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関税戦争により崩壊に直面しているアメリカ農業界。では、日本は?

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破綻する米国の農家 アメリカ
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関税戦争により崩壊に直面しているアメリカ農業界。では、日本は?

関税政策の影響を最も受けているひとつが農作

アメリカの作家マイケル・スナイダーさんが、「米国の農家は少なくとも 50年ぶりの経済不況に直面している」というタイトルの記事を投稿していました。

それと関連する最近の報道をいくつかご紹介したいと思いますが、それらを読むと、不況というより「崩壊の危機」に直面している感じさえあります。

アメリカの農家の多くが苦境に陥っている最大の理由は、トランプ氏の政策によるもので、たとえば、昨日(10月10日)、トランプ氏は、

「中国に対して 100%の追加関税を課す」

発表していましたが、この 100%の関税そのものに関しては、仮に「再びタコる(後になって翻す)」可能性があるとしても、すでに、アメリカの農家は非常に大きな影響を受けています。

そのひとつが、「中国がアメリカからの大豆の輸入を停止した」ということがあります。中国政府は、関税戦争が始まってから、アメリカからの大豆の輸入を停止しました。

以下は、アメリカの農業関係のニュースメディアの記事ですが、大豆はアメリカの農産物輸出第 1位であり、アメリカの農業総収入に「 7兆円」以上の貢献をしているそうです。

中国は米国産大豆の購入を停止した

今シーズンの収穫期、大豆農家は近年で最も不安定な市場の一つに直面している。長年、米国産大豆の最大の買い手であった中国が、大豆の購入を全面的に停止したのだ

この突然の停止は農村地域に衝撃を与え、貯蔵庫は満杯になり、価格は下落し、農家の生活は危機に瀕している

 

しかし、貿易戦争や救済措置に関する見出しの裏には、より深い真実が隠されている。アメリカの農業システムは構造的に欠陥があるのだ。

商品作物への度重なる救済措置は、不運や一時的な貿易摩擦の結果ではない。過剰生産、依存、そして不安定さを前提として構築された農業経済の兆候なのだ。

依存の尺度

数字は、私たちの農業システムがいかに集中化しているかを示している。2024年には、

・大豆は米国の農産物輸出第1位であり、その価値は約 245億ドル (約 3兆7000億円)であった。

・米国産大豆の半分以上が輸出されており、中国は歴史的にその半分以上(およそ126億ドル相当)を購入している。

・大豆は米国の農業総収入に 469億ドル(約 7兆1000億円)貢献した。

となっていた。

これは、一つの買い手、つまり中国が米国農業経済の大部分を実質的に支えていたことを意味する。その買い手が去れば、システム全体が揺るがされることになる

中国が南米に軸足を移したことで、この取り決めがいかに脆弱であるかが明らかになった。中国は 2025年5月に米国産大豆の購入を停止した後、すぐに米国からの供給をブラジル、そして今度はアルゼンチンからの輸入に切り替えた。

一方、中国は 4000万トンの戦略備蓄を保有し、世界の大豆価格に多大な影響力を及ぼしており、米国の農家は売れない作物を抱え、生産コストを下回る価格に直面することになる

これは一時的な貿易上の問題ではない。国内の食料安全保障よりも輸出の拡大を優先する政策選択が数十年にわたって続いてきた結果、生じた構造的な脆弱性だ。

farmaction.us 2025/10/08


生産コストを下回るほど価格が下落しているのは大豆だけではなく、貿易戦争以来、食糧で全体的なものとなっています。

以下は、アメリカの小麦の先物価格の推移です。2022年のロシアとウクライナの戦争が始まった頃の「半値以下」となっています。

過去5年間の小麦先物価格の推移

wheat

穀物の価格が下がるのは、消費者にとってはいいことかもしれないですが、生産者にとってみれば、

「生産コストを下回る価格が続くなら、農家を続ける意味はない」

ということにもなります。

別の農業メディアに、アメリカの農家の方が語っている以下の言葉が、この価格下落による厳しい状況を示しています。

農業メディア AG WEB の報道より


ベイリー・バッファロー氏

ジョーンズボロのバッファロー・グレイン・システムズのオーナーであり、ファーム・プロテクション・アライアンスの会長でもあるベイリー・バッファロー氏(40歳)は以下のように言う。

「恐ろしい話ばかりだ。現実離れした痛みだ。人生で見た中で最悪の農業状況だ。アーカンソー大学の調査数字を見ればわかる。トウモロコシ生産者は 1エーカーあたり 240ドル、大豆は 1エーカーあたり 144ドル、米は 1エーカーあたり 380ドルの損失を出している。綿花生産者はおそらく最悪の状況にあるだろう」

agweb.com 2025/09/30


アーカンソー州の米生産者協会の会長であるケネス・グレイブス氏は、以下のように述べています。

「現在の混乱は、50年間の農業経験の中で目にしてきたどんなものよりも迫り来る災厄だ。一言で言えば、私たちは崖っぷちに立たされている。銀行は農家の破産率を 25%から 40%と予測しており、誰もがそれを知っており、誰もがそれを感じている」

今のままだと、最大で「 40%の農家が破産する」と述べています。

日本でもアメリカからのコメの輸入について言われることがありますが、アメリカではコメ農家の一部も破綻する手前にあるようなのです。

先ほど、大豆についてふれましたけれど、ABC ニュースがさらに詳しく報じています。



米中貿易戦争で大豆販売が打撃を受け、大豆農家は差し迫った危機に陥っている

Soybean farmers caught in looming crisis as US trade war with China cripples sales
ABC 2025/10/09


農家のスコット・トムセン氏は、ネブラスカ州東部で秋の大豆収穫の準備をしている。

ネブラスカ州ケナードは北京やワシントンD.C.から遠く離れているように感じるが、しかし、米国と中国が依然として貿易戦争に巻き込まれているため、トウモロコシ畑の州とスコット・トムセン氏のような農家たちもまた紛争の渦中に巻き込まれている。

トウモロコシ、牛、大豆を栽培する 4代目農家のトムセン氏は、トランプ政権の関税に対抗して中国が米国産大豆の購入を停止した時期に、昨年の冬に植えた大豆の収穫の準備をしていた。

「中国は今年、今のところ大豆の輸出貨物を 1つも購入していない。これは普通の年とは違う」とトムセン氏は語った。

「中国が購入をやめれば、我々の作物の価格は下がる」と彼は語った。

 

迫り来る危機

アメリカ大豆協会によれば、中国は世界最大の大豆購入国であり、過去 5年間の大豆輸入量は他のすべての国の合計を上回る。

第一次トランプ政権時代の 2018年の貿易戦争までの 7年間、米国の大豆輸出量のおよそ 60%が中国向けだった。

現在、中国は米国との貿易交渉のさなか、大豆の調達先として南米、特にブラジルに目を向けている。

収穫物を直接アジアに輸出している米国の農家にとって、肥料やその他の資材が値上がりしている時期に中国の大豆需要が消滅することは壊滅的な打撃となり、破産や差し押さえにつながる可能性がある。

「われわれは 50年間経験した中で最悪の経済不況の真っただ中にいる」とネブラスカ農業組合のジョン・ハンセン会長は先週、ネブラスカ州ベアトリスで開かれた地方会議で語った。

 

「ネブラスカ州や中西部の多くの州では、農業が私たちの基盤です」と、トウモロコシと大豆を栽培するドン・シュラー氏は ABC ニュースに語った。「ここで農業が衰退すれば、すべてがうまくいかなくなるでしょう」

 

トランプ大統領は支援を申し出ているが、今のところ具体的な解決策はない

ABC ニュースとの会話の中で、ドナルド・トランプ大統領を支持すると発言した農家の中には、トランプ大統領が農家を支援すると約束していたこともあり、大豆危機に不満を感じている者もいた。

トランプ氏は 6月に「私は農家の 80~ 85%の支持を得た。そして私は彼らを愛している」と述べた。「農家を傷つけるようなことは決してしない」

トランプ政権時代、中国が貿易上の優位性を求めて米国からの大豆の購入を初めて厳しく制限したとき、ホワイトハウスは農家に対し需要のギャップを埋める支援として数百億ドルの支払いを行った。

トランプ大統領は 8月、ソーシャルメディアに「中国が大豆の注文をすぐに 4倍に増やしてくれることを期待する」と投稿し、中国に大豆の購入を再開するよう促した。

トランプ大統領は木曜日、ホワイトハウスで記者団に対し、農務省がまだ計画を発表していないにもかかわらず、関税で得た資金の一部を「農家に還元したい」と語った。

農務省の代表者は ABC ニュースに対し、協議はまだ継続中だと語った。

「大豆、トウモロコシ、小麦、ソルガム、綿花の農家は非常に厳しい状況に直面しています」と、ブルック・ロリンズ農務長官は水曜日、ホワイトハウスで記者団に述べた。「現在、ホワイトハウスと政府全体で、農家支援策について協議を行っています」


 

ここまでです。

関税で得た資金で、金銭的な支援はするというようなことは述べているのですが、問題はそういうところ以前にあり、「多くの農家がすでに破綻に面している」ことが問題です。

援助金が十分に出たとしても、それは、一部の農家の破産があと 1年くらい延びるというだけです。

アメリカが中国に強い関税を課している限り、中国は大豆の購入を再開しないでしょう。

農家を続ける人の数は減少するでしょうし、新たに農家になる人など、ほとんど出てきようがない。

 

農業従事者の70%が移民であるアメリカで政策による壊滅的な人手不足に

アメリカの農家はさらに別の問題にも直面していて、やはりトランプ政権が行っている「移民排除政策」により、

「農場での労働者不足が深刻になっている」

のです。

以下の記事で取り上げています。

移民の強制送還の影響で、アメリカの農場では著しい労働力不足がすでに発生しており、最大で作物の70%が失われる見込み
地球の記録 2025年8月10日

 

ここでご紹介した報道に、

> チャンドラー氏の 125エーカーのサクランボのほぼ 4分の1が収穫の損失に見舞われたが、これは悪天候や病気や疫病のせいではなく、単に果実を摘む人がいなかったためだ。

とあるように、人手不足で収穫できずに腐敗していくだけの作物が各地で増えているようです。

アメリカの農家の労働者の多くが移民であり(農場労働者の約 70%が移民)、その人たちが、移民関税執行局 (ICE)による拘留や国外追放されることを恐れて、外に出てこないようなのです。

作物価格が下落し続ける上に、人手不足で満足な収穫ができないという状態であり、立ち行かない農家が増えています。

3年くらい前に、「歴史上最悪の食糧危機の最期のトリガーを引くのは中国」というタイトルの記事を書いたことがありましたが、この時に書いた記事の内容とは「逆」の意味で、中国は、食糧危機のトリガーを引き続けているのかもしれません (この 2022年頃の問題は、食糧価格の高騰でした)。

ちなみに、この頃のアメリカのトウモロコシの最大の輸出相手は中国でしたが、それも停止されれば、今、アメリカの大豆で起きているような惨事がトウモロコシなどにも波及することになります。

…さて、これらはあくまでもアメリカの話でしたが、日本はどうでしょうか。

世界で最も食糧自給率の低い日本の状況はどうなっているのか。

昨日の日本農業新聞で「農業の倒産30年で最多」という報道を読みました。

今回はその記事から抜粋して締めさせていただきます。


農業の倒産30年で最多 25年度上半期 コスト高も価格転嫁進まず

日本農業新聞 2025/10/09

農業事業者の2025年度上半期(4~9月)の倒産件数が53となり、年度上半期では過去30年で最多となったことが8日、東京商工リサーチの調べで分かった。生産資材価格の高騰などが響いた。

円安が進み一層のコスト高も見込まれる中、農畜産物価格への転嫁に向けた消費者の理解醸成が課題となる。

負債額1000万円以上を対象に集計した。1億円以上の負債を抱えて倒産した事業者数が増える一方、1億円未満の小規模業者が半数を占めた。コスト高の影響を大きく受けたとみられる。

業種別で倒産件数が最多だったのは「耕種農業」の29。前年同期比では9%減だった。内訳は野菜作15、米作6、花き4と続いた。米作は1増えた。

「畜産農業」の倒産件数は過去10年で最も多い21。トップは酪農業の12で、前年同期の3倍だ。西日本の大手酪農業者の民事再生法の申請があったため。コスト高を受けて乳価は引き上げられたが、経営環境が依然厳しいことが浮き彫りとなった。肉用牛生産は5、養鶏業は3だった。

その他、「園芸サービス業」3、「農業サービス業」は0だった。

倒産件数が過去30年で最多となった背景にはコスト高騰がある。東京商工リサーチの担当者は「値上げで販売不振に拍車がかかる恐れもあり、価格転嫁は難しい」と指摘。その上で「価格転嫁がどこまで進むかだが、倒産は緩やかに増える可能性がある」とみる。

一方、8日の外国為替市場の円相場は一時1ドル=152円台後半と約8カ月ぶりの円安水準となった。円安進行で輸入資材の高値が続く可能性もある。

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