続々と発覚している大阪・関西万博の工事費未払い問題。MBSではこれまでにもアンゴラやマルタのパビリオンでの未払い問題を取り上げてきましたが、人気の「アメリカパビリオン」などでも問題が起きているようです。車や子どもの大学費用まで手放す業者も…。問題はどこまで広がるのか、実態に迫りました。

2次下請けの倒産で工事費約2800万円が未払い

 今年6月、MBSの番組宛に万博工事費の未払いについて一通のメールが届きました。

 【番組に届いたメール】
 「私は内装業を営む代表者です。私も、万博工事に3次業者として携わりました。こんなずさんな元請けとは思わず…多分倒産します」

 新たなトラブルの訴え。真相を確かめるべく、関東に住むメールの送り主に会いに行くことにしました。

 出迎えてくれたのは内装業を営むAさん(42)。去年11月から今年3月にかけて、万博のパビリオン工事のために千葉から大阪に職人を送り込んでいました。ところが…

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 (工事費の未払いを訴えるAさん)「(工事費の)未払いですね。こんなことがあっていいの?と思っていて。(Qどこの国のパビリオン?)ぼくたちはUSA(アメリカ)ですね」

 Aさんが携わっていたのは、人気のパビリオン「アメリカ館」の工事。

 (Aさん)「石膏(せっこう)ボードをはる、その前の骨組みを立てる作業ですね」

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 3次の下請けで主に建物の壁を作るための骨組みを立て、石膏ボードをはる作業などにあたっていました。しかし、発注元からは2月末の支払いを最後に入金が途絶え、追加分の人件費などを含む工事費約2800万円が支払われていないといいます。

 そして5月中旬、耳を疑う連絡が…

 (Aさん)「『会社(2次下請け)がつぶれました』という連絡があって、後日、弁護士からは破産手続き開始報告という手紙が来て。これはまずいぞと。二枚舌を使われたな、と」

 一部だけでも早く支払ってもらうよう発注元と交渉をしていた最中の経営破綻。未払い金の回収は非常に困難な状況になりました。

金の工面に奔走「子どもに大学辞めてもらって…悔しい」

 Aさんはこの間、滞った職人や協力会社への支払いにあてようと別の仕事を増やしたり車を売却したり、金の工面に奔走してきました。しかし、万策尽きて…

 (Aさん)「子どもに『払えないから』と大学を辞めてもらって…。ごめんなって。辞めてもらって。息子は…『働きに行くよ』って言ってくれて。悔しいですよね」

 3年前に建てた事務所兼自宅を手放すことも考えているといいます。

元請業者に支払い求めるも…話は平行線


 取材した日、Aさんの事務所に集まったのはパビリオンの建設現場で汗を流した職人たち。アメリカ館の工事で3次下請けにあたるAさんたちは倒産した2次下請けの発注元に接触を試みることにしました。

 (Aさん)「つながらないって何?着信拒否?」

 これまでに発注元に説明を求めるなどしていたAさんの電話には応答がありません。しかし、ほかのメンバーがかけるとつながりました。

 Aさんらは破産した会社の代わりに未払い分を払ってくれるよう発注元にかけあいます。

 (Aさん)「まだ払ってくれる可能性はあるんですか?」

 発注元は孫請けと直接のやりとりはできないと主張します。

 (Aさん)「(下請けが)つぶれたから関係ないということ?もう払わないということを言いたいということですか?」

 話は平行線に終わりました。

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 (協力会社)「(発注元は)知ったことではない、という感じじゃないですか?憤りというか…」
 (協力会社)「賃金も払われなくて、結局、末端の作業していたうちらみたいな会社だけが泣きをみるというか…誰か助けてくれないかなって」

 Aさんは、博覧会協会に窮状を訴えましたが「民間同士のことで関与できません」と言われたといいます。

 (Aさん)「万博は国の仕事だから間違いないというのがあった。ちょっと疲れましたね。苦しいです、非常に」

ルーマニア館でも未払い問題


 賑わう「世界の祭典」の陰で相次ぐパビリオン工事をめぐるトラブル。

 6月26日、ナショナルデーを迎えたルーマニア。ヨーロッパ最古のオーケストラが生演奏で華を添えるなか、ここでもパビリオンの建設をめぐって工事費用の未払いトラブルが起きているというのです。

 大阪府内の建設会社の社長Bさん。今年2月からパビリオンの外回りや側溝といった外構工事に入ることになりました。しかし、当初は工事に取りかかれるような状況ではなかったといいます。

 (ルーマニア館外構工事担当 Bさん)「『外構だけは完成させとかんとルーマニア自体が(万博から)撤退せなあかんから、外構だけは絶対終わらせてくれ』と言われて終わらせたんですよ。でも内装は全く終わってなくて」

 Bさんによると図面の変更が連日あったほか、外構工事だけでなく内装業者が持ち込んだ部材の片づけや鉄骨の組み直しなど本来とは異なる仕事もしていたといいます。

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 (Bさん)「(かかった費用は)安くされて1600万円。本来なら2000万円くらいはいただかないと、というところだったんですけど、うわさでは『お金くれない、くれない』とよく聞いてたので、それやったら損切りでも、もらえるものはもらっとけということで」

 工事費用は当初は支払われていたものの、約1ヶ月で支払いが滞り、Bさんは現時点で約1000万円が未払いだと訴えます。

 (Bさん)「ほんまは喜んで家族連れてきたいけど、来る気もしません」

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 トラブルについてルーマニア館の館長に聞いてみると。

 (ルーマニア館 アナ・マリア・フォドレアヌ館長)「私たちと元請け業者の関係はとても良好です。素晴らしいです。私たちから言えば何も問題はありません」

1次下請けC社も元請け業者から1億円以上未払い


 ルーマニア館の工事は、フランスに本社を置く元請け業者Xの下に、1次下請けとして建設業者C社、2次下請けとしてBさんの会社など5社が入っています。Bさんが直接支払いを求める先は1次下請けのC社です。

 しかし、このC社も元請け業者Xから建物完成に伴う費用約1億2500万円が支払われていないと主張。これに対し、X社は「工期が遅れて追加で業者を呼んだ分の費用がかさんでいる」として逆に約4000万円をC社が負担するよう求めていて、両者で金額の折り合いがついていません。

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 (ルーマニア館1次下請け C社担当者)「うまいこと契約させられて、(工事途中は)頑張れ頑張れと言いながら、最後でいちゃもんつけられて『これもあかん』『あれもあかん』ということで、これはちょっと常識を逸脱しているかわからへん」

セルビア館でも未払い発覚 元請け業者Xの回答は…


 C社はルーマニアだけでなくセルビア館の工事にも関わりました。セルビアもルーマニアと同じX社が関係していて、C社はX社から約660万円の未払いがあると訴えています。 

 元請け業者XはMBSの取材に対し次のように回答しました。

 (元請け業者X)「このたびは下請契約に関する相手当事者の発信により、博覧会協会を含む関係者や各展示館等にご心配をおかけし申し訳ございません。当社はこれまで同様、今後も契約上の義務および日本の法令を遵守してまいります。事案の詳細に関しては守秘義務等もありますので差し控えさせて頂きます」

 万博の海外パビリオンをめぐる工事費用の未払い問題。華やかな万博の陰で万博に関わったがために経営難に苦しむ業者の存在を忘れてはなりません。