【なまはげより怖い…】出生率29年連続ワースト「日本一の高齢化県・秋田」で起きている「悲惨すぎる若者離れ」の現状
観光客の姿はほとんど見えず、市内の中心部を歩いても、寂れている感は否めなかった。平日の昼過ぎにもかかわらずシーンと静かで、人影はほとんど見当たらない。
聞こえるのは救急車のサイレンだけ
「早晩、仙北市は消滅すると思います。子供がいない。仕事も少ない。高齢化には歯止めがかからない。税収もギリギリで、夕張市ではありませんが倒産の半歩手前なのです。
街では子供どころか人の声すら耳にしません。聞こえるのは救急車のサイレンくらいのものです。世間話をしていた近所の人たちも次々と亡くなっていく。怖いですよ。
ここには働く場所がないので若い人は定住せず、若い人がいないので子供も増えない。地域の活気がなくなると、観光客も素通りする。完全な悪循環です。私を含めて、住民は国に見捨てられたという意識を持っています」
秋田県仙北市の商工会に所属する食品会社経営者の小川悠氏(仮名、67歳)は、市の現状をそう嘆いた。
秋田県東部に位置する仙北市には、国内でも指折りの観光資源がある。日本一深い湖である田沢湖の周辺には、乳白色の泉質で知られる乳頭温泉や、日本一酸性度の高い玉川温泉がある。雪の回廊で名高い八幡平や、武家屋敷の連なる角館など見どころも多い。
しかし、本誌記者が現地を訪ねた5月中旬、観光客の姿はほとんど見えず、市内の中心部を歩いても、寂れている感は否めなかった。平日の昼過ぎにもかかわらずシーンと静かで、人影はほとんど見当たらない。
屋根が朽ちた空き家、廃墟になったホテルにパチンコ店、飲食店も蔦が絡みついたまま放置されている。親不孝通りと呼ばれる繁華街もシャッター街となっている。
「ホテルや旅館は、コロナでいくつも潰れました。生き残ったホテルも従業員が集まらないから、部屋が空いていても客を入れられない。フロントに人はいても、掃除や洋室のベッドメイキングまで手が回らない。和室だと、布団を敷くのは客の役目になっています」(同前)
だが、こうした状況は仙北市に限った話ではない。秋田県は超高齢化県であり、少子高齢化の最前線と言われているからだ。
町中にもクマ出没
’23年、秋田県の出生率は29年連続で全国最低、’24年の出生数は3540人で統計史上最少を記録した。県の人口全体に占める子供の割合も、8・8%と全国最低で、少子化率も14年連続で全国1位を独走している。
もちろん、高齢化率も全国トップの39%、2050年には国内最速で50%になる見込みだ。
ちなみに人口10万人あたりの死因別死亡率では、脳血管疾患が3年連続で全国1位だ。秋田県に脳血管疾患が多い背景には、しょっぱい味付けを好む県民性があると推測される。塩分を摂りすぎると高血圧になり、脳梗塞や脳出血を引き起こしやすくなるからだ。
なぜ、秋田県では他県に比べて、ここまで少子高齢化が進んでいるのか。地元紙記者が嘆く。
「まず、最低賃金が全国で最も低い(951円)ので、より良い条件を求めて県外に行く人が多い。仕事が少ないので、若い人がどんどん出ていってしまいます。
首都圏からも距離的に遠く、雪が多い時期には交通も不便になるので、秋田は人の往来が少ない。最近は町中にもクマが出てきて、さらに人が住みにくくなっています」
県内には「やりたい仕事がない」
また、秋田に根強く残る保守的な風土も少子高齢化を加速させている。出生率に直結する若い女性の流出が止まらないのだ。ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏が解説する。
「首都圏に住む東北出身の女性2300人にアンケート調査したところ、東京に出てきた理由の中でダントツで多かったのが『やりたい仕事・やりがいのある仕事がある』でした。
秋田の若い女性にとって、母親世代のイメージが専業主婦かパートしかない。’20〜’23年には、10代後半から20代の女性が同世代の男性の1・6倍も県外に出ていきました。
秋田の会社の採用試験を受けた女性は、『最初から面接官として高齢の管理職が出てきて、威圧的で怖かった。〈女性を採ってないわけじゃないけどね〉と言いながら、結局は男性が欲しいのだと感じた』と言っていた。令和の時代にこれでは、若い女性に選ばれるわけがありません」
そんな秋田では、あらゆる団体・コミュニティで高齢者が多数派を占める。秋田県議会では60歳以上が41人中26人、市議会でも36人中23人という状況だ。県内の若手議員の一人はこう語った。
「何とかしなければいけないことはわかっているものの、法案を出しても通らない。高齢議員には現状を維持する思考が根付いていて、新しいことをやろうとする意欲もないのです」
後編記事『《実を言うと、秋田はもうだめです。》終わりの合図は「少子化対策の法案否決」、シルバー民主主義・秋田県の「手遅れすぎる惨状」』へ続く。
「週刊現代」2025年6月9日号より
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