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「世帯所得250万円未満」が51.3%を占める

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ひび割れた日本 政治・経済

「世帯所得250万円未満」が51.3%を占める

みんな平等に貧しくなったニッポンの”言ってはいけない真実”

年間所得50万円未満の世帯が3分の1

「所得再分配調査報告書」(以下「報告書」)は、日本の世帯所得の推移を知るために厚生労働省が3年に1回行なっている調査で、最新のものは令和5年(2023年)版です。

「再分配」とは国家が国民から税や社会保険料を徴収し、それを年金や医療費などのかたちで国民に分配することです。「再分配前所得」は、こうした国家による介入が行なわれる前の所得で、会社員なら手取りではなく額面の給与、高齢世代では年金を除いた世帯所得になります。

図表1は世帯単位の再分配前所得と、人口に対するその構成比を示しています。

【図表1】所得階級別の世帯分布
橘玲『プアジャパン』(プレジデント社)より

ここからわかるのは、年金などの再分配を除くと、日本では年間所得50万円未満の世帯が30.4%、およそ3世帯に1世帯を占めていることです。色付けした部分までの累積比は51.3%で、半数の世帯が所得250万円以下です。

所得1000万円以上の世帯も9.6%あり、これをまとめると、「日本社会はおよそ3世帯に1世帯の所得がほぼゼロで、およそ10世帯に1世帯が年間所得1000万円超」になります。

小銭を持つ手
写真=iStock.com/rai

世帯所得が2年間で9%以上も減った

さらに驚くのは、(コロナ禍で1年遅れで行なわれた)前回調査(2021年)に比べて、世帯単位で見た再分配前所得が大幅に下がっていることです。2年前の世帯所得は423.4万円で、それが384.8万円へと9.1%(38万6000円)も減っています。

しかしこれは、にわかには信じがたい数字です。

日本経済はデフレから「脱却」したことで物価が上昇し、給与の引き上げがそれに追いつかず、実質賃金(*)が4年連続のマイナスになっています。これが「生活がどんどん苦しくなる」という怨嗟えんさの声を生んでいるのですが、労働者の名目所得そのものは賃上げによって増えているはずです。

*名目賃金(給与明細の金額)から物価の影響を除いた「ほんとうの(実質的な)購買力」のこと。

ところが「報告書」では、実質の世帯所得ではなく名目の世帯所得が、わずか2年間で9%以上も減ったことになっています。なぜこんなことになるのでしょうか。

日本全体の世帯所得は減っていく運命…

「報告書」にはその説明はありませんが、理由は高齢化によって労働市場から離脱する世帯が増えているからでしょう。

再分配前所得には年金収入は含まれないので、退職して家計が年金のみに依存するようになると世帯所得はゼロになります。その結果、企業がいくら賃上げしても、日本全体の世帯所得は減っていくのです。

国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)の2023年推計では、人口に占める65歳以上の高齢化率は2070年まで上昇します。

これから40年以上にわたって、労働市場から富を獲得できないひとたちが増えていくのです。

日本経済についての議論では、賃上げがインフレ率を上回って実質賃金がプラスに転じることが重要だとされています。これはもちろんそのとおりですが、たとえ実質賃金が増えても、高齢化によって社会全体の世帯所得は減っていきます。これが、日本の未来の“不都合な現実”です。

なおこの調査の対象は所得のみで、資産は含まれていません(株式の配当や不動産の賃料などの収入は所得に算入される)。再分配前所得が50万円未満でも、都心のマイホームなどで大きな資産を保有している世帯があるでしょうし、所得1000万円以上でも多額の住宅ローンを抱えて純資産がマイナスの世帯もあるはずです。

その意味で、日本社会の富の分布の正確な縮図ではないことには留意しておくべきでしょう。

平均的な世帯の実質所得は283万7000円

次に、世帯あたりの社会保障の拠出と給付の関係を見てみましょう。拠出は税と社会保険料(年金と医療・介護保険料)、給付は「年金・恩給」「医療・介護」「その他」に分けられます。「年金・恩給」は現金給付で、ここには児童手当、雇用保険、生活保護なども含まれます。「医療・介護」と「その他」は現物給付で、「その他」には保育などが含まれます。

図表2にあるように、再分配前の世帯所得の平均は384万8000円で、そこから税金(12.5%)48万2000円と社会保険料(13.7%)52万9000円を拠出しているので、平均的な世帯の(税・社会保険料を除いた)実質所得は283万7000円になります。

【図表2】社会保障の拠出と給付の関係
橘玲『プアジャパン』(プレジデント社)より

それに対して「年金・恩給」116万2000円、「医療・介護」43万5000円、「その他」24万4000円の合計184万1000円を受給していて、実質所得に現金支給・現物支給の受給を加えた「再分配所得」は467万7000円です。

このように、世帯の平均で見れば、再分配によって384万8000円の所得が467万7000円へと82万9000円(21.5%)増えています。税・社会保険料の拠出計101万1000円に対して、184万1000円を受給しているのだから、差し引きで83万円、拠出額に対して82.3%多く受給しているともいえます。

日本は「経済格差が中くらいの国」

もちろん無から有が生まれるわけはないので、この超過受給分は年金などの積立金のほか、法人税や消費税、新規国債の発行(国の借金)など、他の財源によってまかなわれています。

再分配は低所得者に手厚く、所得が高くなるほど少なくなっていきます。

たとえば、所得50万円未満の世帯は拠出20万1000円に対して184万1000円を受給しており、差し引き164万円のプラス、所得1000万円以上の世帯は拠出382万5000円に対して受給90万5000円で、差し引き292万円のマイナスです。このように、高所得世帯から低所得世帯に富が再分配されることによって格差は縮小します。

その効果はジニ係数によって示されます。ジニ係数は格差の程度を示す簡便な指標で、ゼロなら「完全平等(全員が同じ所得)」、1なら「完全不平等(1人がすべての所得を独占)」で、ジニ係数が0.5を超えると格差が大きいとされ、南アフリカや南米のブラジル、コロンビアなどがこの水準とされます。

それに対して日本は、2023年の調査で再分配前のジニ係数は0.5855で、それが再分配によって0.3825まで縮小しています。これはアメリカ、イギリス、韓国などよりも低く、スウェーデンやデンマークなど北欧諸国よりも高いので、日本は「経済格差が中くらいの国」になります。

汚れた日本の国旗
写真=iStock.com/StockImages_AT

所得の経済格差は拡大しているのか

次の疑問は、「日本社会で格差は拡大しているのか」でしょう。所得に関しては、「報告書」を時系列で比較することで格差の推移を知ることができます。それをまとめたのが図表3です。

【図表3】ジニ係数の年度別変化
橘玲『プアジャパン』(プレジデント社)より

再分配前所得のジニ係数は2017年を例外として一貫して上がっており、2011年の0.5536から2023年の0.5855へと12年間で5.8%上昇しています。それにともなって再分配後所得のジニ係数も、2011年の0.3791から0.3825へと0.9%上昇しました。

「格差」とは一般に再分配後のジニ係数のことですから、12年間で0.9%(年率0.08%)の上昇を「所得格差が拡大している」とするのは無理があるでしょう。

「年齢」というファクター

それでも「再分配前所得のジニ係数は上がっているのではないか」と思うかもしれません。しかしこのデータは、年齢の効果を考慮していません。

20代のときはみんな貧乏でも、年齢とともに才能、努力、運などによって所得の差は開いていくでしょう。すなわち、社会全体が高齢化するにつれてジニ係数は自然に上がっていくと考えられます。

実際、再分配前の世帯員の年齢階級別ジニ係数は、もっとも低い25~29歳の0.2997に対し、75歳以上では0.7201にもなります。ほとんどの高齢者が年金のみで生活する一方、一部の高齢者が株式や不動産からの収入、あるいは働いて得た収入などで、全体の所得の大半を得ているわけです。

そこで「報告書」では、2021年調査と2023年調査を、年齢を調整して比較しています。調整前のジニ係数は21年が0.5700、23年0.5855で、2年間で2.7%上がっていますが、高齢化の効果を調整すると23年のジニ係数は0.5765となり、21年(0.5700)とほとんど変わらなくなりました。

以上のように、少なくとも所得においては、「日本の格差が拡大している」とはいえません。

みんなが平等に貧しくなった

誰もが「格差拡大」を叫ぶなかで、「日本の格差は拡大していない」というのは常識に反しますが、他の調査でも同じ結果が出ています。

楡井誠「点検・日本の格差(上) 分配の起点は経営者の競争」(日本経済新聞2026年3月23日)によれば、過去30年間の給与所得の推移を見ると、2020年の金額で標準化した中央値は約400万円、上位10%は約800万円、上位1%は約1600万円でほとんど動きがありません。

この調査で驚くのは、給与の中央値が30年間で9%も下落したことです。長期的には賃金は増えていくはずですが、「失われた30年」で平均的な会社員が受け取る給与は逆に減っていたのです。

ところがそれでも、実質GDPは17%増大し、国民所得に占める雇用者報酬も約70%で安定していました。

給与の中央値が減っているのになぜ年率約0.5%の所得成長が実現したかというと、世帯主の賃金が低下したことで、家計が働き手を増やしてそれを補おうとしたからです。その結果、共働き世帯の割合は2000年の約4割から直近の6割弱まで高まりました。

「平等」の功罪

もう一つ、興味深いデータがあります。

橘玲『プアジャパン』(プレジデント社)
橘玲『プアジャパン』(プレジデント社)

森口千晶「点検・日本の格差(中) 機会の平等政策の軸足に」(日本経済新聞2026年3月24日)によれば、税務データと世帯調査の個票データを組み合わせた純国民所得で日韓英米独仏6カ国の上位1%層の所得シェアの推移を比較した研究でも、1980年以降、上位所得シェアはアメリカをはじめ各国で上昇傾向にあるのに対し、日本は逆に下がっていることがわかります(ただしデータの制約から、日本は2014年と19年の2時点のみ)。

2019年の数値では、上位1%の所得シェアはアメリカが19%、韓国が16%に対して、8%の日本はほぼ最低水準です。

上位0.1%ではシェアの低下はさらにきわだち、日本が「スーパーリッチが少ない国」であることを上記の研究は示しています。

日本こそ理想的な「格差の小さな国」だった

日本にも「格差拡大」を批判するひとがたくさんいますが、じつは日本こそが理想的な「格差の小さな国」でした。

でもこれは、喜ばしいことばかりではありません。突出した富裕層が少ないということは、自らの才能や能力を活かして大きな成功を手にすることが難しい社会であることを表わしてもいるからです。

これらのデータをひと言で要約するなら、「日本ではみんなが平等に貧しくなったことで、格差が拡大しなかった」になるでしょう。

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