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ナフサ20日分。日本の製造業が原油より先に止まる理由、ホルムズ危機の本当の怖さ

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ナフサ エネルギー

ナフサ20日分。日本の製造業が原油より先に止まる理由、ホルムズ危機の本当の怖さ

ナフサ不足の影響の「刺さり方」は業種で異なるけど、範囲がとにかく広いです。

2026年3月のある朝、出社してメールを開いた瞬間、背筋が冷えました。

取引先の化学メーカーから「エチレン製造設備の減産に入ります」という一斉通知。ホルムズ海峡の封鎖が原因だ、と。

この記事では、「ホルムズ海峡の封鎖=原油問題」という思い込みがなぜ危険なのか、そして僕が現場で感じたリアルな焦りをお伝えします。


「原油が止まる」の先に、もっとやっかいな問題がある

ホルムズ海峡が封鎖されると原油が届かなくなる。日本の原油輸入の約90%がこの海峡を通っているわけですから、それ自体は間違いじゃないです。

ただ、製造業の調達担当として本当にゾッとしたのは、その先の話でした。

ナフサ。聞いたことがある人もいるかもしれません。原油を精製したときに出る液体で、石油化学の「起点」になる物質です。日本が輸入するナフサの約70%は中東から来ています。

で、このナフサを熱分解すると何になるか。エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン。ここまで聞いてもピンとこないですよね。でも、ここから先が身近な話。ポリエチレン、ポリプロピレン、合成ゴム、塗料、接着剤、半導体の封止材——ほぼ全部、ナフサの子どもたちです。

つまり、プラスチック部品が届かない。タイヤのゴムが足りない。自動車の塗装ができない。食品を包むフィルムがない。こういうことが起きる。

原油が止まる=ガソリンが高くなる、だけじゃないんです。僕たちが毎日触っている「モノ」の原料が、根っこから消える。これが今回の封鎖の正体でした。


254日分と20日分。この差に気づいたとき、頭が真っ白になった

もう一つ、数字を見てほしいんです。

日本の原油備蓄は、政府と民間を合わせて約254日分あります。「まあ半年以上あるなら、すぐにはヤバくないか」と思った方、僕もそうでした。

ところが、ナフサの備蓄はわずか約20日分。

……20日分ですよ。

原油備蓄法はエネルギー安全保障のために設計されていて、石油化学用のナフサは想定の外だったわけです。産業界も、ここまでの長期封鎖を現実のものとして備えてはいなかった。

三菱ケミカルグループが3月上旬、鹿島と水島のエチレン設備で減産を始めたというニュースを見て、「あ、ドミノが倒れ始めた」と感じました。エチレンが減ればプラスチック原料が減る。プラスチック原料が減れば、うちの取引先の部品メーカーも作れなくなる。

この連鎖は静かだけど、確実に動いている。正直、焦った。


「代替ルートがある」という前提が、今回初めて崩れた

従来のBCP(事業継続計画)は、「ホルムズが塞がったらスエズ経由で迂回すればいい」という思想で組まれていました。僕がBCPのレビューに関わったときも、そういう話をしていた記憶があります。

2026年、この前提が砕けました。

スエズ運河は2023年末からフーシ派の攻撃で事実上リスクが高まったまま。そこにホルムズ封鎖が重なった。もうひとつの迂回路であるケープタウン(喜望峰)経由は距離が長すぎて、タンカーの数が足りない。

二つのボトルネックが同時に使えなくなるシナリオは、多くの会社のBCPに書かれていませんでした。僕の関わったものにも、なかった。

Jon W. Hansenは3月21日にこう書いています。「あなたの2024年・2025年の緊急時計画は、一方が閉まれば他方が開いているという前提で作られていた。その前提は今、初めて崩れた」と。

これを読んだとき、ぐうの音も出なかったです。


自動車、電機、食品、化学——「うちは関係ない」と言える業種は、たぶんない

影響の「刺さり方」は業種で異なるけど、範囲がとにかく広いです。

自動車・機械メーカーなら、樹脂部品・合成ゴム・塗料・接着剤・電線被覆。1台に組み込まれる石油化学由来の素材は数百点以上。電機メーカーなら、半導体の封止材(エポキシ樹脂)やPCB基板の絶縁材料。「半導体は確保できたのに封止できない」なんて冗談みたいな事態が現実になりかねません。

食品関連は肥料コストの急騰がじわじわ効いてきます。世界の窒素肥料の約21%は中東産。農産物の単収が落ちれば、原材料価格にはね返る。包材のプラスチックフィルムも連動して上がる。

化学・プラスチック加工業は、言うまでもなく直撃。三菱ケミカルや三菱ガス化学のフォースマジュール宣言がすでに始まっています。

ちなみに、こうした素材別の中東依存リスクと代替調達先の現実的な選択肢については、ブログ「資材調達の羅針盤」でも記事を公開しています。自社の調達先を棚卸しするときの参考になると思います。(中東が止まると日常が揺れる——アルミ・化学品の供給リスクと調達先の分散戦略


「起きてから」と「起きる前に」の差は、数ヶ月後に劇的に開く

今回の記事で伝えたかったことを一言にすると、こうなります。

ホルムズ海峡封鎖は「エネルギーの問題」ではなく「素材の問題」。

ナフサ備蓄20日分という現実、スエズとホルムズの同時機能不全という前代未聞の事態。これを「原油価格が上がるらしいね」で片づけてしまうと、気づいたときには自社の製造ラインが止まっている——そんなシナリオが、もう絵空事ではなくなっています。

20年この仕事をやってきて、思うことがあります。サプライチェーンの危機は、いつも「まさか」の顔をしてやってくる。でも振り返ると、兆候はあった。備えていた会社と備えていなかった会社の差は、危機の最中ではなく、危機が去った後に残酷なほどはっきり見えます。

さて、あなたの会社のBCPは「スエズとホルムズが同時に止まる世界」を想定していますか?

BCP調達の具体的な組み立て方——中東集中度の数値化から、代替調達先の確保、年1回のレビューサイクルの回し方まで——はブログの方でステップごとに整理しています。「平時のうちに仕込んでおく」ための実務ガイドとしてどうぞ。(BCPは資材調達から。中小企業が取り組むべきサプライチェーンリスク管理術

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