首都ワシントンに事実上の戒厳令が準備される中、これはアメリカでどこまで拡大するのか

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ワシントン市が戒厳令下に アメリカ

首都ワシントンに事実上の戒厳令が準備される中、これはアメリカでどこまで拡大するのか

アメリカ大統領は、首都美化推進の一環としてホームレスを首都ワシントンD.C.から一掃すると述べる一方、軍隊を使っての治安維持に乗り出す=戒厳令

戒厳令に向けて

8月11日に、アメリカ大統領は、首都美化推進の一環としてホームレスを首都ワシントンD.C.から一掃するという計画を提案しました。

そして、直後、これは「軍隊を使っての首都の治安維持」であることが判明し、つまり、

「アメリカの首都を事実上の戒厳令下に置く」

ことを述べたということになります。賛成派もいれば、異議を唱える人たちもいるわけですが、ともかく物議を醸しています。

ワシントンDC で、デモや反乱が起きているというわけではなく、単に犯罪が多く、ホームレスが多いという話ではあるのですが、それに対して、「米軍による対処」が始まるようです。

米ニューヨークポストの記事の一部を抜粋します。

米軍が、犯罪や若者の暴力と戦うために、ワシントンD.C.に州兵を増派する準備をしている

US military preparing to surge National Guard troops to Washington, DC, to fight local crime and youth violence: report
NY Post 2025/08/11

当局によれば、米軍はトランプ大統領による首都ワシントンでの犯罪に対する連邦政府による徹底的な取り締まりの一環として、数百人の州兵をワシントンD.C.に派遣する準備を進めている。

トランプ大統領は連邦軍の動員についてまだ最終決定を下していないが、州兵は派遣の準備ができていると、作戦に詳しい2人の米国当局者がロイター通信に確認した。

 

ワシントンポスト紙の報道によると、この準備は、すでに全米から集まった 120名の FBI 捜査官がワシントンD.C.の路上で夜通しパトロールを開始し、多くの捜査官が地元でのパトロール業務の訓練を受けていないにもかかわらず、カージャック多発地点で地元警官の支援を開始したことを受けて行われた。

「覚悟しておけ!我々は首都を取り戻したいのだ」と、トランプ大統領は、月曜日 (8月11日)朝に予定されているホワイトハウスでの首都の清潔さと全般的な状況に関する記者会見に先立ち、日曜日にトゥルース・ソーシャルに投稿した。

この命令は、3月28日に署名されたトランプ大統領の「コロンビア特別区を安全で美しいものにする」大統領令を受けて発令されるもので、同市内の犯罪対策と不法移民削減を専門とするタスクフォースが設置された。

「ワシントンのミュリエル・バウザー市長は努力した良い人だが、多くのチャンスを与えられたにもかかわらず、犯罪率は悪化し、街はますます汚くなり魅力を失っていくばかりだ」と、トランプ大統領は日曜日の投稿で述べた。

しかし、ワシントン・ポストによると、ワシントンDC警察のデータでは、DCでの暴力犯罪は 2024年の同時期と比べて 26%減少しており、今年の未成年者の逮捕者数は約 20%減少している。


今回の大統領令は、7月の記事「薬物中毒者とホームレスをすべて精神医療施設に強制的に拘禁するという人間狩り的なアメリカ大統領令…」で取り上げた発表に続くものです。

それとは別に、アメリカで「反乱法」の発動準備がなされたのかどうかは今でもわからないままですが、1807年に制定された反乱法が発動されれば、米軍の出動は、その法律には沿っています。

反乱法 252条には以下のようにあり、軍の動員を正当化できます。

反乱法252条 連邦政府の権限を執行するための民兵および武装勢力の使用

大統領は、違法な妨害、結託、集会、または合衆国の権威に対する反乱により、通常の司法手続きではいずれかの州で合衆国の法律を執行することが実行不可能であると考えるときは、いつでもそれらの法律を執行し、または反乱を鎮圧するために必要であると考える州の民兵を連邦政府に召集し、軍隊を使用することができる

house.gov


反乱法については、最短で今年 4月20日に発動される可能性が言われていましたが、そのような発表も報道もありませんでした。以下の記事にあります。

 

4月20日に発動される可能性のある「反乱法」を発端として、アメリカは歴史上最大の監獄国家に陥るのか
In Deep 2025年4月17日

 

どうであれ、現在、アメリカの首都が「軍の制圧下に入った」ということは確かなわけで、そして、アメリカには、ワシントンなどとは比較にならない治安の悪い地域がたくさんあります。そういう場所も、今後、戒厳令下に入っていくということなのでしょうかね。

この「街を美しくする」とか、「治安を回復する」という表現は、その言葉そのものは耳障りのいいもので、特にもともと地域に住んでいた善良な人たちには大歓迎なのでしょうけれど、しかし、その方法が戒厳令というのはどうなんでしょうね。

逆にいえば、

「軍隊を動員しないと、犯罪も街の美化も達成できない」

ということにもなりそうで、宿痾の深さを感じます。

でもまあ、わりと世界中の人たちは、こういう強圧的な行動がわりと好きなことも歴史は語っています。世界の各地で、かなり強引な取り締まりや制圧によって治安を回復した例は、フィリピン前大統領の例などを含めて、ここ数年にもありますが、多数の大衆の支持を得たりしていました。まあしかし、それらの話は長くなりますので、話を進めます。

犯罪の撲滅や治安の回復が悪いことのわけはないのですが、

「超法規をどこまで許容できるのか」

ということかもしれません。トランプ氏も就任以来、憲法違反や国際法違反と言えるような数々の大統領令や発表を行っていますが、憲法を無視していいのなら何をやってもよいということになる。独裁政権と同じになってしまいます。

「オレが法律だ」

というやつですね。

今年 2月、米ラザフォード研究所の所長であるジョン・ホワイトヘッド氏が、「独裁政治に入り込む夢遊病」という寄稿文の冒頭で以下のように書いています。

独裁政治に入り込む夢遊病より

何かを「どのように」行うかは、何かが「なぜ」行われるかと同じくらい重要だ。

目的は手段を正当化すると主張することは、私たちを全体主義の窮地に陥れる道徳的、倫理的、法的迷路に自ら突入させることだ。

私たちはすでにその道の半分を歩んでいる。

さらに以下のように書いていました。

歴史が示すように、米国政府は自らの目的のために自国民を投獄することに抵抗はない。連邦政府が国内の「秩序」を維持するためにどこまでやるかを知るには、1940年代にさかのぼるだけで十分だ。

当時、連邦政府は、潜在的な反体制派とみなされた日系アメリカ人を、民族的出自のみに基づいて強制収容所(いわゆる抑留所)に収容できると宣言した。(略)政府は都合の良いときには法の支配を無視する傾向があることを考えると、ロバーツ長官の発言は安全をほとんど保証するものではない。

私たちは多くの面で一周して以前に戻りつつあるようだ。

この全文は、以下の記事にあります。

「独裁政治に入り込む夢遊病」:法を超越する怪物たち
In Deep 2025年2月8日

 

しかしまあ…国民は、わりとそういうのに慣れやすいですし、そして、その後は「忘れてしまう」ものなんですよね、おおむね。パンデミックのときのことを思い返すと、つくづく、それを思います。

『すばらしい新世界』 (1932年)というディストピア小説を書いたオルダス・ハクスリーという人は、全体主義国家を以下のように述べていました。

真に効率的な全体主義国家とは、政治ボスとその管理軍団からなる全能の執行部が、奴隷の人口を統制し、奴隷は奴隷であることを好むため、強制される必要がないという国家だ。

– オルダス・ハクスリー


「違憲と抑圧によって保たれた平和」に人々が満足していくのなら、そのディストピア的全体主義国家は完成するということになります。

まあ、なんだかよくわからない流れとなってきましたけれど、今回の戒厳令に比較的懐疑的な保守派メディアの記事をご紹介して締めさせていただきます。



トランプ氏の犯罪に対する戒厳令アプローチは根本的な原因に対処しておらず、社会問題を他の場所に押しやる可能性がある

Trump’s MARTIAL LAW approach to crime DOES NOT address root causes, may push societal problems elsewhere
naturalnews.com 2025/08/11

劇的な展開の中、ドナルド・トランプ大統領は首都ワシントンD.C.に秩序と美観を取り戻すという名目で戒厳令を敷こうとしている。

計画では、数百人の州兵と FBI 捜査官が街頭に繰り出し、ホームレスを強制的に排除し、犯罪者を起訴することになっている。このアプローチは、目に見える犯罪や荒廃を一時的に解決するかもしれないが、社会問題のカードをめくる手を変え品を変え、根底にある問題を悪化させるだけだ。

トランプ大統領のこの取り組みは大胆ではあるものの、問題の核心には触れておらず、むしろ表面的で懲罰的な解決策を選び、最も被害を受けた人々の尊厳と人間性を無視している。

この物議を醸す動きをめぐって全国的な議論が巻き起こる中、次のような疑問が浮かび上がっている。

この大胆なアプローチは一体何をもたらすのだろうか? 街をきれいに見せるために、どれだけの命が奪われるのだろうか?

そして、最も切実なのは、これらの行動は本当にワシントンD.C.をより安全で美しくするのだろうか?

この記事の核心は、歪んだ救世主コンプレックスの探求にある。トランプ氏がこの地区をかつての栄光を取り戻すと約束したのは、単なる政治的な約束ではなく、深く個人的な意味合いを持つ。

彼のスローガン「いい人なんかいらない」は、繊細な対話を軽視し、長期的な解決策よりも目先の結果を優先する、場当たり的な解決策を選ぶ姿勢を反映している。こうしたアプローチの層を剥がしていくと、この物語は、使い捨てとみなされた人々の人間性を再考するよう、切実に訴えかけるものとなる。

 

トランプ大統領の安全な街づくり構想は戒厳令へと発展

問題の核心は、政策と道徳の衝突にある。

トランプ氏のビジョンは、単に街路を清掃することではなく、首都に対する強固な権威を確立することだ。大統領令 14083号「コロンビア特別区を安全で美しくする」によって、トランプ氏は統制のビジョンを具体化し、ホームレスは立ち退き、犯罪者は刑務所に収監されるべきだと宣言した。

彼のレトリックは、都市が混沌の瀬戸際にあり、強硬な対応を強いられるべきという状況を描き出している。しかし、表面下では、これはより根深い組織的怠慢の兆候のように見える。避難民はどうなるのか、そして政権は残された人々の傷をどのように癒すつもりなのか。

論理は明快だ。ホームレスを周縁に追いやり、犯罪者を監禁すれば、街の景観は劇的に改善されるだろう。

しかし、疑問は残る。人々はどうなるのか? 全米ホームレス法律センターのジェシー・ラビノウィッツ氏をはじめとする批評家は、軍事介入よりも住宅や支援の提供に資金を充てるべきだと主張している。

片付けることと、家を追われ、突然行き場を失った家族や個人に命を吹き込むことはまったく別の話だ。本格的な復興と統合への取り組みがなければ、問題はただ移動するだけであり、貧困と資金不足によってすでに大きな負担を強いられている地域社会に重くのしかかることになる。

 

治安の軍事化:計画の実行

トランプ氏の政策は単なる行政権の誇示ではなく、治安の軍事化の青写真である。数百人の州兵と FBI 捜査官が配備準備を整え、監視のスペクタクルを作り出すことに焦点が当てられている。

しかし、現場ではどのような状況になっているのだろうか?

取り締まりの第一波では、全国から 120人の FBI 捜査官が夜間に街頭に展開した。しかし、彼らの配備は疑問視される事態を招いた。なぜなら、これらの捜査官の多くは、地域パトロールに必要な専門的な訓練を受けていないからだ。

また、市内のホームレス問題と犯罪は相対的なものであるため、彼らが入れ替わる地域社会は、対応するための支援体制がないまま、次々と課題に直面することになるだろう。

さらに、トランプ政権による野営地でのホームレス取り締まりの影響は深刻だ。

「犯罪者たちよ、立ち去る必要はない。我々は、あなたたちを、あなたたちが属するべき場所、刑務所に入れる」とトランプ氏は書き、執行の明確な姿勢を示した。

しかし、これらの野営地で暮らすホームレスはどうなるのだろうか?

彼らを「首都から遠く離れた」地域に移転させるという約束は、辺鄙で準備の整っていない地域に新たな野営地が作られるという懸念を生じさせている。

必要なインフラとサービスがなければ、これらの住民はさらに悲惨な状況に陥る可能性があり、これはこのアプローチの場当たり的な性質を痛ましく証明している。

根本的な問題に取り組む必要がある。彼らの生活に目的を取り戻すにはどうすればよいのか? 絶望的な状況にある人々を、社会的な責任と義務を自覚できるよう、どのように更生させ、理解を深めることができるのか?

トランプ氏の犯罪についての見識は正しい。米国の犯罪は現実であり、ワシントンD.C.、シカゴ、ニューヨークといった都市で蔓延している。しかし、戒厳令以外に何ができるだろうか? トランプ氏の政策は、様々な方法で対処できる問題に対する劇的な対応のように見える。

「いい人なんかいらない」というスローガンは、行動を喚起する力強い呼びかけであるが、実際には複雑な力学が絡み合っていることを無視している。

 

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