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ぴょんぴょんの「土の中の菌たち」 ~免疫虚弱者は、ガーデニングの腐葉土からレジオネラ・ロングビーチェに感染する可能性がある

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レジオネラ菌 医学

ぴょんぴょんの「土の中の菌たち」 ~免疫虚弱者は、ガーデニングの腐葉土からレジオネラ・ロングビーチェに感染する可能性がある

 読者の方から、リクエストをいただきました。

 「土いじりの効能はポジティブなイメージですが(中略)…土いじりによる怖い感染症を取り上げていただければと思います。」とのことで、書いてみました。
(ぴょんぴょん)

ロングビーチの病院で初めて見つかったレジオネラ菌


大変だ〜!

どしたどした〜?

今、ロングビーチが大変なことになってる!

ロングビーチ? 大磯ロングビーチか? 小さい頃、連れてってもらった。懐かしいなあ。

いやいや、日本じゃなくて、本家本元、カリフォルニア、ロサンゼルスのロングビーチだよ。

こいつか? 美しい海岸線だよなあ。まるで九十九里浜だ。そうか、長く続く海岸線だから、ロングビーチなのかあ。


そんな、のんきな話じゃないよ。これを見てよ。ハリケーン「マリー」の上陸で、ロングビーチがどエラいことになっている。

※原文全文はツイッターをクリックしてご覧ください
ロングビーチで、歴史的な大波がアラミトス半島を襲い、屋根の上に波が打ち寄せています。遊歩道沿いの住民は避難しています。

(続きはこちらから)

うわあ〜!家が波に呑まれる〜!! あ、思い出した、読者の投稿に「ロングビーチ」てのがあったな。ハリケーンのことだったんか?

いや、あれは、レジオネラ・ロングビーチェのことだよ。

なんじゃ、そら?

レジオネラ・ロングビーチェ(Legionella longbeachae)。1980年、ここロングビーチの病院で、59歳男性の肺炎患者の気管支吸引液から、初めて見つかったレジオネラ菌。日本呼吸器学会誌

へえ? 初耳だ。

読者さんによれば、「ワクワク3回以上さんは、昨年位から、風邪初期症状からいきなり肺炎で入院な方が少なからずいらっしゃいます」と言うことで、中には、レジオネラ・ロングビーチェによる肺炎がいる、というツイートを紹介してくれた。

レジオネラ? レジオネラ? どっかで聞いた名前だな?

ほら、温泉施設で感染して、亡くなった人もいた。

数年前に問題になった、あれだな。

それそれ。でも、あのレジオネラとは違うんだ。レジオネラ・ニューモフィラと言って、温泉施設や、屋外のミストや噴水、洗車用洗浄機、家庭用の超音波式加湿器が感染源になるタイプ。

 

レジオネラ・ニューモフィラ
Wikimedia_Commons[Public Domain]

要するに、水を介して広がるんだな。

「レジオネラ」の名前の由来


そうだね。一方、レジオネラ・ロングビーチェは・・という話をする前に、「レジオネラ」って名前、どうやってついたか、知ってる?

さあ〜? レジオネラちゃん? 女性かな? 過去に、付き合う男を片っ端から感染させて、たまに死人も出す、魔性の女がいた、とか?

ハッハ! おもしろいけど、ちがうよ。レジオネラは、予備役にある軍人「在郷軍人(レジオネール)」から来ているんだ。

軍人?

1976年7月21日、ペンシルバニア州フィラデルフィアのベルビュー・ストラットフォード・ホテルで、「アメリカ在郷軍人協会」の総会が開催された。7月ってとこ、覚えといて。

夏休みで、客が多かった?

 

ベルビュー・ストラットフォード・ホテル
Wikimedia_Commons[Public Domain]

実はその後、総会に集まった149人の在郷軍人と、ホテル関係者や周辺地域の住民33人が肺炎にかかり、その中の29人が死亡したんだ。(Wikipedia

29人も?!

この肺炎は、在郷軍人(レジオネール)会で発生したから「レジオネラ肺炎」と呼ばれ、後に、患者の肺から見つかった新種の菌は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)と名づけられた。ニューモ(pneumo)は「肺」、フィラ(phila)はフィラデルフィアの「フィラ」だ。

なるほど、日本ではそいつが、温泉を介してジジババを襲ったのか。しかし、アメリカの、この時代のホテルにも、温泉施設があったんか?

さっき、覚えといてって言ったよね。開催されたのは7月。ホテルのエアコンはフル回転だった。そのエアコンの冷却塔の中が、レジオネラ・ニューモフィラの巣窟になっていたんだ。Wikipedia

エアコンからばらまかれたレジオネラ菌を客が吸って、肺炎にかかったのか!

コワいよねえ。以来、世界中で空調システムに、新たな規制が導入されたそうだよ。でもね、レジオネラ菌て弱い菌なんだ。肺炎になって重症化したのは、免疫が弱い人、基礎疾患がある人、喫煙者、高齢者だったそうだ。

在郷軍人には、年老いた退役軍人が多かったろうなあ。

ロングビーチェは土から感染する


さて、これで、レジオネラの語源、レジオネラ・ニューモフィラのことはわかったね。ここからは、レジオネラ・ロングビーチェの話をするよ。

直近のハリケーンに襲われた、ロングビーチで発見されたレジオネラ菌だったな。

実は、こういう洪水の後、レジオネラに感染するケースが多いんだ。

やっぱ、汚染された水がヤバいからな。

いや、レジオネラ・ロングビーチェの感染経路は、水じゃない。

え?

実は、ロングビーチェは土から感染するんだ。たとえば、ガーデニングで使用する腐葉土とか、培養土の中に潜んでいる。


なんだって? ガーデニングとか、めちゃくちゃ健康的だと思われてるぞ。

そこが、落とし穴なんだよ。2013年の夏、イギリスでは、ロングビーチェのクラスターが起こった。患者はみな熱心な園芸愛好家だったが、彼らの痰からも、使用していた培養土からも、ロングビーチェが見つかった。ほとんどが、集中治療室に入れられるほどの重症だったと言う。CDC

イギリスと言えば、イングリッシュガーデン。ガーデニングの聖地だからな。

ロングビーチェが風土病になっているオーストラリアやニュージーランド以外で、ロングビーチェは少ない。と言っても、ヨーロッパでは急増しているけどね。

土いじりは健康的、と思ってたのになあ。

ロングビーチェを、「ガーデニングという日常の楽しみの裏側に潜む『園芸家の天敵』」と呼ぶ人もいる。(note

天敵!?

特に、腐葉土は要注意だね。オーストラリアの疫学調査では、腐葉土からロングビーチェが高頻度に分離されている。日本でも、市販の腐葉土24種類のうち9種類からロングビーチェが分離されている。日本呼吸器学会誌

日本でもかい?

培養土もだよ。ロングビーチェが風土病になっているオーストラリアやニュージーランドでは、市販の培養土には、ロングビーチェに対する警告ラベルが貼ってあって、ガーデニング後に手洗いをせずに飲食しないよう、水が滴り落ちる植木鉢を吊るさないよう、堆肥や培養土が顔に触れないよう、警告している。note

結局、ロングビーチェは、腐葉土、培養土、堆肥みたいな、湿った土にいるんだな。


そして、そんな汚染土から舞い上がるホコリを吸い込んだら、免疫力のない人の肺は一発でヤられるから、腐葉土、培養土を扱う時は、ホコリを吸わないようにしないといけないね。

その前に、自分の免疫力をつねに高い状態にしておくことが重要だな。

日本や米国でのロングビーチェの感染症例


そうだね。ここここにある、日本でのロングビーチェの症例を紹介するよ。救急外来に来た62歳男性は、糖尿病で治療中、主訴は「ろれつが回らない、うまく歩けない」。

脳卒中みたいだな?

患者さんは、糖尿病で治療中で、研修医はまず血糖を測ったが、低血糖ではない。研修医は、患者が咳をしていることに気づく。肺に聴診器をあてると、雑音が聞こえる。どうも肺炎のようだ。

「ろれつが回らない、うまく歩けない」は、どうなるんだ?

つながらないよね。次に研修医は、アレルギー肺炎を疑って患者の妻に聞いた。「インコか、ペットを飼っていますか?」飼っていないと言う、さらに研修医は聞く、「最近、温泉とか旅行に行ったことは?」

あ! レジオネラ・ニューモフィラ肺炎を疑ってるんだな。

でも、温泉も行っていない。困り果てた研修医は、趣味を聞いた。すると妻は、「しいて言えば、家庭菜園やってるくらいですかね~。いつも泥だらけで~。」

ハイッハイッハイッ!!

はい、くろちゃん。

レジオネラ・ロングビーチェによる肺炎です!

正解! 研修医もロングビーチェを疑って、喀痰を培養に出した結果、レジオネラ・ロングビーチェが出た。

だが、「ろれつが回らない、うまく歩けない」が説明できん。

レジオネラ感染の症状には肺炎以外に、吐き気や下痢のような消化器症状、頭痛や痙攣、意識障害といった神経症状が出ることもある。」(NIH

そうか、レジオネラによる神経症状か。引っ掛け問題だな。

さて、もう1人、日本のロングビーチェの症例だ。72歳男性、透析を始めてから、発熱・呼吸困難が出現し、ロングビーチェ肺炎と診断された。彼は、畑仕事が趣味だったので、自宅の土を培養したところ、ロングビーチェが同定された。日本呼吸器学会誌


パターンがわかると、すぐに見えるな。72歳、透析を受けている、畑仕事が趣味、ロングビーチェ。

でもね、こういうケースばかりじゃないんだ。病院に駆け込んでも、一発でレジオネラ・ロングビーチェが疑われることはほぼない。あてもなく、抗生物質を投与されている間に、あの世行きということもある。

ひええ! そうなんか?

温泉で有名になったレジオネラ・ニューモフィラなら、「温泉に行った」だけで診断がつく。が、ロングビーチェは症例も少なく、ガーデニングが原因になると知らない医師も多い。迅速検査法もないし、培養するには特殊な培地が必要だし。知らないために、手こずって、死にそうになった症例もある。2021年アメリカで発表された、症例報告を見てみよう。

47歳男性。
現病歴:1週間前から、咳と少量の喀血、胸の詰まり感、呼吸困難、前胸部痛があった。
初診時:診察中に咳をしていた。肺の聴診は異常なし。胸部レントゲンとCTで、左下肺野に、無気肺(空気が入らずにしぼんだ状態)と胸水が見られた。
薬が処方され、2日後、呼吸困難と咳で、再受診。
再受診時:呼吸数が初診時の16回/分から26回/分に増え、酸素飽和度も95%から93%に減少し、感染を表す白血球数も増加していた。

なんか、悪化してるぞ。

そうだね、彼はただちに入院になったけど、5日目に、人工呼吸器が必要な状態になり、集中治療室(ICU)に移された。だが、検査中に心停止になった。

ええっ?!

1分間の心肺蘇生で回復した。が、その後も、原因菌がわからず、抗菌剤が定まらないままだったが、ようやくレジオネラが疑われ、レジオネラ・ロングビーチェであるとわかったのは、入院18日目のことだった。

長い! しかも、途中、かなり危なかった。もっと早く、ガーデニングのことを聞いとけば・・。

後から聞いてわかったんだけど、彼が勤めていたのは、地下給水パイプラインの掘削などを行う、水処理会社だったんだ。と言っても、現場より事務所にいる方が多かったけど。

水関係の会社なら、ニューモフィラのはずだが?

実は、咳で受診する40日前、彼は息子と2人で、作業現場付近の土を、自宅の芝生の肥料にするために集めていた。土を袋に入れる際、土の粉塵をかなり吸い込んだと言う。

ゲエ〜! 息子は無事だったのか?

息子さんは、大丈夫。

やっぱ、免疫力だなあ。にしても、庭いじりには危険がいっぱいだな。

免疫力が低下した人にとって注意が必要な菌


読者さんによると、昨年あたりから、3回以上のワクチン接種をした人が、いきなり肺炎で入院するケースが少なくないって。そして、こんな話も教えてくれた。農業をやっている男性の奥さんが、旦那さんの作業着や土の付いた野菜を洗っていたら、緑膿菌肺炎になった。

ロングビーチェじゃなくて、緑膿菌? 緑膿菌と言えば、緑色の膿が出るコワい菌だろ?

 

緑膿菌
Wikimedia_Commons[Public Domain]

ぜんぜん!コワくないよ。健常者が感染しても、発病することは無いし。(Wikipedia)ただし最近は、抗生物質の乱用による、薬剤抵抗性の緑膿菌の院内感染がはやってるらしいけど。かかるのは、入院患者さんみたいな免疫力の低下した人だけ。それに好気性菌だから、空気がないと死んじゃう。

そんなカワイイ菌で肺炎になった奥さんは、よっぽど免疫力が落ちてたんだろな。

反対に、コワいのが破傷風菌。この子は嫌気性で、空気のないところで生きるタイプだよ。

 

破傷風菌
Wikimedia_Commons[Public Domain]

あ、小さい頃、土遊びしてたら、「古い釘に触っちゃダメ!」って怒られたことがある。

それそれ。古い釘や木の枝、竹のささくれのように、先の尖ったものが深く刺さると、傷の奥が酸素不足になって、破傷風菌の天下になってしまう。破傷風菌の神経毒は、けいれんや強直を起こす。特徴的なのは「牙関緊急(がかんきんきゅう)」と言って、顎の筋肉が強直して口が開かなくなる状態。この強直が全身に及ぶと、呼吸困難に至り、窒息死する。千葉県獣医師会

コエ〜!!だが、最近は、あまり破傷風にかかったとか、聞かないが?

たしかに、昔より減ってる。子どもの3種混合ワクチン(DTP)にも破傷風ワクチンが入っているしね。それでも、年間100人くらいは破傷風にかかってる。原因は、転倒や土いじりによるケガ。そして、震災や水害の復旧作業で、瓦礫でケガをして破傷風に感染するケースもある。ヤバい!と思ったら、傷口をよ〜く洗い流して、傷口をふさがないまま、病院に駆け込んで、抗破傷風免疫グロブリンを打ってもらって。(農業ざんまい

災害時には破傷風に気をつける。覚えとこう。

次に、土による感染症で、破傷風と並ぶのが「炭疽」。「炭疽」とは「炭のかさぶた」のこと。黒いかさぶたができるから。

 

皮膚炭疽症による黒いかさぶた
Wikimedia_Commons[Public Domain]

なんだ、かさぶたができるだけか?

と思ったら、大まちがい。「ヒト、家畜問わず致死率が高く、感染経路によってはエボラ出血熱やペスト(黒死病)に匹敵するほど危険な感染症となる。」(Wikipedia)ただ、日本では、1974年以降見られなくなり、1994年以降の報告はないそうだ。(東京都感染症情報センター

ホッ!

この他、土の中には放線菌もいる。2018年の西日本豪雨の後、土砂除去作業を行っていた85歳の男性が、被災から約1ヶ月後に肺炎になった。原因は、土砂の中にいた放線菌だった。日本呼吸器学会誌)でもね、放線菌というのは、「森の掃除屋さん」と呼ばれたり、医療現場で使われている抗生物質の7割程度は、放線菌から見つけられたと言われるくらい、役に立つ子なんだよ。(Sunbiotic

 

放線菌
Author:Y tambe[CC BY-SA]

つまりは、放線菌より、85歳が重労働して疲れたことが原因か。

他には、抗酸菌グループの中で、結核を起こす「結核菌」やハンセン病を起こす「ライ菌」を除いた菌のグループを、非結核性抗酸菌(NTM菌)というんだけど、土をいじって、この子らに感染する人が増えているそうだよ。

結核と似てるのか?

「長引く痰、血痰、体重の減少」の症状は似てるけど、結核みたいに人から人へは感染しない。

こいつも、免疫力が落ちると感染するんだな。

最後に、土の中にいる寄生虫、エキノコックス。

 

エキノコックス
Wikimedia_Commons[Public Domain]

エキノコックスと言ったら、北海道のキツネだろ? キツネに触れなきゃ大丈夫だろ。

でもね、最近は、引っ越しや旅行で本州と北海道を行き来することが増えて、愛知県にはすでに、エキノコックスが定着しているらしい。note)かかると、肝臓腫大による右上部の腹痛、胆管閉塞による黄疸、腹水になって、大変だよ。

は! 思い出した。実はうちに、「キツネ」という名のネコがいる。毛色も、しっぽもキツネそっくりで、かわいいヤツなんだ。こいつを動物病院に連れて行った時、受付嬢が「キツネですね」と言った瞬間、後ろにいた獣医の先生が「エエッ?! キツネ〜?!」と叫んだので、みんなビックリ。受付嬢が「ネコです!」と言ったら、先生もほっとしてたが、獣医にとって「キツネ」は、エキノコックスを連れてくる要注意動物なんだろうな。

ハハ! 本物のキツネが来院したと思ったんだね。

ロングビーチェからキツネまで、土の中にはいろいろいるが、自分の免疫力を上げて、気をつけることだな。

Writer

ぴょんぴょんDr.

ぴょんぴょん

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

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