肉を食べると認知症になりにくい?「APOE遺伝子」と食事の意外な研究
肉なら何でもいいわけではなく、加工されていない赤肉が推奨される
「お肉は健康のために控えたほうがいい」
そんなイメージを持っている人は多いかもしれません。
ところが最近、ちょっと意外な研究結果が報告されました。
アルツハイマー病のリスクに関係する「APOE ε4」という遺伝子を持つ人では、肉を多く食べている人のほうが、認知機能の低下や認知症の発症が少なかった
というのです。
「じゃあ、認知症予防のために肉をいっぱい食べればいいの?」
と思ってしまいますよね。
でも、そこまで単純な話ではありません。
今回は、この研究について分かりやすく解説します。
APOE ε4って何?
APOE(アポイー)というのは、体の中で脂質やコレステロールの運搬に関わっている遺伝子です。
APOEには主に ε2、ε3、ε4というタイプがあります。
εはイプシロンと読みます。
このうちAPOE ε4を持っている人は、アルツハイマー病になるリスクが高いことが以前から知られています。
ただし、APOE ε4を持っているからといって、必ずアルツハイマー病になるわけではありません。
あくまで「発症しやすさに関係する遺伝的要因のひとつ」です。
2,000人以上の高齢者を長期間追跡
今回の研究では、認知症のない高齢者約2,100人を対象に、食生活や認知機能を長期間追跡しました。
研究者が注目したのが、
「肉をどのくらい食べているか」
という点です。
さらに参加者をAPOEの遺伝子型によって分け、
「遺伝子型によって、肉と認知症との関係が違うのではないか?」
ということを調べました。
ここがこの研究の面白いところです。
APOE ε4を持つ人では意外な結果に
その結果、APOE ε4を持つ人では、
肉を多く食べている人ほど、認知機能の低下が緩やか
という関連が認められました。
さらに、肉の摂取量が多いグループでは、少ないグループに比べ、
認知症を発症するリスクが約55%低かった
という結果も出ています。
かなり大きな差なので、驚きますよね。
一方で、この関連はすべての人に同じように認められたわけではありません。
特にAPOE ε4を持つ人で違いが見られた、という点が重要です。
「肉なら何でもいい」わけではありません
さらに詳しく肉の種類を調べてみると、特に注目されたのが
加工されていない赤肉
でした。
つまり、牛肉や豚肉などの肉そのものです。
一方で、
ハム
ソーセージ
ベーコン
といった加工肉について、同じような効果が確認されたわけではありません。
ですから、
「認知症予防のためにソーセージやベーコンをたくさん食べよう」
という話ではありません。
なぜ遺伝子によって違うの?
ここはまだ、はっきり分かっていません。
ただ、APOEはもともと脂質やコレステロールの代謝に関係している遺伝子です。
そのため、
APOEのタイプによって、肉に含まれる脂質や栄養素の利用の仕方が違う可能性
が考えられています。
肉には、
ビタミンB12
鉄
亜鉛
タンパク質
脂質
など、脳や神経の機能に必要なさまざまな栄養素が含まれています。
こうした栄養素の影響が、遺伝的な背景によって変わる可能性があるわけです。
近年注目されている「precision nutrition(個別化栄養)」という考え方にもつながります。
つまり、
「すべての人に同じ食事がベストとは限らない」
ということです。
ただし「肉を食べれば認知症予防」とは言えません
ここは非常に大切なので強調しておきます。
今回の研究は、「肉を食べるように指示した実験」ではありません。
普段の食生活を調べて、その後の認知機能や認知症発症との関連を調べた「観察研究」です。
そのため、
肉をたくさん食べた
↓
認知症になりにくくなった
という因果関係までは証明できません。
例えば、肉をよく食べられる人は、
体が元気だった
食欲があった
経済的に余裕があった
活動量が多かった
など、別の要因が影響している可能性もあります。
研究ではさまざまな要素を統計的に調整していますが、すべての影響を完全に取り除くことはできません。
ですから、この研究だけを根拠に、
「APOE ε4を持っている人は肉を増やすべき」
と結論づけることはできません。
この研究で本当に面白いところ
私がこの研究で一番興味深いと思ったのは、「肉が良いか悪いか」ではありません。
同じ食べ物でも、その人の遺伝的背景によって健康への影響が違う可能性がある
という点です。
これまで栄養については、
「赤肉は減らしましょう」
「この食品を食べましょう」
というように、全員に共通するルールとして語られることが多くありました。
でも実際には、
遺伝子
年齢
性別
腸内環境
生活習慣
持病
などによって、食事の影響は変わる可能性があります。
これからは、
「何を食べるか」
だけではなく
「誰が食べるか」
という視点も、ますます重要になってくるのかもしれません。
まとめ
今回の研究では、
APOE ε4を持つ高齢者では、肉の摂取量が多い人ほど認知機能の低下が少なく、認知症発症も少なかった
という興味深い結果が報告されました。
ただし、これはあくまで観察研究です。
現時点では、
「認知症予防のために肉をたくさん食べましょう」
とは言えません。
それでも、
「健康に良い食事は全員同じとは限らない」
ということを考えさせてくれる、とても興味深い研究だと思います。
栄養の世界もこれから、
「万人に共通する健康法」から、
その人の遺伝的背景や体質に合わせた食事
へと変わっていくのかもしれません。



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