三浦瑠麗氏、独占インタビュー コロナ禍の日本経済「緊急事態宣言を安易に出さないこと、それが最大の経済対策です」 不透明な2022年に新たな提言

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三浦瑠麗 コロナウイルス

三浦瑠麗氏、独占インタビュー コロナ禍の日本経済「緊急事態宣言を安易に出さないこと、それが最大の経済対策です」 不透明な2022年に新たな提言

日本経済が再び回復する日がくるのか?そのために必要なこと!

新型コロナウイルス感染症で落ち込んだ日本経済は回復するのか。庶民の財布の中身は温かくなるのか。そして、マスクを外して非難されない日は果たして来るのか。不透明な2022年の情勢を気鋭の国際政治学者、三浦瑠麗氏が読み解き、新たな提言をする。 (聞き手・鈴木恭平)

■賃金アップの提言

――岸田文雄首相は賃上げをした企業の法人税の税額控除率を最大で大企業30%、中小企業40%に引き上げることを表明した

賃金を上げようというのは結構なことですが、賃上げをする企業を減税するだけでは、「分配」にはつながりません。まず、全体の6割を占める赤字企業にとっては意味がありませんし、今はどの企業もキャッシュフローを確保しておく優先順位が高い。また、継続雇用の従業員に手厚くし、非正規雇用の従業員の給与を削る可能性だって考えられます。

賃金に関して、岸田さんが直接手を加えられるのは、公的な資格を持つ介護士や保育士さんの給料アップと最低賃金を上げることの2つです。しかし、前者を上げても、資格職なのでほかの人たちには波及しません。業界の人手不足は多少解消するかもしれませんが。

一方、最低賃金のアップは全体の給料アップにつながるはずです。しかし、最低賃金に手をつけないのは、中小企業に配慮してのこと。その中小企業こそ、賃金が安いのでここに手を付けなければ問題解決にはなりません。大企業が賃金を上げても、中小企業との間で賃金格差が広がるだけだからです。

社員の福利厚生も、大企業と中小企業では全然違います。本来、国が提供すべき福利厚生を企業にやらせているから、格差も広がる。だったら、政府が現役世代の社会福祉を手厚くすればいい。そして、最低賃金を上げればいいのです。このままでは格差は広がるばかりです。

■日本経済への提言

――2021年7~9月期の国内総生産(GDP)は、前期(4~6月期)比0・8%減、年率換算では3%減だった。マイナス成長は2四半期ぶり。個人消費が1・1%減とマイナスになったことが響いた

米国やEU各国のGDPは上がっているのに対し、日本はマイナスです。これは、政府の政策と人々の行動変容が原因です。飲食店は年初からまともに営業できておらず、そこへ緊急事態宣言が出て、報道の影響もあって客足が落ち、消費者心理も冷え込んだ。経済を抑圧したのだから、GDPも下がります。

経済の落ち込みについて、よく世界的な半導体不足が原因と言われます。もちろんそれも大きい。しかし、現に夏に第5波が直撃したとき、人々は出歩かなくなった。自粛による経済的打撃は巣ごもり消費だけではカバーしきれないのです。

政府はあらゆる業種の企業に対し、一律7割のリモートワークを推奨していました。ネット関連の会社ならともかく、ありとあらゆる企業が7割の人員をテレワークさせるというのは無理なんです。そこに無理やりノルマを課しているので、生産・サービス提供体制は当然落ち込みます。

政府はオミクロン株に対して、検疫の強化だけでなく過剰な入国規制を打ち出しました。コロナ患者が激減したのにこの状態が続けばどうなるか。人流も平時の7割のニューノーマルラインを越えられず、人手不足、供給制限、消費者の行動変容を原因とした経済不振が続く。

いまは海外から外国人が日本に来られないほか、日本のビジネスマンも海外出張がほぼできないので、新規案件に関わることができません。その分、身軽に動ける各国の企業にどんどんプロジェクトを奪われています。仮にコロナ患者がいなくなったとしても、経済のダメージは続くわけです。さまざまなモノの価格が値上がりしているのも、こうした日本の「鎖国」による制約と円安がつながっておきていることです。

今後ビジネスが正常化しても、エネルギー不足に拍車をかける恐れがあります。現状すでに高騰しているエネルギー価格は、企業のコストや価格への転嫁として帰ってくる。コロナ禍が終わったとしても、すぐに元通りにはなりません。

そろそろ、政府も「一律何割テレワーク」とか「右向け右」の号令の発想に立つのではなく、科学的で合理的な政策を望みたいところです。企業は労働時間で人事評価をするのではなく、実質的にどんな仕事をしたかで評価をするべきですが、それは「一律何割」の発想では実現しません。

もう1つ、安易に緊急事態宣言を出さないこと。それが最大の経済対策です。日本はコロナ禍で国民や企業に非常時を強いる一方、医療体制が平時の発想のままでした。国民の8割がワクチン接種を完了し、世界トップレベルのワクチン接種先進国となったいまこそ、経済活動の回復や活性化に向けた取り組みを加速すべきなんです。

■コロナ対策への提言

――政府の新型コロナ感染症対策分科会は、感染状況を5段階で分類する新指標をまとめた。3週間後に病床不足が予測される状態をレベル3と位置づけ、緊急事態宣言発令の目安とした

この新指標、私は評価できません。レベル3の緊急事態宣言相当の基準はどう判断するのでしょうか。分科会の尾身茂会長は、夏の第5波で新規感染者数が過去最高となったことについて、「感染力の強いデルタ型がお盆など人流が増えるタイミングと重なった」と分析しています。実は、これは事実と違います。コロナ禍があろうがなかろうが、休日には人流は減るし、お盆はもっと減るからです。感染症専門家の提言のよって立つ根拠が、まるでテレビ番組で垂れ流されている根拠のない思い込みのようなものだとしたら…。

人流を見るにあたり、もっとも正確な数字は鉄道のデータです。東京では日々約1000万人が鉄道で移動します。駅の改札データを分析すると、夏休みやお盆は人流が大きく減っていたことが分かる。しかし、分科会はそうした正確なデータを持たなかったため、感覚値と誤差の大きなデータを織り交ぜて決め打ちのような提言を行ってきた。これまで適切に予測できなかったのに、緊急事態宣言の発出基準を決めることができるのでしょうか。

コロナの季節サイクルは科学的に説明できていませんが、インフルエンザと同様、1月に新たなピークを迎えると想定しておくことは必要です。ただ、ワクチン接種のおかげで、これまでとは違って重症化しにくくなっています。

発熱したとき、どこのクリニックでも通常医療の中で診てもらうことができる態勢に1日も早くなってほしいと思います。コロナに関連する国内の死者は暮れ(21年)の数字で1万8000人台。米国の死者は79万人です。約44倍違います。なぜ日本でだけ医療崩壊が叫ばれるのでしょうか、こういう状態なら、次の波が来たとしても社会的な制限を加えられる理由はないはずです。

22年、マスクを外すことはできるのでしょうか。例えば、お店を利用する際、「マスクをしてください」と言われたら、利用者である以上、従わざるを得ません。屋外でマスクを外して歩くのは、本来自由なはずです。しかし、何となく周りの目が怖いから外せない。これが日本独自のルールなき一億総忖度状態です。

ルールがないがゆえに、終わらせることができない。だれかが強要しているわけでもないから、反対の声も聞こえない。マスクのおかげで、政府は「感染対策をちゃんとやっています」という体(てい)でいられます。

しかし、ワクチン接種がこれだけ広まったのですから、政府はそろそろ「マスクを外しても大丈夫ですよ」と表明すべきだと私は思います。

■三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者。1980年10月3日、神奈川県出身。41歳。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院専門修士課程、法学政治学研究科総合法政専攻博士課程を修了。東大政策ビジョン研究センター講師を経て、山猫総合研究所代表。博士論文を元にした『シビリアンの戦争』(岩波書店)でデビュー。著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)、『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文芸春秋)など。「この2年の間、コロナに関して書きとめてきたものがあります。世界がどういう体験をしたのか、自由主義はどこに行ったのか。2022年はこれを書籍化したいと思ってます」

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