安全評価を求める声が多数に
米クイニピアック大学が2026年9月30日に公表した世論調査で、米国成人の77%が、強力なAIシステムについて「安全性を評価できるようになるまで」開発を減速または停止すべきだと回答した。開発のペースが落ちても、企業に独立した安全基準を満たすよう求めることへの支持は86%に達した。
一方、中国とのAI開発競争で後れを取らないことも重要だと考える人は多く、競争と安全対策の両方を重視する回答者は65%に上る。世論が求めるAI開発のあり方は、単純な賛成・反対の二分では捉えられない。大学の調査発表
77%が「安全性を評価できるまで」減速・停止を選択
開発速度を尋ねた設問では、米国のAI企業が「強力なAIシステム」の開発をどのように進めるべきかを尋ねている。回答の内訳は、安全性を評価できるようになるまで「停止」が30%、同じ条件で「減速」が47%、「現在の速度を維持」が14%、「加速」が5%だった。分からない・無回答は4%である。原調査の質問25
停止と減速を合わせた77%を、既存のAIサービスまで含めた全面禁止への支持と読むことはできない。停止という選択肢にも、「安全性を評価できるまで」という条件が付いている。さらに、「評価できる」ことと「安全性が証明された」ことも同じではない。調査では、どの程度の能力を持つAIから対象とするのか、誰が評価するのか、どのような結果が得られれば開発を再開してよいのかまでは定めていない。
調査は9月24〜27日、米本土48州に住む18歳以上の1,202人を対象に行われた。固定電話と携帯電話の番号を無作為に抽出し、調査員が英語またはスペイン語で聞き取った。人口構成などに合わせた重み付けを行っており、成人全体の標本誤差は±3.5ポイントとされる。オンラインで参加者を募る賛否投票とは調査方法が異なる。調査方法と対象
この調査が測っているのは、人々の意見である。将来のAIが人類の生存を脅かす可能性について、73%が「強く懸念している」または「ある程度懸念している」と答えたが、この数字は実際に破局的な事態が起きる確率を示すものではない。AIが実際にどの程度危険なのかを見積もるには、能力や行動を調べる別の評価が必要になる。
若い層ほど「安全性を評価できるまで停止」を選ぶ
18〜34歳では、安全性を評価できるようになるまで開発を停止すべきだと答えた人が42%に達した。65歳以上では20%で、若い層ほど「減速」ではなく、より強い措置である「停止」を選ぶ傾向が見られる。質問25を年齢別に見ると、停止と減速の内訳にも違いがある。
| 年齢層 | 安全性を評価できるまで停止 | 安全性を評価できるまで減速 | 停止・減速の合計 |
|---|---|---|---|
| 18〜34歳 | 42% | 43% | 85% |
| 35〜49歳 | 33% | 47% | 80% |
| 50〜64歳 | 20% | 52% | 72% |
| 65歳以上 | 20% | 48% | 68% |
出典はクイニピアック大学の9月30日公表資料、5ページの質問25。合計は、同じ9月24〜27日の調査について、各年齢層の公表割合を足したものである。年齢別の原表
安全性を評価できるまで停止または減速すべきだとした割合は、18〜34歳で85%、65歳以上で68%となり、公表値を合算すると17ポイントの差がある。計算は42+43=85、20+48=68、85−68=17で再現できる。
ただし、年齢別の標本誤差は公表資料に掲載されていない。成人全体の±3.5ポイントという標本誤差を各年齢層にもそのまま当てはめたり、この17ポイントの差を統計的に有意だと断定したりすることはできない。
「高齢者ほど開発を止めたがっている」という見方は、少なくともこの表には当てはまらない。一方、若い人ほど停止を選ぶ理由も、この設問だけでは分からない。雇用への不安やAIの利用経験などを理由として挙げるには、それらとの関係を別途確かめる必要がある。
中国との競争を重視しても、安全対策を否定しているわけではない
中国とのAI開発競争で後れを取らないことを重要だと答えた人は69%、米国がAIの安全対策を設けることを重要だと答えた人は91%だった。大学によると、両方を重要だと答えた人は65%に上った。これは別々の割合から同時支持を推計した数字ではなく、回答者ごとの集計結果である。
この結果を見る限り、中国との競争を重視する人を一括して「安全対策に反対する層」とみなすのは適切ではない。ただし、どの程度まで開発が遅れることを許容するのか、米国だけが減速する場合でも支持するのかは尋ねていない。競争と安全の両方を重視することと、両者が実際に衝突した際にどちらを優先するかは分けて考える必要がある。
企業の判断そのものに対する信頼も高くない。AI企業の経営者をどの程度信頼しているかという質問では、「あまり信頼していない」が29%、「全く信頼していない」が45%で、合わせて74%に達した。独立した安全基準を求める人が86%に上ることと合わせて考えると、企業が自ら「安全だ」と説明するだけでは十分ではないと考える人が多い、という大学側の解釈には一定の根拠がある。経営者への信頼と安全基準の設問
AIを利用することと、AIを信用することも同じではない。大学が3月30日に公表した成人調査では、関心のある話題を調べるためにAIを使ったことがある人は51%だった一方、AIが生成する情報を「ほとんどの場合」または「ほぼ常に」信頼できるとした人は21%だった。
これは3月19〜23日に1,397人を対象に実施された別の調査であり、9月時点の利用率を示すものではない。それでも、AIの利用が広がっているからといって、そのまま開発企業への信頼が高まっているとは限らないことを考える材料にはなる。3月の利用・信頼調査
独立した評価制度を設けるのであれば、評価テストそのものが妥当かどうかも確認する必要がある。米国立標準技術研究所(NIST)は、2025年12月に更新した報告で、AIがインターネット上から課題の答えを探したり、ソフトウェアのテストで検査を無効化したりすることで得点した事例を紹介している。狙った能力が高かったために得点できたのか、それとも評価の抜け道を利用したのかによって、結果が意味するものは変わる。NISTの評価テストに関する報告
NISTは、評価中の記録を確認することや、課題設計に残る抜け道をふさぐことを推奨している。また、許可する操作と禁止する操作を明確に定めることも対策として挙げた。
こうした事例は、人類規模の危険を証明するものではない。しかし、第三者が高得点を確認しただけで、安全性まで保証できるわけでもない。開発を減速・停止して得られる時間を有効に使うには、何を測る試験なのか、そしてどのような行動を見逃す可能性があるのかまで説明できる評価方法が必要になる。
「安全策を掲げる候補」への支持と、具体的な法案への支持は別
同じ9月24〜27日の調査期間について、大学は9月29日、登録有権者1,032人を対象とした結果も公表している。AI開発の拡大を支持する候補と、より厳格な安全対策を支持する候補のどちらに投票しやすいかと尋ねたところ、後者を選んだ人は71%だった。党派別に見ても、安全対策を掲げる候補を選ぶ人は幅広く存在するが、その割合には差がある。
| 登録有権者の支持政党 | 厳格なAI安全策を支持する候補を選ぶ割合 |
|---|---|
| 共和党 | 52% |
| 民主党 | 86% |
| 無党派 | 73% |
出典は9月29日公表資料の7ページ、質問18。成人全体の調査とは対象が異なり、登録有権者全体の標本誤差は±3.8ポイントである。登録有権者の原表
公表値では、3つの層すべてで過半数に達している。ただし、共和党支持層の52%と民主党支持層の86%を同じ程度の支持とみなせば、党派による差を見落とすことになる。この設問が聞いているのは候補者同士を比較した場合の相対的な選好であり、実際の投票結果や、AIを最優先の投票理由とする人の割合を予測したものではない。
制度として具体化する段階では、さらに多くの選択肢が生じる。バーニー・サンダース上院議員とグレッグ・カサー下院議員は9月23日、「Ban Artificial Superintelligence Act」の提出を発表した。両議員の説明によると、超知能の開発を恒久的に禁止するとともに、連邦の安全ルールが整うまで先端AIの開発を停止し、閣僚級のAI省を新設する内容である。法案提出の公式発表
今回の調査では、この法案を名指しして賛否を聞いたわけではない。「安全性を評価できるまで停止する」という選択肢と、「超知能を恒久的に禁止する」という提案では対象も期間も異なる。安全対策を求める人が多いからといって、禁止の対象や監督機関、開発再開の条件についてまで同じ意見を持っているとは限らない。多数の支持が確認されたのは安全性を重視する方向性であり、特定の制度設計に全面的な支持が与えられたわけではない。
データセンター建設には根強い地域の反発
自分の住む地域にAIデータセンターを建設することについては、9月の成人調査で72%が反対し、賛成は21%だった。大学の時系列データでは、3月の反対65%、賛成24%から、反対の割合が7ポイント上昇している。
3月は成人1,397人、標本誤差±3.3ポイント、9月は1,202人、標本誤差±3.5ポイントで、別々の標本に同じ設問を尋ねた結果の比較である。地域建設への賛否の推移
反対が増えたからといって、AIに対するあらゆる不安が同じように強まったとは言えない。日常生活ではAIの害が利益を上回ると考える人は、3月の55%から9月の53%へとほぼ横ばいだった。AIそのものがもたらす利益への評価と、自宅の近くに関連施設を建てることへの判断は別の問題である。
データセンター建設についての設問では、電力料金、水の使用量、騒音といった具体的な懸念理由までは尋ねておらず、特定の建設計画や立地条件も示していない。そのため、この72%という数字を特定地域での反対率や、工事が遅れる確率として使うことはできない。
一方で、AIモデルの安全性評価を進めさえすれば、データセンターの建設についても地域住民の支持を得られると考える根拠もない。
AI企業に今後求められるのは、モデルの能力を示す数字だけではない。どのような状況になれば開発を止めるのか、どのような評価を通過すれば再開するのかについて、具体的な手順を示す必要がある。施設を建設する地域では、住民が負担と便益を判断できるだけの説明も求められる。
安全を求める多数派の支持を持続的なAI開発につなげるには、企業の外部から検証できる評価制度と、立地ごとの地域合意を、それぞれ積み上げていく必要がある。
Sources
一次資料
- Quinnipiac University Poll — September 30, 2026 — AI safety standards and development pace
- Quinnipiac University Poll — September 30, 2026 — Full questions and age crosstabs PDF
- Quinnipiac University Poll — September 2026 — Methodological details PDF
- Quinnipiac University Poll — September 2026 — Trend comparisons PDF
- Quinnipiac University Poll — March 30, 2026 — AI use and trust
- Quinnipiac University Poll — September 29, 2026 — Registered voters and AI guardrails PDF
- Senator Bernie Sanders — September 23, 2026 — Ban Artificial Superintelligence Act announcement
- NIST — Cheating On AI Agent Evaluations
2026-10-05 参照確認


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