脳は断酒から7.3カ月でアルコールによる損傷から回復できることが判明

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脳は断酒から7.3カ月でアルコールによる損傷から回復できることが判明

高血圧や高コレステロール、喫煙中のAUD患者では脳の一部の回復速度が遅くなったことも同時に判明。煙草を止めることが回復を助ける。

缶ビール半分程度のほどほどのお酒でも脳が萎縮するなど、アルコールは脳に深刻なダメージを与えることが知られています。お酒の飲み過ぎに陥ったことがある人の脳をスキャンする研究により、半年以上断酒することで脳を大きく回復させることが可能なことがわかりました。

Regional cortical thickness recovery with extended abstinence after treatment in those with alcohol use disorder – ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S074183292300263X

7.3 Months Without Alcohol Lets Brains Repair Damage From Heavy Drinking, Study Finds : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/7-3-months-without-alcohol-lets-brains-repair-damage-from-heavy-drinking-study-finds

複数の研究により、アルコール使用障害(AUD)の人は、意思決定や自制心などに重要な脳の外層部分である大脳皮質が薄くなってしまうことが示されています。このような脳の構造と機能の変化により、AUDの人は本人が望んでいるにもかかわらず飲酒をやめることが難しくなります。

一方、断酒をすると時間とともに脳が回復する可能性があるとの研究結果も報告されていますが、アルコールをやめてから長くても1カ月の間しか確認されていないため、長期的な影響はわかっていませんでした。

今回、アメリカ・スタンフォード大学医学部の精神科医および行動科学者であるティモシー・C・ドゥラッツォ氏らの研究チームは、AUD患者合計88人の脳を磁気共鳴画像法(MRI)でスキャンし、断酒から1週間・1カ月・7.3カ月が経過した時点での皮質の厚みを調査しました。また、比較対象として非AUD患者45人も検査を受けました。

その結果、7.3カ月間アルコールを摂取しなかったAUD患者は、計測された領域34カ所のうち25の領域で有意な厚みの回復が見られ、そのうち24の領域はアルコールを乱用していない人と同じ厚さにまで戻っていたことがわかりました。研究チームによると、34の領域のすべてにおいて、断酒から1カ月~7.3カ月までの変化率が断酒後1週間~1カ月までの変化率を上回ったとのことです。

皮質の厚みの変化と、アルコール以外の薬物などの物質使用障害、精神疾患、過去の喫煙歴との間に有意な関係は認められませんでした。

一方、高血圧や高コレステロール、喫煙中のAUD患者では脳の一部の回復速度が遅くなりました。これは、禁煙が皮質の厚さの回復に効果を持つことを示している可能性があります。

この研究結果には、遺伝子や身体活動の量、他の臓器の健康状態などの要因が影響を与えている可能性があると、研究チームは述べています。そのため、研究チームはAUD患者における持続的な断酒がもたらす皮質の厚みの回復が、神経認知機能や社会心理的機能に与える影響を調べるには、より大規模な縦断的研究が必要だと指摘しました。

その上で、研究チームは「この結果は、持続的な禁酒がAUD患者における脳の構造の回復に与える、適応性のある有益な効果を裏付けるものです」と結論づけました。

1日缶ビール半分のアルコールでも脳は萎縮することが判明、飲めば飲むほど指数関数的に悪化

3万6000人分の飲酒の習慣とMRIによる脳のスキャン結果を分析した結果により、1日10ml、アルコール飲料に換算すると缶ビール半分程度のアルコールでも、脳の体積が減少してしまうことが分かりました。

Associations between alcohol consumption and gray and white matter volumes in the UK Biobank | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-022-28735-5

More alcohol, less brain: Penn-led study find | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/945035

過去の研究により、適量とされる飲酒量のアルコールでも脳を萎縮させてしまう可能性があることが分かっています。

「飲酒は適量であっても脳を萎縮させる可能性がある」と2万5000人のデータから判明 – GIGAZINE


しかし、少量のアルコールを摂取する場合の影響については矛盾した研究結果が存在しており、高齢者の場合はむしろ少量のアルコールを摂取した方が脳に有益だと示唆する研究結果さえあります。

そこで、ペンシルベニア大学のギデオン・ネーブ教授らの研究チームは、UKバイオバンクに登録されている成人の脳をMRIでスキャンした結果を分析し、そのデータから脳のさまざまな領域の白質および石灰質の体積を算出する研究を行いました。

3万6678人分のデータを用いたこの研究について、ネーブ教授は「大きなデータセットを使うというのは、より強力なレンズを備えた顕微鏡や望遠鏡を手に入れるようなものです。これほどサンプル数が多ければ、1日にビール瓶を半分だけ飲む場合と1本空ける場合といった微妙な違いも見つけることができます」と位置づけています。


飲酒量と脳の体積を比較し、そこから加齢による脳の老化・身長・性別・喫煙習慣・社会経済的状況・遺伝といった要素を排除した結果、軽度から中程度のアルコール摂取でも脳全体の体積の減少に関係があることが突き止められました。具体的には、50歳の場合では飲酒量が1日0~1アルコール単位(10ml)だと半年分の老化に相当する影響が見られることが判明。さらに、アルコールの脳への影響は飲酒量が1単位から2単位に増えると2年、2~3単位だと3年半、3~4単位なら4.9年へと増加していくことも分かりました。

アルコール度数5%の500ml缶に入ったビールには25mlのアルコールが含まれているので、1日に缶ビールを1本飲むだけで、50歳時点で2年分以上もの差が出るほどのアルコールを摂取してしまうことになります。


また、分析に使用するアルコール摂取量のデータを0~4単位にすると影響が10年分に急増するなど、アルコールの害は飲む量に比例するのではなく加速度的に増加することも分かっています。これについて、論文の共著者であるウィスコンシン大学マディソン校のレミ・ダヴィエット氏は「飲酒量と脳への影響が指数関数的だという証拠はいくつもあります。つまり、『あと1杯』と追加したお酒はそれまで飲んだどの1杯より大きな悪影響があるということです。言い方を変えれば、最後に飲む1杯を我慢するのはより大きな効果があるということでもあります」とコメントしました。

今回の研究は、あくまで飲酒量と脳の体積の相関関係を示したものであるため、ネーブ教授は「若者を長期的に追跡したデータセットを用いるなどすれば、アルコールの消費と脳の老化の間にある因果関係を突き止められるかもしれません」と述べて、今後のさらなる研究に意欲をのぞかせました。

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