直接、頭を下げに来たことに相当気を良くしている人物とは?
【前後編の後編/前編からの続き】
参院選での大敗から退陣表明まで49日。石破茂首相(68)は憲政史上に類を見ない頑迷さで宰相の座にとどまり続けた。本気で解散に突っ走りかねない首相のクビに鈴を付けたのは小泉進次郎農水相(44)。彼は自らの手で引き寄せた総裁選を勝ち切ることができるのか。
***
前編【小泉進次郎氏の2時間の説得で「石破さんの心境に変化が」 首相退陣を決意させた言葉とは】では、石破氏に退陣を決意させた小泉進次郎氏、菅義偉副総裁(76)の言葉について報じた。
目下、総裁選の候補者として名前が取り沙汰されているのは小泉農水相、高市早苗前経済安保相(64)、小林鷹之元経済安保相(50)、林芳正官房長官(64)、茂木敏充前幹事長(69)の五名。茂木氏は8日、いち早く総裁選出馬の意向を表明している。

政治部デスクの解説。
「総裁選の軸となるのは、世論調査の『次の首相にふさわしい人物』でも、それぞれ約2割の支持を集めている小泉氏と高市氏です」
前回、1回目で小泉氏は党員票が伸び悩み61票だった。強いとみられていた議員票は75票。合計136票で3位に沈んでいる。一方、高市氏は党員票で事前の予想を大きく上回る109票を集めて世間に驚きを与えた。議員票でも健闘して72票。合計181票で、1回目はトップに躍り出た。それゆえ巷間、フルスペックなら高市氏有利との声もある。
「高市氏と小泉氏が争う展開になりそう」
ところが、だ。
「今般、自民党員の中でも特に高市氏が支持基盤としてきた右派・保守層はすでに党籍を離れ、参政党や日本保守党に流出しているといわれている。また昨年は、反石破票が高市氏に集まった側面は否めない。今回は前回ほど党員票の得票は期待できないかもしれません」(前出のデスク)
政治ジャーナリストの青山和弘氏もこう言う。
「石破首相は出馬しないので、首相が獲得した党員票が流れれば、小泉氏が高市氏を抑えて党員票で首位に立つ可能性もあります」
前回は9名の候補者が乱立した結果、各候補者の20名の推薦人だけで当時、367票あった議員票のうち180票が食われた。9名で残りの187票を分け合った形だ。当然、1回目は議員票で大きく差がつかず、党員票が勝負を決した。だが、今回は前回より候補者が少ないとみられている。その分、奪い合う議員票は多くなる。
「つまり、前回よりも議員票が結果に与える影響は大きい。しかし今回も支持が分散し、1回目で勝負が決まらない可能性はある。その場合、高市氏と小泉氏が決選で争う展開になりそうです」(前出のデスク)
決選になれば、議員票と各都道府県連票の合計で勝敗が決するので、なおさら議員票の重要度は増す。
「直接、頭を下げに来たことに相当気を良くしている」
その議員票の行方について鍵を握るのは党の重鎮だ。
菅氏や森山裕幹事長(80)氏は前回同様、小泉氏の支援に回るものとみられているが、特に今、注目を集めている人物がいる。麻生太郎党最高顧問(84)である。裏金問題を受けて、他の派閥が解散する中、麻生派だけはなおも派閥を維持している。麻生派43名をバックにつけることができれば、一気に有利になろう。
先のデスクが言う。
「参院選直後から茂木氏は何度も麻生氏と会談・会食を重ねていますし、高市氏も麻生氏と7月中に面談して、支持を取り付けようと動きました。小泉氏も8月6日、国会内で30分以上、麻生氏と話し込んでいます。各候補、麻生氏の歓心を買おうと躍起なのですが、麻生氏が今、一番、買っているのは小泉氏です。麻生氏は小泉氏が直接、頭を下げに来たことに相当気を良くしているのです」
麻生氏は前回、高市氏の支援に回ったのだが、
「あれは石破憎しでやむにやまれず、高市氏に乗っただけ。彼女を評価していたわけではない。むしろ、麻生氏は高市氏が両院議員懇談会や両院議員総会で“石破おろし”の前面に立とうとしなかったことにご不満な様子です」(同)
「トップを走っているのは小泉氏で間違いない」
では、旧岸田派を率いた岸田文雄前首相(68)はどうか。
「現在、旧岸田派は参院を中心とした林グループと小泉氏シンパの木原誠二選挙対策委員長(55)らの集まりに分断されています。岸田氏自身が首相時代に“派閥解消”を主導した経緯があるため、少なくとも1回目の投票から旧派閥単位で総裁選の投票行動を縛ることはできません。とはいえ、本音では旧岸田派の一致結束を願っている。決選になれば、勝ち馬に乗るため小泉氏支持でまとめますよ」(前出のデスク)
高市氏が小泉氏に比べて、議員票で不利な点はほかにもある。
「高市氏は昨年の推薦人20名のうち、実に9名が直後の衆院選や今年の参院選で落選・不出馬となっています。もっとも、推薦人20名のハードルはクリアできる見込みです」(同)
次のような話も。
「高市氏が頼みの綱としているのは旧安倍派なのですが、旧安倍派はすでに瓦解し一枚岩ではありません。少なくない中堅・若手は小林氏の支持に回るものとみられています」(同)
つまり、現在の状況を総合的に勘案すると、
「総裁選レースのトップを走っているのは小泉氏で間違いない」(同)
維新とのコネクション
加えて、小泉氏が有利な理由がある。
「今度の総裁選は、政権安定のために少数与党下の連立交渉相手をどこにするかが重要な争点になります。この点、小泉氏の後ろ盾になっている菅氏や森山氏は日本維新の会と太いパイプを持っています。また、小泉氏自身、先月も大阪・関西万博の視察で維新代表の吉村洋文大阪府知事(50)と2時間半行動を共にするなど蜜月ぶりのアピールに余念がありません」(前出のデスク)
今月7日、国民民主党の玉木雄一郎代表(56)は「選挙区調整の問題もあるので、簡単ではない」と自民との連立に慎重な姿勢を示した。これも、維新とのコネクションを誇示する小泉氏には追い風であろう。
だがしかし、小泉氏がこのまま順調に総裁選レースで勝ち切れるかを疑問視する向きもある。
自民党関係者の話。
「総選挙で一番、怖いのは参政党の更なる躍進です。保守層を取りこぼせば、先の参院選同様、痛い目に遭う。高市氏なら参政党に流れた票を取り戻せます。選挙を意識すると、小泉氏という選択はベストとは言い難い」
「しょせんは人気投票」
一方、元自民党本部事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃氏はこんな見方だ。
「小泉氏はメディアの露出が多く、自民党支持者の中でも支持率が一番高いという調査結果はあります。しかし、政権運営ができるのかという不安感は拭えません。ポイントは能力不足を補う優秀な参謀を周囲に置けるかどうか。新総裁になった暁には、他の候補者を重用して挙党体制を築かないとダメです。そうしないと、石破首相のように何の結果も残せないでしょう」
政治アナリストの伊藤惇夫氏は手厳しい。
「今回、フルスペックで総裁選を行うのは、メディアで話題を作って注目を集め、自民党の人気を回復することが目的です。小泉氏が選ばれたとしても、しょせんは人気投票です。正直言って、総裁候補として適格な人材は今の自民党には見当たりません」
石破首相は退陣会見の最後に「解党的な出直し」を訴えた。だが、首をすげ替えて見せかけの刷新を演出しても、国民には茶番と見透かされるのではないか。
前編【小泉進次郎氏の2時間の説得で「石破さんの心境に変化が」 首相退陣を決意させた言葉とは】では、石破氏に退陣を決意させた小泉進次郎氏、菅義偉副総裁の言葉について報じている。
「週刊新潮」2025年9月18日号 掲載
コメント