なぜ政府はインフレを止めないのか。放置すれば税収30兆円増、「物価対策」より「物価高対策」を選ぶワケ=斎藤満
政府はインフレを歓迎している。物価高で赤字国債が目減りするから?
日銀のシナリオ通りにインフレは改善するのか?
日銀が12月に利上げをして政策金利は30年ぶりの0.75%となりましたが、日銀は経済がシナリオ通りに進めば今後も利上げを続けると言っています。
その日銀シナリオでは消費者物価(CPI)上昇率が26年度は食料品の上昇減速と政策効果でいったん2%を割ると予想、27年度以降はまた2%に高まるとしています。
昨今の高いインフレ率が続く状況から見れば、かなりインフレが改善するシナリオですが、それでもこのシナリオでは日銀の言う「基調的インフレ率」が2%に向かうとして利上げを続ける、と言います。
しかも高市政権下の物価は日銀のシナリオを上回る可能性が高く、日銀の利上げ計画は想定よりも上振れする可能性がありそうです。
12月のCPI減速は一時的
日銀の物価シナリオを予兆するかのように、昨年12月の東京都区部のCPIは前年比2.0%の上昇と、前月の2.7%から大きく減速しました。それも生鮮食品が前年比マイナスになるなど、食料品の上昇が緩んだことと、ガソリン価格の引き下げなど、エネルギー価格が前年比マイナスになったことも寄与しています。
ここまで見ると日銀の予想を先取りした形に見えます。しかし、12月の東京都区部のCPI減速は、必ずしも26年度のインフレ減速の前兆とはいえない面があります。
生鮮食品の下落は前年の今頃キャベツや白菜が異常に高かったことによる前年効果によるもので、一般食料品は依然として6%を超える高い上昇が続いています。また電気代の前年比下落も前年の上昇によるもので、年明け後の政策効果は昨年もあったので、1月からの前年比の低下要因にはなりません。
そしてこの生鮮食品とエネルギーを除いたいわばベースとなるインフレ率「コアコア」は前年比2.6%の上昇と、高止まりしています。しかも東京都の場合、保育園の保育料無償化で、CPI全体を0.3%押し下げていますが、全国では無償化が進んでいない分、これより高くなります。
つまり、12月分の東京都の数字は一時的な減速の面が強く、インフレ減速の前兆ではなさそうです。
政府はインフレ歓迎?
そして26年のインフレを見るうえで欠かせないのが、政府のインフレへの姿勢です。政府は物価高対策を前面に出して、これへの対応を進めているように見えますが、政府の基本認識はインフレ歓迎です。
実際、政府は「物価高対策」とは言いますが、「物価対策」とか「物価抑制策」とは言っていません。物価高を前提としてその痛み止め薬を財政政策で施そうとしています。
そもそも、大規模な財政支出策は、ケインズ経済学を待つまでもなく、それ自体がインフレ促進策になります。日銀も利上げをしたものの、実質金利は短期で大幅なマイナス、長期でも依然としてマイナス金利で、金融政策は依然として景気支援、インフレ促進方向にあります。政府は少なくともインフレの抑制を考えてはいません。
それもそのはず、政府にとってインフレは財政上、救いの神となっています。
歳出を増やしても、野党からしばしば財源をどうする、と批判されます。かといって、歳出を増やした分増税すれば、国民からも反発を食らいます。増税論議は与党にとっては最も困難な問題です。
ところが、インフレがこれに救いの手を差し出します。いわゆる「インフレ増税」ですが、インフレにすれば、自然に税収が増える仕組みになっています。典型的なのは、消費者物価が上がればそれだけ名目の消費額が増え、消費税収入が増えます。
それだけではありません。物価高で賃上げが起きると名目所得が増え、税率区分が上がり、所得税率や社会保険料負担率区分が上がりかねません。また法人税も増えます。物価高経済はそれだけ企業は値上げがしやすく、値上げで利益が増え、その分法人税も増えます。
実際、政府は26年度の一般会計予算で、税収を83.7兆円計上、昨年より7.6%、金額にして約6兆円の税の増収を見込んでいます。特に個人の所得税は11.7%増、消費税は7.1%増で、個人が4.5兆円弱の負担増を担います。国会で個人から4兆円もの増税案を出せば政府は叩かれますが、インフレ増税は国民が知らないうちに増税となるので、反発が出ません。
インフレのなかったコロナ前の税収は年間50兆円台が多かったので、来年度の税収はインフレの積み重ねで30兆円も水準が高まることになります。政府にとっては「インフレさまさま」で、これを簡単には手放せません。それでも物価高で国民が不満を募らせるのを避けるために、電気代やガソリン代を下げて「物価高対策」をやっていると訴えています。
国民が求めるのは「物価高対策」ではなく、そもそも物価が上がらないようにする「物価対策」です。しかし、政府は違います。政治家はお金を少しでも多く動かすことが政治家としての権力誇示になるので、大型財政に固執します。その分、税収が黙っていても増えるインフレを手放しません。しかもインフレで名目GDPが水膨れするので、GDPに対する債務残高比率も低下、「責任ある財政」を主張できます。
資産バブルから物価高に
政府にインフレを抑える気がなく、場当たり的な物価高対策をとって一時的に上昇率を下げても、根っこのインフレは高まります。
特に新年にはサービス価格、それもこれまで物価指数を低く抑えていた持ち家世帯の帰属家賃(物価指数の16%を占め、実体的な物価上昇率よりも0.3%から0.4%低く見せています)が住宅価格の上昇を受けて上がり始めそうです。
これは持ち家世帯が仮に家賃を払ったとすれば、という架空の家賃で、住宅価格の動きに影響されます。東京都の住宅価格がこのところ大きく上昇するようになり、東京都区部の帰属家賃が、特に非木造分で前年比2.3%の上昇まで高まってきました。マンション価格の高騰から今後さらに高まり、全国にも波及する可能性があります。
インフレマインド醸成
そして政府日銀の賃金物価の押上げ政策が奏功し、企業にインフレマインドが醸成されています。かつては値上げをすれば売り上げが落ちると慎重でしたが、政府の旗振りの中で「赤信号、皆で渡れば怖くない」に変わり、近年では値上げ信号が常に「青信号」になっています。個人の間にもインフレが浸透し、やむを得ないとのあきらめが見られます。
このインフレマインドがいったん出来上がると、これを消すのが容易でなくなります。かつての日銀はインフレマインドが生じないよう、予防的引き締めでインフレを抑えていましたが、今は積極的に価格転嫁を、そして値上げを促しています。政府日銀がインフレに傾いていれば、簡単にはこれを抑えられません。
26年のインフレ率は日銀予想の2%割れではなく、3%近い上昇となって、日銀は利上げを繰り返すことになりそうです。



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