もはやボロボロの石破茂政権…それでも中国はラブコールのなぜ?

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習近平3期目 政治・経済

もはやボロボロの石破茂政権…それでも中国はラブコールのなぜ?

石破はなぜ首相続投という前代未聞の居座りを続けられるのか?

低支持率の石破政権に温かい中国

「石破自民大敗」である――。

一昨日の夜以降、参院選の結果については、様々なコメントが出ているので、重複はしない。「中国ウォッチャー」の私が気になるのは、今後の日中関係の行方である。

新華社通信は7月21日、「日本の連立与党は参議院で過半数を喪失した」と題した記事で、こう分析した。

<昨年10月に挙行された衆議院選挙で、連立与党は過半数を得られず、少数与党の政権となった。今回は連立与党が参議院でも敗北し、石破茂首相の執政の道はさらに困難になった>

だが、事実を淡々と記しているだけで、批判めいたものはない。

一般に中国は、低支持率の日本の政権に対しては、冷淡を決め込む。だが石破政権は、発足以来、常に低空飛行を続けてきたにもかかわらず、中国は例外的に好意的だった。この約10ヵ月間というもの、おおむね秋波(ラブコール)を送り続けてきたのだ。

石破政権が発足したのは、昨年10月1日だった。当時、中国の関係者はこう述べていた。

「わが国の75回目の国慶節(建国記念日)に政権を発足させるなんて、何と佳き政権であることか」

中国は、春節(旧正月)と国慶節が、「2大祝日」である。どちらも1週間の大型連休となる。昨年の国慶節の時節も、日本はタイと並ぶ人気の旅行先で、多くの中国人観光客が訪日した。

中国は国慶節に発足した石破内閣を歓迎した


もちろん、石破首相は中国の国慶節に合わせて自らの政権を発足させたわけではなく、単なる偶然である。だが中国は、「善意」に解釈したのだ。それは、9人で争われた自民党総裁選の中で、石破首相は「靖国神社不参拝」を貫く「好ましい候補」だったということも大きかった。

「私は田中角栄の最後の弟子」

そのこともあって、習近平主席から届いた祝電には、こう書かれていた。

<新時代の要求にふさわしい建設的で安定した中日関係を構築していく>

ちなみに、前任の岸田文雄政権が就任した時の祝電の文言は以下だった。

<新時代の要求にふさわしい中日関係を構築していく>

比較すると、「建設的で安定した」が入っただけだが、ここに中国側の期待が滲み出ている。実際、石破首相も、10月4日に行った所信表明演説で、「建設的かつ安定的な関係の日中双方の努力での構築」を謳って応えた。

「私は田中角栄の最後の弟子」との石破首相の一言が習主席に刺さった


翌11月15日、ペルーの首都リマで行われたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、石破首相と習近平主席が、初めての首脳会談を行った。この時、日本では、石破首相が習主席に両手を差し出した行為が「朝貢会談」だと批判された。

だが中国側に確認すると、「私は田中角栄の最後の弟子なんです」と石破首相が自己紹介したことが、習主席に響いたという。田中首相は、1972年に日中国交正常化を果たした「中国の朋友」だからだ。

翌12月の25日には、岩屋毅外相が「クリスマス訪中」するなど、日中関係は急速に改善したかに見えた。

 

台湾問題で揺らぐ日中関係

ところが今年に入って、にわかに雲行きが怪しくなった。それは、2月7日に行われた石破首相と米ドナルド・トランプ米大統領の初めての首脳会談で、共同声明のおしまいに次のような一文が入っていたためだった。

<両首脳は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調した。両首脳は、両岸問題の平和的解決を促し、力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対した。また、両首脳は、国際機関への台湾の意味ある参加への支持を表明した>

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特に、最後の「国際機関への台湾の意味ある参加への支持を表明」という文言が、習主席の逆鱗に触れたのだった。この一件に関して、日本政府関係者に確認すると、こう答えた。

「ご指摘の最後の文言は、日米の外交当局間で、どうせトランプ大統領は、共同声明の確認を求める際に見もしないだろうから、入れてしまえとなった。実際、見もしなかったようだ。トランプ大統領が、台湾問題に関心が薄いがゆえに成し得た『技』だった」

 

石破首相に噛みつく

これに中国側が噛みついた。翌3月7日、年に一度の外相会見で、王毅外相は日本メディアの記者から日中関係について問われると、「戦狼(せんろう)外交官の顔」を剥き出しにして語った。

「日本の一部人士は反省せず、『台湾独立』勢力とこそこそ通じて、好意を寄せ合っている。こうした人々に告げたいのは、『台湾有事は日本有事』と吹聴していると、台湾を利用して事を起こすことが、日本にも事を起こしてしまうことを忘れるなということだ」

ちなみに外相会見で日本メディアの記者が指名されたのは、23人中17番目だった。昨年は指名もされず、外相会見の内容よりも「30年来で初めて指名されなかったこと」がニュースになった。

来日した王毅外相は石破首相に台湾問題で噛みついた

王毅外相は、日中韓外相会談で来日した3月21日にも、首相官邸を表敬訪問し、石破首相に直接、噛みついた。

「日本は、中日共同声明など『4つの政治文書』(1972年の日中共同声明、1978年の日中平和友好条約、1998年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明)が確定させた原則を堅持し、両国関係の政治と法律の基礎をうまく維持、保護し、歴史と台湾問題で出された重要な政治的承諾を切実に履行していかねばならない。今年は、中国人民抗日戦争勝利80周年だ。この重要な節目に、日本が歴史と国民と未来に責任を持つ態度を取り、賢明な選択を取り、世界に向けて正しい信号を発していくことを望む」

 

フィリピン訪問にも噛みつく

この中国側の「怒り」は、翌4月も続いた。4月30日、石破首相は訪問先のフィリピンで、フィリピン沿岸警備隊(PCG)の本部を視察した。PCGは日本の海上保安庁と緊密な提携関係にあり、中国の脅威に対抗する大型巡視船は、海上保安庁が提供している。隊員の研修も日本で行っている。

さらにこの日は、フィリピンに寄港中の海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」と掃海艦「えたじま」を視察し、隊員らを激励した。その上で、石破首相はこう述べた。

「(中国の)力による一方的な現状変更の試みが、南シナ海・東シナ海で行われている。コーストガード(海上警察)同士、あるいは海上自衛隊と(フィリピン)海軍が協力を密にすることによって、この地域における平和と安定、法の支配を強固なものにしたい」

 
フィリピン沿岸警備隊を視察した石破首相。後方は日本が供与した巡視船


周知のように、中国とフィリピンは昨今、南シナ海の権益を巡って、激しいつばぜり合いを展開している。中国からすれば、それを日本が、フィリピンと「準同盟」のような振る舞いをするとは何事かというわけだ。

もっとも、両国ともアメリカの軍事同盟国であり、岸田政権時代には、ジョー・バイデン大統領が旗振り役となって、日米比首脳会談を行っていたから、石破首相が「突出」しているわけではない。だが中国からすれば、石破政権は「親中政権」ではなかったのかと、疑念の色を濃くしていったのだ。

 

参院選前に秋波を送る5連発

これまでの習近平政権なら、石破政権を突き放しにかかったはずだ。ところが現実は、逆の展開となった。中国が石破政権に秋波(ラブコール)を送るカードを、次々に切ってきたのだ。

7月22日現在で、中国側は少なくとも5つのカードを、日本側に切っている。それらは、以下の通りだ。

① 日本人学校事件の犯人の処刑

昨年6月、江蘇省蘇州市で、日本人学校のバスに乗ろうとした日本人母子らが男に刃物で切り付けられ、バスの案内係の中国人女性が死亡した。続いて昨年9月、広東省深圳(しんせん)市で、日本人学校の正門近くで、母親と日本人学校に通学していた10歳の男児が、刃物を持った男に刺殺された。

 

この2件の惨事について、日本政府は中国側に、真相の究明と再発防止を強く求めていたが、中国側は「単なる偶発事件」と隠蔽(いんぺい)してきた。

それを、今年4月17日になって、蘇州事件の犯人を、「故意殺人罪で処刑した」と、北京の日本大使館に通知してきた。さらに4月21日、深圳の事件の犯人も、同様に処刑したことを通知した。

与那国島近海へのブイ設置は「台湾侵攻の準備」との説もあった

② 与那国島EEZ内のブイ撤去

昨年12月、中国は沖縄県与那国島の南方の日本のEEZ(排他的経済水域)内に、勝手にブイを設置した。それによって、衛星を通じて周辺の海洋水域の軍事情報を取っていたものと見られる。

これに対し、日本政府は再三にわたって、ブイの撤去を中国側に要求してきた。それが5月28日までに、中国側が撤去した。

中国側はもう一つ、沖縄県の尖閣諸島海域にも、2023年7月にブイを設置したが、これも今年2月に撤去した。これで「ブイ問題」は解決した。

 

日本産水産物の輸入を再開

③ 日本産水産物の輸入再開

2023年8月に日本が、福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウムを除いた処理水)を太平洋に放出し始めたところ、中国は「核汚染水を放出する深刻な環境汚染」と激昂し、すべての日本産水産物及び加工品の輸入を禁止した。以後、日中間で何度もやりとりが行われてきたが、6月29日、ついに中国税関総署が正式に、「2025年第140号公告」を発出した。

 

<日本の福島の核汚染水の海洋放出に対する長期的な国際的観測と中国の独立したサンプル調査観測を行った結果、異常は見られなかった。中国に持ち込む水産物の質的安全を日本政府が保証するという前提のもと、中国側は条件付きで日本の一部地域の水産物の輸入を決定した>

これによって、「福島・群馬・栃木・茨城・宮城・新潟・長野・埼玉・東京・千葉の10都県を除く産地の日本産水産物の輸入を即日復活させる」措置が取られた。

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この一件について、現場で陣頭指揮を執って中国側と交渉にあたってきた垂(たるみ)秀夫前駐中国大使は先日、私にこう述べた。

「実はこの案件は、2023年11月16日にサンフランシスコAPECで行った岸田・習会談で、『先へ進める』と合意していた。ところが、中国側が合意文の発表に合意したのは昨年9月20日。そして正式に『輸入再開』を発表したのが今年6月29日と、あまりに遅かった。

しかも、自分たちで福島近海の海洋調査を2度も行って『問題なし』と結論づけているのに、福島県以下、10都県を除外するとはどういうことか。東京都産がダメで神奈川県産はOKというのも意味不明だ」

日本産牛肉の輸入再開も実現

日本産牛肉の輸入再開を前進させた森山幹事長と何副首相の会談

④ 日本産牛肉の輸入再開

2001年、日本でBSE(狂牛病)問題が発生すると、中国は日本産の牛肉を輸入禁止にした。だが、BSE問題が解決した後も、中国は輸入を再開しなかった。その理由を、ある中国政府関係者はこう述べていた。

「日本産牛肉を禁止した後、わが国の畜産業は大きく発展していった。そのため、日本産を再開すると発展が削がれることを懸念している。この先も一定程度、国内産業が育ってからでないと、再開はしないだろう」

2018年10月の安倍晋三首相の訪中を受けて、ようやく事態が動き出し、翌2019年には再開で合意した。だが翌2020年、新型コロナウイルスが世界を襲ったことで、実現しなかった。

この問題はこの一年ほど、森山裕自民党幹事長(日中友好議連会長)が中心となって、中国側に要求してきた。森山幹事長の地元・鹿児島は和牛の産地で、先の参院選の応援演説でも、森山幹事長は「鹿児島産の和牛を中国の人に食べてもらう」と語っていた。

今月11日、中国の対外経済貿易分野の責任者である何立峰副首相が、大阪・関西万博の「中国ナショナルデー」に合わせて来日。大阪で会談した森山幹事長は、会談後にこう述べた。

「長年の懸念であった牛肉輸出に一つの前進を見ることができた。24年ぶりに輸出がはじまることにつながるだろう」

実際、農林水産省も同日、日本産牛肉の中国向け輸出再開の前提となる日中動物衛生検疫協定が発効したと発表した。

 

アステラス製薬幹部の刑期短縮

日本への「ラブコール」を口にした林剣外交部報道官

⑤ 「反スパイ法違反」のアステラス製薬幹部に3年6ヵ月の実刑判決

3期目の習近平政権が発足した2023年3月、アステラス製薬の幹部で、中国日本商会副会長も務めた大物が、「反スパイ法違反」で拘束された。この一件が日中ビジネスに与えた影響は甚大で、日系企業の駐在員及び家族の帰国ラッシュ、日系企業の撤退や縮小のきっかけとなった。

 

私は当初から、10年から15年の実刑判決が下されると見ていた。それは当初から、中国当局が異様に強気だったからだ。

この一件は、2023年3月25日土曜日の共同通信のスクープ記事から始まった。

<北京市で今月、日本企業幹部の50代の男性が当局に拘束されたことが25日、分かった。日本政府は早期の解放を求めている。日中関係筋が明らかにした>

翌日曜日、日本メディア各社は、この男性がアステラス製薬の幹部であることを報じた。翌27日月曜日、中国外交部の定例会見で日本メディアが問い質すと、毛寧報道官は逆切れした。

「私の理解では、中国側の関係部門は今月、法によって一名の日本の公民を拘束し、刑事強制措置により捜査を進めている。この日本の公民は諜報活動に従事し、刑法と反スパイ法に違反した嫌疑をかけている。(中略)

私が強調したいのは、中国は法治国家であり、あらゆる中国在住もしくは訪問した外国人は、中国の法律を遵守する義務があり、違法行為を行った犯罪者は必ず、法によって追及されるということだ。ここ数年来、日本の公民の類似案件が数多く発生しており、日本側は自国の公民の教育と覚醒を強化していくべきだ」

 

減刑したのは「政治的配慮」

これまで「類似案件」の場合、外交部報道官は「発表できる情報を持っていない」「後日然るべき時に回答する」などと逃げるのが常套手段だった。それをここまで開き直って主張したのは、「中国側の自信」の表れに違いなかった。そもそも、これだけの「日中貿易の大物」を拘束したら、国際問題に発展するのは自明の理であり、それを承知で拘束したこと自体、自信の表れと言えた。

実際、同年10月に逮捕され、昨年8月に起訴されるなど、「重罪コース」を辿っていた。つまり懲役10年~15年の実刑判決だ。

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それが「3年6ヵ月」ということは、「政治的配慮で10年分を差し引いた」のではないだろうか。司法取引を行ったという報道もあるが、それも含めて政治的配慮だ。

その証拠に、今回は外交部の林剣報道官が、わざわざこのように付け加えた。

「私が指摘したいのは、中国側が一貫して中日の経済貿易協力を支持しており、中国在住の日系企業及び人士の合法的な経営に良好な環境を提供していることだ。われわれは外国企業が中国で経済貿易協力を展開することを歓迎している。中国在住もしくは中国へ来る外国籍の人々は、ただ法律を遵守し、法によって仕事をすればよいのであって、何も心配したり不安がったりすることはない」

 

一連の「対日ラブコール」の意味は?

こうした中国側の「対日ラブコール」が意味するところは明快だ。第一に中国経済の悪化によって、第二に米中貿易摩擦の激化によって、日本を少しでも中国の側に引き寄せたいのである。それに加えて第三の理由として、中国国内で対日強硬派の発言力が、相対的に弱まっていることもある。

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いずれにしても、本来なら石破政権が末期的な現在、中国は石破政権を無視して「傍観」を決め込み、新たに次の政権が誕生してから「対日カード」を切るところだ。だがいまや、そんな日本側の事情を鑑みる余裕もないほど、切羽詰まっているのだろう。

 

残念でならないのは、もはや満身創痍の石破政権に、この「奇遇」を活かすことができるとは思えないことだ。「辞めない石破首相」は、日本外交をも停滞させている。

 

<今週の推薦新刊図書>

『21世紀の独裁』 佐藤優・舛添要一著

祥伝社新書/950円+税

日本を代表する「知の巨人」による初の共著。トランプ、プーチンから、参院選で話題の参政党・神谷宗弊まで縦横無尽に語り尽くした。

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この開き直り、いいですなあ……。

21世紀の独裁 (祥伝社新書 715)
2025年1月にアメリカ大統領に就任したトランプは関税引き上げ、カナダ合併などの提案・政策をぶち上げている。佐藤優元外務省主任分析官はそのふるまいを「皇帝」に準え、舛添要一元東京都知事は「ヒトラーやスターリンの手法と同じ」と言う。ロシアはプ...

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