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ホルムズ開放でもナフサ危機は去らないワケ…専門家予想「”真っ白”になる可能性があるスーパーで活躍の素材」

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カルビーパッケージ白黒に変更 エネルギー

ホルムズ開放でもナフサ危機は去らないワケ…専門家予想「”真っ白”になる可能性があるスーパーで活躍の素材」

米国とイランの戦闘終結に向けた協議が合意に至ったと発表された。ナフサ問題もおさまるのか。早稲田大学理工学術院教授の松方正彦氏は「戦闘が終結したところで、既に高額で精製ナフサ・原油を輸入していることから、価格転嫁をせざるを得ない。皆さんがスーパーや薬局で目にする多くの製品に影響する可能性がある」という。ジャーナリストの湯浅大輝さんが聞いた――。

封鎖が解かれてもナフサ仕入れ高騰の影響は夏以降も続き、現在でも15%不足していて今後物価の上昇、色柄の廃止などが相次ぐ。

ナフサは足りればいいわけではない

ナフサの量は足りている――。官邸はホルムズ危機に際して発生したナフサ問題について繰り返しこう表明している。ところが、カルビーの「ポテトチップス」の包装がカラーから白黒になったり、建築資材の入手困難でマンションの大規模修繕工事が遅れたりと、一般消費者にとっては不穏なニュースが相次いでいる。

認識の食い違いが表出した象徴的な場面があった。6月9日の記者会見で「ナフサの総量が足りていないと認めるべきでは」と質問した記者に対して、赤沢亮正経済産業大臣が「量が足りているのが事実。(事実と違うのにもかかわらず)『全体量が足りていない』と発信すると、今以上に買い占めが酷くなる」と真っ向から反論したのだ。

早稲田大学理工学術院 先進理工学部 松方正彦教授
早稲田大学理工学術院 先進理工学部 松方正彦教授(写真=本人提供)

ナフサを巡って一体何が起きているのか。

石油化学業界のサプライチェーンに詳しい早稲田大学教授の松方正彦氏は「ナフサの量はある程度足りているのは事実」と指摘する。しかし、消費者にとって、足りていればいいというわけにはいかない。

「戦闘が終結したところで、既に高額で精製ナフサ・原油を輸入していることから、価格転嫁もせざるを得ない。つまり、皆さんがスーパーや薬局で目にする多くの製品に影響する可能性があるということだ」(松方氏)

いつまで庶民は物価高に苦しまねばならないのか――。

2026年5月14日、東京にあるカルビー本社で、白黒デザインのサンプルパッケージ(下)や現在のオレンジと黄色のパッケージ(上)を含む、カルビーのポテトチップスの袋が展示されている
写真=AFP/時事通信フォト
2026年5月14日、東京にあるカルビー本社で、白黒デザインのサンプルパッケージ(下)や現在のオレンジと黄色のパッケージ(上)を含む、カルビーのポテトチップスの袋が展示されている

白黒になるのはお菓子だけではない

具体的に、小売店の様子はどう変化しうるのか。松方氏の指摘によれば、お菓子袋がカラーから白黒に変わるのみならず、お寿司などの惣菜品のトレーも赤色と金色のものから「真っ白」になる可能性があるという。

ずらりと並ぶ、パック詰めされた寿司
写真=iStock.com/Aekprachaya Ayuyuen
※写真はイメージです

カルビーのポテトチップスの件に典型だが、他のお菓子メーカーの袋も白黒印刷になる可能性はある。カラー印刷に使うインキはナフサ由来で、コストを抑えるためだ。スーパーのお寿司もポリスチレンというナフサが原料の素材のコストを下げるべく、白に変わっていくかもしれない。お弁当の容器や惣菜のトレーも同様に、今よりももっと簡素なものになる未来も予想できると松方氏は言う。

薬局では医薬品の値段に影響があるかもしれない。医薬品の原料となる中間体にもナフサ由来の化学品が使われているからだ。

さらに夏に必須の冷却ジェルシートや保冷剤といった商品の値上がりの可能性も考えられるし、衛生用品ではシャンプーの詰め替えパウチにマスクやオムツも高くなるかもしれない。

不安をあおるつもりはないが、松方氏が「現代社会は石油文明で、ナフサにものすごく依存している」と指摘するように、ホルムズ危機が続く以上、値上げ圧力は続く。

値上がりと不足について予測は困難

また、石油化学製品のサプライチェーンは極めて複雑で長大なため、「どのタイミングで、どれくらい、何が不足するか/高くなるか」が予期しにくい、という問題もあると同氏は強調する。

なぜナフサ由来の、私たちに馴染みが深い製品の値上がりは避けられないのか。これを理解するためには、石油化学製品がどう作られるかについて知らなければいけない。

ナフサ由来製品の流通は複雑

ナフサは原油を製油所で精製したときに、ガソリンや灯油、軽油と同時に出てくる。製油所で得られたナフサのうち、石油化学原料として使われるものは、クラッカーと呼ばれる設備に送られる。

クラッカーとはナフサの分解炉で、エチレンやプロピレン、ブタジエン、BTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)などの、プラスチックや塗料、接着剤、洗剤のもとになる石油化学基礎製品がここで作られる。

これらの基礎製品はさらに、化学メーカーに送られ、ポリエチレンや塗料原料、合成ゴム、合成繊維原料などの石油化学誘導品に変わる。石油化学誘導品が関連産業の工場に送られ、食品包装材や自動車部品、家電製品、衣料、日用品向けの素材として加工される。これらを各業界の卸売業やメーカーが出荷/製品化する、というのがサプライチェーンの大まかな流れだ。

石油化学プラント
写真=iStock.com/dongfang zhao
※写真はイメージです

ところが米国とイランの軍事衝突でホルムズ海峡の航行が不安定化し、世界中の燃料価格が高騰することとなった。原油の9割以上を中東に依存していた日本にとっては大打撃であり、特に石油化学業界に激震が走っている。

85%まで回復=15%は足りていない

こうした未曾有の危機の中、日本政府がナフサの量について「従来の85%の水準まで回復する(※)」〔中東情勢に関する関係閣僚会議(第9回)より〕と発信しているのは、①日本の製油所で原油を精製したときに得られるナフサ、②代替として新たに外国から輸入したナフサの2つを総合してのことである。

(※)政府は同時に、川中の製品在庫の活用と川中の製品調達を進める、としている。

だが、量は足りていても、先に見たように、ナフサに由来する製品のサプライチェーンは非常に長大かつ複雑だ。

赤沢大臣が「事業者からすれば、お得意様に来月商品を出せるようにするために、供給量を絞ることは十分に合理的」と9日の記者会見で分析したように、これほど複雑なサプライチェーンで商売をするメーカー・卸売業にとっては、ホルムズ危機で『買い溜め』をすることは経営上当然だとも言える。総量が読めない、と経営陣が判断したとすれば、予防としてたくさん買ったり、供給を絞ったりするのが自社の生き残りに直結するからである。

松方氏も「そもそも、政府が言う『85%の水準まで回復する』の裏を返せば、15%は足りていないということ。ホルムズ危機の前まで『15%余計にナフサを持っていた』わけではない以上、川中・川下の事業者が不安を覚えるのも当然」だと強調する。

各社の行動がサプライチェーン上で「目詰まり」を起こしていたとして、お得意様に商品を買ってもらえなければ自社が損をする。個別最適が全体最適につながらないのも無理はない。

大金をはたいてナフサを買っている現実

さて、冒頭に松方氏が、ナフサ高騰でお弁当の容器から保冷剤、オムツ、シャンプーの詰め替えパウチなどの製品の値上げ圧力が高まる、と論じたのには明確な理由がある。

「中東産の原油も、中東で精製されたナフサも、双方とても安かったが、情勢不安の今はどちらも価格高騰しているし供給も不安定。アメリカや南米産の代替品も高い」というシンプルな理由だ。

松方氏によると、そもそも日本が必要とするナフサのうち、日本の製油所で生産できるナフサは4割程度しかないという。つまり6割はすでに精製されたナフサ(うち、約7割が中東から)を買っていた。

ところがホルムズ危機でこの状況が一変。日本の製油所で生産するナフサをつくるにしても、これまで中東に依存していた原油の代替を探してくる必要があるし、精製されたナフサも価格が急騰するなど価格が不安定化した。

メーカーや商社は多額の資金を投入

実際、松方氏は、石油元売りや石油化学メーカー、商社はすでに精製されたナフサを購入するために、多額の資金を投入していると明かす。

「ナフサの調達価格は(先物取引が中心的な)原油と違い、現物取引に占めるウエイトが大きい。つまりナフサの量が足りないとなると、世界中で争奪戦が始まるということだ。実際、『以前と比べると信じられない値段』で買っているという話も聞いた。これでは、川中・川下に売るときに価格転嫁をせざるを得ない」(松方氏)

松方氏はまた、日本の輸入品も値上がりすると指摘する。高騰するナフサのあおりを受ける国は日本だけでは当然ない。日本人が百円ショップや家電で買うあらゆるアイテムをつくる工場があるベトナムやタイなどの国々でもナフサ調達コストは上がっている。

これが松方氏が「ナフサ由来製品の値上がりは避けられない」と話す理由である。

いつまで価格上昇圧力が続くのか

問題はいつまでナフサ由来製品の価格上昇圧力が続くか、という点だが、松方氏は「少なくとも夏までに下がる未来は見えない」と分析する。

すでにナフサ調達コストがうなぎのぼりに上がっていたことから、上流のクラッカーを所有する総合化学メーカーも値上げせざるを得ないというのがその大きな理由だ。

また、松方氏は石油化学製品のサプライチェーンにおいて、この10年は上流が弱い立場に置かれていたことも指摘する。内需が弱ったことに加え、下流企業からの値下げ圧力が強く、総合化学メーカーはクラッカーの設備過剰に陥っていたというのだ。

「総合化学メーカー各社は近年、クラッカーの統廃合を進めていた。そこにホルムズ危機が直撃し、いきなり『稼働率を上げてくれ』と政府・川中川下のメーカーから催促される形になっている。これまで総合化学メーカーは製品のスペックを向上させても売値を上げられなかったのに、今では川中・川下の業者は言うことを聞くしかない。ここにきてはじめて上と下の立場が逆転している」(松方氏)

そりゃ容器が白くなったり値段も上がるわ…

消費者もある程度の値上げは仕方がないと受け入れるしかない、ということか。

「そもそも、日本が原油のほぼすべてを依存している中東で大規模な軍事衝突が起きている。非資源国の日本に住んでいて、この影響を全く受けないというのは非現実的。ナフサショックの教訓として、中東以外からもう少し原油を調達するとか、クラッカー企業の稼働率を上げるべく価格転嫁をするといった努力を官民あげて行う必要がある。いわゆる『目詰まり問題』も、サプライチェーンがこれほど長く、複雑な現状では聞き取りベースでは全貌を把握しづらい。デジタル技術を使って透明性を高めることも一案だろう」(松方氏)

我々の生活がいかに石油化学製品に依存しているか知っておくことが、スーパーで買い溜めしたり、白いトレーにのった寿司に驚いたりする前に必要なことなのかもしれない。

スーパーの精肉コーナーの棚に目を走らせる女性
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです

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