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プラグインハイブリッド車は公称より300%以上多くの燃料を消費していた

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欧州のPHEV車 エネルギー

プラグインハイブリッド車は公称より300%以上多くの燃料を消費していた

約100万台の走行データが暴く不都合な真実と、自動車業界のロビー活動の攻防

投稿日時:2026年2月20日6:51

プラグインハイブリッド車(PHEV)は、内燃機関の長大な航続距離と電気自動車の無排出・環境性能を併せ持つ「完璧な橋渡し」の技術として、長年にわたり称賛され、各国の優遇税制を享受してきた。しかし、その環境性能の裏付けとなっていた公式な燃費数値が、現実の路上では全く再現されていないという決定的な証拠が突きつけられた。

欧州環境機関(EEA)が収集した約98万台(正確には981,035台)という過去最大規模の車載燃料消費モニタリング(OBFCM)データを基に、Fraunhofer Institute(フラウンホーファー研究所)をはじめとする国際的な研究チームが行った最新の分析により、PHEVの実際の燃料消費量が公式基準値の3倍以上に達することが判明したのだ。

この報告は、単なる環境性能の再評価にとどまらない。現在、欧州連合(EU)の規制当局が進めようとしている算定基準の厳格化に対し、自動車メーカーが激しいロビー活動を展開して阻止を図る中、その政策論争に終止符を打つ可能性を秘めた極めて重要な定量的根拠となっている。

OBFCMが可視化した現実:WLTP規制値の「3倍以上」という衝撃

かつて、自動車の燃費データは実験室という閉ざされた環境でのみ測定され、現実の走行状況との乖離が常態化していた。しかし、欧州において新車への搭載が義務付けられたOBFCM(On-Board Fuel Consumption Monitoring:車載燃料消費モニタリング)技術により、車両が実際にどれだけの燃料と電気を消費したかが、ネットワークを通じてビッグデータとして正確に把握できるようになった。Fraunhofer Instituteのレポートは、2021年から2023年にかけて欧州で登録された最新世代のPHEVから得られたこのデータを分析したものである。その結果は、PHEVの環境性能に対する根本的な疑念を抱かせるに十分なものであった。

公式のWLTP(乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)基準では、一般的なPHEVの燃料消費量は100km走行あたりわずか1.4〜1.6リットル(L/100km)、CO2排出量にして約30g/km程度とされている。しかし、現実の路上における100万台近いPHEVの平均燃料消費量は約5.9〜6.12 L/100kmに達しており、これは公称値の3倍以上、パーセンテージにして300%を超える驚異的な乖離を示している。

この実測値は、外部充電機能を持たない旧来の標準的なハイブリッド車や、さらには効率的な従来型内燃機関(ICE)車と同等レベルの燃料を消費していることを意味する。研究者らは、これほどまでの乖離が生じる原因は、単に「ユーザーが充電を怠っている」という表面的な行動のせいだけではなく、PHEVというシステムそのものの動作原理と、規制の枠組みに潜む構造的な欠陥にあると指摘している。

 

CDモードの罠:バッテリー走行時でもエンジンは稼働し続ける

PHEVの動作は、大きく分けて二つのモードで構成されている。一つは、外部から充電したバッテリーの電力を消費しながら走る「Charge-Depleting(CD:電荷消費)モード」であり、もう一つはバッテリー残量が低下した後にエンジンを主体として走る「Charge-Sustaining(CS:電荷維持)モード」である。多くの消費者は、CDモードを「純粋な電気自動車(EV)として走る無排気モード」であると認識している。しかし、今回のデータ分析は、その認識が誤りであることを明確に示している。

Fraunhofer Instituteの分析によれば、実際の走行データにおいて、CDモード中であってもPHEVのエンジンは頻繁に介入しており、平均して2.8〜2.98 L/100kmの燃料を消費していることが明らかになった。WLTPの試験サイクルでは、このCDモードにおける燃費を約1.57 L/100kmと算定しているが、実際にはそのほぼ2倍のガソリンが消費されていることになる。なぜこのような現象が起きるのか。その背景には、WLTPにおけるCDモードの終了判定基準、すなわち「REEC(Relative Electrical Energy Change:相対的電気エネルギー変化量)」という指標の定義の甘さがある。

現在の規制では、バッテリーの正味のエネルギー変化量がテストサイクルの総要求エネルギーの4%を下回るまで、車両は「CDモード」にあると見なされる。この低く設定された4%という閾値により、実際にはバッテリーの余力がほとんどなくなり、エンジンが主動力としてフル稼働している状態であっても、わずかにバッテリー電力が引き出されていれば、法的には「電気主体のCDモードで走行している」と判定されてしまうのである。

つまり、急加速時や暖房稼働時、あるいは高速走行時において、システムが性能要求を満たすためにエンジンを始動させたとしても、それらはすべて「エコな電気走行モード」の枠内に収められてしまう。その結果、頻繁に車両をプラグに繋いで充電し、バッテリーを満充電に保とうとする模範的なユーザーであっても、現在の一般的なPHEVの構造上、CDモードにおける燃料消費を2.8 L/100km以下に抑えることは事実上不可能となっている。

 

メーカー間に横たわる残酷な格差:高級車ブランドの「充電されないPHEV」

この大規模なデータセットは、自動車メーカーやブランド間における実燃費の深刻な格差も浮き彫りにしている。とりわけ注目すべきは、バッテリー容量が大きく、モーター出力も高いはずの高級スポーツカーブランドや大型SUVモデルにおける惨憺たる実態だ。データによれば、高出力なエンジンを搭載するPorscheなどのモデルは最も成績が悪く、現実の燃費は平均して7 L/100kmに達していた。

さらに驚くべきは、これらの高級PHEVが「どれほど充電されているか」というデータである。調査対象となった約11,300台のPorsche製PHEVのデータを抽出すると、電気使用率の中央値は0.0%であった。これは、対象となった車両の半数以上が、購入されてから調査時点までの間(平均走行距離約27,000km)、ただの一度も外部から充電されていないことを意味している。巨大なバッテリーと電気モーターは、日常的な環境性能を高めるためではなく、単なるシステム合計出力の向上や、購入時の税制優遇を引き出すための「免罪符」としてしか機能していない実態がここにある。

対照的に、トヨタ自動車やKia、Renaultといったアジア系メーカーや大衆車ブランドのPHEVは、比較的小型のエンジンを搭載し、燃費性能において公式数値に近い良好な結果を残している。これらの安価なモデルでは、実際に充電が行われる頻度も高く、一部のモデルではCDモード中の燃料消費量が1 L/100kmを下回るなど、高級ブランドに比べて最大85%も少ない燃料で走行しているケースが見られた。この格差は、PHEVの燃費性能が、車両のハードウェア設計の思想だけでなく、それを購入するユーザー層のインセンティブに極めて強く依存していることを示している。

 

ユーティリティファクター(UF)を巡る規制当局と産業界の暗闘

このような現実の燃費と公式数値の乖離を是正するため、現在EUの政策決定の場では「ユーティリティファクター(UF)」と呼ばれる指標の扱いを巡り、激しい対立が起きている。UFとは、PHEVの総走行距離のうち、バッテリー電力に依存するCDモードで走行する距離の割合を統計的に予測し、公式な燃費やCO2排出量を算出するための「重み付け係数」である。現行のWLTP規制では、このUFが現実よりも遥かに高く(つまり、電気で走る割合が過大に)見積もられており、それが公式燃費を不当に良く見せる最大の要因となっている。実際のエネルギーベースでの電気走行割合は、わずか25〜31%程度にとどまっているのが現実である。

EUの規制当局はすでにこの問題に気付いており、2025年と2027年の二段階に分けて、UFの算定基準を厳格化(スケーリングパラメータを引き上げ、より現実的な低い電気走行割合を適用する)ことを決定している。しかし、この規制改正が実行されれば、PHEVの公式なCO2排出量は跳ね上がり、自動車メーカーはEUの厳しい「フリート平均CO2排出量目標」を達成することが極めて困難になる。巨額の罰金を恐れる自動車業界は、VDA(ドイツ自動車工業会)を中心として、このUF厳格化を阻止するための猛烈なロビー活動を展開している。

VDAは、2026年以降に予定されているUF厳格化の凍結を強く求めている。彼らはその代替案として、技術的・行動的な解決策による実燃費の向上を提案した。具体的には、都市部の低排出ガスゾーンに入った際にGPS情報を用いて強制的にEVモードに切り替える「ジオフェンシング(Geofencing)」や、500km走行するごとに充電を促し、充電しない場合は車両のパフォーマンスを制限する「インデュースメント(Inducement:強制充電)」、そしてダッシュボードに電気走行の割合を表示してドライバーの意識向上を図る「ディスプレイの透明性向上」といった措置である。

科学が暴く「代替案」の無力さと、真のゼロエミッションへの針路

しかし、Fraunhofer Instituteをはじめとする研究チームのレポートは、緻密なシミュレーションを用いてVDAの提案する代替措置の効果を完全に否定している。報告書によれば、インデュースメント(500kmごとの強制充電)を導入したとしても、削減できるCO2排出量はわずか2〜3g CO2/kmに過ぎない。また、ディスプレイによる情報提供効果も最大で3〜5%の改善にとどまり、ジオフェンシングに至っては、都市部以外での長距離移動には全く寄与しないばかりか、ゾーン外でバッテリーを温存するためにエンジン稼働を増やすといった逆効果さえ生む可能性があると指摘されている。

現状のPHEVの平均実排出量が約145g CO2/kmであるのに対し、これらの対策をすべて導入したところで、到底WLTPが描くような理想的な数値(約30g CO2/km)には到達しない。報告書の結論は明白である。自動車業界が主張する代替案は、現実と規制の巨大なギャップを埋めるには全く不十分であり、予定されているUFの厳格化を後退させてはならないというものだ。もし自動車メーカーのロビー活動が功を奏し、2025年および2027年のUF見直しが撤回された場合、欧州の道路には実質的に内燃機関車と変わらないPHEVが溢れ続け、今後20年間で最大2,500万トンものCO2が追加で排出されることになると試算されている。

PHEVは、完全なバッテリー電気自動車(BEV)が普及するまでの「過渡期の技術」として位置づけられてきた。しかし、エンジンとモーターの両方を抱え込むという複雑なアーキテクチャは、現実の運用において最悪のシナリオ(充電されないまま、重いバッテリーを積んでエンジンだけで走る状態)を招きやすい。真に気候変動政策に貢献するPHEVを定義するのであれば、少なくとも150km以上の実用的なEV航続距離を持ち、エンジンはバッテリーが完全に枯渇した際の非常用発電機としてのみ機能する「レンジエクステンダー(航続距離延長型)」に近い構造への根本的な転換が不可欠である。さらに、承認時の試験結果だけでなく、OBFCMデータに基づく実走行でのCO2排出量に明確な上限(例えば10g CO2/km)を設けるといった、結果ベースでの厳格な規制が必要とされている。

欧州で進行しているこの規制と現実を巡る戦いは、単なる自動車の燃費基準の微調整ではない。それは、ビッグデータという冷徹な科学的証拠が、長年まかり通ってきた産業界の「グリーンウォッシュ」をいかにして暴き、真のゼロエミッション社会へ向けて政策を軌道修正できるかという、極めて重大な試金石なのである。OBFCMという技術によってもたらされたこの100万台の真実は、もはや見せかけのエコカーが許される時代が終わったことを、我々に強く告げている。

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