「異物混入ワクチン」スペイン工場を現地取材 PR担当者まさかの対応

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モデルナスペイン工場 コロナワクチン

「異物混入ワクチン」スペイン工場を現地取材 PR担当者まさかの対応

現地であり得ない対応をされた日本人記者&スタッフ

 モデルナ社はアメリカの製薬会社だから、ワクチンも「米国製」だと思っていた人は多い。だが実際に製造していたのは、スペインの郊外にある下請けメーカーの工場。しかも、「米国向け」と「それ以外の国向け」に作り分けられていた──不審は頂点に達している。異物混入ワクチンを日本中にバラまいた工場の実態を、独占現地レポート。

 スペインの首都・マドリードから北へ18kmほど向かった街のはずれ。殺風景な工業団地の幹線道路に面した一角に、その工場はあった。ゲート横の壁面と正面の建物には、「ROVI」というロゴがそびえる。8月末の早朝、フェンスで囲まれた敷地内に多くの従業員が吸い込まれていった。そこは現在、日本を大きく騒がせている異物混入ワクチンを製造する工場だ。現地在住の日本人が語る。

「日本での出来事はスペインでも話題になり、モデルナ製ワクチンを委託製造した製薬会社の株価は急落しました。その会社は急きょ声明を発表し、現在は原因究明の調査を行っているそうです」

 前代未聞の異物混入はなぜ起こったのか。本誌・女性セブンが現地の工場に潜入すると、従業員が重い口を開いた──。

 日本人の生命を守るはずの新型コロナワクチンに異物が混入しており、一部の接種を取りやめる──厚生労働省がそう明らかにしたのは、8月26日だった。

「モデルナ製のワクチンに異物が混入しているとの報告があり、一部の接種を中止するとのことでした。異物は磁石に反応する金属で、大きいもので数ミリ程度あり、製造過程で入ったとみられます。これらのワクチンはモデルナ社が委託するスペインの工場で製造されたもので、7月下旬以降に国内に輸送されていました。

 報告を受けた厚労省は、製造番号や製造工程が同じ3つのロット(同じ規格で作られたひとつのまとまり)、計163万回分の接種を取りやめると発表しました。しかしその後、163万回分のワクチンが全国863の会場に配送されていて、50万回分がすでに接種済みだったことがわかり、騒動がさらに拡大しました」(全国紙社会部記者)

 米モデルナ社のワクチンだから、「米国製」で安心できる──そう思っていた日本人も多いだろう。今回の異物混入騒動で、実際にはスペインの下請けメーカーで製造されていたと知って驚いた人も少なくないはずだ。異物混入が報じられると、問題のワクチンと同じロット番号を接種した著名人が続々と名乗りを上げた。

「ぼくもその該当する番号なんです」

 8月28日、テレビ情報番組でそう明らかにしたのは歌手の西川貴教(50才)。職域接種で該当するワクチンを打ったが、その後は体調に異変は生じていないと語った。タレントの益若つばさ(35才)は、自身のツイッターで《!!?当たってしまいました…元気です。》と告白し、アルピニストの野口健さん(48才)も、《Lot番号、ビンゴ…。》とつぶやいた。何より気になるのは、健康への影響だ。

 河野太郎ワクチン担当相は、「安全面で大きな問題があるとは報告を受けていない」と言い切り、厚労省の担当者は会見で「異物混入のワクチンを接種しても、重大な問題を引き起こすリスクは極めて低いと考えられている」とした。

 だが、キックボクサーのぱんちゃん璃奈(27才)は、接種が取りやめられたロットのワクチンを打った後に、呼吸が苦しくなり、上唇が腫れて、まひするといったアナフィラキシー反応のため救急搬送されたことを、自身のツイッターで明かした。

「彼女には金属アレルギーがあり、救急搬送後にアレルギー点滴などをして症状が落ち着いたそうです。搬送から3日後、接種したのが“異物混入ロット”であることを知り、驚いて副反応相談のコールセンターに電話をしても“異常はない。検査はできない”との対応だったこともツイッターで明かしました」(前出・全国紙社会部記者)

 28日にはさらなる衝撃が走った。同じく接種見合わせとなったワクチンを打っていた30才男性と38才男性が死亡していたことがわかったのだ。

「30才男性は広島在住で、異物混入ワクチンと同じ時期に同じ工場で製造されたワクチンを接種して、その3日後に自宅で死亡しているのが確認されました。また38才男性も使用見合わせワクチンを打った3日後に自宅で死亡していた。2人とも基礎疾患はなく、2回目の接種後に発熱して、熱が下がってから死亡しています。死因とワクチンの因果関係は不明で、今後は厚労省や国会で調査が行われる予定です」(前出・全国紙社会部記者)

 血液内科医の中村幸嗣さんが懸念する。

「気になるのは、該当ロットだけでなく製造ラインが同じワクチンまで使用を見合わせにしたこと。通常、異物混入があった場合、該当ロットのみを回収するので、今回は製造ラインそのものに問題があったのかもしれません」

 ワクチンはこれまで、接種後の重篤な副反応や、副反応が疑われる接種後の死亡が問題とされてきた。その真偽や責任の所在については、専門家によって見解が異なった。

 だが今回の異物混入は明らかに製造側に落ち度があり、法的責任が厳しく問われる事態ではないだろうか。加藤・浅川法律事務所の弁護士、加藤博太郎さんが指摘する。

「ワクチンは製造物責任法(PL法)の対象になり、モデルナ製を日本で輸入販売した武田薬品工業がその責任を負います。今回のケースでは、異物が原因で接種者が亡くなったり健康被害を被ったりしたと立証できれば、武田薬品工業の責任が追及されます。

 またスペインの工場の製造過程に過失があり、接種者が健康被害を受けていたら、業務上過失致死傷で現地の責任者の刑事責任が問われる。ただし、この場合は日本の警察が捜査するため、現地の捜査当局の協力が得られるかなど、実務上のハードルが高くなります」

 混入した異物について武田薬品工業はこうコメントする。

「現在、モデルナ社による調査が継続中であり、結果がわかり次第、両社は速やかな情報の開示に努めます。モデルナ社は、分析のため適切な検査機関に検体を送付しており、検査結果の速報は9月初旬までに判明する予定です」

 中村さんは「現地の工場の調査が必要」と指摘する。

「異物混入はワクチン製造においてまれに発生しますが、重大な違反につながる可能性があり、きちんとした調査が必要です。特に今回は日本の目が届かないスペインの工場で製造したので、管理体制に不安が残ります」

 すべてのカギはスペインの工場が握っている。そこで『女性セブン』取材陣は現地を取材した。

PR担当者がまさかの対応

 異物混入ワクチンは、モデルナ社が委託するスペインの製薬会社「ラボラトリオス・ファルマセウティコス・ロビ(以下、ロビ社)」の工場で製造された。ロビ社は1946年に設立された製薬会社で、血栓などを防ぐ抗凝固薬ヘパリンを主力製品とする。ほかの製薬会社からの委託製造も主要な事業であり、米メルク社やスイスのノバルティス社などからライセンス提供を受け、複数の医療用医薬品を製造・販売する。

 今年4月、ロビ社はモデルナ製ワクチンの製造委託契約を結び、年間12億〜14億回分のワクチンを製造するようになった。別の工場で製造された、米国向け以外の新型コロナワクチンをバイアル(小瓶)に充填する作業を行ったのが、異物混入が発生したと思われる「マドリード・サン・セバスチャン・デ・ロス・レイエス工場」であり、ロビ社は声明で同工場の製造ラインに問題があった可能性を認めている。

 8月30日早朝、現地在住の『女性セブン』取材スタッフはマドリード郊外にある、この工場を訪れた。面積は想像していたより狭く、小ぶりなショッピングモールほどの敷地内に低層のコンクリート建ての工場がある。工場というより、研究所のイメージといった方がわかりやすいかもしれない。

 周辺に歩行者の往来はほとんどなく、車が行き来するのみ。幹線道路の壁にはスプレーで落書きがされていて、どことなく劣悪な印象を受ける。現在、その工場で働く従業員は約140人で、2022年までに年間30億回分のワクチン製造が見込まれている。午前8時が近づくと、従業員の運転する車が続々と工場に吸い込まれていく。始業時間が迫っているようで、ほとんどの車がスピードを落とすことなくゲートを通過する。

 唯一、歩いてゲートへ向かう30才前後の男性従業員に声をかけた。挨拶を交わして異物混入について尋ねると、最初は親切そうだった男性の表情が一変する。

「ぼくはまだ働き始めて2か月なので、建物のなかの受け付けで聞いてくれ」

 そう早口で告げられた。彼の言葉に従ってゲートを抜けて建物の方に向かうと、50才くらいの女性の守衛が駆け寄ってきて、「どんな御用ですか」と尋ねてきた。

「異物混入事件について、お話を伺いに来た日本のメディアのスタッフです」

 そう答えると守衛は驚いた表情を浮かべつつ、「担当者を探してくるから、ちょっとここで待ってて」と笑顔を見せ、建物内に向かった。5分ほどでその守衛が戻ってくると、「PR担当が不在だからここに電話して」と担当者の名前と電話番号、メールアドレスを記したメモを渡された。

 だが、その番号に何度もかけるがつながらず、困っていると柔和な女性の声で折り返しがあった。だが、「日本のメディアのスタッフ」を名乗った瞬間、受話器の向こうにいる女性は何も言わずに電話をガチャリと、突然切った。

 その後、何人かの従業員に声をかけるもみな言葉少なで「よくわからない」「知らない」と口が堅い。こちらの存在はすでにPR担当に知られており、神経質になっているのかもしれない──取材陣が天を仰いでいると、建物から40代くらいの男性従業員が出てきて、たばこを吸い始めた。最後のチャンスとばかりに話しかけると、男性は声をひそめてこう語った。

「日本で起きた事件については知っているけど、ぼくの口からは何も言えないんだ。会社から話さないように言われているから……」

 それだけ話すと男性は「ゴメンナサイ」とつぶやいて、建物のなかに消えていった。その直後、別の女性守衛が取材陣に駆け寄ってきて、「ここから立ち去りなさい!」と怖い顔で吐き捨てたため、工場から離れざるを得なかった──。

 何とか取材を続行しようと、現地の協力者を通じてロビ社の関係者にメールを送ると、こんな返信があった。

《当面、ロビ社の関係者はメディアに対して一切の発言をしない予定です。私たちがこの件に関して行ったいくつかのリリースが、現時点で私たちが提供できる唯一の情報です。私たちは、保健当局が必要とする情報をできるだけ早く提供し、何が起こったかを明らかにするための調査を行っている最中です。慎重を期すためにも、調査の完了を待たなければなりません》

 この文面通りに、真相解明はなされるだろうか。ロビ社の誠意ある対応を信じ、取材陣は疑惑の工場を後にした。

※女性セブン2021年9月16日号

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