ホルムズ海峡の通行状況が停戦合意後にむしろ悪化する中、世界の流通の80%を担う船舶の燃料が尽きつつある
どちらにしても、混乱への方向性は避けられない。もうすでに時遅しと言う見方も・・・。
停戦合意後もホルムズ海峡は厳格に閉鎖されたまま
連日、ホルムズ海峡関係の記事となってしまっていますが、イランとアメリカが「停戦に合意した」と報じられてからも、まったく海峡の通航は復活していないことを知りました。
停戦合意後の 6月15日のホルムズ海峡通過状況は以下のようになっていまして、
「船舶一隻が通過しただけ」
となっています。
2025月11月〜2026年6月15日のホルムズ海峡通過状況
Michael McDonough
この船舶は、報道によれば、Disha 号という LNG (液化天然ガス)タンカーのようです。船籍はわかりません。
そして、こちらに書きましたけれど、イランの革命防衛隊は、
「ホルムズ海峡の船舶の通過を一切認めていない」
とイランのファルス通信が伝えています。
むしろ「以前より厳しく閉鎖されている」状況のようなんです。
トランプ氏は、SNS に「石油を満載した船がホルムズ海峡から出航し始めている」と昨日書いていましたが、まったくの錯誤(あるいは虚偽)であり、「石油を積んだ船は一隻も通過していない」のが実際です。 6月15日に通過した唯一の船舶は LNG タンカーですので、石油は「まったく」流れていません。
とはいえ、トランプ政権は、「金曜日 (6月19日)からホルムズ海峡は再開される」と述べていましたので、仮にこの言葉通りに、今週中にホルムズ海峡が完全に再開したとしましょう。
しかし、
「それでもダメ」
なのです。
今すぐ海峡が開かれても、すぐに元のように戻るわけではないのです。
これについては、エネルギー関係の著名メディアが、以下のような記事を掲載していました。
米イラン合意は石油・ガス供給の急速な回復を意味するものではない
U.S.-Iran Deal Doesn’t Mean a Swift Return of Oil and Gas Flows
oilprice.com 2026/06/15
・米イラン間の合意によってホルムズ海峡が再開される可能性はあるが、船舶輸送や生産活動がすぐに正常に戻るわけではない。
・中東の石油生産量は日量1000万バレル以上停止しており、一部の油田では完全再開まで数ヶ月かかる可能性がある。
・イラクは、南部からの輸出がバスラ経由のアクセスに大きく依存しているため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦よりも景気回復が遅れる見込みだ。
米イラン合意と、間近に迫ったホルムズ海峡の再開は、石油・ガス貿易がすぐに以前の水準に戻ることを意味するものではない。合意の発表はあくまで第一歩であり、この地域の石油・ガス輸送量が戦前の水準に戻るには数ヶ月かかる可能性がある。
中東の産油国は、3か月半前にホルムズ海峡が閉鎖されて以来、日量 1000万バレル以上の原油生産を停止せざるを得なくなっている。生産国が以前の生産量レベルまで油井を完全に回復させるには数か月を要する見込みであり、ホルムズ海峡の状況は、たとえ予想通り金曜日に再開されたとしても、依然として不透明だ。
「『開放』が何を意味するのか、また閉じ込められた船舶の避難速度がどれくらいになるのかは、我々には分かりません」と、コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターの上級研究員であるダニエル・スターノフ氏は AP 通信に語った。
サウジアラビアやアラブ首長国連邦のような一部の産油国は、例えばイラクと比べて生産量をより早く回復できるだろう。イラクは、南部油田からバスラを経由して原油を輸送できなかったために、生産量の大部分を削減せざるを得なかった。
「イラクのような国は、より大規模な生産停止を経験しており、油田の状況もより困難なため、はるかに大きな課題に直面する可能性があります」と、ウッド・マッケンジー社の精製・化学・石油市場担当上級副社長のアラン・ゲルダ―氏は述べた。
「彼らが戻ってくるまでには、おそらく 1年ほどかかるでしょう」と専門家は AP 通信に語った。
5月末、ウッドマッケンジー社のアナリストは、操業会社が慎重かつ計画的な生産量増加を選択した場合、ホルムズ海峡閉鎖の影響を受けた油田は、3ヶ月以内に以前の生産量の 70%、6ヶ月以内に 90%まで回復する可能性があると述べた。
エネルギーコンサルタント会社によると、残りの約 100万バレル/日の生産量回復には、さらに長い時間がかかる見込みだという。
サクソバンクの商品戦略責任者であるオレ・ハンセン氏によると、「サプライチェーンが正常化し、輸出の流れが回復するスピードも、地政学的リスクプレミアムが市場にどれだけ残るかを決定する上で重要な役割を果たすだろう」とのことだ。
すでに一部の海運会社は、金曜日に合意が正式に成立するまで海峡横断を試みないことを明らかにしている。
横断を希望する船主にとっても、保険の手配やその他の実務上の問題により、復旧がさらに遅れる可能性がある。
ホルムズ海峡の再開に関する合意は、イランとアメリカの戦争の終結を意味する可能性が高いが、石油・ガス産業にとっては、おそらく長い道のりとなるであろう復興への第一歩に過ぎない。
ここまでです。
ここに「すでに一部の海運会社は…」とありますが、これは日本の海運会社です。以下は別の報道からです。
ホルムズ海峡合意にもかかわらず、日本の海運会社は様子見姿勢を崩さず
ホルムズ海峡付近で立ち往生している船舶を所有する日本の海運会社は、米国とイランが敵対行為を終結させ、イランが海峡を再開することで合意したというニュースの真偽を急いで確認するつもりはない。ロイター通信によると、彼らは金曜日に署名される予定の合意の正式化まで待つという。
エネルギー不足に悩む日本は、中東からのエネルギーやその他の物資の輸入に最も依存している国の一つであり、そのため船舶の正常な運航再開に最も関心を寄せている国の一つでもある。
しかし、ロイター通信の報道によると、日本の海運業者は、できるだけ早くホルムズ海峡から船舶を脱出させるよりも、「より具体的な情報が得られるまでもう少し待つ」ことを望んでいるという。
oilprice.com 2026/06/15
こういう状況のようで、6月19日の「正式な合意」まで待ち続けるようです。…が、果たして、その日に、ホルムズ海峡の完全な再開のような合意に至るかどうか。
そして、何より、「機雷(海の地雷)の撤去」の問題が待ち構えています。
機雷の除去には最低でも数週間かかる
これは、保険業界のメディアが以下のように昨日報じていました。
ホルムズ海峡の機雷捜索には数週間かかる可能性がある
海運および海上安全保障関係者によると、ホルムズ海峡の機雷の安全確保には、航路再開合意後も通常の船舶交通の再開が数週間遅れる可能性があるという。
欧米の海上安全保障関係機関5社の評価によると、従来型の掃海艇と最新鋭の水中ドローンによる作戦は、多くの保険会社、海運会社、石油会社が安心して航行できるようになるまで、40日から50日間続く可能性がある。
戦前の石油供給量に基づいた推定によると、これは潜在的に数千万バレルの石油供給を滞らせる可能性があり、さらに2月28日に米国とイスラエルがイランを攻撃して以来、湾岸地域からの石油供給はすでに遮断されている。
insurancejournal.com 2026/06/15
ちなみに、ワシントンポストは、アメリカ国防総省の議会への説明として、
「機雷撤去には最大 6カ月かかる」
と報じています。
つまり、機雷の撤去だけでも、ホルムズ海峡の通常の通行は来年までずれ込む可能性があるのです。
以下はイメージ画像ですが、機雷はこのように設置されます。
機雷敷設のイメージ
chosun.com
これらの正確な位置を把握して除去作業を行うわけですが、問題は、
「敷設したイラン側も、機雷の正確な位置を把握していない」
可能性があると NYタイムズなどが報じていましたが、仮に把握していたとしても、「機雷は海を漂流する」ので、全機雷の位置を把握するのは大変に困難であるようです。
設置された機雷の正確な数も不明で、「数十から数百」という推定値だけが存在します。逆にいえば、「完全な撤去は不可能」とさえ言われています。
結局、6月19日にホルムズ海峡が再開されたとしても、「航行することができないない状態が続く」可能性が高いのです。場合によっては 6カ月以上もそれが続く。
そうなると、来年までホルムズ海峡の事実上の封鎖が長引くわけで、先日の記事「アメリカの原油指標である「クッシング在庫」が枯渇寸前になっている事実…」などにありますように、世界中で原油の枯渇が近づいている中では「もう遅すぎる」と考えざるを得ません。
そして、もし仮にこのように、ホルムズ海峡の自由な交通が長く止まることになった場合、いよいよ大きな問題に突き当たります。
「船舶の燃料が枯渇に近づいている」
のです。
海運が機能しなければ、流通は何もかも停止してしまう
船舶の燃料は「バンカー燃料」と呼ばれますが、この供給のひっ迫は、ホルムズ海峡閉鎖が起きて、わりとすぐに懸念されていたことで、しかし、いよいよ問題が限界点に近づいています。
バンカー燃料は、世界貿易の約 80%を運ぶ船舶の動力源であり、そして、世界の物流は、何もかも船舶によって循環しているものであり、これが止まると全部止まると言っても過言ではないと思われます。
食料も石油化学製品も金属やアルミニウムや肥料、あるいは建築や自動車の部品や原料など、何もかも停止してしまいます。
これは特に大げさな話ではないです。
もちろん、バンカー燃料の供給不安の問題が解決すれば、すべてが通常に戻りますが、先ほどの機雷の撤去などを含めて、しばらくは不安定な通行状態が続くと思われますので、その期間が長引けば長引くほど、「海運の危機」が近づきます。
海運や貿易の専門メディアであるグローバル・マリンタイム・ハブは、「湾岸地域の混乱が世界の海運を脅かす中、船舶燃料のリスクが浮上」という記事を、3月26日に掲載していました。
3月26日です。今から 3カ月前にすでに危機の兆候は出ていて、すでに、それから 3カ月経っています。
その記事をご紹介させていただこうと思いますが、かなりは厳しい「ショック状態」に現在、限りなく近づいているようです。
湾岸地域の混乱が世界の海運を脅かす中、船舶燃料のリスクが浮上
Bunker fuel risks emerge as Gulf disruption threatens global shipping
globalmaritimehub.com 2026/03/26
船舶燃料は、現在の湾岸危機における隠れた問題点として急速に浮上しており、世界の海運と貿易に広範囲にわたる影響を及ぼす可能性がある。
市場は原油と LNG (液化天然ガス)の流れに注目し続けているが、マーティン・ケーリング氏は、これはより差し迫った運用上のリスクを見落としていると警告している。
「世界の貿易量の 80%を運ぶ船舶の動力源となる重油、つまり船舶燃料に注目している人は、はるかに少ない」
その盲点が今、露呈しつつある。
ジゼル・ウィッダーショフェン氏によれば、この状況はもはや単なるエネルギーショックではなく、より構造的な問題だという。
「船舶燃料市場は、地政学的な不安定さが世界経済の緊張へと転化する最初の伝達経路なのです」
問題の核心は、中東の湾岸地域が原油輸出だけでなく、船舶燃料の精製と供給においても極めて重要な役割を担っている点にある。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦での精製から、フジャイラなどのハブを経由したブレンドと再分配に至るまで、この地域の統合システムは世界の船舶燃料供給を支えている。このサプライチェーンのどの段階においても混乱が生じれば、すでに市場全体に影響が波及している。
ストレスの初期兆候は目に見える形で現れる
ホルムズ海峡を通る燃料油の輸送量は急激に減少していると報じられており、フジャイラでの船舶燃料供給量も大幅に減少している。同時に、主要ハブでは価格が急騰しており、シンガポールなどの主要拠点では在庫が逼迫している。
さらに重要なのは、市場の動向が変化しているということだ。
船舶運航会社はもはや価格最適化ではなく、燃料の安定供給を優先するようになっている。そのため、燃料補給時期を早め、一度に大量の燃料を積み込み、スポット購入よりも長期契約を優先するようになっている。一方、トレーダーたちは在庫を抱え込み、供給逼迫のサイクルをさらに強めている。構造的な脆弱性は明らかだ。
世界の年間燃料油需要は約 2億4000万~ 2億5000万トンに達するが、その供給システムは冗長性が限られており、貯蔵バッファーも最小限にとどまっている。わずか 5~ 10%の供給停止でも、甚大な影響が生じる可能性がある。
マーティン・コーリング氏が指摘するように、タイムラインは非常に重要だ。
「 1ヶ月の混乱でも非常に厳しい… 2ヶ月となれば壊滅的な事態になるでしょう」
その影響は、製油システムが湾岸産原油と密接に結びついているアジアで最初に感じられる可能性が高い。しかし、ヨーロッパも例外ではない。世界的な流れが調整されるにつれ、貨物、そして燃料は最高額を提示した国へと流れ、地域間の燃料競争のリスクが高まるだろう。
海運業界への影響はすでに現れ始めている。
・燃料費と運賃の高騰
・貿易ルートと燃料需要の地理的変化
・業務リスクおよび保険リスクの増加
・スケジュールの信頼性が低下した
燃料はもはや単なるコスト要因ではなく、世界の輸送能力を制約する要因になりつつある。
今起きているのは、単なる価格変動ではなく、潜在的な燃料供給ショックの初期段階であり、混乱が続けば海運業の運営方法を根本的に変える可能性がある。
ここまでです。
今週金曜日にどういう合意がなされるにしても、時はすでに遅いというのが現実かもしれません。
危機は、いつの日か急速に見える形で表面化してくると思われます。




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