【木倉谷 正之】「不法滞在者ゼロプラン」と「免許更新停止」で移民の町に異変が
【衝撃の現地取材】埼玉・川口からクルド人が消えつつある
免許の更新停止に強制送還。川口のクルド人が減り、彼らが支える解体業界が悲鳴を上げている。空き家を壊せなくなってしまう日が近い。
「関東一帯の解体業は回らなくなる」
ドドドドドドド……。
9月下旬、埼玉県郊外の住宅街。小雨が降りしきる中、油圧ショベルの地鳴りのような轟音が響きわたる。重機の先端に取り付けられたカッターが、一軒家のコンクリートの壁をくわえ込むと、もろく崩れ落ちていく。舞い上がる粉塵の中、作業着姿の男たちはクルド語で声をかけあいながら、足元にたまる瓦礫を手際よく運び出していった―。
埼玉県の川口市や蕨市には、約200もの「クルド系」解体会社が密集している。日本に暮らすクルド人の多くが従事しているのが、この解体業だ。ところが、この光景が、いま消え去ろうとしている。
「じつは、クルド人解体工の人手不足が深刻化しているのです。昨年10月から、ビザ(在留資格の俗称)を持っていないと運転免許が更新できなくなりました。この影響で、今年は過去一のペースでクルド人が自主帰国しています。
我々は、ビルやマンションに比べて報酬が低い一軒家の解体も引き受けることから、業界内では『最後の砦』と呼ばれていました。我々がいなくなれば関東一帯の解体業は回らなくなる。今回のルール改正は、国が現状を分かっていないとしか思えません」
解体会社を営むクルド人のエルバンさん(仮名、40代)は、同県内の自宅でこう語った。
政府は強制送還を加速
事の発端は、昨年10月の「道路交通法施行規則」の改正にさかのぼる。この新規則により、在留資格がなく住民票を持たない外国人は、運転免許の更新ができなくなった。
日本人と結婚したり、子どもが日本の大学に合格したりして在留資格を得て暮らすクルド人がいる一方、難民申請が認められず、入管(出入国在留管理庁)への収容を一時的に免れる「仮放免」の状態で暮らす人も少なくない。仮放免の状態で暮らす多くのクルド人が、新規制による規制の対象となった。
仮放免は在留資格を得た状態ではなく、入管法上は「非正規滞在」にあたる。政府は’25年5月から強制送還を加速させる「不法滞在者ゼロプラン」を進めており、同年には仮放免者を含む外国人計7563人が送還されている。
300人以上のクルド人が「自主帰国」
取り締まりが強まる中、クルド人はどうなっているのか。日本クルド文化協会の事務局長を務めるワッカス・チョーラク氏はこう明かす。
「私が把握しているかぎりでも、今年はすでに300人以上のクルド人が自主帰国しています。仮放免の方は統計に表れないので正式なデータはありませんが、去年は一年間で100人程度だったので、今年はその3倍以上に増えていることになります。
仮放免の方にとって、運転免許はすごく大事なIDでした。身分を証明できる唯一のツールだったのです。
またクルド人は、駅から離れた場所に住んでいる方が多いので車は欠かせません。運転免許を失ったことで、以前のようにスーパーに行ったり、子どもを病院に連れて行ったりできなくなりました」
クルド人が数多く住む川口市だが、いまは減少傾向にある。住民票のあるトルコ国籍(クルド人の大半がトルコ国籍を持つ)の市民は、’25年6月の1439人から、今年9月には1091人に減った。在日クルド人に詳しい関係者は「数年前までは仮放免者を含めて約2000〜3000人と推定されていたが、今はその半分程度しか住んでいないのではないか」と話す。
廃業する会社も出てきている
影響は子どもにも及ぶ。クルド人の少年が多く在籍するサッカーチーム「FCクルド」は、活動休止を余儀なくされている。メティン・アルスランボーガン監督は言う。
「発足当初は計65人が在籍していましたが、今はその半分です。強制送還や自主帰国でメンバーが減りました。子どもたちはみんなストレスを抱えています」
強制送還に怯え、運転免許も更新できない。そうした中で進むクルド人の減少に、解体の現場はすでに悲鳴を上げている。前出のエルバンさんは、苦しい胸の内を明かす。
「すでに他社では人手不足の影響は出ています。今の仕事量が保てなくなり、元請け業者から下りてくる仕事を断ることも増えました。また、従業員がいなくなり廃業したりする会社も出てきています。この調子だと今年か来年の頭には、多くの解体業者がボンボン潰れていくと思います」
【後編を読む】【埼玉・川口クルド人減少】解体業への深刻な影響 元請け会社社長が衝撃予想「5年以内に解体費用は倍以上に膨れ上がる」
取材・文/木倉谷正之(きぐらや・まさゆき)/’97年生まれ。月刊誌編集者、ウェブメディア記者を経て、現職。物流問題のほか、凶悪事件や不良・ヤンキー、ご近所トラブルまで幅広く取材・執筆している
「週刊現代」2026年11月9日号より




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