あらゆる場面で実感する物価上昇。「いつまでこの状況が続くのか」「今耐えれば、そのうち価格が落ち着くのか」そう悩んでいる人もいるでしょう。しかし、この先スタグフレーションの状態になれば、生活はさらなる困窮に向かうかもしれません。個人投資家の宮脇さき氏による書籍『世界の新富裕層はなぜ「オルカン・S&P500」を買わないのか』(KADOKAWA)を一部抜粋・再編集して、詳しく解説します。


長期の円安とインフレが日本人の生活を圧迫

ここ数年、私たちは日本円の価値が急速に下落するという、過去数十年間経験しなかった事態に直面しています。以前は、1ドル100~120円の水準を維持していましたが、2022年から急速に円安が進行し、2024年から25年にかけては一時162円に迫る場面も見られ、140~160円台という、1990年以来35年ぶりの低水準に達しました(本書執筆の2025年5月時点は140円台で推移しています)。

この急激な変動により、円の価値はほんの数年で、対ドルにおいて大きな「価値」を失った計算になります。

これは単なる為替変動ではなく、日本の相対的な経済力や国際的な信認の変化を反映している可能性があり、一部専門家からは「このままでは通貨危機もあり得る」という声も出ています。円の価値下落は、輸入品価格の高騰を通じて、私たちの生活を直撃します。

特に影響を受けやすいのが、食料品・エネルギー・日用品などの生活必需品の数々。すでに食料品の値上げラッシュが続いており、日常生活のあらゆる場面で、以下のような値上げが進んでいます。

 

・コンビニのコーヒーが110円 → 140円に

・ランチの唐揚げ定食が800円 →1,000円に

・スーパーの食料品が平均で10~20%値上がり

・家賃や管理費も上昇中

 

日本は、1990年代後半から30年近くもデフレが続くという、先進国では考えられないような状況が続いていましたが、2021年以降、ついに物価が上昇し始め、日本経済は新たな局面を迎えています。

[図表1]日本の消費者物価指数(前年同月比)推移 2020年1月~2025年5月 出典:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」を元に著者作成

2022年には、消費者物価指数(CPI)が前年同月比で2%を超える上昇を記録。その後も物価上昇の勢いは止まらず、2024年12月には前年同月比3.6%の上昇を記録。2025年4月も、前年同月比3.6%のインフレ率になりました。

 

さらに生活が苦しくなる? スタグフレーションの可能性も

もはや、日本の物価上昇率は主要国の中でもトップクラスに位置しており、完全にインフレ国家へ移行した状態と言えます。

問題は、物価の上昇に対して国民の賃金の上昇がまったく追いついていないことです。大企業では賃上げが進んでいるものの、それは一部の話。日本全体で見れば、実質賃金(物価を考慮した給料の実質的な購買力)は1990年代からほぼ横ばいか、マイナスです。

[図表2]一人当たり実質賃金の推移(日本及び主要国) (注)SNA賃金勘定をもとにしたフルタイム換算の雇用者1人当たり年平均賃金(全産業)(資料)OECD Data Explorer(2025. 1. 16)

つまり今、多くの日本人が直面しているのは、「収入はそれほど増えていないのに、日々の生活費だけがどんどん上がっていく」という厳しい現実です。

あらゆる生活コストが上がっていく中で、手取りは増えず、可処分所得(自由に使えるお金)は目減りしていく一方。この状況が続けば、経済が停滞する中で物価だけが上がり続ける「スタグフレーション」のリスクが現実味を帯びてきます。

スタグフレーションとは、インフレと景気低迷が同時に進行する、もっとも厄介な経済状態の一つ。歴史的にも、構造的な問題を抱えた成熟国家が陥りやすいパターンであり、国民生活に甚大な影響が及ぶ可能性があります。

物価は上がり、収入は増えず、金融政策は手詰まり――。こうした状況が現実化すれば、多くの国民が資産の目減りに苦しむことになるのです。

宮脇 さき
個人投資家・富裕層向け海外移住コンサルタント

※本記事は『世界の新富裕層はなぜ「オルカン・S&P500」を買わないのか』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。記載内容は当時のものであり、また、投資の結果等に編集部は一切の責任を負いません。