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人間にはなぜ「虫垂」があるのか? 科学者がついに役割を解明

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虫垂 医学

人間にはなぜ「虫垂」があるのか? 科学者がついに役割を解明

虫垂は腸内細菌の生物学的なバックアップ・システムとして機能

虫垂という器官は、医学史ではおおむね、進化の過程で残された遺物といった程度の扱いだった。最悪のタイミングで炎症を起こしがちな、指のように細長く小さな袋状の臓器にすぎない、と。

かのチャールズ・ダーウィンですら、草食性の人類の祖先が大昔に使っていた臓器とみなし、より大きな消化器官の名残にすぎないと見ていたことは有名な話だ。

虫垂に関する説明は長いあいだ、それで十分だと考えられてきた。結局のところ、人間はたとえ虫垂がなくても、なんの問題もなく普通に生きていくことができる。外科医はごく当たり前のように虫垂を摘出するし、そのあとも目に見えて困ることは一切ない。しかし、進化というものがそんなに単純明快であるケースはほぼないと言っていいだろう。

進化生物学者は近年、この小さくて見落とされがちな臓器が本当はどのような役割を担っているのかを、改めて考察し始めている。そして、見つかったエビデンスから、虫垂は私たちが信じるに至ったような「無用の長物」ではないことがわかってきた。

虫垂の役割に関する科学者の見解がなかなか一致しない理由

当然ながら、虫垂に役割があるのなら、その解明にこれほど時間がかかったのはなぜなのか、と首をひねる人が多いかもしれない。解剖学の学術誌『Anatomical Record』で2023年に発表された研究論文によれば、この疑問には二つの側面がある。一つは、虫垂に関するデータがあまりにも不足していること。もう一つは、虫垂そのものが複雑な臓器であることだ。こうした事情が相まって、研究の空白を埋めることが長いあいだ、困難だった。

虫垂が初めて発見されたのは16世紀のことだ。研究者はそれ以来、虫垂が存在する目的について、統一的で明確な見解を探し求めてきた。虫垂は食生活と関係しているのか。環境か。あるいは、特定の種に特有の生態学的な役割を持つのか。虫垂についての解明は何度も試みられたが、研究者の考えが一致することはなかった。

その主な理由は、哺乳類を全般的に見ても、虫垂が単純なパターンに従っていないという事実にある。たとえ近縁な種であっても、虫垂を持つ種と持たない種がどうやら存在しているようなのだ。それに、たとえ虫垂があったとしても、見た目は必ずしも同じではない。

こうしたことが示唆するように、また、先述の研究論文でも明らかにされたように、虫垂には、複数の「虫垂形態型」、つまりは種によって異なる形態構造があるようだ。そこで、「そうしたさまざまな形態を持つ虫垂はどれもみな、同じ役割を果たしているのか」という疑問が生じる。ただしこれについては、答えを導き出すのがやや難しいことがわかっている。

さまざまな形態が存在するため、虫垂の進化を促したただ一つの要因を特定することはほぼ不可能だった。虫垂が存在する意味を説明できる一貫した生態学的な要因や、食事的な要因は長いあいだ、見つかっていなかったのだ。手短かに言えば、虫垂はほかの臓器と異なり、唯一の明確な目的を持っていないように見える。おまけに、研究そのものに、人間の先入観も大きく関与していた。

虫垂は、臨床的な意味を持つ臓器だ。虫垂炎はありふれた疾患ではあるが、生死にかかわるケースもあるためだ。従って、虫垂の目的を解明する研究の大部分は、人間に焦点を当てて行われてきた。それと同時に、虫垂炎が人間以外の種で観察されたことは一度もない。つまり、より幅広い哺乳類を対象に、虫垂を研究するための誘因はほとんどなかったのだ。

こうした事情がすべて重なり合った結果、虫垂については非常に断片的な理解しか得られてこなかった。人間の虫垂が異常をきたした場合に何が起こり得るかはかなり明らかになっているが、虫垂がそもそも存在する理由となると、解明が進まないままだった。

これには、研究者がたった一つしかない単純明快な臓器に目を向けていなかったという背景がある。とはいえ実際のところ、あまり知られていないことだが、虫垂は複雑な過程を経て進化し、種によって異なる形で発現する仕組みだ。長いあいだ、人間を中心にして狭い視点で研究されてきたことを考えると、虫垂の目的について見解が一致しなかったのも無理はない。

虫垂の実際の役割

このように複雑に絡み合う要因があったものの、進化研究の結果、虫垂の全容がついに明らかになりつつある。腸内細菌に関する学術誌『Gut Pathogens』で2025年、増え続ける虫垂研究を総合的にまとめたレビュー論文が発表された。全般的には、これまで思い込んできたことに反して、虫垂が無益な臓器などではまったくないことが示された。それどころか、体に良い腸内善玉菌にとっての「安全な隠れ家」という役目を果たしている可能性が高いという。

人間の腸は、精力的に働く膨大な細菌の住みかだ。そうした細菌は「マイクロバイオーム」という総称で呼ばれており、消化や免疫機能、さらにはメンタルヘルスという側面でも、非常に重要な役割を担っている。細菌のバランスを保つことは健康に不可欠だ。ただし問題は、その仕組みが非常に脆弱でもあることだ。

祖先が暮らしていた大昔、人間は、細菌にさらされて下痢をよく起こしていたはずだ。そうした感染症にかかると、腸内細菌の大部分は実質的に外へと押し出され、消化器官は疲弊して脆弱な状態になってしまう。そこで登場するのが虫垂だ。

解剖学という観点から見ると、虫垂は右下腹部に位置し、大腸から飛び出したような形になっている。チューブ状で細長いため、たとえ消化器官が不調をきたしても、虫垂内部が空になることはなかなかない。おかげで、腸のほかの部分が不調でも、虫垂は、有益な細菌が生き残る上で理想的な避難場所になっていると、『Gut Pathogens』に掲載された研究では説明されている。

病気が癒えると、虫垂にいた細菌は腸内に新しく集団を形成し、マイクロバイオームのバランスがより速やかに元に戻っていく。簡単に言えば、虫垂は生物学的なバックアップ・システムとして機能するわけだ。

注目すべきは、こうした推論が、虫垂の免疫学的な特性としてすでに得られている知見と一致していることだ。虫垂は、リンパ系組織を多く有している。すなわち、マイクロバイオームと免疫システムの相互作用を調整する役割も果たしていることになる。

虫垂は、腸内細菌の保管と管理調整という二つの役割を担っている。このことから、目立たず、特定の状況下でしか機能しない虫垂が、人間が進化するあいだもずっと存在し続けてきたのはなぜなのかがよくわかる。虫垂は、厳密な意味で必要不可欠だとは言えないかもしれないが、決して無用なものではない。

虫垂を摘出したあとも問題なく生きられる理由

虫垂が機能を有することを証明するエビデンスが得られた今、当然ながらこんな疑問がわく。虫垂を摘出しても、健康的な問題がほとんど生じないのはなぜなのか。

この疑問の解決に取り組んだのが、2025年に『Journal of Personalized Medicine』で発表された研究だ。研究チームは重要なポイントとして、虫垂を摘出しても健康上に目立った問題がないからといって、虫垂が完全に無用だというわけではない、と主張している。それよりはむしろ、体が虫垂の不在を補えるようできている、と考えるべきだ。

人体に備わった重要な生物学的システムが、たった一つの組織に依存しているなどということは滅多にない。冗長性は、進化の一般的な特徴だ。そのため、腸に関連した免疫システムには、虫垂の役割を代わりに果たせる部位が多く存在している。また、マイクロバイオームそのものも、環境中に存在する細菌に触れることで回復することが可能だ。

こうやって埋め合わせる仕組みは、現代ではさらに効果を発揮している。清潔な水、安定した食料供給や医療を利用できる恵まれた境遇にあると、重度の感染症に繰り返しかかることはない。感染症のリスクが高い状況であれば、細菌の「安全な隠れ家」はとりわけ貴重だっただろう。しかし今は、虫垂の役割がそれほど重要ではなくなっている。

こうしたことから虫垂は、部分的な痕跡器官(ほとんど用をなさなくなったのに残っている器官)だという見解が、現在もある意味、もっともだと言われている。前述した研究がすべて一致しているように、虫垂はもともと、より大きな盲腸(小腸と結腸をつなぐ器官)の一部であり、草食性の祖先が、繊維質を多く含む植物を消化するための臓器だった可能性が高い。

しかし、人間の食生活が大きく変化し、消化器系が進化していくにつれ、虫垂の本来の機能は損なわれていった。とはいえ、完全に消滅することはなく、別の目的に再利用されたようだ。

そうして残された虫垂は、無用な遺物などではなく、むしろ役割が見直された器官と言える。現代人はもう、先祖と同じような形で虫垂を頼りにしているわけではない。しかし、虫垂は今もまだ、生物学的に役に立っている。そしてそれは多くの意味で、進化の過程をある程度正確に反映している。

進化は、不要になったものを必ず切り捨てるわけではない。適応させる場合もあるし、特定の状況下でまだ有用な場合は、そのままキープしておくこともある。場合によっては、必要不可欠でも無意味でもない、その中間に位置する組織を残すこともある。

解剖学的に見れば虫垂は、そうした中間に位置する特徴を持つ、いくつかの器官の一つだ。虫垂は、進化上の誤りではないし、偶然でもないし、完全なる痕跡器官でもない。今でも虫垂は、控えめなやり方で、人間のバランスを維持するために働いているのだ。

forbes.com 原文

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