戦争が長引いた場合、深刻な医薬品不足と医療の停滞が現実的に
医薬品の一部は100%が石油製品
石油由来のエチレン生産が止まると「病院の機能が停止」する可能性(病院が開いていても検査も手術も何もできなくなる)については、少し前の記事で取りあげました。これはかなり現実的な危機だとは思いますけれど、最近、
「医薬品のほぼすべてが石油由来」
であることを知りました。
こういうことを私は知らなかったんですね。
鎮痛剤のアセトアミノフェンとかイブプロフェンなどは、100%が石油由来製品であるのだそう (厳密には 99%以上)。他にも、このような 100%が石油由来である医薬品はたくさんあるようなのです。
このことを知るキッカケは以下の投稿を読んだことでした。
表現の中には、やや誇張している部分がありますが、個人的に論文や資料、あるいは AI 等により確認しましても、「おおむね、ここに書かれてあることは間違いない」です。
専門用語が多いですので、カッコで注釈を入れています。
あなたがたが使用する鎮痛剤アセトアミノフェンは 100%石油化学製品だ。クメン法 (化学合成法の一種)により、フェノールが p-アミノフェノールに変換され、錠剤にアセチル化される。
イブプロフェンも 100%石油化学製品だ。イソブチルベンゼンとプロピオン酸誘導体だ。地球上で最も処方される糖尿病薬であるメトホルミンは、80~ 90%が石油化学製品だ。シアン二アミド (断酒目的の薬シアナマイドなどに用いられる)は天然ガス誘導体由来だ。
これらの薬を作るナフサはホルムズ海峡を通過する。この海峡は機雷が敷設され、保険がかけられず、護衛もない。
つまり、戦争が家庭の薬箱にまで及んでいるということだ。
誰もこのことを報じていない。
アメリカガス協会によると、医薬品の原料と試薬の 99%が石油化学由来だ。50%ではない。70%でもない。99%だ。
錠剤は石油でできている。海峡から運ばれる同じ石油でだ。パン袋用のポリエチレンになる同じナフサが、アセトアミノフェン錠剤用のフェノールになる。石油化学クラッカー (ナフサを分解する装置)が停止すると、これらの製品は消滅する。
クラッカーは停止している。チャンドラ・アスリ社(インドネシア最大の石油化学企業)は 3月3日に不可抗力を宣言した。ヨチョンNCC社 (韓国最大のエチレン生産施設)は 3月4日。PCSシンガポール (シンガポールのエチレン企業)は 3月5日。CNOOC (中国の石油天然ガス会社)は 120万トン施設の停止を計画中だ。
これらはプラスチック産業に限定されない。原料が同一であるため、医薬品業界に波及する。
インドが圧力点となっている。世界のジェネリック医薬品の 20%。米国ジェネリック需要の 40%の供給をインドが担っている。
そして、インドのメタノール供給は API 製造 (薬の有効成分を高純度で生成する化学・生物プロセス)の主要溶媒だが、ホルムズ回廊への依存度が 87.7%だ。
インド政府は産業用石油化学原料よりも家庭用 LPG を優先し、下流の医薬品サプライチェーンを必要とするナフサ誘導体は後回しになっている。インドの製薬会社は完成品在庫を 3~ 6ヶ月分保有しているため、バッファーは存在するが、原料パイプラインが枯渇するにつれ、加速的に減少している。
世界最大のワクチン製造企業であるインドのセラム・インスティテュート社は、主要カテゴリーで世界の 40~ 50%のワクチン投与量を供給しているが、同じ石油化学チェーンに依存している。
mRNAワクチンは石油化学由来の脂質ナノ粒子と溶媒を必要とする。
従来型ワクチンはアジュバント(添加剤)と安定剤に石油化学中間体を使用する。すべてのバイアルはプラスチックだ。すべての注射器はプラスチックだ。すべてのコールドチェーン包装フィルムはプラスチックだ。クラッカーを停止させる不可抗力は、単なる包装の話ではない。ワクチンそのものの話なのだ。
発展途上世界の安価な抗生物質、糖尿病薬、心血管薬、子供用ワクチンへのアクセスは、イラン製機雷が現在埋められた 21マイルの水路 (ホルムズ海峡のこと)を通る石油化学原料で稼働するインドの製造工場を経由する。
これが 4番目のドミノだ。1番目はエネルギー。2番目は肥料。3番目は包装。しかし、4番目(医薬品)は経済危機を人道的危機に変えるものだ。
なぜなら、代替のパン包装紙は見つけられても、世界中の 5億3700万人の糖尿病患者のためのメトホルミンの代替は見つからない。
肺炎の子供のためのアモキシシリンの代替は見つからない。私たちが何十年もかけて排除した疾患を防ぐワクチンの代替は見つからない。
連邦準備制度理事会は明日、エネルギー、肥料、包装、そして今や医薬品投入物によって駆動されるインフレを評価するために会合する。すべて同じ絞め付けポイントを通じた4つのドミノでの再価格設定となる。
4番目の医薬品は、商品指数に表示されないため、市場が価格付けしていないものだ。
それは医者の処方箋に現れる。
ここまでです。
少し注釈を加えさせていただきます。
代替は基本的に存在しない
この著者は、
> 医薬品の原料と試薬の 99%が石油化学由来だ。
と書いていますが、これについては、調査された正式な数字ではないことと、あとは、このことが掲載されている論文が 2011年のものと、やや古いものであるということがありますので、注釈しておきます。
論文は以下です。
石油と医療:石油供給変動に対する医療の脆弱性の評価と管理
Petroleum and Health Care: Evaluating and Managing Health Care’s Vulnerability to Petroleum Supply Shifts
2011/09
ここに以下のような部分があります。
2011年の論文より
石油生産の約 3%が医薬品製造に使用されるが、医薬品原料および試薬のほぼ 99%は石油化学製品から得られる(バージニア・ウェズリアン大学のジョイス・イースター博士との口頭によるコミュニケーション、2010年12月)。
ただし、石油化学原料のコストは、マーケティング、研究、開発が大部分を占める医薬品コスト全体のごく一部に過ぎないと考えられる。
こうありますように、医薬品と試薬の 99%が石油由来というのは「専門家からの口頭によるコミュニケーション」によるもので、明確な調査によるものではないのですが、このあたり AI にも聞いてみました。
答えは以下のようなものでした。
AI の回答
小分子医薬品(パルコタミノフェン、イブプロフェン、メトホルミンなど、日常的に使われる錠剤の多く)の出発原料や合成試薬の大部分は、石油化学由来のベンゼン、フェノール、エチレン、プロピレン、ナフサなどから作られます。
溶媒・中間体・触媒も同様で、グローバルな医薬品製造の化学合成ルートでは石油化学に極めて依存しています(日本でも同じ)。インドや中国の API(有効成分)工場もこのルートが主流です。
誇張・誤解を招く部分としては、「99%」という数字は厳密な統計ではなく推定で、2010年時点の口頭情報が元だということです。
正確には、実態として「かなり依存しているのは事実だが、99%は業界の誇張推定」だと言えます。
それでも、医薬品供給チェーンが石油化学(特にナフサ・メタノールなど)と密接に結びついている点は正しく、地政学リスク(ホルムズ海峡など)で影響を受けやすいのも現実です。
ここまでです。
また、医薬品の中には、インスリンとか遺伝子製剤とか、一部の抗生物質や漢方薬など天然物由来のものもあり、石油化学依存が低い医薬品もありますし、確かに石油依存が 99%は大げさかもしれないですが、「相当高い依存度」であることは事実のようです。
問題は、日本で処方される薬のかなりの部分が「中国かインドから来ている」ものだということです。
中後とインドへの原薬の依存度が極端に高い日本
日本の医薬品の 7割が輸入品であることは、「製薬企業の観点から考察した経済安保推進法」というページに以下のようにあります。
「薬事工業生産動態統計調査」(2020年度)によると、医療用医薬品の生産金額の約7割は輸入品です。また、品目ベースでも、後発品の原薬の約7割を輸入に頼っています。
これら原薬の供給元となる国は多岐にわたりますが、特に依存度が高いのは、中国、インド、韓国、イタリアです。
このうち韓国、イタリアで製造されている原薬は、その原材料を中国やインドから調達しているケースが多く、実際には、医薬品のサプライチェーンが中国やインドに依存する割合は調査数値以上に高いと考えられています。
それで、ホルムズ海峡が封鎖されている現在、中国とインドの「ホルムズ海峡を経由した石油への依存度はといいますと、以下のようになっています。
・中国の原油輸入量に占める中東産原油の割合は2024年時点で57% (businessinsider.jp)
・インドは原油需要の8割以上を輸入に依存しており、中東からの輸入比率は約45% (jbpress)
このように、中国とインドがホルムズ海峡を経由した石油に依存している割合は高く、現状でもすでにこの両国はエネルギー危機に陥っていると言えそうなのですけれど、世界中に医薬品を供給している中国とインドの医薬品製造に問題が起きた場合、医薬品の大部分を輸入に頼っている日本はかなりの影響を受けるとは思います。
先ほどの著者が、
> それは医者の処方箋に現れる。
と書いていますように、まずは価格にあらわれるのでしょうけれど、戦争がさらに長引いた場合、「不足する」という深刻な問題も出てきそうです。
どうでもいい薬なら、むしろ市場からなくなった方がいいものも多くありますが、人によっては、絶対に必要な医薬品が存在する方々もいるわけで、場合によっては人道的な問題ともなるのかもしれません。
ホルムズ海峡が長期間にわたり遮断された場合の影響について、これも AI に聞いてみますと、要点としては以下のような問題が出てくるようです。カッコ内は私の注釈です。
ホルムズ海峡が長期間封鎖されることへの影響についての AI の回答
1. 原料の価格急騰と供給逼迫 (原油やナフサなどの医薬品の原料の入手が難しくなるため)
2. 製造コストの上昇 (医薬品合成自体に、原油や天然ガスなどのエネルギーを使うため、製造コストが上がる)
3. 包装・輸送・補助資材への波及 (どんな薬でもも、ほぼプラスチックのパッケージに入っているわけですが、プラスチックもほぼすべてが石油由来)
4. 在庫の限界 (多くの製薬企業の原料の在庫は、数週間〜数ヶ月。それを過ぎると、医薬品の原料が枯渇する)
こういう懸念はあるようです。
ですので、本当に必要な医薬品があるという方の場合、ある程度、入手されておいたほうがいいかもしれません。戦争が今後短期間で終わったとしても、医薬品の使用期限は一般的に長いですので、買い置きには特に問題ないと思います。
最初のほうに、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤が 100%石油由来だと書きましたけれど、ベンゾジアゼピンとか、SSRI (抗うつ剤)なども、ほぼ 100%石油由来です。以下に AI の回答を書いています。
・メンタル系医薬品(ベンゾジアゼピンやSSRI系抗うつ剤)も100%石油由来
メンタル系の医薬品は、長期の使用などを含めて、それ自体にいろいろと問題のあるものだとはいえ、「突然、供給が断たれて入手できなくなる」ということへの問題もあります。ベンゾジアゼピンも SSRI も、急に断薬すると、大きな副作用(離脱症状)が考えられるからです(参考記事)。
完全に手に入らなくなるということはあり得なくとも、何らかの影響が出ないとも限りません。
それにしても、医療と関係する、ほぼあらゆるものが石油由来だということを今回のホルムズ海峡の封鎖という出来事で知り得ました。
考えてみれば、自然由来のサプリなども瓶やパッケージはほぼ全部が石油由来のプラスチックですからね。食べ物も、ほぼ全部プラスチックに入って売られている世界。
石油がないと何も回らない世界に生きていたことを知り、つくづくと今の世のシステムを再考する機会だとも思えます。





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