お米を買えないシングルマザーを猛批判、外国人労働者への非人間的な扱い

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群衆 社会問題

お米を買えないシングルマザーを猛批判、外国人労働者への非人間的な扱い

平然と弱者を叩く「絶望の国ニッポン」の不寛容

 たまたま就職する時期が悪かったというだけで、「つじつまが合わないことだらけで腑に落ちないキャリア人生」を余儀なくされた、今を生きる40代。「40歳で何者にもなれなかった」と嘆く彼ら彼女らは、いったいどんな現実と向き合いながら生きているのだろうか。

 ここでは、健康社会学者の河合薫氏の著書『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/2回目に続く)

絶望の国ニッポン

 2022年5月に経済産業省が公表した「未来人材ビジョン」というリポートが、「絶望」という言葉とともに大きな話題を呼びました。

 まとめたのは「未来人材会議」。経済産業省が2021年12月に設置した、「今後の人材政策などを検討するため」の会議です(以下、抜粋)。

 日本は、高度外国人から選ばれない国になっている

 日本企業の従業員エンゲージメントは、世界全体で見て最低水準にある 

 日本は「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人は少ない

 しかし、「転職や起業」の意向を持つ人も少ない 

 日本企業の部長の年収は、タイよりも低い

 人材投資の国際比較(GDP比=国内総生産比)で日本はビリ 

 社外学習・自己啓発を行っていない人の割合は圧倒的に多い 

 日本の人材の競争力は下がっている

 海外に留学する日本人の数は減っている

 海外で働きたいと思わない新入社員が増えている 

 日本企業の経営者は、「生え抜き」が多く、同質性が高い

 役員・管理職に占める女性比率が低い 



 ……たしかに絶望です。

経済産業局長は高みの見物

 しかし、絶望の極みは「結語」と題した章にありました。「~(す)べきである」という言葉を14回も連発し、「これらは引き続き、政府として検討していくことが必要である」と、霞が関十八番ワード「検討」で〆られていたのです。

 いったいこの国のお偉い人たちは、どれだけ検討が好きなんでしょうか。

 そもそも「ほらみろ! 今の日本を!」的にまとめた報告書のデータやファクトはすべて、これまでも新聞などで「このままで日本は大丈夫?」的文脈で度々使われてきました。私もさんざん使ってきたので、まったく目新しさがない。経産省の独自調査でもあれば多少のスパイスは加わったのに、それもありませんでした。

 しかも、報告書を取りまとめた経済産業局長が某ビジネス誌のインタビューで話した内容が残念すぎて、3秒ほど……言葉を失いました。

「(今が)名経営者になれるかどうかの分かれ目ではないでしょうか。我々はその手伝いが出来ればと考えています。その一歩です」(by経済産業局長)

 なんという高みの見物っぷりでしょうか。要するに、あくまでも「我々」は傍観者だと言い放ったわけです。僕たちは「絶望の国ニッポン」の一員ではないと言っているのです。

ひとり親家庭の困窮を叩く人々

 経産省の報告書が公表されてから6カ月後の11月。絶望の国ニッポンを象徴する出来事がありました。全国のひとり親家庭を支援する団体でつくる「シングルマザーサポート団体全国協議会」が公表した調査結果を共同通信が、「ひとり親、米を買えず5割超物価高で、支援団体が調査」という見出しで報じたところ、「そんなことあるわけない」と大炎上したのです。

「浅はかな記事。マスコミが不安を煽りたいだけ」「インターネット調査って。ネット使えるヤツが米買えないのか? 家計簿チェックしろ」「嘘つくな!」「米買わないで、ほかの高いもの買ってんじゃね?」「米も買えない親に子育てする権利与えるなよ」「ひとり親世帯だけ給付金とか散々もらってるくせに、何言ってんだよ」「生活保護でも米くらい買える」「シングルマザー保護し過ぎ。米は嫌いだからパン買ってるってことだろう」「くそみたいな報道だな」などなど──、ここに書くのもはばかられるような罵詈雑言(ばりぞうごん)がSNSにあふれ、「シングルマザーで子ども3人育ててますけど? 米買えないなんてありえない」「米買えないは、さすがにない。ひとり親ですけど」といった“私もシングルマザーですけど何か?”的バッシングも飛び交いました。

和も思いやりもない、日本人の「共感」の欠如

 念のために断っておきますが、「私だって大変だったけど、米くらい買ったわよ!」という主張を否定する気は毛頭ありません。しかし、件の記事を読めばわかる通り、「そういうことがあった」だけ。それまで日常品として買っていたお米を、「どうしようかな」と買うのをためらうことがあっただけです。なのに、そういった状況を想像することなく、「黙れ!」「嘘つき!」といった声がネット上にあふれました。

 これが今の日本社会です。日本人は和を重んじる、日本人は思いやりがある、と言われているのに、和も思いやりもない。圧倒的な「共感」の欠如です。「米が買えないのはアンタが悪い。それはアンタの自己責任」と切って捨てたのです。

不寛容社会の構図

 苦しい人たちが苦しむ人たちを叩く構図は、数年前の生活保護叩きから表面化したように思います。「勝ち組、負け組」という二分法がさまざまな局面で使われるようになり、「私はこんなに頑張っているのに、なんで評価されない?」という“報われない感”が社会に蔓延しました。

「高度経済成長期のいざなぎ景気を超えた」だの、「名目GDPは過去最高」だの、景気のいい話が飛び交うのに財布の中身は一向に増えず、ちっとも豊かさを実感できない。

そういった不満が「自己責任論」を蔓延させ、生活保護受給者などへの「弱者叩き」や「自分よりうまくやっている人」の足を引っ張るという、極めて利己的な方向に社会を向かわせたのです。

 資本主義社会ではカネのある人ほど、さまざまなリソースの獲得が容易になり、「持てる者」は突発的な変化にも素早く対応できるので、弱者との距離は開くばかりです。

 本人には自覚はなくとも弱者に寄り添うことができず、すべてが他人事になりがちです。

 件の経産省の幹部が高みの見物的物言いを平然としてしまうのもそのためでしょう。

格差社会の固定

 リソースは、専門用語ではGRRs(Generalized Resistance Resources =汎抵抗資源)と呼ばれ、世の中にあまねく存在するストレッサーの回避、処理に役立つもののこと。

 お金や体力、知力や知識、学歴、住環境、社会的地位、サポートネットワークなどはすべてリソースです。

 例えば、大企業など社会的評価の高い集団の一員になることはリソースの獲得になります。大企業の社員は安定して高い収入を得ることができるため、お金や住居などのリソースも容易に獲得できます。

 また、リソースは対処に役立つことに加え、人生満足感や職務満足感を高める役目を担っています。例えば、貧困に対処するにはお金(=リソース)が必要ですが、金銭的に豊かになるだけでなく、遊ぶ機会、学ぶ機会、休む機会なども手に入るため人生満足感も高まるといった具合です。

 反対に、カネがないとリソースの欠損状態に追いやられます。

 その状態は本人だけではなく、その子どもも教育を受ける機会、仲間と学ぶ機会、友達と遊ぶ機会、知識を広げる機会、スポーツや余暇に関わる機会、家族の思い出をつくる機会を得られず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など、「機会略奪(損失)のスパイラル」に入り込みます。

 これが「格差社会の固定」であり、今の日本社会です。

 格差が固定した社会では、下に落ちることはあっても、上にのしあがることは滅多にできません。

 上の不安と下の絶望が過剰なバッシングの芽を生み、SNSという匿名のコミュニケーションツールにより露呈し、加速し、不寛容社会ができあがってしまったのです。

世界有数の「人助けをしない国」ニッポン

 実は、冒頭の経産相の報告書には記載されなかった「ニッポンの絶望」があります。「世界寄付指数」、別名「人助けランキング」は英国に本拠を置くCAF(Charities Aid Foundation)が毎年行う世界調査ですが、日本はビリグループの常連なのです。

 世界寄付指数では、過去1カ月間に「見知らぬ人、もしくは助けを必要としている人を手助けしたか(人助け)」「慈善団体に寄付をしたか(寄付)」「ボランティア活動に参加したか(ボランティア)」などの質問を設けています。

 2022年は世界119カ国を対象に行われました。その結果、1位は5年連続でインドネシア、アメリカは3位、中国は49位で、日本はなんとなんとの119カ国中118位です。カンボジアと最下位を争いました。21年は114カ国中114位でしたから、 一歩前進? んなわけありません。

日本で働く外国人が感じる“目に見えない鎖国”

 同様の結果はGallup 社が15年に実施した調査でも確認されています。「過去1カ月の間に、助けを必要としている見知らぬ人を助けましたか 」という質問に「はい」と答えた比率は、日本は25%で、調査対象国140カ国中139位でした(Global Civic Engagement 調査)。

 日本人は優しい、日本人は親切、日本人は思いやりがある……。日本人の人間性は、とかくポジティブに語られがちです。日本人はたしかに親切です。例えば、外国人旅行者にはとても親切で、片言の英語で道を教えたりしている人をよく見かけます。外国人が「お客様」のときには、日本人独特の気づかいで親切にします。「なんてニッポン人は親切なんだ! ミラクル!」と旅行者たちは驚きます。

 ところが、その外国人が「労働者」となった途端どうでしょうか。技能実習生への非人間的な扱いや、低賃金労働者としての雇い入れなど、隣人となった外国人には冷淡です。日本で働く外国人の知人が、「日本には目に見えない鎖国がある」と嘆いていましたが、日本人は旅人には親切でも、ともに暮らす「異物」や「見知らぬ人」には非情なのです。



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