「AIエージェントが人間の仕事を肩代わりする」という方向性そのものは、もはや揺るがない。
業界平均22%からの脱却——自己解決率が劇的に変わる
注目すべき数字がある。現在の業界における「チャットボットによる自己解決率」は平均22%程度とされている。つまり、何らかの疑問があって企業のチャットボットに話しかけた顧客のうち、それだけで問題が解決したのはわずか5人に1人。残りの8割は結局、人間のオペレーターに引き継がれていたのだ。
LAMを搭載したバーチャルエージェントは、この構造を根底から変える可能性がある。単なるQ&Aではなく「タスク完了」まで行えるため、自己解決率の劇的な向上が見込まれる。企業にとっては、人間が介入すべき案件を「共感や高度な判断が必要な複雑なケース」に限定でき、コンタクトセンターの運用コストを大幅に抑制できるわけだ。
すでに動き始めている企業もある。プレスリリースによれば、米国の大手地方銀行M&T銀行、エクアドル最大の民間銀行Banco Pichincha、ノルウェー最大の金融サービスグループDNBといった企業が、この新機能の先行検討段階にある。さらに、社名非公開ながらグローバルFortune 500のヘルスケア企業やFortune 50の北米小売企業も検討を進めているとされる。
たとえば米国の大手地方銀行であるM&T銀行は、以前よりGenesys Cloudを導入してコンタクトセンターの近代化を進めており、すでにコスト削減や途中切断の削減といった成果を上げていた。この基盤の上に、新たに発表されたバーチャルエージェントを導入することで、さらなる自動化の高度化を目指している。具体的には、従来の「会話による案内」にとどまらず、CRM(顧客関係管理)、請求システム、サービス運用システムといった複数のバックエンドシステムを横断して、顧客のリクエストを「解決」まで導くワークフローを構築。これにより、単なる効率化ではない、「顧客の意図を理解し、複雑な手続きを自律的に完遂させるオペレーション」の実現を計画しているという。
エクアドル最大の民間銀行であるBanco Pichinchaも、M&T銀行と同様にこの技術の主要な先行検討企業として名を連ねている。同行は、この自律型エージェントを活用して、銀行業務における複雑な顧客リクエストを、人間の介入なしにエンドツーエンドで解決する可能性を模索している。特に従来のボットでは対応しきれなかった、複数のシステム操作を伴う業務をAIに自律的に実行させることで、オペレーション全体の自動化レベルを引き上げることを目指している。
活況を呈する「行動するAI」市場
こうした「行動するAI」を提供しようとしているのは、もちろんGenesys社だけではない。市場はすでに、激しい覇権争いが始まっている。
Genesys社がLAMを前面に押し出す一方で、もう一方の有力企業であるZendesk社は、異なるアプローチで攻勢をかけている。Zendesk社の強みは、180億件以上の実際のサービス対話データで事前学習されたAIだ。導入初日から業界特有の文脈を理解し、解決1件あたり1.50ドルからという価格設定で「低TCO(総所有コスト)」を実現するという。生成AIの自由度と定義済みのフローによる制御を両立させる「ハイブリッド・フロー」や、開発者不要の直感的なインターフェースで、複雑なマルチステッププロセスを自動化できる点も武器だ。
つまり、Genesysがアクションの「深さ」で勝負するのに対し、Zendeskは事前学習データの「量」と導入の手軽さで勝負している構図となっている。どちらが勝つにせよ、「AIエージェントが人間の仕事を肩代わりする」という方向性そのものは、もはや揺るがない。
この他にも、「解決1件あたり0.99ドル」を謳うIntercom Fin、ITサービスワークフローに強いServiceNow、CRMオートメーションのSalesforce Agentforce、多言語対応のCognigy.aiなどがこの市場において競合しており、市場は多極化の様相を呈している。
冷静に見れば、今回のAIエージェントの進化で真っ先に影響を受けるのは、コンタクトセンターのオペレーターや窓口業務の担当者だろう。だが、それだけではない。保険の確認をする事務員、予約を管理する受付担当、返品処理を行うカスタマーサービス、取引履歴を照合する経理担当——こうした「人間が複数のシステムを行き来して処理していた業務」のすべてが、「行動するAI」の射程圏内にある。専門職も例外ではなく、実際に半導体設計支援ツール大手のCadence社は、同社の各種ツールを操作してチップ設計の「検証・不具合修正皇帝」を自動化するAIエージェント「ChipStack AI Super Agent」を発表。今後はそれを単なるツールではなく、「仮想エンジニアを貸し出す」、という形で提供する計画とのことだ。
AIエージェントの自律性はこれからさらに高まり、対応できる業務の範囲は加速度的に広がっていく。「自分の仕事は複雑だから大丈夫」という楽観は、もはや通用しない。複雑な業務を複数のシステムにまたがって処理すること、それこそが新しい技術を搭載したAIエージェントが最も得意とするところなのだから。



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