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フィギュアスケートの衣装は100万円越えも デザイナーが明かす制作の舞台裏

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フィギュアスケートの衣装は100万円越えも デザイナーが明かす制作の舞台裏

衣装1着につき3500~8000ドル(約54万~124万円)を請求しているが、五輪用の衣装はその価格帯の上限に近い金額になることが多い。

機能性と美的感覚のバランスが取れた衣装は、染色、裁断、縫製に150時間を要し、ミラノの氷上で舞う選手たちの衣装の価格は100万円を優に超える──。

 

米国のアリサ・リュウが2年間の休養をものともせず、ミラノ・コルティナ冬季五輪フィギュアスケート女子シングルで金メダルを獲得するという驚異的な復帰を遂げれば、大きな利益を得るだろう。同大会で表彰台の頂点に立つ米国人選手には、米オリンピック委員会(USOPC)から3万7500ドル(約580万円)の報奨金が支給されるからだ。この金額は多くの冬季五輪選手にとって十分な報酬となるが、フィギュアスケートでメダル候補となっている20歳のリュウは、既に同大会のためにほぼ同額を投じている。

「その金額では衣装代にしかならない」。米ロサンゼルス在住のデザイナー、リサ・マッキノンは笑いながら言う。マッキノンは過去1年間で、リュウのために6着の衣装を手がけた人物だ。

マッキノンは通常、衣装1着につき3500~8000ドル(約54万~124万円)を請求しているが、五輪用の衣装はその価格帯の上限に近い金額になることが多い。衣装代はあっという間に膨れ上がる。なぜなら、ほとんどの選手がショートプログラム用、フリースケーティング用、そして大会を締めくくる採点対象外のエキシビション用と、五輪に出場するために少なくとも3着の衣装を持ち込むためだ。これに加え、五輪以外の大会でシーズンを通して使用する衣装も用意しなければならない。

2024年パリ五輪で米国の女子体操チームが着用したレオタードは、数千個のラインストーンとパールが刺繍され、約5000ドル(約77万円)もしたが、フィギュアスケートの衣装が高価なのは、素材よりも制作に要する労力によるものが大きい。デザインは反復的な作業であり、選手からの要望を受けて頻繁に変更される。生地の染色や裁断、手縫いなどの工程を経て、完成品が生まれるまでには数カ月を要することもある。

また、機能性と美的感覚の適切なバランスを取れるデザイナーも、それほど多くはいない。世界一流のフィギュアスケーターの多く、特に米国代表として競技する選手たちは、マッキノンを含む数人のデザイナーに集まる傾向がある。マッキノンの顧客にはリュウのほか、全米選手権王者のアンバー・グレンらが含まれる。一方、カナダ東部ケベック州を拠点とするデザイナーのマシュー・キャロンは、米国人夫婦のアイスダンスペア、マディソン・チョックとエバン・ベーツの衣装を担当している。また、五輪王者の羽生結弦の衣装も手がけた日本のデザイナー伊藤聡美は、今大会で男子シングルの金メダル候補に挙がっている21歳の米国人選手イリヤ・マリニンの衣装をデザインした。マッキノンは「私たちの衣装には芸術性があり、人々はそれを高く評価していると思う」と語った。

こうした需要は、選ばれたデザイナーにとって有利な市場を生み出した。マッキノンは1時間当たり90ドル(約1万4000円)を請求し、過去1年間に60~70着の衣装を制作した。1着の衣装にかかる平均的な制作時間は約50時間だ。今回の五輪で26人の選手の衣装を担当したキャロンは、1時間当たりの料金が35ドル(約5400円)と手頃だが、納期は80~150時間とやや長い。

4年ごとに五輪が開催される直前になると、衣装の微調整や変更の依頼が殺到する。このような切羽詰まった状況では、機会も増える。「どの選手も財布のひもを緩める」とキャロンは言う。「誰もが最良の選択肢を確保したいのだ」

多くの選手にとって、衣装代を支払うことは大きな経済的負担となっている。過去1年間でスポンサーから推定70万ドル(約1億1000万円)を集めたマリニンや、年間の合計収入が100万ドル(約1億5000万円)を超えるとみられるチョックとベーツなど少数の例外を除けば、選手は氷上でも氷外でも収入を得る機会が限られていることがほとんどだ。米ニューヨークに拠点を置くフィギュアスケート解説者のジャッキー・ウォンは「毎シーズン何百万ドルも、いや何十万ドルも稼いでいる選手たちの話ではない。しかも、かなり費用のかかるスポーツだ」と強調した。

 

一部の有名選手はデザイナーの宣伝と引き換えに衣装を受け取っているが、費用を節約する方法は他にもある。ドイツのペア、ミネルバファビエンヌ・ハゼとニキタ・ボロジンは、1980年代に東ドイツ代表として2度の五輪を制したカタリナ・ビットから資金援助を受けている。一方、2022年の北京冬季五輪で団体金メダルを獲得した米国のカレン・チェンは、キャリアの大半を母親が制作した衣装で滑っていた。その手作りの衣装にかかった費用は1着当たり1000~1500ドル(約15万~23万円)だったと報じられている。

もう1つの代替案として挙げられるのは、今回の五輪団体戦をけがで欠場し、個人戦への出場が期待されるカナダのディアナ・ステラトデュデクが大手ファッションブランド、オスカー・デラレンタがデザインした初の衣装をまとうことだ。大手企業がフィギュアスケート分野に参入するのはやや珍しい。特筆すべき例外は米国のデザイナー、ベラ・ウォンだ。ウォン自身、フィギュアスケート選手として1968年の五輪代表出場権をほぼ獲得するところまでいった経歴を持ち、デザイナーとしても、ナンシー・ケリガン、ミシェル・クワン、ネーサン・チェンといった米国の歴代の一流スケーターの衣装を手がけてきた。

このように、選手は多額の投資をしているため、競技から引退すると、自身の衣装をアイスショーやエキシビションで再利用しようと試みることが多い。場合によっては、他の選手に貸し出すこともあるかもしれない。例えば、リュウは2022年北京冬季五輪のエキシビションでスペインのアイスダンサー、オリビア・スマートから衣装を借りた。また、米国のアイスダンサー、エミリア・ジンガスは今年の全米選手権でグレンの衣装を使用した。「何度も貸し借りし、再利用を繰り返している」とウォンは言う。「フィギュアスケートの衣装はファッションを装ったスポーツウエアであり、非常に耐久性に優れている」

 

デザイナーにとって、世界一流のスケーターから作品が求められなくなる未来を想像するのは難しいかもしれないが、この事業を拡大するのは困難だ。マッキノンとキャロンの事業は小規模で、従業員数はそれぞれ5人と17人だ。フィギュアスケートで一般的に使用される伸縮性のある生地を扱ったことのない求職者が多いため、人材採用は常に課題となっている。

こうした状況下で、トップデザイナーたちは幅広い顧客層を取り込む方法を模索している。キャロンの工房は、選手があらかじめ用意された選択肢から組み合わせることのできる、セミカスタム方式の「アイコニックスケート」を発表。これについてキャロンは、「フィギュアスケーター向けのイケアのキッチンのようなものだ」と笑った。一方、マッキノンの工房は、人件費を抑えた簡素な衣装も販売しており、399~2000ドル(約6万~31万円)で手に入る。「人々が実際に注文できるよう、価格も抑える必要がある」

マッキノンは的を射ている。4年ごとに金メダルを確実に獲得できるスケーターはそれほど多くはないからだ。

forbes.com 原文) 

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