国民民主党の凋落が止まらない。JNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク)が5月31日と6月1日に行った世論調査では、国民民主党の政党支持率は前回比3.4ポイント減の6.8%。同2.6ポイント上昇で8.2%となった立憲民主党に逆転された。

主因は、5月14日に国民民主党が発表した山尾志桜里氏(戸籍名:菅野志桜里)、足立康史氏、須藤元気氏、薬師寺道代氏の公認問題だ。同党の玉木雄一郎代表は6月3日の定例会見で、「前回の調査は5月5日で、4人の公認発表は5月14日。影響を受けているのはそのとおりだと思う」と、“失策”を認めざるをえなかった。

そして、これまで記者会見を行わなかった山尾氏に対して、「当選したいと思うなら、しっかりと説明しないといけないし、そうしないと当選しないと思う」とも述べた。

だが、実際にはそうではない。

玉木氏が見落としている比例区の盲点

参議院選挙の比例区では、政党名と候補者名で投票でき、候補者名の得票数が多い順に当選が決まる。国民民主党は、自動車総連(全日本自動車産業労働組合総連合会)や電力総連(全国電力関連産業労働組合総連合)、UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)、電機連合(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)といった組織内候補を抱えている。彼らがまず議席を獲得し、残りを非組合候補が獲得することになる。

昨年10月の衆院選で得た617万2434の比例票から、国民民主党は次期参院選で6議席から8議席を得ると推測された。もっとも、玉木氏は比例票の獲得目標を1000万票と掲げており、それが実現すると一気に10議席も確保できることになる。

そうすれば、その名を一躍有名にした不倫問題に加えて、多額のガソリン代やコーヒー代を政治資金収支報告書に掲載していた点、さらにはJRパスの不正使用疑惑など“話題”に欠かない山尾氏が、組織内候補に次ぐ票を獲得することは間違いない。

もしかしたら、山尾氏は一部の組織内候補の得票数を上回るかもしれない。今年2月の千葉県知事選で、県内でほとんど活動しなかったNHK党の立花孝志氏の例がある。

立花氏は昨年の東京都知事選で「ポスター枠の販売問題」が物議を醸したうえ、11月の兵庫県知事選に出馬して「2馬力選挙」(当選の意思のない候補者が他の候補者の当選を目的として立候補すること)を展開。千葉県知事選にも出馬し、「当選することを目指さない」と公言したが、県内だけで7万9060票も獲得した。

ちなみに2022年の参院選比例区で、国民民主党内で次点だった電機連合の矢田稚子氏の得票数は15万9929票だった。山尾氏がそれを上回る可能性もゼロではない。だからどんなに批判されようと、山尾氏は動じないのだろう。

山尾氏が答えたインタビュー内容の論理矛盾

もっとも、山尾氏は会見を行っていなかったものの、個別取材には応じてきた。5月20日に配信された「Japan In-depth」のインタビュー動画に登場し、「全国の方に自分がやりたいこと、やってきたことをどう届けるのかというのは、ものすごい高い高い、本当に雲をつかむような挑戦だ」と意気込んだ。

また6月3日の産経新聞のインタビュー記事では、「国会議員として再起を期するにあたり、反省のうえの覚悟を行動で示したい」と語っている。

しかし、これらで「十分な説明」とは誰も思うはずがない。「自分の都合のいいメディアを選んでいるのではないか」との疑念すら募った。

産経新聞のインタビューでは、国民民主党の支持率低下について「(自分が)一因を担っているのは確かだ」と認め、「それでも国民民主を国政政党として支えていく資格をいただければ、(中略)仕事でしっかり貢献したい」と殊勝に述べている。だが、党への貢献どころか、山尾氏の存在自体が国民民主党の足を引っ張っているのが現状だ。

そして、ついに6月4日、山尾氏は会見を開く決意を表明した。きっかけは、その前日に民主党の2009年初当選組の同期会があり、励ましを受けたことだったという。

だが、それで国民の抱く疑念は払拭できるのか。国民民主党が山尾氏を含む「4人衆」を参院比例区にノミネートしたのは、昨年10月の衆院選で新人議員が大きく増えたが、「即戦力」に欠けていたためとされた。そして、政策能力以前の問題が相次ぐことになったのだ。

岡野純子氏のパワハラ問題や、平岩征樹氏の身元を偽った前代未聞の不倫事件のほか、丹野みどり氏には週刊誌による秘書へのパワハラ報道に加えてペロブスカイト太陽電池をめぐる経済安全保障上の疑惑も発生している。なお比例復活当選の平岩氏には、議員辞職を求めずに離党を許し、党としての責任を放棄した。

国民民主党が最も留意すべきは党のガバナンスの維持であり、候補者選定で人物眼を光らせることだった。とりわけ党が急速に拡大しようというときには、まずは問題を起こさないこと、そして“悪目立ち”しない候補を選ぶ必要がある。それは「議員としての経験」よりも重視されるべき属性であるはずだが、その意味で国民民主党は“おきて破り”を行ったといえる。

「4人衆」公認の裏でささやかれる“陰謀論”

何よりの問題は、候補者選定に“私情”を入れてはならず、党内でのコンセンサスを得る必要があったのに、それができなかった点だ。山尾氏も足立氏も、いったんは党内で公認を拒否された。にもかかわらず、先月14日に「4人衆」として公認内定がまとめて発表された。

その理由について、ある関係者は「山尾氏も足立氏も、玉木代表が無理やり入れた。だからこそ、問題をはらむ候補を複数同時に公認内定することで世間の批判を招き、彼らに自発的に公認を辞退させようと一部の執行部が画策した」と述べている。

ところが、その思惑はまるっきり外れ、せっかく上向きになった党勢は悪化する一途。JNNの調査はそのプレリュード(前奏曲)にすぎないとみるべきだ。

「数字は上下するものだ」などと楽観視していても、状況の悪化は止められない。そもそもポイント・オブ・ノーリターンを超えたことは、玉木氏の「エサ米」発言が騒動になったことでもうかがえる。党が上昇気流に乗っていた頃なら、この発言はここまで炎上しなかったはずだ。

国民民主党は支援者との距離の近さが強みだったが、それも今回は裏目に出たようだ。同党支持者は「政策重視」を標榜しているが、実際にひかれているのは小政党ゆえの政治家との親近感だろう。それが「4人衆」を加えることで大きく変化しかねないという危惧を、多くの支持者は本能的に抱いている。

そうした声を聴き入れなかったのは、政治家の“おごり”にほかならない。たとえ山尾氏が涙の会見を開こうとも、愛想笑いを浮かべて弁明しようとも、そうした“汚点”を払拭できる保証はない。国民民主党はいったいどこまで堕ちていくのか。

(安積 明子 : ジャーナリスト)