「加熱のしすぎです」。駆けつけた消防隊員からそう言われたが、突然の出火でパニックになり、自分が「あたため」ボタンを押したのか、加熱時間を設定したのかも覚えていない。

 レンジは約15年前に購入したもので、これまで故障もなく、女性は「毎日使うレンジからまさか煙が出るとは」と怖がっていた。

■炭に吸収されやすいマイクロ波

 東京消防庁によると、都内の電子レンジ火災は2012年に22件だったが、新型コロナウイルスの感染が拡大した20年は51件、21年は65件に増えた。今年も先月末時点で前年同期比15件増の27件に上っている。

 目立つ原因が、加熱のしすぎ(過熱)だ。21年までの10年間に起きたレンジ火災394件の原因を同庁が調べたところ、「過熱」が半数超の209件(53%)に上った。レンジ不可の包装を加熱するなどの「誤使用」は76件(19%)、金属製の食器などが放電して火花が出る「スパーク」は22件(6%)だった。

 電子レンジに使われるマイクロ波に詳しい上智大の堀越智教授(環境化学工学)によると、出火する危険性が高いのは「水分が抜けパサパサになりやすい食品」だ。マイクロ波は炭に吸収されやすい特性があり、レンジ内で食品が炭化すると、数秒で1000度に達することもあるという。

 東京消防庁の調査では、サツマイモやジャガイモなどの芋類のほか、中華まんやパン、菓子類で過熱が原因のレンジ火災が起きている。実験では、生のサツマイモを700ワットで温め続けると12分で煙が噴き出し、2分後に出火した。

■電源を切り、加熱止めて

 レンジから出火したらどうすればよいのか。堀越教授は「レンジは金属製のため、外に燃え広がる可能性は低い。焦らずに電源コードを抜き、加熱を止めることが重要だ」と語る。

 逆に危険なのは、いきなり扉を開けてしまうことだ。レンジ内に酸素が入り込み、炎が勢いよく外に噴き出す恐れがある。荒川区では13年11月、出火したカップ麺をレンジから取り出した60歳代女性の衣服に火が燃え移り、女性が重いやけどで死亡した。

 汚れや食品かすを掃除することも大切だ。炭化したまま放置すれば、出火の原因になる。昨年4月には江戸川区の住宅でレンジ内の汚れから出火し、40歳代男性が煙を吸ってのどに軽いやけどを負った。

 家電製品の事故分析を行っている独立行政法人「製品評価技術基盤機構」の山崎卓矢・製品安全広報課長は「説明書をしっかり読んで正しい使用法を確認し、加熱時間がわからない食品は少しずつ温めて様子を見るなど、慎重に扱ってほしい」と話している。

■普及率97%

 日本電機工業会によると、国産の家庭用電子レンジが発売されたのは1965年。67年には調理終了を「チン」という音で知らせる機種が登場した。その後、販売価格の低下に伴い、一般家庭への普及が進んだ。

 総務省による5年に1度の統計調査によると、2人以上の一般世帯の保有率は84年に5割を超え、94年に89・5%に達した。2004年以降は97%超が続き、「一家に1台」が定着した。

 最近ではインターネットにつなぐ「IoT」の技術を活用し、スマートフォンから操作できる高性能な製品も増えている。