日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が本サイトで現代のトレンドを徹底解説。今回はキャッシュレス時代において見直される“現金払い”に注目。

 キャッシュレス決済が浸透する一方で、意外にも「現金のみ」の店舗が増加しています。経済産業省のレポートによると、2025年1〜3月だけで1172店舗がキャッシュレスを止め、現金払いに戻りました。

 背景には端末コストや手数料負担、支援制度の終了など、経営上の課題があります。特に小規模店ではこの傾向が顕著です。

 キャッシュレス化が進んだ要因のひとつに、2019年の「キャッシュレス・ポイント還元事業」があります。この施策で小規模店舗へのキャッシュレス導入が進み、わずか数ヶ月でキャッシュレス決済比率は29%から36%へと急上昇しました。さらに、スマホ決済の普及やコロナ禍の非接触ニーズも追い風となりました。

 しかし、便利な一方で負担もあります。クレジットカード決済では約3%、QRコード決済でも1.6~2.45%の手数料がかかり、月の売上が1000万円の店では30万円もの負担に。地元の飲食店や雑貨店などでは、これが経営を圧迫する原因となっています。

「この前、現金のみの店にぶち当たって困った」「せめて入口に大きく書いておいてほしい」といった声もあり、キャッシュレス前提の消費者にとって、現金のみの店舗は不便に感じられるようです。

「キャッシュレス決済が普及した一方で、店舗側のコスト負担が重くなり、現金払いに戻すケースが増えています。特に地域密着型の小規模店では価格競争力を保つために現金割引を導入する動きが見られ、消費者も賢く支払い方法を選ぶ必要があります」(生活情報サイト編集者)

■大手企業にも広がる現金回帰

 現金回帰の動きは大手にも広がっています。ファミリーマートの一部店舗では「現金・ファミペイでのお支払いをお願いできれば幸いです」とのステッカーが掲示され話題に。ファミペイなら手数料が抑えられ、店舗側にも消費者にもメリットがあります。

 とはいえ、全国的に現金回帰が進むとは限りません。都市部ではキャッシュレスの利便性やデータ活用が評価され、導入がさらに進むでしょう。一方、地方の小規模店では現金の利点が再評価され、二極化が進むと見られます。

 2024年のキャッシュレス比率は42.8%と政府目標の「4割」を突破しましたが、次の目標は「8割」です。ただ現場からは「手数料が厳しい」との声も上がっており、万能な解決策とはいえないのが現実です。

「ネットに書きたくない名店って、現金のみのところが多いよね」という声もあり、現金だからこそ静かに営業を続けられる店もあります。

 さらに、観光地では外国人観光客が多く訪れる一方、現金しか使えない店舗も少なくありません。結果として、「日本は先進国なのに現金文化が残っていて驚いた」といった声が海外から上がるケースもあります。観光客にとっては不便な側面がある一方で、現金主義を貫くことで地元との接点やコミュニケーションが生まれるという側面もあります。

 キャッシュレスと現金、どちらが正解というより、それぞれの店舗に適した選択が求められる時代が始まっているようです。