「財務省の辞書に減税という言葉はない」自民大敗でも“消費税減税”が実現しない「3つの理由」【識者が解説】
過去最高を5年連続更新しました。税収入が増えたぶんは国民に還元してしかるべきなのに、税金の放漫な使い方が後を絶ちません。
7月の参議院議員選挙では新しい勢力が台頭し、自民党をはじめとする“既存政党”が大敗しました。
参院選の争点は、後半“外国人問題”が注目されましたが、当初は「生活の底上げ」でした。消費者物価指数は、気候の影響を受けやすい生鮮食品を除く総合でも、最近はずっと上昇傾向です。2020年を100とした指数では、2025年7月は111.6。’20年より10%以上物価が上昇していますから苦しくて当たり前です。
こうした物価高への対策として、自民・公明の与党は「一律2万円給付」を、野党は「消費税減税」を掲げました。参院選は“給付か減税か”を争う選挙だったのです。
あれから1カ月余り、大敗の責任を問われた石破茂首相は「それでも比較第一党だ」と辞める気配を見せませんが、自民党内には“石破おろし”が吹き荒れています。
いっぽうで石破内閣の支持率上昇や「石破辞めるな」旋風もあって大混乱。自民党は両院議員総会を開き、石破首相の続投か退陣かには近いうち決着がつくでしょう。
そんななか置き去りにされているのは選挙の公約です。自民党は1人あたり2万円、子どもや住民税非課税世帯の大人には4万円の給付を公約としました。声高に「子ども2人の4人家族なら12万円」と喧伝していましたが、8月になって「一律給付をやめる」という報道が出たのです。
自民党の大敗は、国民が一律給付にNOをたたきつけた結果ともいえます。また、自民党が一律給付を推し進めようとしても野党は反対するでしょう。少数与党に公約の実現は難しいかもしれません。
ですが、国会で議論もせず、選挙公約を反故にしてもいいのでしょうか。生活が苦しく「12万円」を心待ちにした方になんの説明も別の対処もありません。生活に困窮する方は取り残されたままです。
かといって、野党が掲げた消費税減税の実現も厳しいと思います。理由は大きく3つあります。
第一に野党が一枚岩にまとまれないこと。選挙公約を見ても、立憲民主党は食料品の消費税を最長2年間ゼロ。国民民主党は実質賃金が持続的にプラスになるまで消費税は一律5%。日本維新の会は食料品の消費税を2年間ゼロ。日本共産党は消費税の廃止を目指し緊急的に5%に減税など……。
消費税を下げる対象は食料品か全部なのか、引き下げは5%かゼロか、期間限定か恒久的措置なのか、すべてがバラバラです。これらを集約して与党にぶつけようとする動きも見えません。
第二にやる気の問題です。立憲民主党の野田佳彦代表は2012年、自身が首相のときに消費税増税を推進した方です。参院選では、党内の消費税減税派に推されて減税を掲げましたが、本当にやる気があるのか疑わしいです。また、最長2年と限定するのもいかがなものでしょう。
第三は財務省です。日本はコロナ禍でさえ消費税を下げませんでした。世界ではドイツ、イギリス、中国など約30の国が、消費税を下げたりゼロにするなどしてコロナ禍の国民を守ろうとしたにもかかわらず、です。
財務省はこれまで消費税の導入や引き上げに苦労したのでしょう。そのため「減税という言葉は財務省の辞書にはない」とばかりに減税を許しません。コロナ禍でも動かなかった財務省が、物価高で動くことはないでしょう。
消費税の減税効果を、立憲民主党は「食料品の消費税ゼロで国民1人あたり年間4万円の負担が軽減される」と試算していました。4人家族だと年16万円相当です。
また、共産党は「すべての消費税を5%に引き下げると、平均的な勤労者世帯で年12万円の減税」と試算。こうした負担軽減策を支持して、一票を投じた人もいると思います。
しかし、一向に国会は開かれず、消費税減税の議論さえ始まりません。消費税の減税で家計が年12万円や16万円楽になるなどと期待しないほうがよさそうです。
■2024年度、国の税収は過去最高なのに国民への還元は……
消費税減税について与党は「財源が必要」の一点張りですが、財源を考えずに押し通した政策があります。「防衛費を5年間で43兆円」です。2022年、アメリカに当時の岸田文雄首相が防衛予算の増額を約束。莫大な予算の増額を閣議決定したのです。財源がなくても、防衛費は増額できて消費税減税はできないとは……。
石破首相は5月の国会で「日本の財政状況はギリシャより悪い」と答弁しました。それほどお金はない、財源はないと政府はいいたいのでしょう。
ですが実際は、国の税収入は絶好調。2024年度は75.2兆円で、過去最高を5年連続更新しました。税収入が増えたぶんは国民に還元してしかるべきなのに、税金の放漫な使い方が後を絶ちません。
税金の使い方などをチェックする会計検査院の報告には“税金の無駄づかい”が648億円もあります(2024年11月)。必要性の低い基金や団体への予算の積み増しも常態化しているでしょう。これらのしわ寄せが私たちの生活を苦しめているのだと思います。
政治家はもはや国民の生活など見ていないのでしょう。与党はその座を守りたいだけ、野党は選挙に勝ちたいだけ。衆参両院で少数与党の今こそ、消費税減税のチャンスですが、野党が団結して立ち向かう姿勢は見えません。
実質賃金は6カ月連続のマイナスで、家計は困窮を極めています。そんな国民を政治家が顧みない日本は“国栄えども山河は枯れる”でしょう。政治の動向に注視しながら、「自分の生活は自分で守る」と肝に銘じておきましょう。
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