石破首相「戦後80年談話」強行で、自民党崩壊まっしぐら…どう転んでも政局不安になる「これだけの理由」
党内右派の反対論は強く、石破が談話を強行すれば、党内にヒビが入り、石破への退陣圧力が強まるであろう
石破首相が続投を表明し、その対応をめぐって自民党内も世論も見解が分かれている。今後の政局は不透明になっているが、戦後80年の首相談話を出すか否かが、また大きな論争点になっている。
これからの政治日程
8月1日に招集された臨時国会は5日で閉幕した。6日は広島原爆の日、9日は長崎原爆の日である。8日には自民党の両院議員総会が開かれる。15日は終戦の日で、戦没者追悼式が行われる。
20日〜22日は、横浜市で「アフリカ開発会議(TICAD9)」が開かれる。21日には茨城県知事選、三重県知事選が公示される(9月7日投開票)。自民党は、参議院戦敗北を検証する総括委員会の報告書を8月中にとりまとめる。
以上のような政治日程の中で、自民党総括委員会報告書の公表後、森山幹事長が引責辞任するか否かが一つの焦点になる。森山幹事長が去れば、石破政権は片肺飛行となり、著しく安定性を欠いたものとなる。石破首相の辞任が加速化されることになる。
「石破辞めるな」、「石破頑張れ」を唱えて、国会周辺でデモをする人々がいたり、世論調査で「石破は辞任すべきだ」という意見と「その必要はない」という主張が拮抗したりしているが、石破支持者の中身はよく分からない。自民党支持者のみならず、野党支持者なども含まれているようだ。
さらには、石破後継を尋ねたところ、高市早苗、小泉進次郎、河野太郎などと並んで石破の名前が上位に入っている。
パーティー券収入のキックバックで問題になった「裏金議員」よりもましだ、石破が退陣すれば裏金議員がもどってくるといった消極的な支持が実態のようである。世論調査では、内閣支持率は多くが20%台で、内閣発足以来最低である。国民は、石破を支持していない。
したがって、「世論の支持」を大義名分に、石破が強行突破することは不可能である。やはり、退陣は不可避で、その時期が問題である。
ただ、どのような形で「石破降ろし」を実行するかは未定である。総裁任期中の首相を自民党が引きずり降ろすのは、党の規約上もルールが不明である。野党が内閣不信任案を提出し、それが可決されれば、石破は内閣総辞職か解散のいずれかを選ばざるをえない。
これまでの首相談話
戦後50年(1995年)の村山富市首相談話の主要部分は以下の通りである。
わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。
敗戦の日から50周年を迎えた今日、わが国は、深い反省に立ち、独善的なナショナリズムを排し、責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し、それを通じて、平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません。(一部著者編集)
日本の行為を「植民地支配と侵略」と明言し、「痛切な反省」を表明している。
次に、戦後60年(2005年)の小泉純一郎首相談話は、村山談話を踏襲し、次のようになっている。
我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します。悲惨な戦争の教訓を風化させず、二度と戦火を交えることなく世界の平和と繁栄に貢献していく決意です。
我が国の戦後の歴史は、まさに戦争への反省を行動で示した平和の六十年であります。
過去を直視して、歴史を正しく認識し、アジア諸国との相互理解と信頼に基づいた未来志向の協力関係を構築していきたいと考えています。(一部著者編集)
基本的には、村山談話と同じで、「植民地支配と侵略」を明言し、反省の念を述べている。
「最後の謝罪」を狙った安倍談話
戦後70年の安倍晋三首相談話は、村山、小泉談話とはトーンが異なっている。
事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。
先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。
我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。
こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。
私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。(一部著者編集)
「侵略」、「植民地支配」という言葉あるが、主語が日本ではなく、一般的な話に薄められている。このようにぼかしたのは、安部の岩盤支持層である保守派への配慮である。
歴史学者は、右寄りの者も含めて、日中戦争が侵略戦争であることでは、認識を一致させている。しかし、それを受け入れたくない極右がいるのである。そして、安部談話の最大の目的は、最後の謝罪にしたいということで、将来の世代が際限なく謝罪を繰り返さなければならない状況を阻止することにあった。
石破はどうする
石破は、談話を出すかどうか検討中のようである。
しかし、たとえば保守派の小林鷹之は、先の安部談話の目的を念頭に、出すべきでないと、次のように述べている。
「80年談話は、私は出す必要は全くないという立場。これは70年談話で安倍(晋三)総理の時に出されて、あれが全てだと思っているので、基本的にはあれを踏襲していく。もう将来世代に対して謝罪を続けるような宿命を負わせたくない、負わせるべきではない。ただ、未来志向で近隣諸国とも関係を築いていくのは、その通りだと思っている」
このように、党内右派の反対論は強く、石破が談話を強行すれば、党内にヒビが入り、石破への退陣圧力が強まるであろう。
8月15日を避けて、日本が降伏文書に調印した9月2日に談話を出すという方法も考えているようだ。しかし、その翌日の9月3日は、中国では、抗日戦争勝利記念日であり、今年は「抗日戦争と反ファシズムの勝利から80年」をスローガンに、軍事パレードが行われ、ロシアのプーチン大統領も参加する。
談話の内容によっては、中国から強い反発が寄せられることもありうるし、また、逆に日本の保守派から批判されることにもなりかねない。首相が談話を出す以上、「個人の見解で、政府の主張ではない」と言い逃れすることはできない。
さらに言えば、トランプ政権のアメリカ第一主義は、覇権国アメリカが世界の平和と繁栄を担保する国際システムの崩壊に繋がりつつある。そのような中で、民主主義の重要性をどう説くかは容易な課題ではない。
したがって、石破は、談話を出さないし、出すこともできないと考えるのが常識的な推論である。しかし、今後、石破がどうするかは分からない。首相談話問題もまた、政局の不安要因である。
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