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透析34万人の命綱、樹脂が届かない

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透析装置 医療

透析34万人の命綱、樹脂が届かない

透析器材ひとつでも欠ければ透析が出来なくなる。国内エチレン設備12基のうち6基がすでに減産に入り、定期修理と合わせて3基が停止中。

ホルムズ海峡の封鎖から4週間。エチレン減産の影響が、最も時間的猶予のない現場に迫っている。人工透析だ。国内で透析治療を受けている患者は33万7414人(2024年末、日本透析医学会統計調査)。週3回、1回4時間の治療を止めれば数日で生命に関わる。その治療に不可欠なダイアライザー(人工腎臓)と血液回路は、すべて石油化学由来の樹脂でできている。(編集長・赤澤裕介)

ダイアライザーの中核部品は中空糸膜だ。内径0.2ミリ、膜厚0.05ミリ以下の極細チューブを1万本束ね、血液をろ過する。現在、国内で使われる膜素材の主流はポリスルホン(PS)とポリエーテルスルホン(PES)で、ニプロ、旭化成メディカル、東レ、日機装が製造している。

ポリスルホンの原料をたどると、ナフサに行き着く。ナフサを分解してベンゼンとプロピレンを得て、そこからフェノール、アセトン、ビスフェノールA(BPA)を経由してポリスルホンに至る。エチレンそのものが直接の原料ではないが、ナフサクラッカーの稼働率が下がれば、同じ分解炉から出るベンゼンやプロピレンも連動して減る。国内エチレン設備12基のうち6基がすでに減産に入り、定期修理と合わせて3基が停止中。稼働を維持しているのは3基にとどまる。ダイアライザーの膜だけでなく、ハウジング(外装ケース)に使うポリカーボネートもBPA由来であり、エチレン減産の影響は透析機器の複数の部品に同時に及ぶ。

1つでも欠ければ透析は止まる

 

透析1回の治療で消費される樹脂製品は、ダイアライザーだけではない。すべてディスポーザブル(使い捨て)で、感染症予防の観点から再利用はできない。

▲透析医療で使用される樹脂製ディスポーザブル資材の内訳(クリックで拡大)

33万7414人が週3回治療を受ければ、年間で消費されるダイアライザーだけで5000万本を超える。血液回路やシリンジを合わせると、透析医療が消費する樹脂製品は膨大な量になる。素材はポリスルホン、PVC、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートと多岐にわたるが、すべてナフサ由来だ。ダイアライザーの膜が無事でも、血液回路の塩ビチューブが手に入らなければ治療はできない。1つでも欠ければ透析は止まる。

この構造は透析に限らない。点滴バッグ、カテーテル、注射器、手術用手袋、マスク、防護服。病院で日常的に使われるディスポーザブル製品は、ほぼすべてナフサ由来の樹脂でできている。透析資材の不足は「炭鉱のカナリア」であり、医療用ディスポ製品全体に波及するリスクの先行指標だ。

国内最大手のニプロは秋田県大館市の工場を主力拠点とし、月産1000万本規模の生産能力を持つ。ダイアライザーの国内シェア1位、世界シェア2位。旭化成メディカルは1974年からポリスルホン膜を手がけ、国内外で供給している。いずれも国内に製造拠点を持つが、原料の樹脂ペレットの調達は石油化学メーカーに全面的に依存している。

医療機器メーカーは通常、原料在庫を1-3か月分確保しているとされる。ただし補充が滞れば、早い品目では数週間、遅くとも2-3か月で枯渇に向かう。食品包装、自動車部品、建材など他産業との樹脂の奪い合いが始まれば、この時間はさらに短くなる。透析のように週単位で消費される医療資材では、在庫の減り方がそのまま患者の治療継続に直結する。

問題は優先配分の仕組みがないことだ。石油備蓄の放出では燃料(ガソリン・軽油)が優先され、ナフサは後回しになる。親記事「備蓄放出でも届かないナフサ、21中分類に連鎖」で報じた構造そのものだ。仮にナフサが確保できても、樹脂メーカーが医療機器向けを優先する法的義務はない。医療が最優先であるべきだという社会的合意はあっても、原料配分の制度がそれを担保していない。問題は樹脂が足りないことそのものではなく、限られた樹脂をどこに回すかという段階に移りつつあることだ。

厚生労働省は医薬品の安定供給についてはモニタリング体制を持つが、ダイアライザーや血液回路のような医療機器の原料樹脂の在庫状況を把握する仕組みは整備されていない。2024年の能登半島地震では、石川県透析連絡協議会が377人の透析患者を県中央部や加賀地域の施設に振り分ける対応を行った。だが今回のリスクは地域限定の災害ではない。全国の透析施設が同時に資材不足に直面する可能性がある。これまでの災害対応の前提とは質が異なる。

運ぶ順番を誰が決めるのか

 

物流事業者にとっても、透析医療の資材不足は無縁ではない。どの資材が優先的に供給されるかは物流の外で決まり、その結果として運ぶべき荷物の優先順位も変わる。

透析関連の物流は、医薬品卸と物流事業者の二層構造で成り立っている。ダイアライザーや血液回路は、ニプロや旭化成メディカルの工場から医薬品卸の物流センターに入り、そこから全国4500の透析施設に届けられる。透析液はさらに事情が異なる。施設向けには濃縮原液がタンクやバッグで定期的に大量配送され、在宅腹膜透析の患者には透析液バッグが自宅に届けられる。いずれも重量物であり、GDP(医薬品適正流通)ガイドラインに基づく温度管理輸送が求められる。透析液を運んでいるのは、医薬品卸の自社便か、委託を受けた地域の運送事業者だ。

この配送網は、ホルムズ危機の前からすでに余裕を失っていた。24年4月の時間外労働上限規制でトラック便数が減り、納品回数の削減や物流リードタイムの長期化が医薬品業界全体で進んでいた。経済産業省の医薬品物流ワーキンググループでも、卸営業所から医療機関への1日複数回配送が配送業者の大きな負担になっている実態が報告されている。そこに燃料価格の急騰が重なった。軽油の全国平均は178.4円/L(3月16日時点)。定温輸送車はエンジンとは別に冷凍機を動かすため、燃料消費量が通常のトラックより多い。コスト増を吸収する余地は、現場にはほとんど残っていない。

全ト協は27日、「燃料価格高騰等経営危機突破総決起大会」を開催した。燃料サーチャージの転嫁が進まない中小事業者の窮状は、本誌が繰り返し報じてきた。だが医療物流の現場では、コストだけでは済まない問題がこれから出てくる。資材の供給が絞られたとき、限られた在庫をどの施設に、どの順番で届けるか。その判断は、配送の現場に否応なく降りてくる。透析患者の51-71%は施設による送迎サービスを利用している(日本透析医会調査)。施設の統合や休止が起これば、患者の移動距離が延び、医療搬送の需要も急増する。

医療資材を優先的に運ぶのか、通常貨物と同列で扱うのか。その選択を誰が決めるのかも定まっていない。現時点で、この判断に責任を持つ主体は存在しない。物流事業者は「運ぶ」ことが仕事だが、何を先に運ぶかという判断まで現場に丸投げされる事態が、現実味を帯びつつある。

医療機器メーカー各社が公式に供給不安を表明した例はまだない。だが、エチレン減産の開始から3週間が経過し、石化メーカーからのフォースマジュール(不可抗力)宣言が相次ぐなかで、原料の調達環境が平時と同じだと考える根拠はない。本誌は今後、主要メーカーの対応状況を追う。

33万7414人の治療は、週に100万回を超える。1回でも止めれば命に関わる。備蓄原油の放出だけでは守れない命が、石油化学の川下にある。

マイコメント

透析材料と器材の枯渇は透析患者の生死にかかわる問題です。

通常透析患者は一日おき(土日は除く)に週3回の透析を受ける。透析器材が不足
してくると透析回数が週3回から2回に減らされる事態が生じるが、それが限界です。
週2回にすると、徐々に体内のBUN値やクレアチニン値が増加してきて、数週間後
には生死にかかわる状況を迎える。

そのため、週3回を週2回に減らすことはよほどのことがない限り実施されないと
思われるが、器材がなければあり得ることでもあります。

現在の見通しだと後数か月後にはそれが現実化します。

政府は国内のプラスチック材料の輸出を停止し、国内向けを確保する責任があります。

それで半年くらいの猶予が生まれると思われます。

韓国政府 ナフサに続き石油化学製品の輸出禁止を検討

【広州、ソウル聯合ニュース】中東情勢の悪化を背景に、石油化学製品の原料となるナフサの調達に支障が生じていることを受け、韓国政府がナフサに続き、石油化学製品についても輸出制限を検討していることが27日、分かった。与党「共に民主党」の韓秉道(ハン・ビョンド)院内代表が同日、京畿道広州市のプラスチックメーカーで開いた懇談会で、産業通商部の朴同一(パク・ドンイル)産業政策室長が明らかにした。

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