「多くの人にとって、次の不況は大恐慌のように感じられるだろう」
それが訪れるのがいつかはわからないにしても
前回、「コロンブス・デーの虐殺の後に」という記事で、トランプ氏の対中国 100%関税発言の後で、アメリカの市場が荒れに荒れたということについてふれました。
その後「すぐに」トランプ氏は、前言をほぼ撤回するような発言(TACO と言われている妥協表明)をしたことで、週明けのアメリカ市場は大幅に回復しました。
しかし、今日(火曜日)の日本の市場は、思っていたほどの回復はなく、結構下がっていますが(日経平均は一時 1500円下落)、こういう日々の上げ下げはどうでもいいのですけれど、上に行くにしても下に行くにしても、昨年くらいから値幅がどんどん大きくなっていまして、「投機」というのか「博打場」というのか、そんな雰囲気が漂います。
金の先物なども異様な値上がりで、これもまた博打場の様相を呈しています。
狂乱の日々が続いていますけれど、
「その後に何が来るのか」
ということについて、アメリカの金融専門家であるチャールズ・ヒュー・スミスさんが、非常に長い記事を投稿していました。
今回のこの記事のタイトルそのもののタイトルの投稿です。
チャールズ・ヒュー・スミスさんといえば、2022年11月に「大いなる狂気が大地を席巻している」という記事をご紹介したことがありました。以下にあります。
・異端が排除される狂気の時代に、カナダの新しいT4作戦による大量死を眺め見て、さてそれをどう感じるか(何も感じなかったりして)
In Deep 2022年12月21日
あと、今年 4月のこちらの In Deep 記事でも、チャールズ・ヒュー・スミスさんの「関税地震の後」というタイトルの、これも良い記事でしたが、それをご紹介しています。トランプ関税の「二次的影響」は、しばらく後になり、非常に大きな形で表面化する可能性が高いことを述べていたものでした。
今回の記事は、かなり長いのですけれど、アメリカにおいて、
・不況に陥ることが避けられない構造的な問題
・不況の中で、どのような人が最も影響を受けるか、あるいは受けないか
というようなことなんですが、簡単にいってしまえば、不況に陥った時に、「予期せぬ出来事から身を守るための資源や準備等が少ない人」が最も大きな影響を受けて、そして、それはアメリカでは圧倒的に多い階層だということを述べています。
その逆の人たち(債務がない、家のローンが終わっている、代替えの仕事が見つかりやすい等)は、受ける影響は小さいだろうと。
アメリカでは、現在の政府閉鎖が今後も続いた場合「11月から食糧支援プログラム(フードスタンプ)のための資金が枯渇する」と政権が通達しています(翻訳記事)。
あるいは、もともとトランプ氏は、「ビッグ・ビューティフル・ビル」という法律で、メディケイドとフードスタンプへの 1兆ドル (約 150兆円)以上の削減に署名していまして、アメリカの何百万人の人たちが、じきに非常に厳しい状況となることが現実としてあります。そこに不況が重なれば、社会はひどく荒れると見られます。
ともかく、かなり長い記事ですので、そろそろ入ります。
多くの人にとって、この不況は大恐慌のように感じられるだろう
For Many, This Recession Will Feel Like A Depression
Charles Hugh Smith 2025/10/12
経済を不況から脱却させるための従来の手段はいずれも限界に達しており、期待通りには機能しなくなるだろう。
今回は状況が違うとよく言われるが、今回はそれが真実だ。しかし、主張する人たちが期待するような形ではない。
私は 悲観論者として無視されることが多いが、これは、 新たな技術や金融の「革新」によって、あらゆるものを永遠にもっと消費できるようになるという、おとぎ話のような経済に告発者たちが強く傾倒していることの反映だと私は解釈している。
ご覧の通り、ここに提示されているのはデータ、つまり事実だ。それをどう解釈するかは私たち次第であり、だからこそ、弁護者たちは「おとぎ話」の物語を追うためにデータを歪曲したり無視したりする強い欲求に駆られる。
データを歪める主な手段は、米国の 1億3500万世帯、3億4000万人の住民を一つのグループにまとめてしまうことだ。
そうすることで、前例のない富と所得の不平等が魔法のように消え去る。マネー・マーケット・ファンドに眠る膨大な資金、数兆ドルの住宅資産、401K口座 (企業型確定拠出年金)などを見てほしい。これを見ている限りは、私たちアメリカ人は裕福なのだから、何を心配する必要があるのだろうか?
ところが、これは策略だ。
この富の大部分(68%、113兆ドル / 約 1京7000兆円)は、上位 10%にあたる 1,350万世帯の手に握られている。
下位 50%、つまり 1億7,000万人のアメリカ人が所有する富は全体の 2.5%、つまり 4兆ドル (約 600兆円)で、上位 10%が保有する富のわずか 3.5%に過ぎない。
ウォールストリートジャーナル紙の記事 (2025年4月の「 昨年、米国の最も裕福な19世帯に1兆ドルの富が創出された」)によると、19世帯の純資産は 2.6兆ドル (約 400兆円)で、これはアメリカ人 1億1000万人分の資産に相当する。
上位 1%(340万人)が全純資産(52兆ドル)の 31%を所有しており、これは 50%から 90%の層(1億3600万人)全体の純資産を上回っている。
上位 10% が全収入の大部分を占め、全支出の 50% を占めている。
アメリカの労働者 4,170万人(労働力の 31%)が時給 12ドル (約 1800円)未満であると報告されている。brookings.edu のレポート (2020年)によると、アメリカの労働者 5,300万人(18~ 64歳、労働力の 44%)の時給中央値は 10.22ドル (約 1550円)で、フルタイムの年間収入は約 24,000ドル (約 360万円)だ。
最も低賃金の労働者の多くは大幅な賃金上昇を受けているが、 米国のフルタイム賃金収入の中央値が 6万2000ドル (約 940万円)であることを考慮すると、10~ 20%の賃金の増加でもほとんど変化はない。
私はこのデータすべてを 『21世紀アメリカの勝者と敗者』という記事で発表した。
過去 50年間の米国経済の真の姿は、 おとぎ話のような物語ではない。真の姿はデータを見れば明らかだ。経済における賃金のシェアは急落し、賃金労働者の生活水準は低下した。そして、政府の対応は、借金によって消費/GDPの拡大を維持するため、金融政策に頼るというものだった。
マネーサプライは経済よりも速いペースで拡大しており、債務も同様に拡大している。金利の低下は借入増加を促し、資産を膨張させ、「富裕効果」を生み出し、それがさらなる借入と支出の増加につながる。これは、資産価値の拡大に基づく債務拡大がさらなる債務を可能にするという、いわゆる好循環だ。
しかし、資産バブルに依存して富と消費を生み出すことで、富と所得の不平等が悪化した。なぜなら、この制度は、すでに資産を所有し、低コストの融資を受けることができる人々、つまりすでに裕福な人々に利益をもたらすように設計されているからだ。
資本(賃貸物件、株式、債券、事業所有権)から生じる不労所得の大部分は、富のピラミッドの頂点に流れる。
富と所得格差を研究する経済学者ブランコ・ミラノビッチ氏によると、 米国の金融資産からの一人当たり年間所得の中央値は 21.89ドル (約 3300円)だ。そう、22ドルだ。ハッピーミール (マクドナルドのハッピーセットのこと)を数個買えるほどの額だ。
以下のグラフは真実を物語っている。 比較的少数の世帯(上位 0.1%)が不労所得の大部分を獲得している一方で、大多数の世帯は数ドルしか獲得していない。
金融資産からの所得の分配(個人年金を含む) 米国 / 2022年
賃金の購買力の上昇を資産バブルに置き換える戦略は、 富と所得の格差を拡大させ、社会不安をますます不可避にするレベルにまで悪化させただけでなく、経済全体をますます不安定化させている。
勤労所得の代わりに債務と資産バブルを充足することで、ほとんどの世帯が、自ら制御できない異常なリスク、すなわち株式・住宅バブルの崩壊、そして「資産効果」の反転による経済的打撃にさらされることになる。これは経済を自己強化的なフィードバックループ、つまり 破滅のループに陥らせることになる。
借金を収入に置き換えることは自己清算的であり、 ある時点で、いわゆる借金飽和状態となり、借り手の収入は必要不可欠な支出と既存の借金の返済にのみ充てられるようになる。つまり、さらなる借り入れに充てるための裁量で使える収入は残っていないのだ。
言い換えれば、負債が拡大するにつれて、毎月支払うべき利子と元金も増加し、 最終的にはこの負債返済と裁量外の支出がすべての収入を消費することになる。
経済を不況から脱却させるための従来の手段、つまり減税、金利の引き下げ、消費を刺激するための連邦政府支出の増加は、いずれも限界に達しており、もはや予想通りには機能しないだろう。
連邦税はすでに主に上位 10%の富裕層によって支払われているため、「減税」はすでに富裕な層にのみ恩恵をもたらす。
2026年の「夫婦合算申告」の税率区分は、24,800ドルまでは 10%、 100,800ドルまでは 12%だ。共働き世帯が標準控除額の 32,200ドルのみを控除する場合、133,000ドルの世帯収入に対して課される税率は最大 12%となり、最低税率とそれほど変わらない。
米国国勢調査局によると、2024年の世帯収入の中央値は 83,730ドル (約 1270万円)だった。
つまり、減税は下位 90%の人々に目に見えるほどの助けにはならないのだ。
金利引き下げについては、以前も述べたように、世界は変化し、2000年から 2020年にかけての「大安定期」はもはや過去のものとなった。金利をほぼゼロまで引き下げることができたのは、世界の工場としての中国の拡大によるデフレの推進力だった。中国が安価な石炭資源と(当時)低賃金の労働力を活用したことで、世界的なデフレの波が生まれ、インフレを押し上げる他の要因を相殺した。
デフレの波が去った今、デフレの代わりとなる要因は存在しない。
世界的な貿易戦争とリスクの増大により、資本を借り入れるためのリスクプレミアムは世界的に上昇しており、これをゼロに戻すことはできない。
多くの人は、連邦準備制度理事会があらゆる手段を講じて金利をゼロに引き下げ、「景気後退から経済を救う」と予想しているが、連邦準備制度理事会は、この策略を頼りにする政策を実行すると何が起こるかを見てきた。
日本が示したように、結果は停滞だ。経済を回復させて合法的に拡大軌道に戻す唯一の方法は、資産バブルを収縮させ、その結果として生じる破産、債務不履行、返済不可能な債務の減額による損失を吸収することだからだ。
こうした不良債権の清算は、銀行やその債務を資産として保有する富裕層に打撃を与えるため、FRB や政治指導者にとっては忌み嫌われる行為だ。
たとえ主要金利が下がったとしても、下位 90%の人々のクレジットカード金利や学生ローン金利は下がらず、高水準のままとなるだろう。信用格付けが優良とは言えない人々も、FRB が魔法の杖を振ったからといって金利が下がるわけではないことに気づくだろう。
債務飽和状態に達した経済において、金利を引き下げても何の成果も得られない。 上位 10%は富の 68%を所有しているため、借金をする必要がなく、下位 90%は借金能力が限られていることに気づき、賢明ではないと感じる。
グレート・モデレーション(大安定期)において消費を刺激した住宅ローン借り換えブームも、7%以上の金利を持つ住宅所有者が比較的少ないため、実現不可能だ。大多数の住宅所有者は、金利が見直される可能性の低い住宅ローンを抱えている。
そして、連邦政府が景気後退から経済を脱却するために支出を増やすということに関して言えば、連邦政府はすでに大恐慌に陥っているかのように借金をして支出している。
資産バブルで生じた富は大部分が幻想的な富であり、 企業買い戻しによるマネーサプライ、債務、株式の膨張によって生じた産物であり、一部の報告によれば、2009年以降の株式市場全体の上昇分の 80%を占めている。
もし純資産がインフレ率に追随していたなら、純資産総額は 167兆ドルではなく 76兆ドルになっていただろう。 つまり、純資産が半分になっても、2001年以降の利益が計上されていた可能性があるということだ。
自己強化的なフィードバックループに戻ると、 米国が真の不況を経験してから 45年が経った。マネーサプライと債務の増加、金利の低下といった策略では、もはや反転できない不況だ。
真の不況では、 企業、家計、そして地方自治体(一般会計支出のための借入ができない)が支出を削減するため、雇用喪失がさらなる雇用喪失を招く。地方自治体には従業員を解雇する以外に支出削減の手段がほとんどない。
AI が、その推進派が推進するシナリオ、つまり AI が何百万人もの人間の労働者に取って代わるというシナリオの一部でも実行すれば、雇用喪失、労働時間の短縮、福利厚生の削減、事業の閉鎖などの自己強化的なフィードバックが加速するだけだ。
問題は、「成長」を生み出すために資産バブルと債務の急増に依存する策略が、最も基本的なレベルで経済を空洞化し、多くの世帯、地方自治体、中小企業を非常に不安定な立場に置いたことだ。信用資産バブルはすべて崩壊し、より多くの策略が適用されれば適用されるほど、破壊は拡大する。
多くの世帯は失業への備えができていない。 また、株式ポートフォリオや住宅資産が歴史的に「平均的」に 40%下落することへの備えもできていない。地方自治体は、所得税、売上税、固定資産税、事業関連料金の大幅な減少への備えができていない。
多くの中小企業は、コストの高騰と経営者の疲弊の中で、かろうじて持ちこたえている。
賃金の購買力の上昇を債務と信用資産バブルの拡大の策略で置き換えるという公式政策は限界に達しており、 解決策どころか今や問題となっている。この問題の唯一の解決策は、破産、債務不履行、決して返済されることのない債務の減額による幻の富の破壊だ。
しかしこれは、負債を所有する富裕層が聞きたいことではない。そのため、彼らの取り巻きや弁護者たちは、 問題が極端な金融策略によって生み出された極端な不平等ではなく、あたかも技術的なものであるかのように、AI、モジュール式原子炉、核融合などについてのおとぎ話をでっち上げる。
バッファーが最も薄い人々は、不況を大恐慌として経験する可能性が高い。 「成長」と「豊かさ」という幻想を維持する中で、私たちはシステムのバッファーを薄くし、安定の外観を維持することこそがすべてであったため、堅固に見えた構造も、いかなるショックによっても崩壊してしまうほどに薄くなってしまったのだ。
(※ 訳者注) 「バッファーが最も薄い人々」というのは、貯蓄や保険などが少なく、突然の出費や収入減に対応できない人々ということだと思われます。
このようなリスクと不安定さへの異常な露出は、今に始まったことではない。 この報告書「米国の235世帯の1年間の支出をすべて追跡調査した結果、広範囲にわたる経済的脆弱性が判明」は 2017年のものだ。
多くの点で、詐欺と投機によって引き起こされた世界金融危機に対する政府の対応(銀行を救済し、債務を拡大し資産バブルを膨張させることで「成長」を促進する)は、リスクと不安定性へのエクスポージャーの大幅な増加を生み出した。
最も厚いバッファーを持つ人々、つまり負債がなく、極めて質素な生活を送り、固定費が低く(固定資産税の低い地域で無借金の住宅を所有しているなど)、不況に強い収入がある人々は、一体何を大騒ぎしているのかと不思議に思うかもしれない。そういう人たちは大丈夫だろう。
策略、借金、そして仕掛けで作り上げた偽りの構造物を構築すれば、風が吹けば崩壊するのも当然だ。(下の図表)
プランBとプランCを用意するのは自由だ。プランBは失業や住宅評価額の低下に対する対応策であり、プランCは回復の見込みがない損失に対する対応策だ。
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