1日2食に「ここまで落ちたか」 仲間は帰国、タイで「年金暮らしする日本人」が明かす“円安直撃の苦境”

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1日2食に「ここまで落ちたか」 仲間は帰国、タイで「年金暮らしする日本人」が明かす“円安直撃の苦境”

円安とタイの物価高で円の価値が3割減!20万円が14万円に下がる!暮らしていけないと日本に戻る人も・・・。

デイリー新潮:1日2食に「ここまで落ちたか」 仲間は帰国、タイで「年金暮らしする日本人」が明かす“円安直撃の苦境” 2023年12月07日より転載します。
貼り付け開始、

https://www.dailyshincho.jp/article/2023/12070600/?all=1

つづく円安で、日本からの年金を頼りに暮らす海外ロングステイ組の暮らしはかなり厳しくなっているようだ。タイで暮らし始めて27年、バンコク・ロングステイ日本人倶楽部の世話役代表も務めた細野文彬さん(79)にその実情をまとめてもらった。

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【写真】たまの贅沢に寿司も食べたいが…細野さんが行くのは「なんちゃって寿司」だ


 最近の私のトレンドは、バンコクに雨後の筍のように増えている「なんちゃって寿司」巡り。タイ人経営の寿司屋だ。サクラやモミジの造花で店内を埋め尽くしたり、店頭に鳥居を建てたりと内装はハデハデ……。ネタは欧州産のサケとサバが定番だ。タイ人の好みに合わせて、ネタの上にマヨネーズをべったり塗ったりしているが。

 なぜ「なんちゃって寿司」に行くのか? 安いのだ。しっかり食べ、ビールを飲んでも500バーツから800バーツ。日本円に換算すると2100円から3400円といったところだ。

 ナイトマーケットなどの屋台寿司にも手を出している。1貫5~30バーツ(21円~127円)という完璧なタイ人向け価格だ。「暑いタイで屋台寿司なんて」と眉をひそめる日本人も多いが、背に腹は代えられない。これまで腹を壊したこともない。ネタにウナギも多いが、タイでは安い食材という扱いで、日系寿司店より各段に安く食べられる。先日もウナギとサケだけ12貫をテイクアウトして550バーツ(約2300円)だった。これを自宅に持ち帰り、缶ビールと一緒に……という夕飯だった。

「ここまで落ちたか……」


 我ながら「ここまで落ちたか……」という思いである。以前はときどき日系の寿司屋の暖簾もくぐった。いま、ディナーで食べると1500バーツ(約6300円)ぐらいするだろうか。いまではとても手が出ない。

 円安のせいである。下がりつづける円レートに、最近は1日2食を決行している。それも自炊でと決めているが、ときには寿司も食べたい……。しかし「なんちゃって寿司」や寿司屋台が限界である。

円の価値は約3割減


バンコク

物価の高騰で政府は給付金を検討している。しかし外国人は対象外だ(撮影・下川裕治)(他の写真を見る

 私はバンコクでのロングステイをはじめて27年になる。ロングステイというのは、シニア向けの滞在資格だ。条件を満たせば、老後をのんびりタイで暮らすことができる。ただし働くことはできない。多くのロングステイ組は日本から届く年金で暮らしている。

 その人が住むマンションの賃料などによっても変わるが、月の生活費は15万円ぐらいの人が多いだろうか。それを年金で賄うことになる。バンコクにやって来てからしばらくは円高が続き、1998年には1バーツが2.6円に高騰。その後も一時的な円安に見舞われることはあっても、2021年まで、ロングステイ組は円高を享受しつづけたわけだ。ところが2021年の後半から一転して円安が加速し、ここ2年間で大幅に円は価値を下げてしまった。最近のレートは1バーツが4.2円ほどだ。

 そこにタイの物価上昇という追い打ちがかかる。体感で1割以上高くなっている。たとえば、35バーツ(約150円)で食べられた「クイッティオ」と呼ばれるそばは、いまや45バーツ(約190円)。店によっては50バーツ(約210円)を超える。550バーツだった焼肉ビュッフェも100バーツも値上がりした。

 円ががくんと下落し、物価は上昇。つまりバンコクで円の価値は約3割も目減りした感覚だ。仮に月額20万円の年金を受けとっていたとすると、いまや14万円以下の価値しかないことになる。

耐えられず帰国する動きも

 私の場合は、年金以外に、日本での預金も使って暮らしていた。その額は生活費の2割ほど。それをたまの楽しみの日系寿司屋の支払いや旅行などに当てていたのだが、それが完全に吹き飛び、生活の“格”を下げる哀れなロングステイ組になってしまった。

 私が参加しているロングステイの集まりも、ここ2年で参加者は3~4割減ってしまった。その多くは収入3割減に耐えられなくなって帰国した人たちだ。昨年帰国したKさん(69)はこう切り捨てる。

「タイは物価が安かったからいたわけで、その差がなくなってきたら、いる意味がないですな。バンコクも物価が上がって、ものによっては日本より高い」

 やはり昨年日本に帰ったTさん(71)はこういっていた。

「これだけ円が下がるとね。それとコロナ禍も大きかった。バンコクには日本語が通じる病院はあるけど、やはり不安。知人の日本人が新型コロナウイルスにかかって、タイの病院で亡くなったとき、そう思いましたね」

 それでも残るロングステイ組もいる。私も含めて、あの円が高かった日々を忘れられないのだ。加えてタイ人の情の深さ、そして海岸線の自然美……。

 歯を食いしばってのロングステイはいつまでつづくのだろうか。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。近著に『僕はこんなふうに旅をしてきた』(朝日文庫)。

デイリー新潮編集部

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