「臓器直撃」「口腔がん手術で顔貌激変」無煙たばこの深刻リスクに学会トップが本気の警告
小さな白い袋を口に入れてニコチンを摂取する「オーラルたばこ」がコンビニエンスストアなどで販売されていることに対し、口腔医療の学会トップたちが、相次ぎ懸念を表明した。紙巻きたばこからの転換で肺がんが減る可能性がある一方、口腔がんなどのリスクが否定できないからだ。口腔がんは早期発見が比較的容易だが、進行すれば大規模手術によって顔貌が変化し、飲食や発話も困難になることが少なくないという。
「生命に関わる疾患という意味では他のがんと同様だが、口腔がんの最大の恐ろしさは治療のために大規模な手術が必要になると、手術後に人として営めるはずの文化的な生活が大きく損なわれることだ」。日本口腔内科学会の里村一人理事長はこう話し、「いかなる形態のたばこも使用しないことにより、リスクを確実に低下させることができる」と強調する。
オーラルたばこは無煙たばこの一種で、上唇と歯茎の間に挟むだけで燃焼させないため煙や臭いが発生しない。たばこ会社は、禁煙の場所や受動喫煙への配慮が必要な場面でもニコチンを摂取できることをアピールし、「長期的な健康リスクに関する研究結果はまだ得られていないが、紙巻きたばこよりも喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性がある」などとしている。
だが、口腔医療の学会トップは不安を口にする。日本口腔科学会の星和人理事長は「発達や生殖に影響があり、強い依存性を示すニコチンを含んでいる。口の中に長時間入れるため口腔粘膜への影響も懸念される」と指摘。「発がん性についても懸念がある」と訴える。
顔面を失う口腔がん、喫煙は「重要な危険因子」
口腔がんの多くは細胞が徐々に悪性化し、白板症(口腔粘膜の病変)などを経て発症する。日本では舌がんが最も多く口腔がん全体の50%を占める。


直接見たり触れたりできるため早期発見が可能だが、進行が早く、手術によって摘出することが治療の第一選択となる。中には顔面を大きく切除し、太ももなどから筋肉を移植するケースも。顔貌が大きく変わるほか、食べたり飲んだり話したりする機能が著しく低下し、QOL(生活の質)も大きく下がる。
日本口腔外科学会の原田浩之理事長は「喫煙は口腔がんの重要な危険因子だ」と説明する。原田氏が令和2年までの20年間の口腔がん症例1642例を対象に喫煙本数や喫煙年数を調べたところ、舌がんや舌の下の部分にできる口底がんとの強い関連が明らかになったという。
「かみたばこを頰に挟むことで、頰粘膜(きょうねんまく)がんを引き起こすことが分かっている」と話すのは、アジア口腔顎顔面外科学会の高橋哲理事長だ。
最新のグローバルがん統計(2022年)によると、日本人男性の口腔がん罹患(りかん)率は2~3%だが、インドやスリランカなど南アジアの男性の罹患率は12~15%。毒性のある嗜好(しこう)品「ビンロウ」やかみたばこを口に入れる習慣が原因とされる。ビンロウ自体の発がん性にくわえ、ビンロウが非常に硬く、頰粘膜に慢性的な摩擦が生じることも影響しているという。
スウェーデンでは肺がん減るも別のリスク増加
口に含むタイプのオーラルたばこが世界で最も普及しているのはスウェーデンだ。同国のアルコール・薬物情報中央評議会(CAN)によると、2025年の紙巻きたばこの喫煙率(17~84歳で毎日喫煙する人の割合)は減少を続け、5%未満に。一方で、スヌースと呼ばれるオーラルたばこを毎日使用する人は19%に増え、全体の24%が紙巻きたばこ、スヌース、電子たばこのいずれかで毎日ニコチンを摂取していたという。
歯科専門医らでつくる脱タバコ・脱ニコチン社会実現歯科研究ネットワークの長尾徹代表(口腔外科医)によると、同国内の2007年の疫学調査では、紙巻きたばこからスヌースに移行したことにより肺がんの発症が減少する一方、膵臓(すいぞう)がんのリスクが増加。当時は口腔がんのリスクはないとされたが、その後、40年以上スヌースを使用し、唇と歯茎に口腔がんを発症するなどのケースが報告されている。
長尾氏は「がんの発症には長い年月がかかり、使用頻度や種類、飲酒の有無、口内が清潔かなど、さまざまな要因が関係する」と分析した。ただ、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)はスヌースを含む無煙たばことがん発症との関係について、最高のグループ1(科学的証拠は因果関係を推定するのに十分)と判定しているという。
白色のオーラルたばこ、若年層への広がりを懸念
近年日本で発売された白色のオーラルたばこは、タバコ葉をベースにした従来の褐色のスヌースと形状は同じだが、中身に違いがある。日本たばこ産業(JT)によると、植物由来の繊維をベースに、タバコ葉粉末とタバコ葉由来のニコチン、フレーバーをブレンドした商品。タバコ葉をベースにせずニコチンなどを加えた無煙たばこは2016年にスウェーデンで初めて発売されてから10年ほどしかたっていないため、健康への影響はほとんどわかっていない。

WHOが今年5月に発表した報告書によると、同種商品(ニコチンパウチ)の小売販売数は24年に230億個を超え、前年比50%以上増加。25年時点で世界市場規模は約70億米ドル(1.1兆円)に達したという。学会のトップらは国内の若年層に広がることを強く懸念し、パッケージに口腔がん手術後の患者の写真を掲載することや、過剰な販促活動が行われていないか、モニタリングすることなどを求めている。
総合南東北病院の瀬戸晥一・口腔がん治療センター長は「強い刺激のある物質を繰り返し口に含む習慣を長年続けるとやがて病変を生じ、がんになる可能性がある。口腔粘膜は成分を吸収しやすく、ニコチンの影響は心臓をはじめ重要な臓器を直撃する恐れがある」と話し、こうした危険性が広く知られるべきだと訴えた。(加納裕子)



コメント