問題は第四級アンモニウム塩ベースの消毒剤ではありますが
2020年のパンデミックから始まった「異常な消毒と殺菌」の社会は、少なくとも日本では今でもわりと続いている面がないでもないように思いますけれど、その是非はともかく(是はほとんどないですが)、最近、
「 EU がエタノールの手指消毒剤を禁止する」
という報道を見ました。
エタノールというのは、つまりアルコールベースの消毒剤ですが(アルコール消毒剤の 70%がエタノール)、エタノールに発がん性がある、ということでの禁止らしいです。
私自身は、「過剰な消毒の有害性」について、In Deep で何度も書いたことがありますが(特に赤ちゃんや小さな子どもにとても良くない)、それはすべての消毒剤に言えることなんですけれど、実際の一番の問題は、アルコールより、
「第四級アンモニウム塩」
という消毒剤成分にあります。
・多くの消毒剤に用いられる第四級アンモニウム塩は、人間の生存に必須の「ミトコンドリア」を殺す
In Deep 2021年2月24日
ですので、エタノールだけが禁止になっても、問題の根幹は変わらないのですが、それでも消毒剤が少しでも減るのはいいことなのかもしれません。
とはいえ、コロナのパンデミックが始まった頃の 2020年3月に、アメリカ環境保護庁が「新型コロナウイルスに有効だと考えられる 25種の薬剤」を発表していましたが、その一部だけでも以下のようになっていまして、消毒剤の原料というのは、いくらでもあるようです。
アメリカ環境保護庁が発表したCOVIDに有効だとした消毒剤成分
・過酸化水素
・フェノール
・第四級アンモニウム
・亜塩素酸ナトリウム
・次亜塩素酸ナトリウム
・二酸化塩素
・次亜塩素酸
・エタノール
・塩化ナトリウム
私自身は、医療現場など何か非常に特殊な状況でないのならば、
「基本的に流水で手を洗うだけで問題ない」
と思っています。
医学博士の故藤田紘一郎さんは、以下のように述べていました。
> 人間の皮膚には、表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌をはじめとする約10種類以上の「皮膚常在菌」という細菌がいて、私たちの皮膚を(ウイルス等から)守ってくれています。
あまり過剰に手などを消毒すると、このような常在菌まで殺してしまうことになるわけで、むしろ、それはしないほうがいいのです。
人間の体には、もともと備わっている「防衛機能」がたくさんありまして(手指なら先ほどの常在菌だったり、口なら唾液に強い殺菌作用があったり、鼻も副鼻腔で強い殺菌作用のある一酸化窒素を生産している等)、あまり人工的にいろいろやらないほうがいい部分もあるのです。
そのあたりの詳しいところは以下に書いています。
・人体は「全身が異物への防御壁として機能するメカニズムを持つ」のだから、ウイルス対策としては「何もしない」のが最善であることの説明
In Deep 2024年10月30日
ともかく、EU は、エタノールの消毒剤を禁止する方向で動いているようです。それを報じていたスウェーデンの報道です。
EUが手指消毒剤を禁止する可能性
EU kan förbjuda handsprit
nyadagbladet.se 2025/10/21
欧州化学物質庁(ECHA)は、エタノールを発がん性物質に分類することを検討しており、病院で使用される多くの手指消毒剤や洗浄剤の使用を事実上禁止することになる。医療業界は、患者の安全に深刻な影響を与える可能性があると警告している。
アルコールベースの洗浄剤は現在、EU では安全であると認められており、1990年代から世界保健機関の必須医薬品リストに掲載されているが、10月10日、欧州化学物質庁(ECHA)の作業部会はエタノールを、がんや妊娠合併症のリスクを高める有毒物質として警告した。
勧告によれば、この物質は洗剤やその他の製品に代わるものとして使われるべきだという。
欧州化学物質庁の殺生物性物質審査委員会は、11月24日から 27日にかけて会合を開き、エタノールを人体に有害と分類すべきかどうかを決定する。その後、勧告は欧州委員会に送付され、同委員会が最終決定を下す。
「その影響は計り知れない」
ヘルスケア業界は、このような分類がもたらす結果について警鐘を鳴らしている。
「病院への影響は甚大なものとなるだろう」とジュネーブ大学およびクリーン・ホスピタルズ・ネットワークのアレクサンドラ・ピーターズ氏はフィナンシャル・タイムズに語った。
彼女は、医療関連感染症による世界の年間死者数は、マラリア、結核、エイズによる死者を合わせた数よりも多いと指摘している。
「特にアルコールベースの手指消毒剤を使った手指衛生により、世界中で年間 1,600万件の感染が予防されている」とピーターズ氏は続ける。
代替案はもっと悪い
ピーターズ氏は、エタノールの代替品であるイソプロパノールなどは、さらに毒性が強いと指摘している。石鹸を繰り返し使用すると、消毒に時間がかかり、皮膚にダメージを与えるという。
ある研究によると、手指消毒剤がなければ、看護師は手術中に 1時間あたり 30分を手洗いに費やさなければならないそうだ。
欧州化学物質庁は、専門家委員会が「エタノールが発がん性があると結論付けた場合」、代替物質の使用を推奨すると述べている。
しかし同時に、エタノールは「予想される曝露レベルを考慮して安全であると判断される場合、または代替物質がない場合には、意図された殺生物用途への使用が承認される可能性がある」とも述べている。
同時に、当局はまだ何も決定していないことを強調している。
報告書の科学には疑問がある
石鹸、洗剤、メンテナンス用品の国際貿易協会の EU ディレクター、ニコル・ヴァイニ氏は、公表されていない内部報告書の裏にある科学に疑問を呈している。
「エタノール自体に関する研究はないが、人間に関する唯一のデータは、アルコール飲料を飲むことによる健康への影響を示す研究から得られている」と彼女は言う。
欧州化学物質庁が今年初めに開始したエタノール禁止の利点に関するパブリックコメントでは、関係者から約 300件の回答が寄せられたが、その大半は変更に反対している。
欧州疾病予防管理センターは 5月、各国の保健当局に対し「手指衛生の主な方法としてアルコールベースの手指消毒剤を確立する」よう要請した。
一時的な例外の可能性あり
エタノールが有害物質に分類された場合でも、企業は代替品がないため、個別に免除を申請し、エタノールの使用を継続できる。しかし、ヴァイニ氏によると、この免除は 5年に制限され、個別に審査されるため、コストと遅延が生じるという。
ピーターズ氏は、エタノールの魅力の一つは「ほとんど何からでも作ることができる」ことであり、パンデミック時には供給を増やせる可能性があると付け加えた。
「コロナのような緊急事態で手指消毒剤が製造される際は、必ずエタノールが使われます。醸造所をイソプロパノール製造工場に変えることはできません」と彼女は言う。
欧州委員会はこの件についてコメントしていない。
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