「青切符問題」で改めて露呈した日本の道路インフラの”欠陥”
青切符パブコメの焦点は「歩道」
このところの自転車関連報道ではかなり注目されたと思うのだが、来年4月から「自転車のルール違反にも青切符を導入し、反則金を徴収する」とということになった。
対象となる交通違反は113項目もあるので、どんな行為が取り締まられるかを知りたい方は、前回記事の図表1・2を参照してほしい。
※歩道を走る自転車は全員「反則金6000円」?…日本の危険な道路で始まる「青切符取り締まり」への最大の懸念
テレビや新聞で「これからは歩道走行していると青切符が切られます」などということが喧しく報道され、これに関して警察庁が1カ月間、パブリックコメントを募集した結果、5926件もの意見が寄せられたという。
反則金が高すぎる、いや、安すぎる、などの指摘なども色々あったそうだ。しかし、最も反応があったのは次の項目だった。
「歩道通行しただけで反則金の対象になるのか」
「現状を見ると、自転車で車道を走るのは恐い」
「まずインフラを整えてからでないと、自転車が歩道を出ることはできない」
つまり歩道の自転車に関して青切符が切られることに対しての不安、というより反対意見だった。パブコメ・マジョリティは圧倒的に「現状で自転車が車道を走るのは無理」だったのだ。
やはりママチャリの車道走行は推奨できない
私は車道を走ることが不可能だとは言わない。というより、私自身はほぼ100%、自転車で車道を走る。乗っているのはロードバイクかクロスバイク。要するにスポーツ系でヘルメットも常時かぶっている。
そして、私自身は「長い目で見たら自転車は非歩道を走るほうが事故は減る」ということを知っている。欧州自転車先進国を見れば一目瞭然だ。だから今日も車道を走る。
ただ、現状の日本のママチャリや低速域で走る高齢者の自転車を見ると、彼ら・彼女らにそれができるとは思わない。特に、前や後ろに小さな子供を乗せた若いママたちだ。車道に出ろ? 何を言ってるんだと思う。歩道とは彼女たちを守るためにあるんじゃないかとすら思う。それに現状の車道を見たことがあるのかと。
通せんぼする車を解消しないと実現不可能
違法駐車がずらりと並び、自転車レーンすら通せんぼをしている。こんな場所を、危険を避けながらママチャリが走るのは不可能だろう。少なくとも現状のインフラを再構築し、取り締まりを強化しないと(自転車だけじゃなくドライバーに対しても)、「自転車は車道」は実現不可能だ。
パブコメではそのことが指摘され、そのことに警察も反応した。
NHKの報道によると警察の見解はこうだ。
一見「なるほどそうか」と思う。
ところが、その「危険行為」が何かというと、たとえば「スピードを出して歩道通行し、歩行者を驚かせて立ち止まらせた場合」などだという。
普通に走っているだけで「危険行為」に
では、そのスピードとはどの程度かというなら「徐行ではないスピード」のことになるそうだ。では徐行とはどの程度か。警察庁の見解では「何かあったときにすぐに停まれる時速7.5キロ程度以下のスピード」だそうだ。
しかし、自転車の平均的な速度は時速20キロ前後、よほど遅いママチャリでも時速15キロ。つまり、現状、全員違反なのだ。今現在、歩道を走ってる自転車は全部取り締まり対象。反則金は6000円。
だから、無理なんだと警察だって分かってるだろう。取り締まる人数だって足りない。
「セーフ」「アウト」の境界線が不透明
だいいち誰が判断するんだろうか、その「危険行為」を。アンパイア(審判員)が必要な違反を取り締まるのは無理なのだ。
このままでは今回もまた同じだ。また「2週間程度のキャンペーンやって、運が悪いスケープゴートを捕まえて、テレビに『危険ですね』『自転車もマナーを守って』と言わせて、期間が過ぎたら元の木阿弥。
せっかくの青切符もまた不発、大失敗だ。残念なことだ。
パブコメ、もちろん私も出したが、警察に言いたいのは次のことだ。
「これは危険なんだ」と理解できるか
自転車の青切符導入には賛成ですが、ぜひ実効性を確保してください。この「実効性」こそが最も重要です。いつものように2週間程度マスメディアを集めて取り締まりパフォーマンスに終わるのではダメです。その実効性を確保するために以下のことを提案します。
今回の政令案で示された反則行為の項目(113項目)は、多岐にわたり、というより、多岐にわたりすぎ、いかにも総花的で、歩行者や自動車運転者はもとより自転車利用者や警察官双方にとっても、理解と運用が困難になることが懸念されます。
現状を鑑みて、たとえば「歩道走行の取り締まり」など、実効性があるでしょうか。取り締まりというものは「捕まったのは(反則金とられたのは)運が悪かった」になると最悪です。
「なるほど、これは危険なんだ、事故に直結するんだ」と違反者に分からせなくてはなりません。そのためには取り締まりの重点項目を絞り込むべきです。
重点項目とは事故に直結するであろう項目です。例えば、信号無視、通行区分違反(車道逆走)、遮断踏切侵入、携帯電話使用、と、この程度で十分です。飲酒はもちろん赤切符。
逆に、113項目の中には「泥はね運転」「合図不履行」「警音器使用制限違反」などというものが存在しますが、こんなものの取り締まりに、事故防止の意味などほぼありません。歩道通行や徐行場所違反なども、次のキャンペーン以降にまわすべきです。
標的にすべき「言い逃れができない違反」
青切符は自転車事故を減らすための切り札でしょう。いわば千載一遇のチャンスなのです。今なすべきは「こんな危ないことをすると、自転車も青切符で取り締まるんだぞ」「今回は本気だぞ」という気合と実行です。
そして、そこにアンパイアが要るものをもってきてはなりません。行為自体が確実にダメなもの。言い逃れがきかないものを重点的に取り締まってください。つまり「徐行違反」などは、今回はいらないのです。
この点、「信号無視」「逆走」「携帯ながら」「遮断踏切侵入」などは本人も悪いと分かってやる事項です。ここに限定して「これだけは厳格に青切符を切る」と、ここが肝要です。
重点化の判断基準として、次のものが挙げられるでしょう。
● 重大性(他人に損害を与える確率や程度が大)
● 明確性(違反が明確に判断できる)
● 回避容易性(他の手段を選ぶことで反則行為を回避することが容易)
これらの観点から取り締まり対象を絞り込んでください。
また、このように重点化された反則行為については、テレビ、ラジオ、新聞、インターネット、SNS等あらゆるメディアを活用して自転車利用者のみならず歩行者、自動車運転者にも周知徹底を図るよう努めていただきたいと思います。
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