない精神疾患を持つ個人の民事拘禁を奨励する米国の政策を妨げる連邦または州の司法判例の破棄と同意判決の終了を求める。
(ii)他人に危害を加える恐れのある精神疾患を持つ個人や路上生活者で自力で生活できない個人の適切な収容と治療を可能にする、最大限柔軟な民事拘禁、施設治療、および「段階的」治療基準の特定、採用、実施について、技術指導、助成金、またはその他の法的に利用可能な手段を通じて州政府および地方政府に支援を提供する。
第3条 アメリカの路上における浮浪者対策
(a ) 司法長官、保健福祉長官、住宅都市開発長官、運輸長官は、直ちに各自の裁量による補助金プログラムを評価し、以下の基準を積極的に満たしている州および地方自治体の補助金受給者に、法律で認められる最大限の範囲で、これらの補助金を優先的に支給できるかどうかを決定するための措置を講じなければならない。
(i)違法薬物の公然たる使用の禁止を施行する。
(ii)都市部でのキャンプや徘徊を禁止する。
(iii)都市部の不法占拠の禁止を施行する。
(iv)自分自身や他人に危害を加え、重度の精神疾患や薬物使用障害を患っている個人、または路上生活者で自力で生活できない個人に対処するための基準を、援助付き外来治療を通じて、または、民事拘禁やその他の利用可能な手段を通じて治療センターやその他の適切な施設に移送することにより、法律で認められる最大限の範囲で施行し、必要に応じて採用する。
(v) 特に住所不定の登録性犯罪者の場合、ホームレス性犯罪者の所在を適切に地図化し確認するなどして、必要な範囲で性犯罪者登録および通知法の登録および通知義務を実質的に実施し遵守する。
(b)司法長官は次のことを行うものとする。
(i)連邦犯罪で逮捕されたホームレスの個人が、18 USC 4248 (※ 合衆国法典第18編第4248条 – 性的に危険な人物に対する民事拘禁)に従って、性的に危険な人物であるかどうかが評価され、それに応じて民事拘禁の認定を受けられるようにする。
(ii)34 USC 50101 (※ 34 米国法典 サブタイトルV 第501章 – 緊急連邦法執行支援)等に従って、公共の安全が危険にさらされており、州および地方の資源が不十分な地域での野営地除去活動を支援するために、緊急連邦法執行支援プログラムに基づく資金の利用可能性を確保するために必要なすべての措置を講じる。
(iii)連邦政府の資源を評価し、法律で認められる範囲内で、適切な地方、州、連邦の刑務所や病院の法医学的ベッドの不足により重度の精神疾患を持つ被拘禁者が一般公開されないようにするために連邦政府の資源を充てることができるかどうかを決定する。
(以下略)
ドナルド・J・トランプ
ホワイトハウス
2025年7月24日
ここまでです。
途中から略しましたが、そのあたりは、政府のいろいろな機関の役割が繰り返し書かれているだけですので、割愛しました。
最初のほうに、
> ホームレスのほぼ 3分の2が薬物使用者
> ホームレスのほぼ 3分の2が精神疾患
という部分があって、重なるところはあるにしても、ホームレスの薬物使用者の率とホームレスの精神疾患の総和が 1を超えているということになっていまして、つまりは、
「それらを全体的に拘束して精神医療施設に閉じ込めるのが最良の策だ」
と述べているように聞こえる大統領令です。
これにより、荒んでしまったアメリカの都市の美観を取り戻す、という意味では、一部の支持者たちには大歓迎なんでしょうが、「民事拘束」という言葉が何度も出てきますけれど、「どういう形態によるのだろうなあ」とも思います。
米国移民・関税執行局(ICE)のかなり強引な取り締まりや強制捜査は知られているところですが、あれが薬物中毒者やホームレスにも拡大するという感じですかね。
問題は、
「精神疾患の適用が拡大されたとき」
ですね。
以前、米ラザフォード研究所の所長であるジョン・ホワイトヘッド氏が、トランプ氏のさまざまな大統領令や主張に対して、「行政機関が憲法を一方的に無視する権限を持っているかどうか」について深刻な懸念を述べていました。
以下の記事にあります。
・「独裁政治に入り込む夢遊病」:法を超越する怪物たち
In Deep 2025年2月8日
この場合は、精神疾患ではなく、「どんな意見表明でも、テロリストと見なされる危険性がある」ことについての話でした。
2025年2月5のジョン・ホワイトヘッド氏の記事より
私たち(アメリカ人)全員が危険にさらされている。グアンタナモの移民キャンプの建設を歓迎する人たちも気をつけてほしい。次はあなたたちかもしれないのだ。
もはや、政府が命令に従わなかったアメリカ人を投獄するかどうかではなく、いつ投獄するかが問題となっている。
現在起こっている事態には党派政治の余地はない。私たちが知っていることは、政府には、命令に抵抗し、命令に従わない個人を、納税者のお金で賄われている多数の刑務所、拘置所、強制収容所に拘留する手段、力、動機があるということだ。
それは時間の問題だ。もはや、何が注目を集める問題なのか(ワクチン接種義務化、移民、銃の権利、中絶、同性婚、医療、政府批判、選挙結果への抗議など)、あるいはどの政党がハンマーのように権力を振るっているのかは重要ではない。
基礎はすでに整えられている。国防権限法(NDAA)の無期限拘留規定に基づき、大統領と軍は、政府がアメリカ国民をテロリストとみなした場合、友人や家族、裁判所との面会を禁じた状態で拘留し、投獄することができる。
この今年 3月の時点では、社会から排除されるのは「テロリスト」でしたけれど、今度は、精神疾患と薬物中毒者が加わりました。
もう少し続けます。
アメリカンT4作戦
思い出すのは、1930年代にナチスが進めていた優生学を信奉する社会的政策が、どんどんとエスカレートしていき、最終的には、
「精神障害者、身体障害者、てんかん、奇形、遺伝病、アルコール依存症の人たちなどを含めて、合法的に一掃する」
ことになっていき、それは T4 作戦という名前で実際に実施されたことでした。もちろん、障害があれば、子どもも対象です。
1939年になると、以下のようなことがドイツで始まりました。
マイケル・タルモ氏「優生学の歴史」より
1939年以降、障害者のための病院や家は、乳幼児の組織的な殺害を開始した。
子どもたちは、致死的な注射、飢餓、または曝露による低体温症、場合によっては医学的実験、身体的虐待のいずれかによって殺された。これは、お腹の胎児のことではなく、完全に生まれた赤ちゃんについての話だ。
…T4作戦プログラムでは、推定 27万5,000〜 30万人の男性、女性、子どもたちが殺害された。
これは、2021年のパンデミック当時に、マスク着用義務と T4作戦の間に価値観的な相似があることを書いた方の文章で、以下の記事で全文翻訳しています。
・マスク…統制…娯楽の剥奪…。弱い者から集中的に社会から削除するパンデミック政策のメカニズム
In Deep 2021年5月19日
2021年5月といえば、日本で、そろそろ一般の人へのコロナワクチン接種が始まった頃ですかね。早いもので、もう 4年以上が過ぎたのですね。
ワクチンはともかく、マスクはその後も、地域や場合によっては、今でも続いています。
やや異なる話ですけれど、カナダなどで行われている一般的な「医療による自殺幇助」も、最初のうちは、末期の病気の人などに限定されていたものが、今では、精神障害のある人や、同様の子どもにまで拡大しようとしています。
2022年12月のデイリーメール紙より
世界で最も寛容な政府の自殺幇助プログラムを利用するカナダ人の数が増加し、昨年だけで 10,000 人以上になったばかりだ。
この数字は、死亡したカナダ人の総数の 3.3%に相当し、前年から 32.4%増加した。実際、カナダの安楽死法は非常に寛大であり、病状が末期である必要はない。
カナダ政府は、その MAiD (カナダの安楽死幇助法)を精神障害者、さらには潜在的に子供にまで拡大しようとしており、ケベック医科大学は重病または障害のある新生児の安楽死を合法化するよう求めている。
オランダの安楽死法では、16歳以上であれば、保護者の同意も不要です。つまり、家から外出して「自らで自死を希望し、死亡した状態で家に帰ってくる」ことも可能であるということです。
また、オランダでは、精神障害者の安楽死にも積極的で、2011年から 2014年の間に、医師が精神障害であることだけを理由に 110人を安楽死させています。2015年以降のデータは不明です。
要するに、
「あなたはこの社会に生きるにはふさわしくない」
と判断された場合、いろいろな理由で「排除」される仕組みが、世界中で整っているということですね。「排除」の中には死も含まれます。
先ほどのアメリカ大統領令にも、将来的なそういうニュアンスが含まれるのかもしれないなと思ったりした次第です。
トランプ政権の保健福祉長官のケネディ氏は、子どもの障害にドライな人ですし。
「アメリカを再び健康に」運動は今は苦笑運動に
完全な余談ですけれど、ケネディ保健福祉長官は、昨日の X への投稿で、「ガザにはジェノサイドなど存在しない」という元軍人だか戦争学者だかのジョン・スペンサーという人の投稿を賞賛し、以下のように投稿していました。
7月24日のケネディ保健福祉長官の投稿
ジェノサイドがあるという告発は血の名誉毀損だ。スペンサー少佐、ありがとう、この鋭い論破に感謝します。
あーあ、と思いましたけれど、ナチュラルニュースのマイク・アダムス氏は、この投稿を見て以下のように書いていました。
ケネディ氏の投稿を見てのマイク・アダムス氏の投稿
正気とは思えない。RFKジュニア氏は(米国の)子どもたちを守るためにシリアルから食品着色料を排除する必要があると言うが、他の子どもたちを爆撃して死なせることはまったく問題ないらしい。
そして、それを嫌うと「血の名誉毀損」に問われるなんて。RFKジュニア氏がこんな新たな低みに落ちて、実際のジェノサイドや子どもたちを飢えさせるための計画的な大規模飢饉を擁護するなんて、思ってもみなかった。
他のある投稿者は、ケネディ氏の投稿を見て、以下のように返していました。MAHA は「アメリカを再び健康に」運動です。
「 MAHA Ha Ha Ha Ha Ha 」
支持者、あるいは元支持者たちも苦笑するしかなくなっているようです。
アメリカ人全員にウェアラブル端末の着用を推奨したのもケネディ氏でした。
こういう今のアメリカですから、異端に対して、どんなことが行われるようになっても不思議ではありません。
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