AIとスマートフォンは「人類の知能」を大幅に低下させ続けている。そこから向かうイディオクラシーの未来
この人類の知能の低下の件については、進行している速度が速い
AIは人間の思考力を長期間にわたり弱めることが研究で判明
最近は、AI や、大規模言語モデル(LLM)についての記事を書くことが多いですが、それは、よく見る海外報道メディアに AI に関する記事が劇的に増えていることにもよります。
そして、「ほとんどが AI に批判的」な内容となっています。
毎日のように見ますね。
6月28日の WIRED では、「AIへの反発はますます強まっている」という記事が掲載され、ロシアの RT 紙なども連日のように AI に対して批判的な記事が掲載されています。
RT 紙の最新の AI に関しての記事は、「 AI は私たち全員を狂わせているのだろうか?」というタイトルの、人口知能の研究家による寄稿記事でした。この記事の内容は、先日書かせていただいた以下の記事の内容と同じようなものです。
・AIが人を狂気に陥れ、あるいは人を精神疾患に導く、そのメカニズム
In Deep 2025年7月3日
今日ご紹介させていただくのは、
「 AI は人間の思考力を著しく弱める」
ということが書かれていたもので、マサチューセッツ工科大学 (MIT)の最近の論文を展開させた内容でした。
その記事の冒頭は、以下のように始まります。
記事「ChatGPTは思考力を弱めることがMITの研究で判明」より
MIT の新しい研究によると、ChatGPT のような大規模言語モデル(LLM)を用いてエッセイを書いた人は、使わなかった人に比べて脳の活動が著しく低下していることがわかった。
また、彼らはほんの数分前に「書いた」ことを何も思い出すことができなかった。この方法でエッセイを書くのは簡単だったが、文章は同じ論点を繰り返したものになり、創造性と批判的思考力が欠如していた。
LLM を使用した人は、本質的に脳の創造的かつ思考的な部分をオフにしていたため、エッセイを作成するときに学習したり、記憶したり、感じたりしなかった。
そして、その影響は長引いた。LLM の支援を受けられなくなった後も、以前 LLM を利用していた生徒の成績は依然として低かった。
ChatGPT を強制的に中断させられた時、脳の創造的・批判的思考の部分が活性化されるどころか、LLM が以前に書いた内容を思い出そうとする脳の活性化が顕著に表れたのだ。
研究者によると、これは教育、創造性、そして知的発達に重大な影響を及ぼす。
しばらく進みますと、以下のような部分も出てきます。
先進国ではすでに教育成果が低下しており、米国では中学 2年生の 3分の1が基礎レベルの読解力さえない。これは子どもだけでなく、大人にも当てはまる。米国の成人の半数以上が小学 6年生以下の読解力しかないのだ。
この傾向はパンデミック以前から始まっていたが、パンデミックによって悪化した可能性もある。また、スマートフォンも一因となっている可能性がある。
学校でスマートフォンを禁止した国では、生徒の学習成果が向上しており、研究はスマートフォンを身近に置くだけで注意力や集中力が低下するという考えを裏付けている。
確かに、最近のアメリカの子どもの学力の基礎レベルの低下は著しいもので、たとえば、以下は、アメリカの「教育の進歩に関する全国評価 (NAEP)」という数学と読解力の平均スコアで、以下のグラフは、2022年までのものですが、2020年から急速な低下を見せていることがわかります。
アメリカの9歳の「読解力」の平均スコアの推移
BDW
数学もほぼ同じ線を描いています。
これだけを見ますと、2020年という起点からは、パンデミックの頃の政策の悪影響(ロックダウンやマスク)も強いとは思いますが、いずれにしても、このアメリカ人の読解力が史上最大の下落を示した頃に出てきたのが、AI というのか、ChatGPT や Grok のような大規模言語モデルです。
私はスマートフォンを持たないので知らなかったのですが、最近、うちの子どもに、
「スマホで AI とか使う?」
ときくと、
「もともとスマホに Gemini (Google の AI)がついているから」
ということでした。
スマートフォンにもいろいろと種類があるだろうとはいえ、ほとんどの場合、ユーザーは AI と日常的に接していることになります。
AI を便利に使うこと自体は全然否定されることではないのですが、先ほどご紹介した記事の冒頭に、AI を使って文章を作成した人は、
> (使わなかった人と)比べて脳の活動が著しく低下していることがわかった…
とありますように、あまりにいろいろなことを AI に依存すると「脳の働きが弱まる」みたいなんですね。
これは、ある程度の青年や大人でしたら、まだいいのかもしれないですが、今は、かなり小さな子どもでもスマートフォンなどを持つ人が多いですので、「子どものうちから、何も考えなくていい環境」の中で育つというのはどんなものかなと。
今の日本の子どものスマートフォン所持率は以下(赤)のようになっていまして、13歳だと 100%に迫っている。
多くの論文から AI を使用した痕跡が見つかっている
7月6日の Phys.org の記事で、「大規模調査で数百万の科学論文に AI の痕跡が見つかる」というタイトルのものがありました。
つまり、多くの論文が「 AI を使用して作成されている」という可能性に言及したものです。
米国とドイツの研究者チームが 1,500万件を超える生物医学要約を分析したところ、その中の 13.5%に AI 生成コンテンツにより執筆された可能性があることを突き止めたのだそう。
これは、「 150万から 200万近くの論文が AI で生成された可能性がある」ということです。これは、生物医学関係の論文だけですけれど、他の分野を含めると、相当な数の論文が AI で生成されている可能性があります。
そして、たとえば、大学生の人たちならば、卒業論文とか、あるいはレポートだとか、そういうものを AI で作成している人も、まあ、いるでしょうし、場合によっては、もっと若い世代でも、そういう利用をしているかもしれません。
しかし、最初のほうの記事で示したマサチューセッツ工科大学の研究にあるように、
「 AI によって生成された文章の内容は脳に残らない」
ようなのです。
こういうようなことが拡大していけば、当然、「社会全体の知的水準が下がり続ける」ことにもなりかねません。いや、おそらくそれはもう始まっているのだと思います。
結果として、ますます人間は AI に依存するようになり、さらに脳の働きが弱っていくと同時に、以前の記事で書きましたように、人によっては、狂気や精神疾患に導かれてしまう可能性もあります。若ければ若いほど、その可能性はあると思われます。
やはり、どこかで、現在の AI 依存社会に歯止めをかけないと、人類社会全体がおかしくなってしまう可能性があるようには感じます。
最初にご紹介しました、マサチューセッツ工科大学の論文を取り上げていた記事はおそろしく長く、研究での実験内容を細かく分析していますが、その記事のラストのセクション「 AI は電卓のようなものだろうか?」をご紹介して、締めさせていただきたいと思います。
ChatGPTは思考力を弱めることがMITの研究で判明
ChatGPT Weakens Your Ability to Think, MIT Study Finds
madinamerica.com 2025/06/25
AIは「電卓のようなもの」だろうか?
AI 支持者は、AI を優れた電卓のようなものだと表現する。それならば、明らかに便利なツールであり、悪影響はなかったと言えるだろう。
AI は計算プロセスを非常に容易にし、今では AI なしの生活は想像できないが、人類の発展への影響についてはほとんど懸念されていない。
しかし、電卓という比喩は、実際に AI に対しての良い比喩なのだろうか?
まず、電卓は毎回正しい答えを出すが、これは大規模言語モデル(LLM)とは大きく異なる。LLMは、政府の医療報告書や法廷といった非常に重要な場面において、偽の引用や捏造された研究など、虚偽の情報を流布することで悪名高い存在となっている。
LLM は偏見を助長し、特に医療と法律の分野では問題となり得る。AI 搭載のチャットボットは、現在でも何百万人もの人々にセラピストとして販売されているが、同時に妄想的な思考を助長し、自殺計画を支援しているのだ。
電卓が自殺を促したことはあるだろうか? 電卓が誰かを「宇宙の秘密にアクセスした」スピリチュアルな導師だと信じ込ませ、精神病院送りにしたことはあるだろうか? 電卓が、あなたが入力した数式に偽の答えをでっち上げたことはあるだろうか?
しかし、AI はこうした嘘を非常に説得力のある形で提供し、いわゆる「ごますり」でユーザーを称賛する。
危険なのは、AI が私たちの認知能力をオフロードして脳を働かせなくて済むように利用されているというだけではない。AIが、私たちが認知能力をオフロードしているわけではないと確信させているという点だ。
それは、AI 支持者たちの言葉からも見て取れる。「 AI を受動的に使えば、あなたは鈍感になる。しかし、AI を賢く使えば、あなたは超人になる」というような。
AI 推進派は、AI を「正しく」、つまり既存の思考を拡張する手段として利用していると考えている。しかし、MIT の研究結果はこの解釈に反している。
この MIT の研究結果によると、すでに成果を出した後に AI を利用したとしても、自身の成果を批判的に評価し改善し続けるのではなく、AI の汎用的で質の低い成果をコピー&ペーストする傾向があることが示されている。
そして何よりも恐ろしいのは、数分後には自分が書いたはずの文章を一行も引用できないにもかかわらず、自分が書いたと信じ続けることだ。
あなたは、それが自分の知性を超強化し、マトリックスのネオのように、幻想の先を見通せる精神的な天才に変身させると信じてしまうだろう。しかし、実際には、ありきたりで曖昧で、論理的に不十分なコンテンツを、はるかに速いペースで生み出しているだけなのだ。
ハッカーがユーザーのデータを盗むために悪用している脆弱性を知らないバイブコーダー (※ AI に依存したプログラミング手法を使う人)であろうと、依頼人の利益のために捏造した事例を挙げる弁護士であろうと、政府の政策を裏付けるために偽の推薦状リストを作成する医療管理者であろうと、依頼人に自殺を勧めるセラピストであろうと、それは問題ではない。
いずれの場合も、あなたは自分が超人になったつもりでいるだろうが、実際には人々の人生を破滅させているのだ。
AI 企業自身もこのことを承知している。自ら調査を行い、インターネット上に公開して誰もが見られるようにしている。しかし、彼ら AI 企業は、これらのことをまったく気にしていない。彼らの目標は、世界中が AI に依存し、AI なしでは生きていけないようにすることだ。無限の顧客基盤を永遠に築くことだ。AI 企業としての、その最善の戦略とは? それはタバコと同じように、若いうちから始めさせることだ。
AI に思考をアウトソーシングすればするほど、私たち自身の批判的思考能力は蝕まれていく。
批判的思考能力が蝕まれれば蝕まれるほど、AI に思考をアウトソーシングせざるを得なくなる。この再帰的なループこそが、マイクロソフト、OpenAI、そして Anthropic の夢の根底にあるものだ。人々が、このループに屈すれば、イディオクラシー(愚者支配)が現実のものとなるだろう。
ここまでです。
民衆全体の知的能力と批判的思考能力の低下が進めば、そういうイディオクラシー的な世界も出現しそうですが、しかし、指導者自体も愚者の世界の場合、実権を握るのは AI そのものなのでしょうかね。
この人類の知能の低下の件については、進行している速度が速いですから、わりと早い段階で問題となってくるような気はします。
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