イギリスの水不足の最大の原因

それがね、ひどい話なんだ。今回の「ホース使用禁止令」と「罰金」、イギリス国民が怒ってるのはなぜだと思う? 完璧な「おまいう発言」だったんだ。

おめえが言うか?ってヤツだな。しかし、なんで?
イギリスの水不足の最大の原因は「漏水」なんだよ。

漏水?

日本じゃほとんど聞かないよね。でも、
イギリスの水道は毎日数十億リットル、オリンピック競技用の水泳プール250ケ分の水が、「漏水」で失われているんだ。(
東洋経済)

そんなに漏れてるのか?

たとえば、
ロンドン近郊のテムズ川流域の水道を担当する「テムズ・ウォーター社」の2012年の漏水率は26%だった。

それって多いのか?

26%だよ。水道水の4分の1が漏れてるんだよ。ちなみに日本の漏水率は、東京都水道局で3.3%、大阪市水道局で6%。(
note)

日本の水道の優秀さに驚く。

ヴィクトリア時代?! いくら、古き良きを重んじるイギリスとは言え、長持ちさせすぎだぞ? つうか、水道会社はちゃんと仕事してるのか? あんたらの管理が行き届かないせいで水不足になってるのに、「ホースで水まくな」とか、「罰金取る」とか言える立場かよ。

でしょ?
だから、イギリス国民は、水道会社にめちゃくちゃ怒ってるんだ。

やっぱ、民営化したのが失敗だったか。

だが、実際、民営化した今でも、イギリス人はヴィクトリア時代の水道で生活している。

そう、ちっとも変わってないんだよ。
老朽化した上水管は水漏れするし、老朽化した下水管からは下水処理されないまま、川や海に垂れ流し。民営化前とまったく変わらない。変わったのは水道料金が上がったことくらい?

水道料金は上がった??

そうだよ。

ここで一句、「水道民営化、いいこと、一つもねえんだな。」

はいはい。ところで、
水道の完全民営化を果たした国は、イギリスの他に2カ国、チリとマレーシアだそうだ。(
現代ビジネス)でも、
マレーシアは2025年現在、民営化されているのは上水道 80%、下水道 44%で、まだ完全民営化じゃない。(
マレーシア)けど、水事情は良くないね。
一度断水すると最低でも2〜3日は水が出ないし、水道管の老朽化で錆で濁った水が出たりする。(
malay blog)

完全民営化したら、もっと悪くなるだけだ。
チリは最悪だよ。1981年に、国が水の資源を民間に売り渡したことで、一部の産業が水資源を独占して、住民は慢性的な水不足に苦しんでいる。安全な水が手に入らなくて、汚染された水を飲んで病気になる人もいる。ある地域(ペトルカ省)の住民は、生活のために「霧」の水滴を集めていると言う。(
UMP-LYCEES.FR)

「霧」から水を?? 気が遠くなる〜。

それに比べたら、日本の水道はありがたいね。

よそを知らないから、いろいろ文句もあるが、蛇口をひねればきれいな水が出て、トイレも流せば処理してくれる。それだけでもありがたや、ありがたや。

でも、そんなこと言ってられるのも今のうちかも。日本も水道管の老朽化が問題になってきてる。

ああ、八潮市の道路陥没事故とかな。
八潮市の道路陥没事故現場となった交差点
民営化された水道会社の目的

ところで、
「水道民営化」って、何だと思う?

へ? いきなりそう聞かれても?
かんたんに言うと、国や自治体が持っている水源・水道施設・水道の権利などの資産を、民間に売り払うことだよ。じゃあ、民間企業の目的は何?

そりゃ、企業を太らせて、株主を儲けさせることだろ。

そう、イギリスも国の資産を売ったことで、国の赤字が消えた。一方、
資産を手にした会社は資産を運用して、利益を出して、株主に配当を配らなければならない。そうして、本来の水道サービスや設備投資そっちのけで、資産運用にまい進して行く。

本業を思い出せよ!
水道会社は独占企業だからね、競争相手もいない、ガッポガッポ、ウッハウハだよ。2007〜2016年のイギリスの水道会社の利益は約2兆7200億円。この間、株主への配当は約2兆6100億円。会社幹部の年俸は、イギリス首相の年俸(約2600万円)の5倍以上だった。(
President Online)

ヒョエ〜〜! 利益がほとんど配当に回されてる?

2017年の時点で、イギリス国民の83%が、水道事業の再公営化を望んだのも当然だね。

しかし、なんでこんなに、やりたい放題になったんだ?

いちおう、
民営化と同時に、水道会社を監視する、Ofwat(オフワット)という組織が作られた。水道会社が水道料金を勝手に上げないように、サービスが低下しないように監視するはずだったけど、ちゃんと機能しなかった。

なんでだ?
オフワットには経営に口を出す権利がないし、いくら罰金を請求しても、修理するより、罰金を払った方が安いから。漏水なんか放ったらかしだよ。(
President Online)

だめじゃ、こりゃ。
未処理の下水を河川や海に垂れ流すテムズ・ウォーター

でも、
漏水よりもっと深刻なのが下水だよ。イギリスでは、家庭からの排水や汚水も、雨水も、同じ下水管で下水処理施設に運ばれる。
大雨で水量が増えると、住宅や道路への逆流を防ぐために、処理前の下水が河川や海に放流されることが許されている。それで環境が汚染されるんだ。(
東洋経済)

ええ〜?? 雨が降ると、うんこがそのまま川や海に流されるのか?
雨の時だけじゃない。悪徳水道会社テムズ・ウォーターは、ふだんから未処理の下水を河川や海に流している。

なんと! あのテムズ川は、ガンジス川と変わらないと言うのか?

さすがに遺灰は流れてないと思うけど、
水質は国際基準でもヤバいレベルらしい。テムズ・ウォーターの失態は切りがない。
2007年、ロンドン大都市圏のワンドル川が汚染され、2500万円の罰金と清掃・調査費用426万円の支払いを命じられた。

罰金、安すぎやせんか?
ワンドル川

こんなに美しい水の風景が、下水で汚染された?!

ほとんど毎年どこかの川で、下水が放出されてたくさんの魚や生き物が死んでいる。
だから、水道を民間に任せちゃいかんのだ! 自分たちと株主さえ良けりゃいい、消費者も環境もどうだっていいんだから。

まだまだ、頭にくることがあるよ。1989年に上下水道が
完全民営化されたとき、投資家は約1.1兆円で水道公社を買った。政府は、そのおカネで水道公社の負債を清算した。
その時、水道会社は、政府から公的資金をもらって、債務ゼロからスタートしたそうだよ。(
現代ビジネス)

なんだって!? 民間会社に公的資金、つまり税金を与えていたのか? そんなおいしい話がどこにある? きっとサッチャーは、水道会社からキックバックをもらったな。

かもね。
公営事業の民営化で、政治家が大儲けできる仕組みができてるんだよ。

日本の政治家にも、よだれ垂らしてるヤツがいっぱいいそうだ。
そんな会社だから、税金もまったく払ってない。テムズ・ウォーターだけじゃない。イギリスにある10の水道会社はどこも、法人税ゼロ。過剰な借入れをして、利子を赤字計上したり、タックスヘイブンに子会社を持ったり、「何層にもなる、めまいがするような複雑な法人形態」を作って、税金を払わない仕組みになってる。(
現代ビジネス)

グローバル企業の見本だな。税金ゼロ、消費者からは水道料金を取って、設備投資には1円も使わず、老朽化した配管は放ったらかし。巨額な借金は、ハゲタカ株主の餌に消えていく。

そんなハゲタカの餌やりにも限界が見えてきた。
現在、水道会社は巨額の債務で行き詰まっている。負債額は合計約12兆円。特に、うんこ垂れ流しのテムズ・ウォーターは、巨額の負債で経営危機に瀕している。(
東洋経済)

公的資金で助けるのだけは、止めてくれ。
去年、政権交代で政権を取った労働党も頭を抱えている。さんざん考えた策も常識的なことばかり。独立した水道委員会を作るとか、会社に命令できる権限を持った新しい監視機関を作るとか、会社に設備投資を義務づけるとか、汚水垂れ流しが多い会社には、幹部へのボーナスの支払いを禁止するとか、過去30年作らなかった貯水池を助成金で作るとか。

山が燃えてるのにバケツリレーかよ?! いますぐ、公営化しろ!

う〜ん、
実は、公営化も大変なんだ。ある試算によると、完全民営化した事業を公営化するのにかかる費用は約124兆円。(
BEST T!MES)

ギョエ〜! 日本の、2025年度の一般会計予算が115兆円。それを超えるのか。

最初の、民営化というボタンが、かけ違いだったね。

日本は絶対に、ボタンのかけ違いをさせるな!
民営化は、水道インフラの老朽化、下水量の増加、飲料水の安全に対する信頼低下をもたらした
(中略)…水道産業の民営化は失敗しました。
・・・・・・・・
水道会社は、数十年にわたり民営化から利益を搾取し、顧客と環境の犠牲の上に、株主へ数十億ポンドを流出させてきました。これらの企業は、環境、野生生物、公衆衛生など、未来の世代に数十年におよぶ問題を残しています。
(中略)…唯一の真の選択肢は、これらの失敗した水道会社を公的監督下に置き、公的に責任を負わせ、何よりも公的所有に戻すことです。(
UNISON)
〈つづく〉
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