教員同士で年収に“4倍”格差…都内進学校の非常勤講師が差額分求め学校を提訴 東京地裁

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教員同士で年収に“4倍”格差…都内進学校の非常勤講師が差額分求め学校を提訴 東京地裁

非常勤講師年収250万円に対し専任講師は1,000万円の差

「専任教員と比較して4分の1の年収しかない」――。

都内の進学校に勤務する非常勤講師3人が、専任教員と同様の職務を行いながら待遇に著しい差があるのは民法709条の「不法行為」を構成するとして、2013年4月から今年3月までの差額賃金合計およそ1億2600万円の支払いを求め8月19日、東京地裁に提訴した。(ライター・榎園哲哉)

 
非常勤講師“年収250万円”、専任教員は“1000万円”

東京地裁への提訴後、非常勤講師3人のうちの2人(A氏・B氏)が原告代理人の3人の弁護士と共に都内で会見に臨んだ。

原告の3人が勤務するのは中高一貫の私立の進学校で、「学校法人桜丘」が設置・運営する桜丘中学校・桜丘高等学校(東京都北区)。

原告のA氏(2017年4月入職)とB氏(2013年4月入職)は社会科を、C氏(2013年4月入職)は理科を中学と高校で受け持ち、いずれも「コマ給」と呼ばれる給与形態(1コマ=1回の授業=単価×1週間の授業数×4週)で勤務している。

3人は、1年ごとの有期労働契約だったが、2022年8月に労働組合を結成。無期転換権(※)を行使して2023年4月、無期労働契約を学校側と結んだ。

※有期労働契約が更新されて5年を超えたときに、労働者の申し出によって無期労働契約に転換される。2013年4月施行の改正労働契約法で定められた。

今年3月、学校側と待遇等について団体交渉を行う過程で、専任教員の待遇の開示を求めたところ、非常勤講師と比べ著しい待遇差があることが分かった。

A氏と同年齢の専任教員を比べたところ、A氏の約250万円の年収に対し、専任教員はその4倍の約1000万円を得ていた。基本給の格差に加え、勤続手当や家族手当など各種手当が手厚く付けられていた。

非常勤講師でも副担任、部活動の顧問務めることも

待遇の著しい格差の一方、職務内容は専任教員と非常勤講師でそう大差はないという。

非常勤講師もコマ単位の授業のほかに、授業で用いる教材の作成、3か月ごとの定期試験と日々の小テストの作成・採点、さらには生徒指導など、「授業時間以外にも多岐にわたって職務を行う」(A氏)。

専任教員はクラスの担任を務めるが、非常勤講師も副担任に就き担任をサポートすることがあるという。また、部活動の顧問を任されることもあり、A氏も一時期、剣道部の顧問を務めていた。

なお、A氏によると、桜丘中学校・桜丘高等学校の現在の教員数は、正規教員61人に対し、非正規教員は51人。ほぼ半数が非正規だ。

著しい待遇格差は「不法行為」構成

会見に同席した原告代理人の明石順平弁護士は、専任教員と同様の勤務形態にありながら待遇格差がある原告3氏への処遇について、学校側は過去から現在まで、各時期に適用される法律に違反していると主張する。

まず、B氏・C氏が入職した2013年4月から2020年3月までは、有期雇用であることを理由とした不合理な労働条件を禁止した労働契約法20条(改正前)。

そして2020年4月以降は、新たに施行されたパートタイム・有期雇用労働法8条(有期雇用であることを理由とした不合理な待遇の禁止)にそれぞれ違反。

これにより、学校側には民法709条(不法行為※)の規定に基づく損害賠償責任が発生するとして、専任教員との差額賃金およそ1億2600万円(A氏約2800万円、B氏・C氏約4900万円)の支払いを学校側に求めるという。

※故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

請求額が高額になった理由について、「待遇差を知った今年3月を起点に、労働契約法で『不合理な労働条件の禁止』が定められた2013年までさかのぼって請求しているためだ」と説明。

その上で明石弁護士は「私立学校においては、被告(学校法人桜丘)に限らず、非常勤講師と専任教員との間に著しく不合理な待遇差があり、非常勤講師が経済的に不安定な立場に立たされていると考えられる。今回の裁判で、こうした非常勤講師への不合理な待遇の実態を明らかにし、その是正を訴えたい」と述べた。

教育基本法が権利を定める教員は「専任」だけではない

「授業を通して生徒たちと関係を築き、成長やさまざまな進歩を感じられることにやりがいを感じる」と語るA氏。

一方で、「教育基本法9条2項には、専門職者としての教員の権利について、『その身分は尊重され、待遇の適正が期せられる』とある。教育基本法のいう教員は、専任教員のことだけを指すわけではない。収入が不安定で仕事を掛け持ちしなければ生活していけない教員が、果たして専門職者として尊重されていると言えるのか」とも訴えた。

被告となった学校法人桜丘は取材に対し、「現段階では訴状を確認できておらず、回答は控えさせていただきたい」と答えた。

■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

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