単に「ハミングするだけ」で、一酸化窒素の排出量が大幅に(8〜20倍)増加し、感染症への予防力が飛躍的に上昇する可能性を知り、人体の仕組みに改めて感心
感染症への予防力をいきなりアップさせる方法
間の体っていうのはすごいものだなあと改めて思わせてくれる論文を最近知りました。
それは、
「ハミングをするだけで、鼻腔内の一酸化窒素の排出量が 15倍から 20倍に増加する」
という研究でした。鼻でのハミングです(まあ、ハミングって鼻だけですけれど)。
この「一酸化窒素(NO)」という存在を知ったのは、ちょうど 5年ほど前のパンデミックの頃で、以下の記事にあります。
・マスク社会の悪影響のメカニズムが出揃った感。鼻呼吸の不足による「一酸化窒素の消えた人体」の将来。特に子どもたちの
In Deep 2020年11月2日
この一酸化窒素というものは、鼻の奥(副鼻腔)で生産されているガスの一種で、「非常に強い殺菌能力」を持つものです。
以下のような身体への影響が知られています。
一酸化窒素(NO)の働き(一部)
一酸化窒素(NO)は、幅広い細菌に対する殺菌効果があり、従来の抗生物質の代替となる可能性を秘めています。殺菌作用以外にも、血管拡張作用、血小板凝集抑制作用、神経伝達作用など多様な生理活性を持つと報告されています。
殺菌作用について
・幅広い殺菌スペクトル:gNO(気体状の一酸化窒素)と一酸化窒素放出性ポリマーの比較研究では、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に対する殺菌作用が示されています。
・従来の抗生物質への代替の可能性:これらのことから、一酸化窒素は感染症治療における従来の抗生物質に代わる魅力的な抗菌剤となる可能性があります。 Gemini
一酸化窒素は、一般的には「鼻の奥」で生産されていますが、つまり、
「鼻で呼吸をすることが病原体への最初のバリア」
となっているわけです。
「鼻呼吸することが、風邪などへの最初の予防法であり、最大の予防法」といってもいいです。
しかし、マスクをすると、特に子どもの場合、どうしても口呼吸になりやすく、これが風邪やインフルエンザの感染を拡大させる要因ともなり得るのです。先ほどリンクした記事は、一酸化窒素の観点から「マスクはをしないほうが予防になる」ということを書いたものです。
一酸化窒素は、他のさまざまな部位からも生産されているらしく、特に「血管の内皮」からも放出されているそう。
血管から放出されている一酸化窒素は別として、副鼻腔から生産されている一酸化窒素の「排出量を増やす方法」を最近読んだ論文で知ったのでした。
それが、
「ハミングすること」
なのです。
フンフンフンフーン♪ やつですね。
これで、どの程度、一酸化窒素の生産量が上がるかというと、
「生産量が 20倍近く上がる」
のだそう。
一酸化窒素間の生産量が 20倍にアップしたからといって、感染症への予防力が 20倍アップするわけではないとしても、そりゃ確かに、多く出れば出るほど、有効ではあるようには思います。
以下はその論文の要約です。スウェーデンのルンド大学による 2002年の論文です。
論文「ハミングは鼻腔内の一酸化窒素を大幅に増加させる」より
要約
副鼻腔は一酸化窒素(NO)の主要な産生部位である。我々は、ハミングによって生じる振動する気流が副鼻腔換気を促進し、それによって鼻腔 NO 濃度を上昇させるという仮説を立てた。10名の健康な被験者が本研究に参加した。
一定流量でのハミング中および安静時の単呼吸呼気中の鼻腔 NO を化学発光法を用いて測定した。安静時の呼気と比較して、ハミング中の NO は 15倍に増加した。鼻と副鼻腔の 2コンパートメントモデルにおいて、振動する気流は空洞間のガス交換を劇的に増加させた。
副鼻腔口の閉塞は副鼻腔炎の発症において中心的な事象である。ハミング中の鼻腔 NO 測定は、副鼻腔 NO 産生および口の開存性を非侵襲的に検査する有用な方法となる可能性がある。
さらに、ハミングによって改善される副鼻腔換気による治療効果についても調査する必要がある。
ここには 15倍とありますが、これは平均値で、個人差があるようですが、それでも、8倍から 21倍増加したことが示されているので、
「ハミングをすれば、その全員が副鼻腔からの一酸化窒素の生産量をアップさせられる」
ということになります。
以下は、論文にあったグラフです。参加者全員がハミング後に鼻腔内の一酸化窒素量のレベルが大幅に上昇しています。
これを見て思ったのは、無音の状態、つまり何もしていない状態でも、一酸化窒素の生産量には個人差があるのだなあということでした。一番少ない人と一番多い人では、数倍の差があります。風邪を引きやすいとか引きにくいなどに多少は関係あるのでしょうかね。
また、論文の「議論」セクションには以下の記述もありました。
> ハミングにより、鼻内の他の発生源からの NO 放出も増加する可能性を排除することはできない。たとえば、音波は一般に、上皮細胞と液体の内層に溶解した NO の放出を増加させる可能性がある。
として、ハミングすることにより、鼻「以外」体内の一酸化窒素の生産が増加する可能性についても言及しています。
調べますと、
「鼻でのハミングの周波数は約 130– 150 Hz」
だそうで、まあ、この周波数が身体に良い影響を及ぼすのかどうかまではわからないですが、上の論文に「音波は一般に、上皮細胞と液体の内層に溶解した一酸化窒素の放出を増加させる可能性がある」とあるあたり、「周波数」という問題も一部絡んでくるのかもしれません。
しかし、調べると、まだまだあるのです。
他の部位での一酸化窒素の増加にも周波数が絡んでいる模様
先ほど記しました一酸化窒素の役割には、血管への健全性への働きや、脳の記憶などにも関係していることが示されていました。
また、2型糖尿病の成人では、一酸化窒素の産生と、一酸化窒素に対する血管反応が低下することが研究で示されていると述べられている論文もあったのですけれど、結構重要なもののようです。
それで、また別の論文なのですが、
「腕に振動(100 Hz 局所振動)を与えるだけで、一酸化窒素量が 374%増加する」
ということが書かれている論文も知りました。以下にあります。
健康な成人および2型糖尿病の成人において、振動による皮膚血流増加における一酸化窒素の役割
The Role of Nitric Oxide in Skin Blood Flow Increases Due to Vibration in Healthy Adults and Adults with Type 2 Diabetes
あと、「 30~50Hzの振動を伴う全身運動」も、一酸化窒素の生産量を上げるようですが、これは全員というわけではないようです。
ともかく、今回の記事の主眼は、
「感染症予防としてのハミングの重要性について」
でしたので、他の項目はまたの機会にさせていただたきます。
ただ、当然ながら、ハミングは大人はなかなかしにくいもので、オフィスで働きながらハミングをしてもいいという環境ならともかく、そういつもいつもできるわけではないですが、小さな子どもなら、いつどこでもハミングをしても不自然ではないですので、小さな子どもの感染症対策としてお勧めしたいところです。
・マスクを外して鼻呼吸をして
・ハミングをする
というだけで、風邪やインフルエンザなどに対しての予防力が格段に上昇するはずです。
こんな簡単な予防法は他にあまりないのではないでしょうか。
なお、一酸化窒素の役割は、それだけにとどまらず、以下のように多岐にわたります。
一酸化窒素の全体的な役割
1. 体内の細菌、ウイルス、真菌、寄生虫による感染に対する免疫防御にも寄与する。
2. 鼻や副鼻腔の慢性炎症や感染症を緩和する。
3. 大脳辺縁系の不活性化を促進し、基本的な感情(恐怖、快楽、怒り)と衝動(空腹、性欲、支配欲、子孫の世話)の緊張を和らげる。
4. 副交感神経優位(「休息と消化」)につながり、心拍数と血圧の低下、認知機能の改善、耳鳴りのイライラの軽減、脳波の良好な変化、ストレスレベルの減少として現れる
5. 健康な人の肺機能を改善する。
あと、以前、「一酸化窒素の産生が機能しないと COPD (慢性閉塞性肺疾患)の要因となる」ということを記事で取り上げたことがありましたが、大人にしても、いつどこでもハミング、というわけにはいかないにしても、何かの特におこなえば、一酸化窒素の生産増加に結びつきますので、よいことだとは思います。
あと、以前、
「呼吸という行為自体が病原体を殺す免疫応答を生成する」
ということを突き止めた米ハーバード大学の研究を取り上げたことがあります。以下にあります。
・米ハーバード大学の研究者たちが発見した、「人間は、ただ呼吸するだけでウイルスを殺すメカニズムを持つ」ことからわかる「マスク着用は感染症予防に最も悪い行為」だという帰結
In Deep 2022年4月19日
この論文の理屈は大変に難しいですが、要するに
「呼吸をするという行為自体が感染症の予防として成立している」
ということらしいのです。
人体はうまくできているものなのに、人為的にそれらの働きを止めようとしているものが今の世の中には多すぎます(主に医療や感染予防対策の現場で)。
人間が持つ数多くの免疫メカニズムを阻害しているものが、一般的な予防法と言われているマスク、あるいはワクチン、あるいは過剰な殺菌などであるということを知ったのは、コロナのパンデミックの時でしたけれど、今後もその原則は同じだです。
爆発的に呼吸器感染症が流行している今だからこそ、正しい感染症対策とは何なのかを冷静に考えるべきときだと思います。




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