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店員の仕事だったことを、なぜ客が?

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セルフレジ 社会問題

店員の仕事だったことを、なぜ客が?

セルフレジやQR・タッチパネル注文に疲弊する人々の声。操作方法もバラバラで困惑

セルフレジQRコード注文、タッチパネル、生成AI……。生活を便利にしてくれるはずのデジタル技術だが、新しい仕組みが次から次に登場するあまり、「ついていけない」と感じる人も少なくない。日常生活で“ハイテクの壁”にぶつかる人たちに話を聞くと、そこには「機械音痴」や「IT弱者」という言葉だけでは片づけられない事情があった。
◆「後ろに人が並ぶと焦る」店ごとに違うタッチパネル

近頃、牛丼店やファストフード店などでは、タブレットや食券機を通じたタッチパネル式の注文が当たり前になりつつある。便利な反面、「注文までのハードルが高い」と嘆くのは林田省吾さん(仮名・49歳)だ。

「最近、大手牛丼チェーン店のタッチパネルが『目的のメニューがものすごく探しづらい』とSNSで話題になりました。ですが、僕の場合は、どの店舗のタッチパネルも平等に苦戦しています。いろいろな牛丼屋や飲食店を利用しますが、店ごとに機械のボタンの位置や操作方法が違うから、目当ての商品を見つけるのにすごく時間がかかるんですよ」

なかでも困るのが、席に着く前に食券機で注文するタイプの店だという。

「券売機でモタモタして順番待ちの人がズラリと並ぶこともしょっちゅうあって、『早くしなきゃ』って焦るんですよね。自分のせいで待たせるのは申し訳ないし。これなら、普通に店員さんへ注文するほうが気楽ですよ……」

◆説明を受けるくらいなら「直接注文を聞いてくれれば…」

飲食店ではほかにも、テーブルに置かれたQRコードをスマホで読み取り、スマホ端末から注文する方式も増えている。立花和雄さん(仮名・69歳)がよく行く近所の居酒屋も、今年に入って店員への直接注文から、QRコードでの注文形式に変更された。

「初めてだったので、使い方がまったくわかりませんでした。一緒に店を訪れた妻もITにはからっきし弱いので、店員さんを呼んだら、横でつきっきりで教えてくれました。でもそれなら『その時間で普通に注文を聞いてくれたらいいのに』と思いましたね。QRコードを導入することで、人為的な注文ミスが減るなど、店側のメリットがあることは理解できます。でも、これまで店員が担っていた作業を客側が行うことに疑問を感じています」

セルフレジで大渋滞「機械が変わるたびにあたふた」

小川伸之さん(仮名・55歳)は、スーパーやコンビニ、小売店で急速に普及したセルフレジの使い方に緊張を強いられている。

「ある休日、混雑するドン・キホーテのセルフレジで、手持ちの旧旧500円玉(側面に『NIPPON』と刻まれている最初期のタイプ)を使おうとしたところ、機械が反応しなかったんです。そのときはそれしか現金がなかったので支払いができず、僕のところでレジが大渋滞してしまいました。お釣りでは旧旧500円玉が出てくるのに、支払いで使えないのはやるせないです」

何より困るのは、セルフレジの操作方法が統一されていないことだという。

「機械が違えば、お金を入れるタイミングも場所も違うし、スキャン方法や操作方法も違う。セルフレジに遭遇すると、毎回ビクビクしながら買い物していますね……」

◆「AIを使えば仕事が早くなる」と言われても…

ビジネスの世界でも、ChatGPTが当たり前に使われるようになったいま、不動産の法務関連業務にかかわる山内大介さん(仮名・35歳)の職場でも、職場の上司が『AIを使って仕事を効率化しよう』と導入を勧めるようになった。山内さん自身、ChatGPTやGemini、Claudeを使い始めたものの、使いこなせず悪戦苦闘しているののだという。

「こっちの指示の出し方が下手なのか、毎回トンチンカンな回答が返ってくるんです。AIの回答に『違うよ』と説明して、また返事が来て……というラリーを何回も繰り返す。使いこなせれば便利なんでしょうけど、今のところ余計な仕事が増えています」

生成AIでは、AIに与える指示や質問文を「プロンプト」と呼ぶ。欲しい答えを得るためには、目的や条件、出力形式などを具体的に伝える必要があり、その組み立て方によって回答の質も大きく変わってしまうのだ。

そんな山内さんの苦労は、上司自身にも理解されていないそうだ。

「上司からすれば『AIを使えば仕事が早くなる』くらいの認識なんですよ。それなのに仕事のスピードが上がっていないものだから、『なんで仕事が遅いんだ』と思われるのが、一番しゃくですね」

◆ユーザーの側だけが悪いわけではない

券売機、セルフレジ生成AI……。こうした新しい技術を使いこなせない人たちを、はたして“IT弱者”と呼んでいいのか。元コンピューター誌記者の速水健朗氏は、「どちらかといえば、問題はユーザーが製品やサービスを操作する際の接点となる『ユーザーインターフェース』の使いづらさの方にある」と指摘する。

「2020年の新型コロナ禍以降、対面接客を避けるためにタッチパネル注文やセルフレジなどが急ピッチで導入されだしました。急遽導入したためにシステムが詰められず、使いづらいまま利用が始まったものも多いんですよね。アメリカの大手スーパー・ウォルマートは万引き件数の増加を理由にセルフレジを撤廃し、有人レジへの回帰を進めています。使いやすく改善を進めるなど、今後は、店側にとって不利益を生むテクノロジーについて方針が変わるケースも出てくるでしょう」

「強い」「弱い」のように、ITへの習熟度は最初から決まっているもののように語られやすい。しかし、年齢に限らず「わからないことを調べる習慣」があるかどうかという面も大きく関わっていると速水氏は指摘する。前出の山内さんが苦戦していた生成AIについても、それは同じだ。

「ChatGPTを使いこなしている人は、初めからそうだったわけではなく、それなりに時間をかけて使い方を調べています。仕事が速くなるのも、自分の思い通りにやりとりができるようになってからのことです」

新しい技術が登場するたび、ユーザーの側には「使えないと取り残される」と焦りが生まれやすい。しかし、速水氏は言う。

「『追いつかなきゃ』と考える必要はありません。機械の進化に人間がついていけないのは前提なんです。2000年代後半から国内で普及が進みだしたスマートフォンも、最初は使い方に戸惑われることが多かったものの、今ではすっかり当たり前の存在となりました。同じように、今は最新と思えるテクノロジーも、最終的には誰でも手間なく使える方向に進んでいくはずです」

わからなければ調べる、必要なければ使わない。すべてのハイテクを無理に使いこなそうとしないことも、“IT弱者”にならないための一つの付き合い方なのかもしれない。

速水健朗(はやみず・けんろう)
コンピューター系の雑誌の編集者を経て2001年からフリーランスに。ショッピングモールや東京論、世代論など幅広い分野で活動。NHK、TOKYO FMなどでコメンテーターやパーソナリティーを務める。最近はポッドキャスト番組『これはニュースではない』を自主制作。主な著書『ケータイ小説的。』『ラーメンと愛国』『東京どこに住む』『1973年に生まれて』など

取材・文/松嶋三郎

【松嶋三郎】
浅く広くがモットーのフリーライター。紙・web問わず、ジャンルも問わず、記事のためならインタビュー・潜入・執筆・写真撮影・撮影モデル役など、できることは何でもやるタイプ。X(旧Twitter):@matsushima36

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