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電力・ガソリン消費の自粛要請へ:迫るタイムリミットと電力利用規制が行われた場合の経済への影響

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電力・ガソリン消費の自粛要請へ:迫るタイムリミットと電力利用規制が行われた場合の経済への影響

世界の原油供給が元に戻るまで1~2年かかるかもしれない

電力・ガソリン消費の自粛要請は不可避か

ホルムズ海峡の事実上の封鎖に伴い原油価格が高騰し、原油不足のリスクが高まる中、アジア諸国を中心に多くの国では、電力・石油消費の抑制策が既に講じられている。
 
国際エネルギー機関(IEA)の集計によると、4月2日時点で3か国近くが節電対策に乗り出したという。日本以上の石油備蓄を抱える韓国でも、大統領が国民や企業に協力を呼びかけ、車の利用抑制に乗り出した。公的機関ではナンバープレート別の車両利用制限を実施し、ガソリンなどの買い占めや流通混乱の防止にも注力している。
 
そうした中、日本政府は、電力やガソリン消費を抑えるように国民に呼びかけることになお慎重な姿勢を続けている。政府の自粛要請が国民の間にパニックを生み、原油関連製品の前倒し購入などを引き起こせば、供給不足と価格高騰に拍車をかけてしまうことを恐れているのだろう。1970年代の第1次オイルショックの際には、政府による紙の節約の呼びかけがトイレットペーパーの買い占め騒動のきっかけとなったとされることも、政府の姿勢を慎重にさせているのではないか。
 
さらに、国民に自粛を呼びかけると、コロナ禍の時と同様に、政府が国民からの批判に晒され、支持率の低下を引き起こす可能性を政府は警戒している可能性もあるだろう。
 
しかし、ホルムズ海峡を通じた原油・ナフサなどの輸入が正常化しない限り、国内でガソリンなど石油製品が底を突き、電力供給が削減される事態はいずれ生じることになる。

ガソリン補助金の予算枯渇と補助金削減・ガソリン価格上昇の可能性

現在政府は、1リットル当たり49.8円の補助金を実施している。4月9日以降もこの補助金の水準が続く場合には、現在政府が確保しているガソリン補助金の予算は6月9日に枯渇する計算だ。4月9日以降の補助金額が1リットル当たり60円に引き上げられ、その補助金の水準が続くより悲観的なケースでは、5月29日に予算が枯渇する計算となる。
 
現在の予算が枯渇する際に、政府が補助金を一気に打ち切ってしまう可能性は低いだろう。しかし、追加の予算を確保するとしても、現在のガソリン補助金制度を見直し、補助金を縮小させることが考えられる。それは、ガソリン価格の緩やかな上昇をもたらすだろう。
 
これには、財政負担を軽減させる狙いがあるとともに、ガソリン価格を上昇させることで、個人のガソリン消費の節約を促す狙いもある。5月にもガソリン補助金が削減され、現在の1リットル170円程度が、180円や190円、場合によっては200円まで引き上げられる可能性があると見ておきたい。その場合でも、ガソリン価格の上昇で生活が大きな打撃を受ける低所得層に対しては、給付金など別途支援策を講じる必要があるのではないか。
 
ちなみに、政府が補助金を削減して1リットル200円までのガソリン価格上昇を容認する場合、170円と比べてガソリン価格は17.6%上昇する。2人以上世帯の平均ガソリン消費額70,887円(2024年)が17.6%増加する場合に、家計の負担額は年間1万2,476円となる計算だ。

日本の原油はいつ枯渇するか

NHKは、ホルムズ海峡を通らない代替ルートなどを使って、5月には、去年の実績の6割程度まで原油を確保できる目途がたったとする政府関係者の発言を報じている。この場合、石油備蓄の放出と合わせて、来年年明けまで日本は原油が枯渇する状況は回避できるという。
 
これが本当であれば大変喜ばしいことであるが、一方でなお不確実性も残るように感じられる。今後の情報を見極めたい。ホルムズ海峡を経由する原油の供給は世界の原油の供給の約2割を占めていた。それがイラン情勢の悪化によってほぼ停止してしまった。ホルムズ海峡を経由する原油の輸入に依存する国々を中心に、原油の争奪戦が生じている。その中で、原油の消費大国である日本が、わずか2~3か月で新たに6割の原油を代替ルートで調達することは容易ではない。
 
日本は、ホルムズ海峡を経由する原油の輸入に強く依存するアジアの国々に対して、原油の調達を助けるリーダーの役割も担っており、他国を出し抜いて自国だけ原油を調達できれば良いという訳ではない。
 
また、原油の輸入拡大の余地が大きいのは米国であるが、米国本土の原油は軽質油である。日本の石油精製設備の多くが中東産の重質油に対応していることから、米国から原油の輸入を拡大できても、各種石油製品を作る精製の過程にボトルネックが生じてしまう可能性もあるのではないか。
 
筆者は、代替ルートによる原油の調達は25%程度ではないかと想定してきた。仮にその前提で計算すれば、9月上中旬で政府の石油備蓄は枯渇する計算となる。
 
民間の石油備蓄は生産・流通の過程で生じる在庫に近いものであり、今後民間備蓄を減らす余地は限られる。今後も使い続けることができるのは、民間ではなく政府の石油備蓄だ。政府の石油備蓄(すべて原油)は146日分あった。ホルムズ海峡を経由しないルートで原油の調達は進んでいるが、それで賄うことができるのは、従来の輸入全体の4分の1程度とすれば、政府の石油備蓄を使って原油需要の195日分(146/0.75)を賄うことができる計算となる。ホルムズ海峡が再開しない場合、3月26日の政府の石油備蓄放出日から計算すると、9月上中旬で政府の石油備蓄は枯渇してしまう計算である。

電力供給の削減といった強い規制措置が出される場合の経済への影響

政府は4月中にも、個人や企業に対して電気やガソリンの消費を抑制するような要請をする可能性があるだろう。1970年代の第1次オイルショック時に政府は、以下のような節電・省エネを国民と企業に対して強く要請した。それらが参考になるだろう。
 
・日曜日の自家用車利用の自粛(サンデードライビング自粛)
・高速道路での低速運転の推奨
・暖房の設定温度の引き下げ(省エネの象徴的行動として実施)
・不要不急の照明・電力使用の削減(ネオン・看板照明含む)
・深夜のテレビ放送自粛
 
さらに、ホルムズ海峡を巡る状況が好転しない場合には、より厳しい規制措置を打ち出さざるを得なくなる可能性についても考えておく必要があるのではないか。
 
1970年代の第1次オイルショック時には、政府は大口電力需要者に対して15%の電力供給の削減を3.5か月実施した。今回も同様の措置が講じられるとすれば、日本の実質GDPは1年間で0.94%押し下げられる計算となる(コラム「第1次オイルショック時と同様の電力使用規制が行われた場合の影響を試算:実質GDPを0.94%押し下げ」、2026年3月27日)。
 
資源エネルギー庁が2025年4月に公表した2023年度の電源構成では、石油製品は7.4%である。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、原油輸入が従来の4分の1にとどまる場合、石油製品を使った電力供給は全体の1.85%まで減ることになる(7.4%×0.25)。両者の差である5.55%分だけ電力供給を削減して需給をバランスさせる必要が生じる。
 
この状態が続けば、日本の実質GDP成長率は1年間で1.19%減少する計算となり、経済的な損失はかなり大きくなる。

世界の原油供給が増えるまでに1~2年か

原油価格の上昇は原油増産に向けた投資を促し、いずれは供給が増えることから、価格は元の水準に戻っていくことが考えられる。しかしそれには、最低でも1年程度はかかるのではないか。
 
中東などの原油の場合には、新規投資開始から本格増産まで5年程度かかるとされるが、米国シェールの場合には1~2年で本格増産が可能となるため、仮にホルムズ海峡の閉鎖状態が長期化しても、その程度の時間で原油価格は元の水準に戻ることが期待される。
 
ただし、今回の紛争でホルムズ海峡を経由する中東産原油の価格には地政学リスクのプレミアムが恒常的に乗ってしまう可能性があるだろう。それは、中東産原油価格で10ドル程度、国内ガソリン価格で10円程度と大まかに考えておきたい。

個人の行動変容は進むか

今回の中東情勢の悪化は、個人のガソリンあるいはナフサから作られる製品への依存度を下げるような行動変容につながるものと考えられる。それは、ガソリン自動車からEVへの乗り換え、公共交通機関の利用拡大、節電の強化、石油由来の製品から代替製品へのシフトを促すことになると思われる。それは例えば、石油由来の洗剤、シャンプーから完全植物由来のものへ、プラスチック製品から紙・木製品へ、ポリエステル製の袋から紙袋へといったシフトだ。
 
第1次オイルショックは日本のエネルギー効率を大きく高めた。現在でも日本の1次エネルギーの経済に占める比率は他国と比べて高い。しかし、原油消費の経済に占める比率はそれほど高くはない(コラム「原油供給危機下のエネルギー効率向上と脱炭素の取り組み」、2026年3月26日)。
 
これは、欧州諸国などと比べて、日本は、化石燃料への依存を十分に下げることができていないことを意味しているだろう。今回の中東情勢の悪化をきっかけに、日本は脱炭素社会への移行により積極的に取り組むことが求められる。

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