「失敗、無益な破壊、そして克服に何年もかかる経済不況で終わる戦争となるだろう」
米国のアイゼンハワー・メディア・ネットワークというシンクタンクの上級研究員であるジョン・ローゼンバーガー氏という方が、今回のタイトル通りの「トランプはパンドラの箱を開けてしまったのか?」という意見記事を寄稿していました。
アイゼンハワー・メディア・ネットワークは、米国政府、外国政府、軍事請負業者から資金提供を受けていない国家安全保障評論機関です。
ローゼンバーガー氏の記事は、ここまでの流れを再認識させてくれるものでしたので、ご紹介したいと思います。
ただ、単に翻訳して取りあげるだけでは、わかりにくい部分もありますので、まず前半部分をご紹介して、その後、ローゼンバーガー氏が挙げている問題を数値やグラフ、記事などで補説させていただきます。
アメリカの安全保障政策としては「最悪の結果につながる」戦争をトランプ氏が選択したことがよくわかります。
トランプはパンドラの箱を開けてしまったのか?
Has Trump Opened Pandora’s Box?
John Rosenburger 2026/05/21
アメリカの軍事力の限界が、今や完全に露呈した
米国の死活的利益に何の脅威も与えていない国を相手に、嘘のピラミッドで正当化された米イスラエル戦争が始まって 2か月半が経ち、いくつかのことが明白になった。
トランプ氏は、またしても選択戦争においてイスラエルの代理として果たす役割において、達成すべき明確かつ実現可能な政治的目標を定めることに失敗した。「実現可能」とは、国家が利用できる軍事力によって現実的に達成可能な目標を意味する。
英国の理論家 B・H・リデル・ハートは、その古典的名著『戦略』の中で 、政治指導者の最も重要な責務は、戦争の目的が軍事的現実に基づいていることを確実にすることだと強調した。彼が有名な言葉で警告したように、政治的目的は「軍事的に不可能なことを要求してはならない」。
しかし、それこそがトランプ大統領が犯したまさに過ちだった。
明確な政治目標がなければ、西アジアにおける軍事作戦を統括するアメリカ中央軍(CENTCOM)を構築することは不可能である。
CENTCOMは、統一的な作戦構想もなく、効果のない戦術を次々と繰り返そうとしているように見える。西ヨーロッパと同規模の国土に 9000万人以上の人口を抱える地域 (※ イランのこと)で、軍事関連施設を繰り返し爆撃することは戦略ではなく、明確な作戦目標や戦略目標とは無関係な戦術に過ぎない。
トランプ氏は戦争に勝利しつつあると繰り返し断言しているものの、「勝利」が実際に何を意味するのかについて、安定した一貫性のある定義を示していない。
イラン政府の政権交代や内部転覆なのか? イラン軍の無条件降伏なのか? あるいは、既に廃棄されたと主張されていた核物質の押収なのか? どれを選ぶかはあなた次第だ。 明確で一貫した政治的な最終目標がないため、軍司令官たちは何を達成すべきか判断に苦慮している。
歴史が示すように、明確な政治的目的と実行可能な軍事戦略を伴わない戦争は、消耗戦へと陥りがちである。消耗戦では、より粘り強く耐え抜く意志のある側が有利となる。私たちは、まさにその歴史的真理が目の前で展開されているのを目の当たりにしている。 イランが国家存亡を基盤とした、根本的に異なる種類の戦争を繰り広げていること、そしてその決意こそが紛争の性質と軌跡を形作っていることを、私たちは十分に理解していない。
この戦争が数々の誤った前提に基づいていたことも明らかだ。
トランプ政権は、ハメネイ師を暗殺すれば、イラン革命防衛隊(IGRC)と国の治安機関が崩壊し、イラン国民が街頭に繰り出して暴力的に政府を転覆させると考えていた。しかし、武装していない国民がどうやってそれを成し遂げられるというのだろうか。もちろん、そのような転覆は起こらなかった。むしろ正反対の結果となった。政府と国民はかつてないほど団結したのだ。
ここまでが冒頭部分です。
ここから、「この戦争の結果は」としての、アメリカの債務状況や、あるいは「弾薬の枯渇問題」に入っていきます。
負の遺産だけがアメリカに残ったことがうかがえます。
それぞれ資料へのリンクが貼られているのですが、リンクだけではわかりづらいですので、ひとつひとつの項目を注釈しながら進めます。
まず、財政状況について、ジョン・ローゼンバーガー氏は以下のように記しています。
短期間での急激な財政のさらなる悪化
その結果は? 連鎖的かつ壊滅的な影響だ。イランに対する米イスラエル戦争は世界的な経済危機を引き起こし、ペルシャ湾周辺諸国からの石油、液化天然ガス、尿素、ヘリウム、アルミニウムの生産と輸送を麻痺させた。
この戦争は、増加し続けている米国の国家債務をさらに増加させた。米国の国家債務はすでに 39兆ドル (約 6200兆円)に達している。
トランプ政権は今年最初の 5ヶ月間で国家債務を 1兆ドル (約 160兆ドル)増加させ 、先月だけでさらに 3430億ドル (約 54兆円)を借り入れた。
現在、国防省は、この選択戦争の予期せぬ費用を賄うために、 議会に 2000億ドル (約 32兆円)の追加予算を要求している。我が国の歴史上初めて、債務対 GDP 比は 122%に達し、減少の兆しは見られない。このまま放置すれば、今後数ヶ月、数年の間に経済に壊滅的な影響を与える可能性がある。
ここまでです。
「米イスラエル戦争は世界的な経済危機を引き起こし…」というのは、もはや知られた部分で、ローゼンバーガー氏は CNBC の報道をリンクしていますが、「原油問題」がいよいよ世界的な影響になるのが近いようで、6月6日の時事通信は、「世界の原油在庫急減 数週間で相場急騰も – 取り崩し、限界迫る」というタイトルの報道を掲載していました。
以下のようなグラフがあり、5月の末に 8億バレルを切っていることが示されていますが、報道には以下のようにあります。
> パイプラインや貯蔵タンクなど関連インフラ運用のために動かせない在庫も多い。現実的に需給調整に利用できるのは「8億バレル程度」(米銀)との試算もある。
今後数週間で原油価格が急騰(160ドルなど)する可能性についても書かれています。
また、アメリカ自身の石油備蓄も、過去 22年で最低になったことを FT紙が「ドナルド・トランプ氏のイラン戦争により、米国の石油在庫は2004年以来の最低水準にまで減少した」という記事で伝えています。
アメリカの国家債務についても「減少するということがまったくない」まま、日々増加し続けています。以下はアメリカの国家債務をリアルタイムで表示するサイトからです。
2026年6月5日の米国の債務:39兆2907億5168万8677ドル
us-debt-clock
また、「 1年以内に満期を迎える民間保有の米国債務が過去最高の8.3兆ドル (約 1300兆円)に達している」ことを FT 紙は報じています。
次に、今回のイラン戦争で、「米軍の武器の枯渇が著しい」ことについて、ローゼンバーガー氏は述べています。
米国の兵器は事実上枯渇している
この選択戦争によって、米軍の攻撃用および防御用ミサイルの在庫は、事実上枯渇し、今後何年も補充できない状況に陥った。これにより、我が国の戦略的脆弱性は増大し、国防総省が世界中の他の脅威を抑止する能力は低下した。 米軍の力の限界は今や完全に露呈している。 ロシアと中国はほくそ笑んでいる。
湾岸諸国にある米軍基地 9カ所が破壊または放棄された。
トランプ政権は、米国が湾岸アラブ諸国の同盟国を守ることができない、また守ろうとしないことを示したため、湾岸諸国が米軍を再び自国に迎え入れる可能性は低い。同政権は事実上、湾岸協力会議(GCC / 湾岸アラブ6カ国)連合を崩壊させ、その過程で NATO 加盟国の大半をも敵に回すことに成功してしまった。
ローゼンバーガー氏は、米国の超党派の非営利政策研究機関である戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートをリンクしています。
以下は、日本語化したもので、それぞれのミサイルなどのイラン戦争での使用状況と、現在の在庫数を示していますが、注目すべきは、右側の「納期」で、多くの弾薬やミサイルの納期が「 40カ月〜 60カ月」などとなっています。つまり、元の数に戻るには、あと何年もかかるということです。
価格もすごいですね。SM-3 というのは、大気圏外で弾道ミサイルを迎撃する海上配備型の弾道弾迎撃ミサイルだそうですが、
「一発 2870万ドル (約 45億円)」
するようです。
このようなミサイルをイラン戦争中に 130発から 250発使用したようです。
ともかく、ローゼンバーガー氏は、今の米軍のミサイル弾薬について「事実上、枯渇している」と述べています。
そして、文章は以下のように締められます。
記事「トランプはパンドラの箱を開けてしまったのか?」後半より
さらに、米国が昨年、真剣な交渉の最中にイランを二度も予告なしに攻撃したことを考えると、 イランが再び米国を信頼し、この紛争の終結に向けて交渉する理由は全くない。
我々は、傲慢さのみに突き動かされ、杜撰な構想と計画のもとで行われた選択戦争の、予期せぬ結果を目の当たりにしている。わずか 2ヶ月で、イランは作戦面および戦略面で主導権を握り、この戦争の行方を左右することになるだろう。
トランプ政権はパンドラの箱を開けてしまったようだ。
最後に、政権は中東における永続的な平和の回復につながる勝利への道筋を明確に示すことに失敗した。
地域諸国間の安定した永続的な平和を回復する効果的な政治的・軍事的戦略がなければ、この戦争は、目的から切り離された、またしてもアメリカによる暴力行為に終わる危険性がある。
それは失敗、無益な破壊、そして克服に何年もかかる経済不況で終わる戦争となるだろう。
ここまでです。
イスラエル首相の関与は置いておいて、「たったひとりで、ここまでアメリカ自身と世界を破壊した」のですから、トランプ氏は、アメリカ史上に残る大統領でありつつも、世界史でも珍しい広域クラッシャー大統領だと言えそうです。
ローゼンバーガー氏が「イランが再び米国を信頼し、この紛争の終結に向けて交渉する理由は全くない」と述べているように、もはやホルムズ海峡の早期の再開の芽はなくなっています。
この先の世界がどうなるかはある程度は理解でき、そして、今後「これまでの普通の生活」は少しずつ変化する、あるいは終わっていくのだとも思います。
私たちは徐々に新しい時代と世界を迎えることになるようです。








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