宇宙のあり得ない観測結果が相次ぎ「宇宙に対する今までの理解」が根本的に間違っていた可能性が浮上
残念ながらその矛盾を解決する宇宙物理学が見つからない
天文学者らは長年にわたり宇宙を観測し、科学的に正確だと思われる宇宙論を築き上げてきました。ところが近年は観測技術の発達により、今までの宇宙に対する理解を覆すような観測結果が多数報告されていると、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが動画で解説しています。
Astronomy Is In Crisis…And It’s Incredibly Exciting – YouTube

Kurzgesagtは、「驚くべき新技術のおかげで、宇宙に対する私たちの理解はこれまで以上に急速に進んでいます。そして運が良ければ、私たちは宇宙の見方における次なる革命の瀬戸際にいるのかもしれません」と述べています。
宇宙に関する次の革命は、「地球が太陽の周りを回っている」「恒星は別の太陽である」「自分たちの銀河が何兆もの銀河のうちのひとつに過ぎない」といったものと同じくらい興奮できるものかもしれないとのこと。その理由についてKurzgesagtは、「私たちの宇宙は久しぶりに、ひどい不調に陥っているからです」と指摘しています。
長年にわたり、天文学者らは「宇宙がどのように始まり、何でできており、どのように振る舞うのか」を説明する美しい宇宙論を信じてきました。
これは人々の観察結果と驚くほど一致しており、まるで宇宙の暗号を解読したかのような気分になっていたとのこと。
しかし、ここ数年にわたる望遠鏡性能の向上によってデータがより鮮明になると、この宇宙論に亀裂が生じ始めました。つまり、理論が予測したものと実際の観察結果の間に、奇妙な不一致が現れ始めたのです。
当初、これらはばかげた間違いか、データのノイズによるものだと考えられてきました。しかし、新たなデータが得られるといくつかの亀裂は大きくなるばかりか新しい亀裂まで現れ、かつては完璧だと思われていた宇宙論がますます不完全なものになっていきました。
もちろん、既存の宇宙論が修正を迫られることは今回が初ではありません。約2世紀前、天文学者らは天王星の軌道が、重力の法則に完全には従っていないことに気付きました。ここで天文学者らは重力を否定するのではなく、「未知の惑星」の重力が遠くから天王星を引っ張っているのではないかと提唱しました。
結局、間もなく数学的に予測された位置に海王星が発見され、修正された理論が正しかったことが判明しました。
しかし、問題はこれだけにとどまりません。その後、水星の軌道も重力の法則に従っていないことがわかり、天文学者らは天王星の時と同じような未知の惑星を探しましたが、それらしい惑星は見つかりませんでした。
そこで科学者らは、元となる重力そのものを再考。それにより、一般相対性理論が発明され、宇宙に対するまったく新しい次元の理解が開かれることとなりました。
近年の天文学者らが発見した最初の亀裂は、「宇宙の怪物」ともいえる奇妙な存在たちです。
複数の銀河や銀河団で構成された幅33億光年に及ぶ超巨大構造物「ジャイアント・アーク」
しし座にある大クエーサー群のひとつで、長さ40億光年以上に及ぶ「U1.27(Huge-LQG)」
9つのガンマ線バーストが直径50億光年にわたって広がる「ジャイアントGRBリング」
膨大な数の銀河から構成されており長さ100億光年に達する「ヘルクレス座・かんむり座グレートウォール」などです。特にヘルクレス座・かんむり座グレートウォールは、観測可能な宇宙の約10%に相当するとのこと。
さらに、通常よりもはるかに銀河が少ない広大な宇宙の砂漠が存在することもわかっています。そんな銀河の砂漠のひとつである「ローカルホール」には、太陽系が属する天の川銀河も含まれていることがわかっています。
宇宙は銀河、銀河団、超銀河団とスケールが大きくなっていき、最終的には銀河フィラメントという隙間で隔てられた巨大構造によって形成されています。
既存の宇宙理論によると、これらのものは均等に大きくなっていくはずであり、10億光年を超えるスケールではフィラメントと隙間はぼやけ、均一のスープのような見た目になるはずだとのこと。
この考えは単なる細部ではなく、宇宙そのものを理解するための基本的な柱です。
人々が宇宙について持っている理解は、「十分にズームアウトすると宇宙は均一になり、どこでも同じように見えるはずだ」という仮定に基づいています。これは、人類が持っている宇宙の見方が全体の公正なサンプルであることを意味するため、非常に重要な仮定といえます。これにより、人類は宇宙のどこにいようとも、宇宙全体を正しく理解できるというわけです。
しかし、仮に人類が位置している場所が特殊であり、偏りのある場所であるならば、宇宙に対する根本的な理解が揺らぐこととなります。それは、人類の居場所が「ケーキの上に乗っているサクランボ」のようなところであり、サクランボだけを見てケーキ全体の味を推測しようとしているようなものだからです。
Kurzgesagtは、「私たちが目にするものはすべて局所的な奇妙さ、つまり宇宙の本当の姿を物語らない、奇癖に過ぎないのかもしれません」と述べました。
他の亀裂としては、「宇宙が大きくなる速度」の問題があります。
宇宙が少しずつ膨張していることは、複数の方法による測定で確かめられています。しかし、その膨張スピードがどれほどの速さなのかについては意見が一致せず、2つの異なる結果が存在するとのこと。
たとえるなら、スピードメーターとGPSで測定した車のスピードがそれぞれ異なっているようなものです。
本来であれば、これら2つのデバイスのうちどちらかが壊れているはずですが、宇宙の膨張スピードに関する研究では、どちらのスピードも正しいことが繰り返し確認されているそうです。測定方法と計算が正確になればなるほど、2つのスピードの差異がますます悪化しており、これらの不一致が単なる偶然である可能性は100万分の1未満だとのこと。
Kurzgesagtは、「宇宙は文字通り、同じ質問に対して2つの異なる答えを私たちに与えています。つまり宇宙に関する私たちの測定か、根本的な理解のどちらかが壊れているのです」と述べました。
そして3つ目の亀裂が、「幼い宇宙に古い銀河がある」という観察結果です。
望遠鏡が観測する光が遠くの銀河から届くには、非常に長い時間がかかります。そのため、遠く宇宙の果てを観察する望遠鏡は、「古い時代の銀河をのぞき見るタイムマシン」のようなものといえます。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は2025年、宇宙が誕生したばかりにできた明るくて巨大な銀河「MoM-z14」を発見しました。MoM-z14は人々が予想していたよりもはるかに古い、ビッグバンからわずか2億8000万年後にできたものと考えられています。
これまでの宇宙論によれば、ビッグバンにより生まれた物質スープが長い時間を経て合体し、やがて最初の銀河ができたとされています。しかし、このプロセスには長い時間がかかるため、最初に銀河が出現したのはビッグバンから約5億年後ほどだと思われていました。
つまり、MoM-z14は「本当なら銀河が存在できないはずの時期に生まれた銀河」だというわけです。
また、「生まれたばかりの新しい銀河も、本来ならあり得ないほど成熟している」という現象も観察されています。
ビッグバン直後、宇宙の物質はほぼ完全に水素とヘリウムで構成されていました。より重い炭素や窒素のような元素は星の中心部で初めて形成され、その星が爆発することで宇宙空間に放出されたと考えられています。
しかし、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観察した超初期の銀河の中には、多くの重元素を含むものがありました。つまり、これらの銀河が形成される以前にも何らかの星が誕生し、重元素を作り、そして爆発していたことが示唆されています。
Kurzgesagtは、「これは幼稚園で成人の子どもを見つけるようなものです。最初の銀河が早送りで発生したか、私たちが宇宙の幼少期について何か大きなことを見逃しているかのどちらかです」と述べました。
宇宙に関してはこれら以外にもさまざまな問題が山積みです。たとえば、既存の宇宙論によると、ビッグバンによって現在観測されている量の3倍にも及ぶリチウムが生成されたはずだとされています。これは天文学者らが数十年にわたって解決できていない問題です。
また、ダークマター(暗黒物質)は銀河の中心に極端に蓄積されるはずだとされていますが、実際の分布はなだらかです。
宇宙を押し広げているダークエネルギーはビッグバン以来一定だと思われてきましたが、2024年に実施された大規模な銀河調査により、銀河のダークエネルギーが経時的に変化している可能性があると示唆されました。これが本当なら、宇宙やその過去、そして未来についての見方を覆すこととなります。
長らく決定的なものだと考えられてきた宇宙マイクロ波背景放射でさえ、「初期の銀河は宇宙マイクロ波背景放射を汚染するほど明るかった可能性がある」という説が提唱され、揺るがされています。
これらの観察結果を確かめるにはさらなる証拠が必要ですが、このような基本的な宇宙論の柱が議論されているという事実自体が、驚くべきことであるといえます。
天文学者らはこれらの亀裂を巡り、「時間とともに解消されるのではないか」「最終的に既存の理論を洗練させる手がかりになるのではないか」「既存の宇宙論を覆すまったく新しいアイデアが必要なのではないか」と議論を続けています。
しかし、いずれにせよこれらの亀裂を無視することは困難であり、宇宙論の危機が高まっています。これらの問題が解消された時、どのような宇宙論に落ち着いているのかは不明です。
とはいえ、科学においてこれらの問題は「失敗」を意味しません。科学は新たな課題が発生するたびに立ち止まり、修正されてきたものだからです。
Kurzgesagtは、科学は周期的に動くものであり、平穏な時期が続いた後、突然危機が訪れるものだと主張。実験は既存の理論と合わない結果をもたらすようになり、混乱が拡大し、奇妙な説も登場します。
そして最終的に、これまでの考えを覆すような革命が起こり、より深い真実に到達できるのです。
Kurzgesagtは、「宇宙は、私たちの物語が未完成であるとさけんでいます」「ひとつ確かなことは、宇宙はこれからもっと面白くなるということです」とまとめました。



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