中東の戦争で、肥料の原料である「尿素」の生産がイランにおいて完全に停止。
ホルムズ海峡閉鎖の行方も含めて、大きな農業危機につながる可能性も
また戦争により大きな肥料問題が起きている
2022年にロシアとウクライナの戦争が起きた時に、食糧の問題に直結する問題として発生したのが、
「肥料危機」
でした。
肥料の生産には、多くのエネルギーが必要であり、ウクライナ戦争の時には、ガスなどのエネルギー価格も非常に上昇したことで、肥料価格は 2022年に信じられない上昇を見せました。
2020年からの肥料価格の推移
日本経済新聞
このグラフを見ますと、戦争の起きた 2022年よりは価格は下がっていますが、ここで、さらに肥料供給に問題が起きると、2022年を上回っても不思議ではないレベルです。
なお、日本においては、「肥料は、ほぼ 100%が輸入」となっていて、自国生産はほぼありません。肥料の主要な要素であるのは以下のようなものですが、日本の肥料自給率は以下のようになっています。
・尿素 10%
・リン鉱石 0%
・カリ鉱石 0%
話は逸れますけれど、本当に、日本という国はいろいろなものを自給できていない国で、2022年に肥料の問題が言われていた頃、
「日本は塩もほとんど自給できていない」
ことを知りました。
塩ですよ、塩。
こちらに当時の食品新聞の記事を引用していますが、そこに、
> 有事に備えた食料安全保障の観点から、日本の塩自給率 11%程度という低さは看過できない状況だ。
という記述があり、日本は塩も 9割を輸入に頼っていることを知ります。
食糧安全保障の観点からは、日本は主要国で最低レベルのラインにあると思っていますが、政治のことはよく知らないですし、いろいろな議題もあるのでしょうけれど、食糧安全保障は最も重要な議題のひとつのはずです。
本来なら、一時的なコメの価格がどうだこうだ言っている場合ではありません。
まあ、話を肥料に戻しますと、現在の世界で行われている大規模栽培では、肥料がないと農作というのは存在し得ないわけですが(個人的な無肥料農法なら可能です)、2022年には、世界中の農家が、エネルギー高騰と、肥料の高騰に苦しめられた時でした。
2022年には、以下のようなことがありました。
・2月にロシアが肥料の輸出を停止 (記事)
・ノルウェーにある世界最大の肥料メーカーがガス価格高騰により生産を大幅に削減 (記事)
このようなことがいろいろと起きていました。
日本の肥料価格も先ほどのグラフの通りに急上昇していましたが、もし、
「また肥料危機が起きたら?」
となると、農家の方々も、そろそろ耐えられない状況になってくるのではないかとも思います。
そんな中で、イランとイスラエルの戦争が起きているわけですが、ここにもまた、今後の肥料問題を悪化させる可能性が存在しています。
何より問題なのは、まだ実行はされていないですが、
「ホルムズ海峡の閉鎖」
がなされた場合、エネルギー価格が大幅に上昇する可能性があります。イラン議会は、すでにホルムズ海峡の閉鎖を承認していて、あとは、イランの最高国家安全保障会議というところで決定された場合、ホルムズ海峡は閉鎖されます。
ホルムズ海峡が閉鎖されても、アメリカやヨーロッパはさほど影響は受けないかもしれないですが、日本を含むアジアと中国は直接的に非常に大きな影響を受けます。
AI によると、ホルムズ海峡を経由して日本に輸入される原油の割合は、以下のようになっています。
ホルムズ海峡を経由して日本に輸入される原油の割合は、最新のデータに基づくと約80%から90%と推定されています。この割合は年によって若干変動があり、2022年や2024年の分析では80%前後が示されていますが、一部の情報では90%に近い依存率も報告されています。ホルムズ海峡は日本のエネルギー供給において極めて重要なルートであり、中東産原油の大部分がこの経路を通ります。 Grok
中国(イランから多くの原油を輸入しているとされる)との関係を考えると、イランもそう簡単には、ホルムズ海峡の閉鎖を決定するとは思えないですが、しかし、「さらなるイランへの攻撃」などがあった場合は、実施される可能性もあるかもしれません。
エネルギー価格が途方もなく上がれば、また農家の経営にも非常に悪い影響を与えます (もちろん一般の生活にも重大な影響が出ますが)。
そして、このイランの戦争で起きたことが、もうひとつ報じられていました。
それは、
「戦争によりイランの尿素生産が停止した」
のです。
尿素は肥料の重要な成分のひとつです。
イランは尿素の重要な輸出国で、2024年には尿素輸出量で世界第 3位であり、輸出量は約 450万トンで中国とほぼ同規模だったとのこと。
その生産が停止したことにより、また肥料市場に混乱が生じる可能性が出ているのです。
その記事をご紹介します。
中東戦争でイランの尿素生産が停止し、世界の肥料市場は混乱に陥る
Global Fertilizer Market Thrown In Chaos After Mideast War Shutters Iran Urea Production
zerohedge.com 2025/06/22
アグリパルス誌のオリバー・ウォード氏は、「中東で紛争が再燃し、イランの尿素生産が停止したことで、世界の肥料市場に波紋が広がり、ロシアと中国からの供給をめぐる既存の不確実性が高まったとアナリストがアグリパルス誌に語った」と報告している。
「商品分析会社ストーン X 社の肥料担当副社長、ジョシュ・リンビル氏は、尿素生産に使われる同国の天然ガスインフラへの攻撃によって、操業も停止していると語った」とウォード氏は報告した。
ストーン X 社によると、イランは 2024年に尿素輸出量で世界第 3位となり、輸出量は約 450万トンで中国とほぼ同規模だった。ミラム氏はさらに、イランの生産能力は年間約 890万トンで、トルコ、ブラジル、アルゼンチンなどの市場に供給していると付け加えた。イランはアンモニアの輸出国でもある。
「今回の攻撃は、イランの尿素生産を停止させただけでなく、エジプトの操業も停止させた」とウォード氏は報告した。「イスラエルは金曜日 (6月20日)にエジプトへの天然ガス供給を削減し、同国は生産を停止した」
AgWeb 誌のマージー・エッケルカンプ記者は、以下のように報じた。
リンビル氏の同僚であるストーン X 社のアーラン・スダーマン氏は、以下のように報じ、両国の生産に懸念がないにもかかわらず、なぜこの紛争がこれほど注意深く監視されているのかを詳しく説明している。
「中東には他にも多くの肥料生産国があり、その多くがホルムズ海峡を通過しているため、今後ホルムズ海峡は危険にさらされるだろう」とスダーマン氏は述べている。
「世界的な供給の観点から、スダーマン氏はまた、2週間前にウクライナがロシア最大の窒素肥料工場の一つを攻撃したことを指摘している」とも報じている。
「主要な肥料生産地域で紛争やストライキが継続中または新たに発生しているため、リンビル氏はその潜在的な影響に注目する必要があると予測している」とエッケルカンプ氏は報告した。
「現時点では、両国の肥料生産に大きな影響はないと考えているが、これを考慮しないのは少々愚かなことではあり、非常に注意深く見守っている」と彼は述べた。
また、ウォード氏は、 「アナリストらによると、中国が肥料輸出を継続的に縮小していることが、供給と価格への懸念をさらに悪化させている。中国のリン酸塩と尿素の輸出はいずれも過去の水準を下回っている。中国は通常、年間約 550万トンの尿素を輸出しているが、リンビル氏によると、今年は北京が輸出を許可する量は約 200万トンにとどまる見込みだ」と報告した。
「様々な要素が絡んでいる」とリンビル氏は述べ、尿素供給の不確実性を高めている」とウォード氏は報告した。
米国の農家は、多くの農家が肥料を本格的に購入するのは今年後半になるであろうため、短期的な価格ショックの影響はある程度受けない。しかし、ミラム氏は、供給の不確実性が続けば、米国の買い手にとって「あらゆる複雑な問題」が生じる可能性があると述べた。
報道で、ミラム氏は「それが起こるかどうかは断言できない」と述べた。リンビル氏は、2026年の価格安定を期待する農家にとって、中国市場の後退は『相当な懸念事項』になるはずだ」と述べた。
ここまでです。
要するに、主要な肥料の輸出国である、イラン、エジプト、ロシア、ウクライナ、中国などの「すべて」で、肥料の問題が発生しているようなのです。
これに加えて、ホルムズ海峡が閉鎖された場合、多くのエネルギーをホルムズ海峡経由で得ている日本では、さまざまな分野での価格上昇は避けられないと思われますので、2022年を上回る農業危機が訪れても不思議ではないのです。
上の記事にもありますように、本格的な影響として現れるのは、今年後半となるようですが、農家の方も、あるいは一般の方々も、状況を注視しながら、何らかの手は打ったほうがいいのではないかとも思います。
今年は天候のほうも気になりますし、それと共に、8月頃に向かって、世界や社会でどんな変動が起きるかわからないですので、今年は食糧問題に関しては、かなりセンシティブな年になりそうな気はします。
まあ、今年が仮に大変な年になった場合、来年以降はもっと大変でしょうけれど。
最初のほうにも書きましたが、日本は本当にさまざまなものが自給できていない国で、政府の農業支援策にもまるで期待できないですし(むしろ農家をいじめてる)、そういう状況では、農家を子どもに継がせようと思う農家さんもますます減っていくと思われます。
戦争が多発しかねない時代に、あるいは、とてつもない金融危機が来ないとも限らない時代に、
「食糧なんて海外から買えばいい」
という思想が続いていくのは完全に幻想です。ほんのこの数十年間、それができていたというだけの話です。
そういう幻想を捨てる時代が近づいていると思われます。
コメント