損壊罪の中にある「公然と」という言葉の持つ意味
「公然性」という巧妙な落とし穴
自民党が今国会での成立を目指している「国旗損壊罪(日本国国章損壊罪)」の法案には、看過できない極めて重大な「落とし穴」が存在する。それは、処罰を限定するための要件として掲げられている「公然と」という文言の法解釈に関する落とし穴である。
自民党のプロジェクトチーム(PT)が了承した条文案では、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」で、「公然と国旗を損壊、除去、汚損する行為」をした場合、2年以下の拘禁刑か20万円以下の罰金を科すとされている。また、自ら損壊する様子を撮影してSNSなどで配信する行為も禁じられている。
この構成要件において自民党側が特に強調しているのが、「公然と」損壊した行為のみを罰するという点である。一見すると、この「公然と」という要件によって私的な空間で行われる行為は除外され、犯罪の成立範囲が厳格に限定されているかのように映る。
実際、自民党側はこの「公然性」の要件があることを強調して、過剰な規制ではないとアピールしている。PTの柴山昌彦座長代行は、「既に損壊された国旗を掲げてデモ行進するような行為は、処罰の対象から外れる」と明言している。その根拠は、これらの行為が「公然性の要件を満たさない」からだという。すなわち、デモという公共の場に持ち出す前に、自宅や密室などの私的空間で事前に国旗を損壊しておく分には「公然と損壊」したわけではないため、その後にデモで掲げたとしても本罪には問われない、というのである。
しかしながら、この柴山氏の説明には重大な落とし穴が潜んでいる。
限られた仲間内でのことも「公然」とされる
「公然」という文言は、名誉毀損罪や公然わいせつ罪など、刑事法でよく使われる文言であり、一般的に「不特定または多数の人が認識できる状態」を意味する。したがって、特定かつ少数の限られた知人しかいない密室での行為は「公然」とはならない(なお、実務では数名までが少数であり、それを超えると多数と評価される。具体的には、数人家族などが非公然となる典型例である)。
例えば、政府の政策に抗議するデモを計画する市民グループが、集会の準備として、閉ざされた室内において10名程度の仲間内(特定かつ多数)で国旗に×印を付けたりして、プラカードを作成したとする。このケースは、柴山氏が「処罰対象から外れる」と例示したケースであるが、その段階ですでにその行為は、「公然と国旗を損壊、汚損した」という要件にピッタリと当てはまるのである。
さらに、日本の司法実務においては、この概念はしばしば拡張して解釈されてきた。その代表的な法理が「伝播(でんぱ)性の理論」である。これは、行為が行われた時点での対象者が「特定かつ少数」の者(例えば、数人の仲間内だけ)であったとしても、その者たちを通じて情報や行為の結果が「不特定または多数の者へと伝播する可能性」が客観的に認められれば、それをもって「公然」の要件を満たすとみなすという解釈である。具体的には、マスコミ関係者1人に漏らした場合であっても、拡散される可能性があるということで「公然性」が認められたケースがある。
この伝播性の理論によれば、処罰対象はさらに広がる。
例えば、2~3名の集団(特定かつ少数=非公然)が、「その後のデモ行進で使用する」ことを前提として国旗を損壊していた場合、その後のデモ行進とは、公共空間での公然たる表現活動である。つまり、密室内での損壊行為の時点で、その結果が不特定多数に示される(伝播する)ことが当然に予定されており、行為者らもそれを予見している。したがって、解釈の可能性としては、「後のデモで不特定多数に見せる目的で、たとえ特定かつ少数の仲間内であったとしても国旗を損壊した行為は、実質的に公然性を有する」と認定される可能性が否定されないのである。
自民党の説明は間違っている
このように、自民党PTが安全であるかのように説明した「すでに仲間内で損壊した国旗を掲げてデモ行進する行為」も、容易に処罰範囲に取り込まれるのである。
要するに、国旗損壊罪における「公然と」という要件は、市民の政治的表現の自由を守る防波堤のように見えながら、実は全く機能しない。犯罪の範囲を限定しているように見せかけながら、いざとなれば「公然」に関する現在の法解釈を何ら変更することなく、市民の抗議活動を網羅的に取り締まることができるという、極めて狡猾に仕掛けられた落とし穴なのである。(了)
〈補記〉
本稿で述べたことに関しては、すでに木下昌彦神戸大学教授が6月6日のXで、次のように指摘されていた。「国旗損壊罪法案の気持ち悪いところは、国旗の損壊も含まれますので、それを不快に思う方は見ないでください、あるいは演説に立ち入らないでくださいと予め断った場合でも、だいたい10人以上の人の前でそれを行った場合には警察に踏み込まれ、逮捕される建て付けになっていること」。本稿はこの書き込みに触発されたものである。盲点だが、非常に重要な指摘である。
マイコメント
法律と言うのは解釈の仕方によってどちらとも取れる表現を使うことがままあるが
今回の国家損壊罪もまさにそのひとつであろう。
こうした言葉から政府が何をどうしたいかと言う意図が透けて見えてくる。
今回の指摘が正しければ、「すでに仲間内で損壊した国旗を掲げてデモをした場合」
でも逮捕されるとなれば、「公然と」と言う意味をすでにどこかで損壊した場合には
逮捕されないと解釈したら大きな間違いになるということです。
つまり、法律内に具体的な例を多数列挙しておかないといけないということです。
お子様ランチの旗は対象外と言われていますが、それ以外にも該当する件はいくら
でもあり、それらを例示して除外しないと解釈次第でどうにでもなるということです。
今回は国家損壊罪だが、今後はこうした法律がさらに作られ国民支配が進んでいく
危険性が十分あり得ることです。



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