窮地のイラン、世界の石油取引混乱させるリスク-ホルムズ海峡に注目
「1、2日間なら閉鎖されるかもしれないが、1週間以上にわたる封鎖は考えにくい」
米国によるイラン核施設攻撃を受け、イランがこれまで他国との紛争で使ってこなかった選択肢への注目が高まっている。ホルムズ海峡などを通じた石油取引の妨害だ。
イランは、世界の石油供給の2割が通過するホルムズ海峡の封鎖をこれまでも度々示唆してきた。ただ実際には、最大の石油購入国である中国など同盟国への影響を抑えつつ敵対国に打撃を与える、より穏健な手段も幾つか持つ。
ホルムズ海峡の完全封鎖が数時間、あるいは数日を超えて続くといった最悪の事態については、多くの専門家は実現可能性が低いとみている。現実となれば石油供給は遮断され原油価格は急騰し、世界的なインフレ加速や成長鈍化につながる恐れがある。
20日まで、ホルムズ海峡を通る石油輸送への今回の紛争の影響は比較的限られていた。イランからの出荷量は急増しており、海峡を通る石油タンカーの動きもおおむね安定していた。
それでもギリシャ海運当局は22日、同国の船主に対して同海峡の利用を見直すよう促した。
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米国の攻撃に対する報復としてイランが石油に照準を定める場合、ホルムズ海峡に面する自国の海岸線を活用し、さまざまな選択肢を取ることができる。船舶への嫌がらせといった、影響が限定的な手段から、商業貿易のための通行を不能とするドローン・機雷・爆弾によるタンカー攻撃まで選択肢は広い。
コロンビア大学のグローバルエネルギー政策センターの非常勤フェロー、ダニエル・スターンオフ氏は、「もしイランがホルムズ海峡で行動を起こすと決断すれば、その形は多岐にわたる」と米国の攻撃前にポッドキャストで述べ、「さまざまな結果をもたらす、非常に多くのシナリオや不確実な要素を挙げられる」と説明していた。
イランは、最終的に石油供給を妨げるような行動を回避する可能性もある。最近は、供給に対する脅威が結果的に実現しなかった事例も数多く存在する。
いかなる行動を取るにしても、イランは自国エネルギーインフラへの報復の可能性や、供給が途絶えた場合に中国との関係が悪化するリスクを慎重に考慮する必要がある。中国にとって重要な石油供給源である自国の出荷が標的となる可能性も踏まえなければならない。
イスラエル、米国との紛争により、タンカーや広範な地域の石油インフラに対するイランの攻撃能力は低下し、妨害につながるような報復が困難になっている可能性もある。また西側諸国は航路が脅かされた場合、力を行使してでも船舶の保護を図るだろう。
完全封鎖
ホルムズ海峡を巡る最悪のシナリオは、完全かつ長期にわたる封鎖だ。この地域から日量2000万バレルの原油や燃料が出荷されているが、その代替となる海路は存在しない。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」のメンバーであるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は理論上余剰生産能力を持つものの、ホルムズ海峡以外の輸出ルートは非常に限られている。
海運調査コンサルティング会社ドルーリーのディレクター、ナビン・クマール氏は「われわれはホルムズ海峡がいかなる状況でも閉鎖されるとは考えていない」とし、「1、2日間なら閉鎖されるかもしれないが、1週間以上にわたる封鎖は考えにくい」と指摘している。
イランは過去にも何度か通行を遮断すると脅したことがあるが、実際に実行に移したことはなく、実行のための軍事能力があるかも不明だ。バンス米副大統領は22日、ホルムズ海峡封鎖についてイラン経済にとっての「自殺行為」だと警告している。
原題:How a Cornered Iran Could Wreak Havoc on Global Oil Trade (1)(抜粋
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