楽器の演奏がアルツハイマー病に対する強力な防御であることが研究により明らかに。
生涯音楽を演奏している60代の脳は約40年機能が若い模様
楽器演奏の強い効果
最近のふたつの研究で、「楽器の演奏が、認知症に対しての強い防御となる」ことが示されています。
これについては、以前からもたびたび研究されてきたことで、2024年1月のフォーブスの記事に、英国の大学の研究が以下の記事で示されています。
また、
・認知症予防の有効な知的機能刺激となるための電子楽器音楽演奏
という日本の論文もあります。
ただ、今回ご紹介する研究もそうですが、「どのような楽器なのか」ということに関しての効果の大小についての言及は特にはありません。
まあしかし、一般的に家庭内で演奏できる楽器といえば、ギターなどの弦楽器や、ピアノなどの鍵盤楽器(あるいは電子楽器)ということになると思いますが、どの楽器でも同じように効果があるのかどうかはわかりません。
なお、「音の身体への影響」については、
「音楽がヒトの血液中の赤血球を再生させる」
ということについて以下の記事で研究をご紹介したことがあります。
・[重要]音楽が人体に与える健康的な影響に関する画期的な実験が行われる。それにより、「音楽はヒトの血液中の赤血球を再生させる」ことが判明。しかし、その率は音楽ジャンルにより大きな差異が
In Deep 2019年6月6日
興味深かったのは、「どんな音楽が最も赤血球を再生するか」ということで、以下のようになっていましたが、「激しい音楽や、うるさい音楽でも赤血球が再生する」のでした。
以下の表は、左側の数値が大きいほど、赤血球が多く再生されることを示します。
最も赤血球が再生されたのは、女性ボーカルと演奏(18.1)と、東洋の精神的な聖歌(17.69)でしたが、テクノやハウスなどのダンスミュージック(14.42)もそれに次いで赤血球が多く再生されていました。
「音楽に浸された20分後の生存している赤血球数」と「静かな環境にいた20分後の生存している赤血球数」の比較
・女性ボーカル → 5.26 対 1
・女性ボーカルと演奏 → 18.1 対 1
・音程を声で発声 → 4.13 対 1
・ダンスミュージック(テクノ-ハウス) → 14.42 対 1
・音楽療法の装置が出す音 → 11.72 対 1
・ゴング → 5.5 対 1
・東洋の精神的な聖歌 → 17.69 対 1
・ホワイトノイズ(85デシベル) → 4.61 対 1
・ホワイトノイズ(105デシベル) → -0.21 対 1
105デシベル以上のホワイトノイズ(いわゆるノイズ)だけが赤血球が再生されない、というより、「ノイズでほとんどの赤血球が破壊される」ということになっていました。
音楽には確かに自ら演奏するしないに関わらず、身体に対して大きな影響があるようですが、その詳細なところは今のところ曖昧です。
以下は今回の研究を取り上げていた記事です。
自然の防御:新たな研究で、音楽がアルツハイマー病に対する強力な防御であることが明らかに
A natural defense: New research reveals music as a potent shield against Alzheimer’s
naturalnews.com 2025/10/05
楽器を演奏すると、脳の複数の領域(運動能力、聴覚処理、記憶)が同時に活性化され、神経のつながりが強化され、加齢に伴う衰えに耐えられる、より回復力のある脳ネットワークが形成される。
アルツハイマー病の深刻化する危機に対し、世界中で薬による解決策が切実に求められている中、画期的な新しい研究は、はるかに身近で古くから伝わるツール、すなわち音楽に着目している。
科学者たちは、楽器を積極的に演奏することで、老化する脳を保護し、記憶力を強化し、認知機能の低下を著しく遅らせることができるという説得力のある証拠を発見した。これは、認知症と闘うための強力かつ非侵襲的な戦略となる。
PLOS Biology 誌と Imaging Neuroscience 誌に掲載された2つの新しい研究で発表されたこの研究結果は、音楽トレーニングを通して継続的に脳を刺激することで、脳は驚くべき自己防衛能力を発揮することを示唆している。
この発見は、何百万人もの高齢者とその家族が記憶喪失への恐怖と、現在の薬物療法の効果が限られていることに苦しんでいる重要な時期に発表された。
この研究は、音楽の力を明確かつ視覚的に証明している。カナダと中国の科学者たちが 60代の成人の脳スキャンを実施したところ、生涯音楽家である彼らの脳は、同年代の人々の脳とは似ていないことがわかった。
むしろ、構造と機能の両面において、彼らの脳は 40歳若い脳に典型的に見られる回復力を示していた。
この効果は、高齢者によくある課題、つまり混雑したレストランのような騒がしい環境で会話を理解する際に特に顕著だった。
音楽を演奏しない人にとって、この課題は脳の働きを活発にし、機能低下を補おうと必死に脳の領域を過剰に活性化させる。これは、相手に聞いてもらうために叫ぶのと同じような神経学的現象だ。対照的に、高齢の音楽家たちの脳は冷静さを保ち、非常に効率的に情報を処理していた。
配線をやり直すのに遅すぎることはない
最も希望が持てる発見は、 音楽演奏の恩恵は幼少期に始めた人だけに限らないということだ。別の日本の研究では、高齢になってから楽器の演奏を始めた 53人の高齢者グループを追跡調査した。
わずか 4ヶ月の練習では、当初の変化はわずかだった。しかし、研究者が 4年後に追跡調査を行ったところ、驚くべき結果が得られた。
楽器演奏を続けていた参加者は、加齢に伴う典型的な脳萎縮に対して驚くべき抵抗力を示した。記憶と運動能力に重要な部位である被殻は、より良好な状態で維持されていた。
70代後半から 80代になっても、記憶力は健全に保たれていた。一方、演奏をやめた参加者は、予想通り記憶力と脳容積の減少を経験した。このことから、認知能力の防御壁を築き始めるのに遅すぎるということはないという明確なメッセージが得られる。
この保護の背後にあるメカニズムは、科学者が「認知的予備力」と呼ぶものだ。これは脳の回復力、つまり加齢による自然な消耗に耐え、顕著な衰えの兆候を示さない能力を表している。これは、生涯にわたる豊かな活動を通して積み上げられる脳の貯蓄口座のようなものだと考えてみてほしい。音楽の訓練は、この口座に預金するための非常に強力な方法だ。
楽器を演奏することは、脳全体の運動だ。運動協調、聴覚処理、記憶想起、感情表現が同時に活性化される。この複雑な活動は、脳の様々な領域間のコミュニケーションを促し、それらの接続を強化する。これにより、より強固で相互接続された神経ネットワークが形成される。
この強化されたネットワークは、老化に伴う様々な問題への対応力を高め、アルツハイマー病などの症状の発症を効果的に遅らせることができる。
この研究は、脳の健康に対するアプローチにおける重要な転換を強調している。それは、病気を治療するという受動的なモデルから、健康を維持するという能動的なモデルへの転換だ。
この研究結果は、個人がライフスタイルの選択を通して、自らの認知的運命を自らコントロールする力を与えてくれる。製薬業界が魔法の薬を探し求めるのに数十億ドルを費やしている一方で、効果的で楽しい介入は、近くのピアノ、ギター、あるいはシンプルなドラムのように身近なものかもしれない。
結論として、記憶を保存し、心を守る道は、薬ではなく、時代を超越した普遍的な言語である音楽にあるのかもしれない。この自然の盾を受け入れることで、認知能力の活力が薬だけでなく、人間の創造性と喜びという永続的な力によって支えられる未来を築くことができるのだ。
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