iPhoneの便利機能に制限?2025年12月施行予定の「スマホ新法」で変わる生活
「スマホ新法」でiPhoneの便利機能が使えなくなる?
2025年12月に施行予定の「スマホソフトウェア競争促進法(通称:スマホ新法)」が、あなたのスマホの使い勝手を大きく変えるかもしれません。
法律の目的は、公正な競争の確保とユーザーの選択肢拡大です。しかしその一方で「これまで使えていた便利な機能が制限されるのでは」「セキュリティが低下するのでは」といった懸念も出ています。
Apple社のiPhoneを例にとると、欧州では、iPhoneのミラーリングやMacとのシームレスな連携、SharePlayの強化機能が提供されないなど、Apple社独自の連携機能が部分的に分断される事態が起きています。日本ではどうなるのでしょうか?
(※なお、本記事ではApple社を例にとりますが、Google社も対象です)
●「スマホ新法」とは?
「スマホ新法」の正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」です(2024年成立)。
スマホ新法は、欧州連合(EU)が2023年5月から主要義務を適用している「デジタル市場法(DMA)」とよく似た枠組みです。
DMAは、Apple社やGoogle社などの巨大プラットフォーマーが自社の技術やアプリストアを閉鎖的に運営し、競争を阻害することを防ぐための規制で、「よりオープンな市場」を目指しています。
たとえばiPhoneでは、「アプリストア」というApple社の公式ストアにアプリを登録しなければ、アプリをダウンロード出来ない仕組みになっています。
アプリを登録するには、Apple社の審査を通過する必要があり、有料アプリを販売する場合には、業者はApple社に手数料を支払わなければなりません。
このような仕組みは、Apple社の独占を許す不当なものであるという批判をされることもありました。その反面、詐欺的な、もしくはセキュリティに不安のあるアプリをダウンロード出来ないようにすることで、安全性を高めることには貢献しているといわれています。
●欧州のDMAに対するApple社の対応
日本で具体的にどのような変化があるのか詳細はまだ不明です。そこで、欧州でDMAによりどのような変化があったのか参考にしてみます。
DMAを受けて、Apple社やGoogle社の対応として考えられるのは、次の2つです。
1)第三者に対しても、自社の技術を自由に使えるようにオープンにするか、
2)(セキュリティが維持できないなどの理由で)自社内で提供可能な技術でも、DMAが適用される欧州では使用出来ないようにするか、
実際には、Apple社は自社機器の相互連携機能に関して、2)をとっています。
たとえば、以下のような機能はEU域内では提供されていません。
・「iPhoneミラーリング」(iPhoneをMac上から操作できる機能)
・「Mac上でのLive Activities表示」(iPhoneやiPadのロック画面に表示されるリアルタイムの情報をMac上で表示する機能)
・「SharePlayの遠隔操作共有機能」(iPhoneやiPadのFaceTime通話中に、テレビ番組などを同期した状態でストリーム再生したり、相手のデバイスをリモートで操作する機能)
その理由として、DMAへの適合に伴い、第三者への技術公開がプライバシーやセキュリティ上のリスクを高める可能性を挙げています。
他方、AirPodsのシームレス接続機能(※Apple社の製品を複数利用している場合、AirPodsは使っている機器に自動的に切り替わって使用できる)については、EUでも現時点で特に制限はありません。
もっとも、現状、EUは「AirPodsの自動オーディオ切り替えを他社製品にも開放する」よう求めています。
Appleがこれにどう対応するかによっては、日本でも仕様変更が行われる可能性はあります。
●日本ではどうなる?
日本で施行されるスマホ新法は、名称こそ異なりますが、EUのDMAと目的が非常に近く、「特定のOSやアプリストアに依存しない選択肢の提供」を義務づけます。
Apple製品の連携機能については、EUと同じような制限がかかる可能性があります。
また、アプリについては、iPhoneでも公式ストア以外の外部からのインストールが可能になる見込みです。
これはiPhoneの利用上便利になる部分がある反面、リスクも潜みます。
公式ストア外からインストールしたアプリは、マルウェアやフィッシング詐欺に利用される危険性が指摘されています。
さらに、ペアレンタルコントロール機能が簡単に回避されてしまう恐れもあり、特に子どもにスマホを持たせる家庭では安全確保が難しくなる可能性があります。
なお、一例としてApple社のiPhoneを挙げましたが、Google社もスマホ新法の適用対象であり、Androidスマホを利用している場合にも同じような問題が起こる可能性があります。
●パブリックコメントに反対の意見も
なお、本法に関してパブリックコメントが募集されていました(現在は終了)。
その内容をみると、賛成する声もある一方で、反対する意見や、規制のデメリットを指摘する声も多く寄せられています(※)。
・「特定少数の指定事業者のみを対象としており、その性質上市場の競争環境を歪める危険性を孕んでいる」などの特定の業者のみ狙い撃ちすることに対する批判
・「消費者にとって「使いやすく連携された標準アプリ」は利便性が高く、制限によって逆に使いにくくなる可能性があります」など、競争の過度の規制となり、技術革新を阻害することで結果的に消費者の利益にならないという批判
競争を活性化させ、消費者の利益を図るための規制が、かえって不便を生むことのないように、今後消費者側も声をあげていく必要がありそうです。
(※)「「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律第三条第一項の事業の規模を定める政令(案)」等に関する意見募集の結果について」 「「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律第三条第一項の事業の規模を定める政令等の一部を改正する政令(案)」等に関する意見募集の結果について」(いずれもe-GOV参照)
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